SIDE:サイト・ヒラガ
イルククゥ、シルフィードの行動に誰も疑問を抱かなかったのか。
結局、「この風竜が頷くなら、信じざるを得ないな」、「使い魔だもんね」という理由でイルククゥの話は信じられた。
露骨に入れ替わっていたのに誰も気づかないのか?
なんなの?
馬鹿なの?
死ぬの?
さて、一人でガリアに向かったタバサ。
どうずるべきか?
という俺の問いかけかけに、ギーシュや騎士たちは、うむむ、と眉間にしわを寄せ、考えこんでいた。
ガリア王国はハルケギニア一の大国で魔法先進国だ。
だが、これからの予定を教えてあるのだ。
目と目があった。
勘のいいレイナールが発言する。
「……、おほん。ぼくたちは、女王陛下の騎士なんだぜ? 好き勝手に動けるわけない」
その発言に俺が答える。
「いや、騎士として、見過ごすわけにはいかないなー」
水精霊騎士隊の生徒たちは、真っ二つに意見が分かれる。
クラスメイトを助けに行かないで、何が騎士だ、という俺を筆頭とする一派。
相手は外国である。ぼくたちが首を突っ込むわけにはいかない、というレイナールを筆頭とする一派。
それを見守る。女性陣。
そう、これはギーシュモテモテ作戦の一つ。
「よお、隊長。どうする?」
決められたセリフ。
ギーシュは格好をつけて答える。
「こうゆうことには、きちんと筋は通さなきゃダメだな」
「筋?」←俺
「そうだ。きちんと姫さまに報告して、援助なり協力を仰いだ上で、ガリアに乗り込む。盗賊団やそんじょそこらの怪物を相手にするわけじゃないからね。相手はガリア王国だ」
意見の分かれた隊をまとめる所を女性陣に見せて隊長の人気を高める。
ギーシュがモテたいとうるさかったので予定に入れてやった。
ルイズ、モンモランシーは怪しげな顔でギーシュと俺を見ていたが他の女の子はうっとりとギーシュを見ていた。
ギーシュは全員を引率する形でコルベールの所へ向かう。
俺はキュルケに知らせるために別行動をとる。
なぜか、ルイズとモンモランシーが引っ付いてきた。
「どこ行くの?」
「ちょっと、さっきのアレは何よ?」
モンモランシー、ルイズの順で聞いてきた。
「歩きながら話す」
ギーシュモテモテ作戦のことを掻い摘んで説明した。
二人とも呆れた様子だった。
キュルケの部屋に入る。
「なによー、こんな夜更けに……」
「寝ぼけ姫。タバサがガリア王国に拘束された。プラン発動だ」
「なんですってぇ?」
キュルケにはかもしれない。という曖昧な表現でタバサが拘束されることを教えておいた。
そうなった時、アンリエッタに強烈なお芝居を見せることも教えてある。
「それで、今から姫様の所へ向かうっていうの?」
「いや、明日の早朝だ。明日までに身支度しておけ」
「了解《ヤー》」
俺とキュルケのやりとりに付属品の二人は呆然としていた。
翌朝……。
ハゲの指示の下『オストラント』号は出航した。
トリスタニアの上空まで一時間で着いた。
俺の考えた作戦にで部隊を二つに分けた。
タバサ救出隊のメンバーは、俺、ルイズ、キュルケ、ハゲ、ギーシュ、マリコルヌ、モンモランシーの計七人。
逃走準備及び囮部隊は水精霊騎士隊の残りでレイナールを中心とするメンバーだ。
イルククゥは怪我をしているために、学院で治療のため残ることになった。
作戦概要は単純。
