時間は少し戻り、惚れ薬の事件後の話
SIDE:モンモランシー
「はぁ」
私は一人部屋でため息をつく。
学院では私とサイトが付き合っているともっぱらの噂だ。
あの事件以来、サイトとは微妙な距離感が生まれている。
私がサイトを好きだとバレてしまっているので、私の方がサイトを敬遠しているというのが正しい。
『あなたは後悔する』
タバサが私に言ってきた言葉が今でも心に刺さっている。
確かに後悔している。どうすればいいのかわからない。
『困ったときは仲間に相談するといいって百年囚われた魔女は言いました』
サイトの話を思い出す。一人で行き詰まったら仲間に相談しろ、か。
私は仲間と呼べる人物を頭に浮かべる。
ルイズ、サイト、ギーシュ、キュルケ、タバサ、ミス・ロングビル。
この手の悩みを話すなら同性がいい。
ルイズは、駄目だ。サイトにバレる。
キュルケが一番恋多い女だ。
タバサ、私は苦手だ。
ミス・ロングビルは一番年上、サイトの秘書でもあるが色々な相談に乗ってくれる。
うん、まずはミス・ロングビルに相談してみよう。
彼女の部屋を尋ねた。
「それで、相談とは?」
「え、えーと、好きな男の子と仲良くなるにはどうすればいいのか聞きたくて」
ミス・ロングビルはニヤリと笑った。
「ミスタ・サイトと付き合ってると噂ですが?」
「それは誤解よ! つ、付き合ってなんかないわ」
「ミス・モンモランシ。素直に今の気持ちを伝えるといいかと思いますわ」
今の気持ち、か。
サイトの事が好き。
って、言えないわよ!
き、貴族だし、女の子だし。
できれば、相手から告白されたいと思うのは都合が良すぎる。
そもそも、付き合うとか以前に前みたいに気軽に話できる関係に戻りたい。
ま、まあ、告白して恋人同士になれれば、一番いい。
「はぁ」
「恋の悩み、ですわね。なら当人同士で語り合うのがいいと思いますわ。ミス・モンモランシ」
「ミス・ロングビルならどうしますか?」
大人の女性の考えを参考にしようと思い、聞いてみる。
「本当に好きな相手ならさっさと既成事実を作って責任を取らせますわ」
アレ?
知的で聡明なハズの秘書がおかしなことを言う。
ロングビルの言っていることを理解した私は顔が熱くなった。
「おや、まだミス・モンモランシには早い話でしたね。女の手の一つとして覚えておくといいですわ。まあ、ミス・モンモランシの相手がどのような殿方か知りませんが、相手の行動をよく観察して見ることですわ。それこそ、朝から晩までずっと観察すると今まで知らなかった相手の事を知ることができますわ」
前半の話はともかく、後半の話を参考にしよう。
私はサイトを観察することにした。
サイトの朝は早い。
日が昇るかどうかの時間帯に私は使い魔のロビンに起こされたのだ。
「なによ、こんな朝早くに……、ふぁああ」
ああ、そういえばサイトの観察だっけ。
急いで着替えてサイトの元へ赴く。
「なに、アレ?」
私がサイトの元に着いた頃にはサイトは汗だくで丸太と鉄の重りをつけて走っていた。
私は異常だと思った。
サイトのトレーニング?は必要以上に厳しいものだと思う。
誰も知らないサイトの一面を見た。
なんだ。影で物凄い努力していたんだ。
トレーニングを終えたサイトが私を見る。
「あん? なんでこんな時間にモンモランシーが起きてんの?」
上半身をタオルで拭きながら私に聞いてきた。
以前見たサイトの鍛えられた身体。
なるほど、こんなトレーニングしてればそうなる。
「べ、別に私がいつ起きていようが関係ないでしょ!」
サイトの問いに恥ずかしくなって叫んでしまった。
「あ~、女の子の日か。鉄分を含むモノを食うといいぞ」
何を言うか。
そう思ったが、冷静に考えるとなぜ男のサイトにアノ日の事がわかる?
ああ、そういえば、サイトは平民の賢者だ。
言ってることはイヤらしいが、気遣ってくれている。
ミス・ロングビルの言う観察は意外にも的を得ていると思う。
私は授業をサボってサイトを付け回す。
朝は誰よりも早く起きて鍛えている。
その後、ルイズの洗濯物をして、ルイズを起こす。
教室までルイズを送った後、生徒の使い魔と遊んでいた。
「なんで、モンモランシーがいる? 授業はどうした?」
「ち、調子が悪いのよ」
「重いのか? 女の子の日は大変だな」
くだらないサイトの言葉は無視して観察を続ける。
タバサのシルフィードと力比べしたり、キュルケのフレイムと綱引して泥だらけになったり、ギーシュのモグラと追いかけっこしていたが、よく見ると、コレは使い魔相手の戦闘練習だと思える。
「さて、昼飯なわけだが、モンモランシーも一緒に食うとか言いますか、貴族用の飯があるだろ?」
「今日はこっちでいいわ。それに、美味しそうだし」
どうやら、サイトの賄いはサイト自信が料理長のマルトーさんに教えた料理の試食も兼ねているらしい。
見たことも無い料理が並んでいたがサイトの料理の腕は知っているので私も一緒に食べた。
「美味しい。こんないいものをいつも食べてるの?」
「モンモランシーが付きまとってくるから今日は特別だ」
どうやら気を使わせてしまったらしい。
サイトはよく気付くなぁと関心してしまった。
午後、サイトと私は図書館にいた。
改めて気づいたが、サイトはいつの間にか文字を学んで読み書きができているのだ。
「そういえば、誰に読み書きを習ったの?」
「主にタバサ。後は独学、あ、これどうゆう意味?」
私は驚く。意外にタバサと仲がいいらしい。
そしてサイトが聞いてきた文章はかなり高度な論文の一説だった。
「うむ、モンモランシーはちゃんと授業受けてるのね。なかなか利口じゃないの」
「あ、当たり前よ」
ルイズには負けるが、筆記でも成績は良い方だ。
その私でも難しいと思う論文を読んでいるサイトは何がしたいのだろう?
