翌朝……。
トリステイン魔法学院では、昨夜からの蜂の巣をつついた騒ぎが続いていた。
何せ、秘宝の『破壊の杖』が盗まれたのである。
それも、巨大なゴーレムが、壁を破壊するといった大胆な方法で。
宝物庫には、学院中の教師が集まり、壁にあいた大きな穴を見て、口をあんぐりとあけていた。
壁には、『土くれ』のフーケの犯行声明が刻まれている。
『破壊の杖、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』
「土くれのブーケ! 貴族たちの財宝を荒らしまくっているという盗賊か! 魔法学院にまで手を出しおって! 随分とナメられたもんじゃないか!」
「衛兵はいったい何をしていたんだね?」
「衛兵などあてにならん! 所詮は平民ではないか! それより当直の貴族は誰だったんだね!」
まあなんて汚い大人の責任転嫁だこと。最終的にはオスマン学院長が
「このとおり、賊は大胆にも忍び込み、『破壊の杖』を奪っていきおった。つまり、我々は油断していたのじゃ。責任があるとするなら、我ら全員にあるといわねばなるまい」
といって締めくくった。男だねぇ。
「で、犯行の現場を見ていたのは誰だね?」
オスマン氏が尋ねた。
「この三人です」
コルベールがさっと進み出て、自分の後ろに控えていた三人を指差す。
ルイズにキュルケにタバサの三人である。
俺は、使い魔なので数には入っていない。
( 」゚Д゚)」オーイ!
(´・ω・`)
\(^o^)/オワタ
など遊んでいたら怒られた。
「ふむ……、君たちか」
オスマン氏は、興味深そうに俺を見つめていた。ヽ(*´∀`)ノ キャッホーイ!!
という顔をしていたがスルーされた。
「詳しく説明したまえ」
ルイズが進み出て、見たままを述べた。
「あの、大きなゴーレムが現れて、ここの壁を壊したんです。扁に乗ってた黒いメイジがこの宝物庫の中から何かを……、その『破壊の杖』だと思いますけど……、盗み出したあと、またゴーレムの肩に乗りました。ゴーレムは城壁を越えて歩き出して……、最後には崩れて土になっちゃいました」
「それで?」
「後には、土しかありませんでした。肩に乗ってた黒いローブを着たメイジは、影も形もなくなってました」
「ふむ……」
オスマン氏はひげを撫でた。
「後を遣おうにも、手がかりナシというわけか……」
それからオスマン氏は、気づいたようにコルベールに尋ねた。
「ときに、ミス・ロングビルはどうしたね?」
「それがその……、朝から姿が見えませんで」
「この非常時に、どこに行ったのじゃ」
「どこなんでしょう?」
そんな風に噂をしていると、ミス・ロングビルが現れた。
タイミング測ってたな? (・∀・)ニヤニヤ
「ミス・ロングビル! どこに行っていたんですか! 大変ですそ!事件ですぞ!」
興奮した調子で、コルベールがまくし立てる。
しかし、ミス・ロングビルは落ち着き払った態度でオスマン氏に告げた。
「申し訳ありません。朝から、急いで調査をしておりましたの」
「調査?」
「そうですわ。今朝方、起きたら大騒ぎじゃありませんか。そして、宝物庫はこのとおり。すぐに壁のブーケのサインを見つけたので、これが国中の貴族を震え上がらせている大怪盗の仕業と知り、すぐに調査をいたしました」
「仕事が早いの。ミス・ロングビル」
コルベールが慌てた調予で促した。
「で、結果は?」
「はい。フーケの暦所がわかりました」
「な、なんですと!」
コルベールが、素っ頓狂な声をあげた。 (・m・ )クスッ
「誰に聞いたんじゃね? ミス・ロングビル」
「はい。近在の農晟に聞き込んだところ、近くの森の廃屋に入っていった黒ずくめのローブの男を見たそうです。おそらく、彼はフーケで、廃屋はフーケの隠れ家ではないかと」
ルイズが叫んだ。 ( ̄∇ ̄;) ハッハッハッ