アンリエッタにタバサを助けると伝える。
どうせ断られるので主要メンバーを残し、残りを準備の為に帰すフリをする。
その後、俺が合図を出したら行動開始。
移動時間中に作戦概要を説明をした。
ルイズはしぶしぶといった感じで納得していたが、タバサに何回も助けられているので作戦に合意してくれた。そして、ルイズのいなくなった隙に計画書を数人に手渡す。
その後、アンリエッタの部屋に向かった。
「あなたたちが直接向かうことは許可できません」
「ですよねー」
SIDE:アンリエッタ
サイトさんの話を聞いた私は許可はできないと言った。それに対してサイトさんは予測していたように返事をしたのだ。
「向こうの大使を呼びつけて、詳しく事情を聞くことにいたします」
「行くのは俺たちです。トリステイン政府の密使や軍じゃない」
気持ちはわかるが、それでは敵対行為になってしまう。サイトさんの説得は無理でも周りが反対すればきっとわかってくれる。
「あなたたちは、今ではわたくしの近衛隊なのですよ。意図がどうであろうと、〝トリステイン王国〟の行動と受け取られます。向こうで犯罪人とされている人物を救出などしたら、重大な敵対行為ととられてしまいます」
サイトさんが事の重大さに気付いてないはずはない。
「戦争になるかもしれません。あなたがたはそれでも行くと言われるの?」
「女王陛下のおっしゃるとおりだよ」
「戦争になったら大変だ」
水精霊騎士隊の生徒たちは、口々にサイトさんを説得にかかった。
「はいはい、わかった、わかった」
サイトさんは言ってくれた。よかった。やはり、責任感は強いらしい。副隊長として意見を聞き入れてくれた。
「お前たちは先に学院に戻れ」
水精霊騎土隊の面々は、執務室を出て行く。あっさり過ぎると思い私は警戒を強める。
部屋に残っているのは、ルイズ、ギーシュ、キュルケ、アニエス、そしてサイトだけだ。
「諦めてくださいましたか?」
なにか企んでいると思い、私はアニエスを残した。
「アニエスさ~ん、久しぶりですねぇ」
私を無視してアニエスに話しかけるサイトさん。アニエスは驚いた顔で返事をしていた。
ルイズ達も驚いていた。
「サイト殿、まだ陛下の話は終わっていません」
「姫様への返事は、こいつだぁ」
SIDE:サイト・ヒラガ
アニエスの視界を遮るようにマントをアニエスに投げつける。
そして、アンリエッタに一瞬で詰め寄る。
「ヒャッハー、スカート破りじゃ~」
ビリビリ~、とスカートをやぶいた。
なるほど、ガーターベルトに白ね。
美尻を目に焼き付けておこう。
「きゃあああ、何をするのです!」
スカートを押さえるアンリエッタを無視して部屋の窓と壁をぶち壊す。
大きな音を立てて崩れる壁。これが作戦開始の合図。
そして、デルフをキュルケの首筋に当てて、人質にして叫ぶ。
「わははは、アンリエッタァア、俺は貴族をやめるぞぉおおお!」
「キャー、助けてー、犯されるー」
キュルケはノリノリで人質を演じる。
そのまま、窓から飛び降りた。
「誰か! あの者達を捕らえなさい!」
アンリエッタが叫んでいたがもう遅い。
SIDE:アニエス
視界が広がると、惨事だった。女王陛下は破れたスカートを押さえ、窓があった壁が壊れている。
サイトは人質をとり、壊した壁穴から逃げたのだ。
声から推測できたが、なぜこんなことを?