サイトに筆記試験を受けさせたらたぶん上位に食い込むだろうな。
図書館を出て使い魔たちのいる広場にきた。
「お昼寝ですがなにか?」
「べ、別に?」
私にどうするか聞いてきたのだろう。
シルフィードの足元でサイトは寝転がり昼寝を始めた。
私もその隣で寝ることにした。
早起きもあってすぐに私は寝てしまった。
「イタッ」
「あ、起きた。起きる時間だぞ? いつまで寝てる?」
デコを叩かれた。
起こしてくれたのはありがたいが、もっと、こう、優しく起こして欲しい。
時刻はおやつの時間くらいだろうか。
授業も終わったらしく生徒たちが当たりに見える。
学院のテラスでサイトはミス・ロングビルと事業の話をしていた。
「清掃事業と食器、それに平民向けの風呂場、銭湯でしたね。後は医療系として水のメイジ達による格安の治癒のポーション開発ですか。それに、平民向けの学校ですか。はぁ、サイトさんは政治家ですか?」
「はっ。何をいまさら。タダの平民です。またヴァリエール経由で王宮に申請しといて」
本当にサイトは平民が好きなようだ。
事業の殆どは平民向けか平民のための事業だ。
平民がいないと貴族は成り立たない。
今では理解できるが、サイトは本当に同い年なのだろうか?
ミス・ロングビルとの話が終わりサイトは席を立つ。私も続いてサイトの後を追う。
「ミス・モンモランシはミスタ・サイトが好きなのですね。ならさっさと既成事実を作ることをおすすめしますわ」
私の耳元でロングビルがささやいて去っていった。
「あら? ミス・モンモランシ?」
クラスメイト数人の女子生徒がサイトを囲む。
なんだこれは?
女子寮は男子禁制だが、サイトはルイズの使い魔なので普通に出入している。しかし、クラスメイトの部屋に訪れていることを初めて知った。
「なによこれ?」
「サイトの悩み相談室イン女子寮」
サイトが答えた。
詳細はクラスメイトの女子が付け加えて答えた。
なんでも時たまこうして集まってサイトに悩みを聞いてもらっている。
そして、この集まりは参加者のみの秘密で参加者からの招待がなければ集まりに入れない極秘の会員制のシステムらしい。
もちろんこのシステムを考えたのはサイトだ。
私はサイトの招待ということで強制参加させられた。
会話の内容は勉強から恋の悩み、身体的な悩み、家庭の悩みなど。
クラスメイトの女の子達は全て包み隠さずサイトに話していた。
際どい話もあったが、相談している女の子は真剣な表情。
それにサイトは黙って聞いて真面目に答えていた。
「そうゆうことならまず……」
「なるほどぉ、そうよね」
サイトの答えに満足そうにクラスメイトの女子たちが頷く。
私もその答えに関心した。
随分と信頼されているようだ。
「で、ミス・モンモランシの悩みは?」
一人のクラスメイトが来てくる。
どうやら私の番らしい。
全員の話を聞いていて私だけ言わないという雰囲気ではなかった。
しぶしぶ答える。
「え、えーと、す、好きな異性と微妙な距離感なんだけど、これをなんとかしたいんだけど……」
「「ああぁ」」
女子たちが私をサイトを見る。どうやらバレバレのようだ。
「ん? なぜ俺を見る?」
肝心のサイトはわかってない様子。
「ミス・モンモランシはサイトとの距離感に不満があるようですわ」
一人のクラスメイトが確信をつく。
「あ~。だから今日はつきまとってきたのかぁ」
私はサイトに見つめられて顔が熱くなる。
「ミス・モンモランシの道は既に私たち全員が通った道ですわ」
は?
どうゆうことだ?
「ここにいる全員、サイトさんに告白してるのよ」
なんですって?
「どうゆうこと?」
「ま、みんなサイトが好きだってことね。彼ったら自分に対する好意には鈍感なのよ。直球で言わないとわかってくれないもの」
あっけらかんとクラスメイトは言う。
「その話はすいませんでした。まー、答えは決まってる。モンモランシー。お友達から始めましょう」
女子たちが微笑む。
はぁ、サイト攻略には高い壁があるようだ。
「そ、そうゆうことならお友達になってあげるわ」
「じゃ、これからもよろしく。モンモランシー」
サイトと握手する。
少しだけ嬉しかった。なんだ、私の悩みは多くの女子達が通っていたのか、そう思うと気が楽になった。
『あなたは後悔する』
タバサの心に刺さっていた言葉がキレイに抜けた気がした。
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外伝モンモランシーから始まりました。
しばらく各キャラの外伝が続きます。
というかこの話投稿したっけ状態。
かぶってたらすいません。
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