「黒ずくめのローブ? それはフーケです! 間違いありません!」
オスマン氏は、目を鋭くして、ミス・ロングビルに尋ねた。
「そこは近いのかね?」
「はい。徒歩で半日。馬で四時間といったところでしょうか」
「ブッ」
思わず吹き出す俺。
さっきから事あるごとにニヤついてるのに誰も何も言ってくれない。
こうなりゃヤケだ。俺に発言させてくれるまで嫌がらせしてやる。
「すぐに王室に報告しましょうー 王室衛士隊に頼んで、兵隊を差し向けてもらわなくては!」
コルベールが叫んだ。
オスマン氏は首を振ると、目をむいて怒鳴った。年寄りとは思えない追力だ。
流石におふざけしてる場合じゃないかな~と考えた。
「ばかもの! 王室なんぞに知らせている間にフーケは逃げてしまうわ! その上……、身にかかる火の粉を己で払えぬようで、何が貴族じゃ! 魔法学院の宝が盗まれた! これは魔法学院の間題じゃ! 当然我らで解決する!」
ミス・ロングビルは微笑んだ。それを俺が見逃すわけもなく。視線があう。
オスマン氏は咳払いをすると、有志を募った。
「では、捜索隊を編成する。我と思う者は、杖を掲げよ」
誰も杖を掲げない。困ったように、顔を見合わすだけだ。
俺がしゃしゃり出ていいのはルイズが杖を上げてからだ。
「おらんのか? おやぞ どうした! フーケを捕まえて、名をあげようと思う貴族はおらんのか!」
ルイズは俯いていたが、それからすっと杖を顔の前に掲げた。やればできる子。
「ミス・ヴァリエール!」
ミセス・シュヴルーズが、驚いた声をあげた。
うっせー。(゚д゚)バーカ
「ルイズ、さすが俺のご主人」
「当たり前よ。私は貴族よ!」
その声に反応したのかキュルケも杖を掲げていた。
いい度胸だ。俺の家に来て俺とファックしていいぞ。
「ふん。ヴァリエールには負けられませんわ」
キュルケが杖を掲げるのを見て、タバサも掲げた。
「タバサ。あんたはいいのよ。関係ないんだから」
キュルケがそう言ったら、タバサは短く答えた。
「心配」
キュルケは感動した面持ちで、タバサを見つめた。ルイズも唇を噛み締めて、お礼を言った。
なぜタバサは俺を見てる?
「ありがとう……。タバサ……」
そんな三人の様子を見て、オスマン氏は笑った。
「そうか。では、頼むとしようか」
「オールド・オスマン! わたしは反対です! 生徒たちをそんな危険にさらすわけには!」
「では、君が行くかね? ミセス・シュヴルーズ」
「い、いえ……、わたしは体調がすぐれませんので……」
「彼女たちは、敵を見ている。その上、ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士だと聞いているが?」
タバサは返事もせずに、ぼけっと突っ立っている。教師たちは驚いたようにタパサを見つめた。
「本当なの? タバサ」
まあ驚いてますな。俺は知ってるから驚かん。
「ミス・ツェルプストーは。ゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家系の出で、彼女白身の炎の魔法も、かなり強力と聞いているが?」
キュルケは得意げに、髪をかきあげた。
それから、ルイズが自分の番だとばかりに可愛らしく胸を張った。萌!
オスマン氏は困ってしまった。
誉めるところがなかなか見つからなかった。
こほん、と咳をすると、オスマン氏は目を逸らした。
頑張れ学院長褒めてやれ。褒めるところもゼロだけど頑張れ。
「その……、ミス・ヴァリエールは数寿の優秀なメイジを輩出したヴァリエール公爵家の息女で、その、うむ、なんだ、将来有望なメイジと聞いているが? しかもその使い魔は!」
それから俺を熱っぽい目で見つめた。結局俺が優秀すぎるのね。
「平民ながらあのグラモン元帥の息予である、ギーシュ・ド・グラモンと決闘して勝ったという噂だが」
噂ってあんた確か遠見の魔法で見てたんだろ?