「陛下! やつは、陛下に無礼を働いた反逆者であります! このギーシュ・ド・グラモン、あの不届き者を水精霊騎士隊、隊長として、奴を地の果てまで追い詰め、見事ひっとらえてやりましょう!」
ギーシュは早口で言うと、執務室を出て行いった。
「姫様、あのバカは私の使い魔。私が責任もって処分いたします!」
そう言ってルイズも出て行った。
嵌められた。これは恐らくサイトに仕組まれた茶番だ。
「陛下、いかがなさいますか?」
「はぁ、気を付けていたのですが、やられましたわ。すぐに追ってください」
私はすぐに執務室を出た。ラ・ヴァリエールが部屋を出て数秒だ。すぐに捕まるだろう。
しかし、廊下に出てすぐに窓の外から閃光と大音量が響いた。
「な!」
それを見て私は驚く。
巨大なフネが、低空飛行で何かをばら撒いている。
「な、なんだあれは……」
魔法で拡大した声が響く。
「トリスタニアの皆さまに申し上げます。トリスタニアの皆さまに申し上げます。ゲルマニアのフォン・ツェルプストー家が、最新式水蒸気船『オストラント』号のお披露目にやってまいりました。街を歩く皆さまも、お城にお勤めの皆さまも、どうか近づいてご覧になってくださいまし」
しばし、巨大なフネに目を奪われた。
私は目的を思い出し、その場を動こうとする。
「やあ」
「ウェールズ様!?」
いきなり目の前に現れたのはウェールズ王であった。その姿の後ろには何人もの衛兵が倒れていた。
「城の警護隊の質を高めるための非公式の奇襲だよ。恨むならサイトくんを恨んでくれ」
「な、に?」
気づいた時には眠りの雲に巻かれていた。意識が遠のくなか、サイトの策略にハマった事を悔しく思った。
SIDE:サイト・ヒラガ
城を抜け出した俺とキュルケは、レイナールの先導で馬と旅装が用意されている『魅惑の妖精』亭に向かった。
フネでの陽動、レイナール部隊の援助、ウェールズの奇襲。
この三つが主な作戦。
「準備がいいわね」
関心したようにキュルケが言った。
人質役を楽しそうにやっていたが、キュルケが知っているのは城を抜け出してタバサを救うという大まかな説明だけだ。
「俺たちは陸路でガリアへ向かう。フネはゲルマニアへ向かわせて宮廷の連中に、俺たちがゲルマニアからガリアへ侵入すると思わせる。レイナール達はここでギーシュ達を待って俺たちを追ってこい」
「なるほど」
いつの間にかコルベールが参加していた。ハゲは頷きながら俺の説明不足を補うように語った。
「詳しく説明しよう、あんな大きなフネで国境を越えたら、すぐにガリア軍に見つかる。しかも、ガリアで降りたあとはどうする? 上空に待機させておくか? ガリアの竜騎士隊に見つかって、あっという間に撃沈されるな。フネは危険なことに使いたくないことも考えて陽動か、馬で国境を越え、ミス・ツェルプストーが知っているという、ラグドリアン湖畔の旧オルレアン公の屋敷へと向かう。そこがミス・タバサの実家だったな。何か手がかりになるものがあるかもしれない。とりあえずの計画は以上かね?」
「さすがですね。その通りです。コルベール先生は俺たちと行きましょう」
レイナールがハゲに尋ねた。
「一ついいですか?」
「なんだね」
「どうして、そこまでしてくれるんですか? 先生には先生っていう立場があるでしょう?」
「ミス・タバサはわたしの生徒だ。教師が生徒を助ける。まったくもって当然じゃないか」
金●先生並のよい教育者だ。
学院で静養していたシルフィードを拾い、国境に向かう。
結局、シルフィードの怪我が癒えなかったので、擬人化イルククゥに変身してもらい馬で国境を超える。
学院に寄り道したり、馬での移動で思った以上に時間がかかり、俺たちが旧オルレアン公邸に到着したのは日が落ちて暗くなった頃だった。
俺たちは屋敷の様子を伺う。敵がいる気配がない。
そういや、反対側のアーハンブラ城にいるんだっけ?
