SIDE:サイト・ヒラガ
再三の近衛隊についての返答しろの手紙。
どうやら、マザリーニを味方につけたアンリエッタが強気になったらしい。
「もう、受けたら? その後、誰かに放りなげればいいのよ」
手紙の山を見てルイズが言う。
俺たちが魔法学院に帰ってきた日から僅か、三日目で手紙は山のようになっていた。
一日百通くらい催促が来てた気がする。
アンリエッタはヤンデレ属性までついてるのか?
あの時の笑顔の理由はこれだったのか。
「はあ、明日いってくるわ」
「そうしなさい」
ルイズとは部屋の中ではイチャイチャしてる。
今も俺の膝にルイズは頭を乗せている。
逆膝枕状態。
帰ってきてから紳士淑女条約の元、部屋の外ではいつも通り。部屋の中や、二人きりの時は恋人みたいにイチャイチャするようになった。
「今日も一緒に寝て」
「わかったよ。ルイズ」
最近はずっと一緒に寝ている。
しかし、キスと軽いお触り以外許可が降りない。
俺を生殺しにしたいらしい。ハリー、ハリーと急かしたのがまずかったか。
翌日の早朝、朝日が昇る頃にアンリエッタを叩き起させて近衛騎士隊副隊長に就任することを告げた。
するとアンリエッタ寝ぼけた様子を取っ払い、騎士隊を新たに作ると言い出し、その日のうちに実行した。
隊長はギーシュにした。俺は副隊長。
だって、平民上がりだと周りの貴族がうるさいし、正直、隊長メンドクセーし。それに、責任問題がでたらすべてギーシュの所為にするつもりだ。
「じゃ」
面倒事も嫌なので伝えることだけ伝えて走って帰った。
SIDE:ギーシュ
朝もやの中、ヴェストリの広場に僕たちは集まっていた。
僕らは緊張した面持ちで、自分たちの目の前に立った一人を見つめた。
黒いマントに身を包んだサイトである。
今日は水精霊騎士隊《オンディーヌ》設立日。
聞こえはいい。
なにせ、過去に存在した栄光を纏いし、伝説の近衛隊だ。
トリステイン王家と緑の深い水の精霊の名前が冠されたその騎士隊が創設されたのは千年以上前にさかのぼる。
しかし、数百年前の政紛の際に廃止されて、現在に至っていたのだが……、姫様がその名前を拾い上げたのだ。
そして、その隊長である僕を差し置いてサイトが一人だけ整列した貴族を前に立っている。
「号令」
サイトの威圧感は戦場を体験した僕たちには十分伝わった。
「おはようございます。サイト副隊長!」
「これから訓練を始める。その前に言っておく。俺のことはサイト軍曹と呼べ」
「サイト軍曹〜?」
マリコルヌがフザケた口調で言った。
バッチーンと乾いた音が響く。
「いいか、豚野郎。今からは俺が貴様の上官だ。覚えておけ」
「りょ、了解しましたッ!」
姿勢を正して返事をするマリコルヌ。
そういえば空軍で随分もまれたと言っていた。
それにしても、ビンタの動きが見えなかったぞ。
「俺は貴様ら、貴族が大嫌いだ。だが、喜べ。じっくりかわいがってやる! 泣いたり笑ったり出来なくしてやるからな!」
それを聞いて全員がビクリとなる。
「加えて貴様らに隊規を教える。復唱せよ」
「サー、イエス、サー」
全員が返事をする。
そう、僕たちは勘違いしていたのだ。これはタダの学生の集まりではなく、れっきとした軍隊になるのだ。
「死力を尽くして任務にあたれ!」
「「「死力を尽くして任務にあたれ!」」」
「生ある限り最善を尽くせ!」
「「「生ある限り最善を尽くせ!」」」
「決して犬死にするな!」
「「「決して犬死にするな!」」」
SIDE:サイト・ヒラガ
すまん。やりたかったんだこれ。
ギーシュに作らせた砂時計をとりだす。
「この砂が全て下にたまるまでに、学院を五周走ってこい」
「サー、イエス、サー」
全員が走り出す。うん。軍に志願して帰ってきただけある。
それなりに統率が取れてるな。
初日だから本来のメニューの半分にしている当たり俺ってなんて優しいんだろう。
待ってる間は俺自身のメニューをこなす。
「二人、遅れた。喜べ貴様ら! もう二周追加だ! 行ってこい!」
「サー、イエス、サー」
マリコルヌなんて泣いて喜んでる。
遅れる人数分だけ追加したら結局十周になった。
その後、各種筋トレを五十回。
ストレッチを一時間。
魔法を倒れるまで使用させたら皆倒れた。
水を全員にぶちまける。
「貴様ら! 今日は初日だ。以上を持って本日の訓練は終了とする!」
「サー、イエス、サー」
「追加報告だ! 一人辞めるごとに訓練内容を倍に増やしていく! 諸君の健闘を祈る!」
「サー、イエス、サー」
SIDE:ルイズ
汚い言葉が飛ぶ。サイトの激だ。
「じじいのファックの方がまだ気合いが入ってるぞ!」
「糞貴族ども! クビ切り落としてクソ流し込むぞ!」
一週間の間に全員が、サイトに泣かされていた。
私とモンモランシーは早起きして訓練の様子を見ていた。
「酷い罵倒ね」
「でもサイトは軍関係の本を一生懸命読んでたわ」
訓練が始まってからサイトは軍関係の本を読んでいるのを知っている。
全部、あいつらのためなのだ。
「へぇ、やっぱり、しっかりしてるわね」
「というか、なんでモンモランシーがいるのよ?」
さもここにいて当然のようにベンチで見守っているモンモランシーに聞いた。
「え、えーと、そう。怪我した時に治療するためよ」
嘘っぽかった。
でも、納得できる。
実戦形式の訓練ではお互いに魔法をぶつけ合ってるので水精霊騎士隊の生徒達は生傷が絶えない。
サイトも多数相手に戦ってる。あ、ギーシュがまた倒された。
「でも、よくみんな辞めないわね」
「やめたら訓練がキツクなるらしいわ」
私はサイトから聞いていたことを伝えた。
訓練が始まってからあまり私に構ってくれないのが不満だったが、訓練を見ると楽しそうだったので、何も言えなかった。
二週間が立つ頃。
訓練は朝は基礎体力。夜は魔法と実戦に変わったようだ。
そして、その日の夜。
「全員集合!」
サイトの号令に素早く全員がキレイに整列した。
見事なものだと思う。
「本日をもって貴様らはウジ虫を卒業する!