そう思ってると話は進んでいた。
「魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する」
四人はミス・ロングビルを案内役に、早速出発した。
「ミス・ロングビル……、手綱なんて付き人にやらせればいいじゃないですか」
ミス・ロングビルは、にっこりと笑った。
「いいのです。わたくしは、貴族の名をなくした者ですから」
キュルケはきょとんとした。
「だって、貴女はオールド・オスマンの秘書なのでしょ?」
「ええ、でも、オスマン氏は貴族や平民だということに、あまり拘らないお方です」
「差しつかえなかったら、事情をお聞かせ願いたいわ」
ミス・ロングビルは優しい微笑みを浮かべた。それは言いたくないのであろう。
「いいじゃないの。教えてくださいな」
「まあ、キュルケ人には言いたくないこともあるんだよ。例えばキュルケの乳が偽物だって秘密にしているみたいに」
「ブッ、サイトそれほんと?」
ルイズが興味深そうに俺に聞いてきた。
「そ、そんなわけないじゃない。本物よ!」
「とまあ、そんな風に気分が害されるから人の秘密は聞くものじゃないよ」
「ぐぬぬぬぬ」
うん、上手く和んだようだ。
「ったく……、あんたがカッコつけたおかげで、とばっちりよ。何が悲しくて、泥棒退治なんか……」
「とばっちり? あんたが自分で志願したんじゃないの」
「あんたが一人じゃ、サイトが危険じゃないの。ねえ、ゼロのルイズ」
「どうしてよ?」
「いざ、あの大きなゴーレムが現れたら、あんたはどうせ逃げ出して後ろから見てるだけでしょ? サイトを戦わせて自分は高みの見物。そうでしょう?」
「誰が逃げるもんですか。わたしの魔法でなんとかしてみせるわ」
「魔法? 誰が? 笑わせないで!」
二人は再び火花を散らし始めた。
「キュルケではルイズに勝てない理由が知りたい」
タバサがそう告げると、ルイズとキュルケはこちらに視線を向けた。
「そういえばあの時はゴーレムが襲ってきて聞きそびれてたけど詳しく聞かせてもらえるわよね?」
駄々をこねて俺はデルフリンガー以外の剣は持ってきていない。
キュルケの買った剣は使えんからな。
「あー、じゃあ説明するからあの剣は使わなくていいよね? あの剣は戦闘用じゃないし」
「わかったわよ」
それよりも早く説明しろ。
ハリー、ハリーと体を寄せてくる。
「ほんじゃお話を始めましょうか。
キュルケがなぜルイズに勝てないのか?
それはルイズの扱う魔法が見えないからだよ!!」
なんだってー!!
って言ってくれ頼むから。
( ´д)ヒソ(´д`)ヒソ(д` )
みたいに三人で話すなんて放置プレイですか?
「それだけ?」
タバサ、君だけだ俺の見方だ。
「事あるごとにキュルケとルイズは争ってるんだろ?
なのに決着つかず。キュルケってトライアングルメイジなのに失敗魔法しか使えないルイズになんで勝てないの?」
( ゚д゚)ハッ!
「というか、魔法を扱える精神力? つーの? それが少なくともトライアングル以下ってことはないでしょ? そもそも、俺はルイズの魔法は爆発魔法だと思ったし」
さすがに虚無の使い手といっても信じないだろう。なのでもっとも近い爆発魔法に変えてやった。
ドラ●エにも爆発魔法あるしな。
「爆発という系統はない」
「最も近い系統は私と同じ火ってことかしら?」
「嫌よ、なんであんたと同じ系統なのよ!」
ルイズはどこか嬉しそうだった。まあ、トライアングルクラスの精神力の持ち主ってことで喜んでるんだろ。
でも、原作じゃ虚無って精神力消費ハンパないんだっけ?
時には命を削るとかあったような。
でも、サイトに対する怒りで精神力補うシーンあったよな。
タバサのキスとか。
うーん怒りで強くなるって幽●の主人公かよ。
霊能力ってゼロがかかってるな。まさか作者はそこまで考えていた?
なーんてくだらないこと考えてたら三人がこっち見てた。
「単純に見えない攻撃をどうやって避ける?」
俺の問いにキュルケに話を振ると少し顔を青ざめていた。
ルイズが自分にたいしてケガをしないように魔法を使っていたことを理解したらしい。
たぶん今考えてることは伝えない方がいいね。フーケも聞き耳立ててるし。
そう、ルイズはどの魔法でも爆発する。
しかも威力は最低でも教室をめちゃくちゃにするレベルだ。
俺の世界でいう手榴弾レベルの爆発をポンポンと出せる。
それだけでもかなりの脅威だが、こちらの世界のメイジに当てはめるなら最短の魔法を唱えるだけで威力のある攻撃をポンポンと出せるわけで。
今のルイズでも一対一の戦いならスクエアクラスでも勝てるんじゃね?
ただし、ルイズが相手を殺す事全体だけど。
「ま、だらしない顔してるルイズだが、本気出せば強いんじゃねーのってことで」
気づくと馬車は深い森に入っていった。
「ここから先は、徒歩で行きましょう」
フーケがそう言って、全員が馬車から降りた。
森を通る道から、小道が続いている。
「イヤ……、暗くて怖いの……」
「なにバカやってんの?」
自分で自分を抱きしめていたら注意された。