だが、万が一ということがあるので調べることにした。
「人が複数いる気配は感じられないな」
コルベールが門から屋敷を見て言う。
そりゃそうだ。確か、一人の執事がいるだけである。
念のため、俺は周囲に気を配りながら玄関へ移動する。
問題なさそうなので全員を呼ぶ。
「ちょ、サイト?!」
俺が勝手に玄関の大きな扉を開けた。
しん、と冷えた静けさが、ホールに漂う。
「誰もいないみたいね」
驚いたモンモランシーとは違い、キュルケは落ち着いたものだ。
ホールを歩くと、床には壊れたガーゴイルが転がっていた。
タバサはスクエアクラスに昇格したらしい。
魔法は感情によって威力が多少上下すると解説された。
コルベールの解説ではタバサが戦った時の精神状態は最高にハイッてやつになっていたらしい。
破壊されたゴミを辿ると、奥にある部屋に着いた。
タバサ大暴れの巻。
部屋の中は滅茶苦茶だった。
室内で竜巻状の魔法を唱えるのは危険だからヤメよう。お兄さんとの約束だ。
さて、壁に開いた穴から顔を出しているシルフィードにそろそろ事情を説明してもらおう。
「その穴はお前が空けたのか?」
きゅい、とシルフィードが頷く。
「タバサの相手はどんな相手だったの?」
モンモランシーの問いにシルフィードはボディランゲージで、伝えようとしている。
なんか、動物の必死さに萌えたので、俺が答えてやる。
「エルフか?」
シルフィードは頷いた。キュルケとモンモランシーは驚愕した顔。
コルベールは考え込んでしまった。
「やい、剣。スクエアクラスでもエルフ相手に勝てないのか?」
「おうよ、エルフはヤバイな。ぶっちゃけスクウェア・メイジでも分が悪い。人間のメイジが使う系統魔法は個人の意思の力で大なり小なり、『理』を変えることで効果を発揮するが、エルフの使う先住魔法ってのはその『理』に沿うんだ。要は何処にでもある自然の力を利用するんだな。人の意思なんぞ、自然の力の前では弱い存在だからな」
最近話ていないデルフは嬉しそうに語った。
さてと、シルフィードの正体を明かす時が来た。
「さて、そのエルフはどれだけ強いのでしょう? 答えるのは君だ!」
ビシッとシルフィードに指をさす。
「きゅい?」
「何時までとぼけてんだ? 韻竜!」
俺の言葉にコルベールが気がついた。
「この風竜は、絶滅したとされる韻竜だったのか!?」
「そこにいるんだから絶滅なんかしてねぇんだろうさ」
ハゲの問いにデルフが答えた。
俺はシルフィードを指さしたまま続ける。
「伝説の古代の竜。知能が高く、言語能力に優れ、先住魔法を操る強力な幻獣。そういう訳だから喋れるだろ? なあ、シルフィード? それともイルククゥか?」
「簡単に喋るとかばらさないで欲しいのね! きゅいきゅい!」
「「本当にしゃべったわ!」」
キュルケとモンモランシーが驚いていた。
「しゃべったら悪いの? ああもう! お姉さまがしゃべるなって言うから我慢してたのに! きゅいきゅい!」
よく喋る韻竜だ。
「ああ! お姉さまとの約束やぶっちゃった! 絶対しゃべっちゃダメって約束してたのに! きゅ~~い! きゅ~~~い!」
「なあ韻竜。先住魔法のすごさを、軽くこいつらに見せてやれよ」
デルフリンガーがいたずらっぽい声で、シルフィードに告げる。
「〝先住〟なんて言い方はしないのね。精霊の力と言って欲しいのね。わたしたちはそれをちょっと借りてるだけなのね」
「じゃあその精霊の力とやらを、軽く見せてやりな」
デルフリンガーがそう言うと、シルフィードは観念したように呪文を唱え始めた。
「我を纏う風よ。我の姿を変えよ」
シルフィードは青い風の渦に巻きつかれて、光り輝いた。
光が消えると、その場にあった風竜の姿はなく、代わりに二十歳ほどの若い女性が現れた。
長い青い髪の麗人である。
まあ、イルククゥなわけで。服までは変化できないわけで。
俺の鑑賞を遮るようにモンモランシーが羽織ったコートを、シルフィードに放った。
「これ着てなさい」
「え~~~、ごわごわするからやだ。きゅい」
「きゅいじゃないのよ。着るの!」
鬼の形相をしたモンモランシーにシルフィードはしぶしぶコートを身に着けた。
エルフとタバサの対決をシルフィードの解説を俺が再解説する形でお送りする。
エルフと対峙したタバサはとてつもない風の魔法を唱えた。
しかし、エルフはその魔法を余裕の表情で避けもしようとしなかった。
タバサの魔法がエルフを包みそうになった瞬間、魔法が反転してタバサに襲いかかった。
避けられなかったタバサは倒れた。
シルフィードも怒って襲い掛かったけどあっさりやられた。
「なのね」
シルフィードは、どうだと言わんばかりに胸をそらす。
シルフィードの解説は身振り手振りの効果音つきで、ちゅどーん、ドカーン、オワタという感じだった。
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ゼロの使い魔の原作者であるヤマグチノボル氏が
がん治療というニュースをネットでしりました。
8月に手術だそうで、無事健康になって頂きたいと思います。
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