本日から貴様らは水精霊騎士隊員である !
兄弟の絆に結ばれる !
貴様らのくたばるその日まで 、
どこにいようと水精霊騎士隊員は貴様らの兄弟だ!
時として戦場に向かう !
ある者は二度と戻らない !
だが肝に銘じておけ !
隊員は死ぬ !
死ぬために我々は存在する!
だが隊員は永遠である !
つまり———貴様らも永遠である!!」
全員が涙を流していた。何これ?
「サー、イエス、サー」
「これにて訓練課程を終了する! みんなよく耐えた!」
おおーッ! と歓声が沸いた。
それぞれ、うれし泣きをしたり、抱擁していた。
「サイト! 鍛えてくれてありがとう!」
全員がサイトにお礼を言っている。
貴族が平民に頭を下げている、もはや見慣れた光景だった。
サイトが全員と話を終えて私に近づいてくる。
「すまん。二週間ほど、奴らに構ってきりだった。夜は部屋で二人でゆっくりしよう」
「わ、わかってるじゃない」
キチンと私のことを考えてくれていたのが嬉しかった。
SIDE:マルトー
「俺は俺だ!」
俺は貴族が嫌いだ。せっかくサイトが貴族になった。祝いたかったが、つい嫌味を言ってしまった。だが、サイトは変わらなかった。
「すまねぇ。ほんとのこと言うとな、俺はお前に嫉妬してたんだ……、平民から貴族になるなんて、こりゃ、人間が神さまになるぐれえ難しいことだからな! でも、今のお前の言葉を聞いて安心した。お前はお前だ。そうだな? 我らの剣!」
「当たり前だ。俺を誰だと思ってやがる!」
心の曇りを晴らすような言葉だった。
シエスタが大騒ぎで厨房に入ってきた。
「わたし! 異動になりました!」
「異動?」
なんのことだ? 聞いてないぞ。
「サイトさん……、わたし、わたし……」
どうやらサイトに関係あることらしい。
サイトが貴族になったと聞いた時のシエスタの落ち込みようはひどかったな。
なんというか、生きた屍だった。
「シエスタ、どうした? 落ち込んだのは治ったみたいだが」
「はい。ちょっと落ち込んでました。だってサイトさん、貴族になっちゃうんですもの。もう私のことなんて忘れちゃうよねって、どんよりしてました」
「忘れるかよ」
サイトはイイヤツだ。
「でも、もういいんです」
「だからいったい、何があったんだ?」
俺に尋ねられ、シエスタはぺこりと頭を下げた。
「今まで大変お世話になりました」
「はぁ?」
俺にシエスタは手に持った紙を見せた。
「こりゃ、女王様の署名じゃねえか!」
内容を読んで驚いた。
「なになに。サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ氏に、学院内より選びし使用人を一人つけること。なんじゃこりゃ」
「今朝方、王宮よりオスマンさまの元に、この一通が届いたんですって。したがってメイド長に、誰か選ぶようご命令なさったそうです。でもってメイド長はわたしを選んだんです。身の回りの世話をするなら、一番仲がいいわたしがいいだろうって」
ああ、そうゆうわけか。こりゃ、本格的に貴族の仲間入りだな。
でも、サイトなら大丈夫だろう。
「そんなわけで、よろしくお願いします!」
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分かる人にはどうしても分かってしまうようです。
執筆環境が変わったので少しばかり作品に影響しているみたいです。
仕事が絶賛繁忙期中なのも影響してます。
なるべくクオリティを向上できるように気をつけていきます。
ああ、げろしゃぶ、もといシェフィールドさんについてはハーレムに入れるか検討中です。
原作の最新刊でましたね。まだ読んでません。
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