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No.18683の一覧
[0] コードギアス 反逆のルルーシュ~架橋のエトランジュ~[歌姫](2010/05/15 08:35)
[1] プロローグ&第一話  黒へと繋がる青い橋[歌姫](2010/07/24 08:56)
[2] 第二話  ファーストコンタクト[歌姫](2010/05/15 08:34)
[3] 第三話  ギアス国家[歌姫](2012/08/04 10:24)
[4] 挿話 エトランジュのギアス[歌姫](2010/05/23 13:41)
[5] 第四話 キョウト会談[歌姫](2010/08/07 11:59)
[6] 第五話  シャーリーと恋心の行方[歌姫](2010/06/05 16:48)
[7] 挿話  父親と娘と恋心[歌姫](2010/06/11 21:19)
[8] 第六話  同情のマオ[歌姫](2010/06/19 11:50)
[9] 第七話  魔女狩り[歌姫](2010/06/26 11:21)
[10] 第八話  それぞれのジレンマ[歌姫](2010/07/03 22:23)
[11] 第九話  上に立つ者の覚悟[歌姫](2010/07/10 11:33)
[12] 第十話  鳥籠姫からの電話[歌姫](2010/07/24 08:57)
[13] 第十一話  鏡の中のユフィ[歌姫](2010/07/24 10:10)
[15] 第十二話  海を漂う井戸[歌姫](2010/07/31 12:01)
[16] 第十三話  絡まり合うルール[歌姫](2010/08/07 11:53)
[17] 第十四話  枢木 スザクに願う[歌姫](2010/08/21 11:24)
[18] 第十五話  別れの陽が昇る時[歌姫](2010/08/21 12:57)
[19] 第十六話  アッシュフォードの少女達[歌姫](2011/02/12 10:47)
[20] 第十七話  交錯する思惑[歌姫](2010/09/11 12:52)
[21] 第十八話  盲目の愛情[歌姫](2010/09/11 12:09)
[22] 第十九話  皇子と皇女の計画[歌姫](2010/09/25 13:41)
[23] 第二十話  合縁奇縁の特区、生々流転の旅立ち[歌姫](2010/09/30 07:39)
[24] 挿話  親の心、子知らず ~反抗のカレン~[歌姫](2010/09/30 07:32)
[25] 挿話  鏡の中の幻影 ~両性のアルカディア~[歌姫](2010/10/09 10:35)
[26] 挿話  カルチャーショックプリンセス ~交流のユフィ~[歌姫](2010/10/09 11:36)
[27] 挿話  それぞれの特区[歌姫](2010/10/16 12:06)
[28] 挿話  ティアラの気持ち  ~自立のナナリー~[歌姫](2010/10/23 10:49)
[29] コードギアス R2 第一話  朱禁城の再会[歌姫](2010/10/30 15:44)
[30] 第二話  青の女王と白の皇子[歌姫](2010/11/13 11:51)
[31] 第三話  闇夜の密談[歌姫](2010/11/13 11:35)
[32] 第四話  花嫁救出劇[歌姫](2012/12/02 21:08)
[33] 第五話  外に望む世界[歌姫](2010/11/27 10:55)
[34] 第六話  束ねられた想いの力[歌姫](2010/12/11 11:48)
[35] 挿話  戦場の子供達 [歌姫](2010/12/11 11:42)
[36] 第七話  プレバレーション オブ パーティー[歌姫](2010/12/18 11:41)
[37] 第八話  束の間の邂逅[歌姫](2010/12/25 10:20)
[38] 第九話  呉越同舟狂想曲[歌姫](2011/01/08 12:02)
[39] 第十話  苦悩のコーネリア[歌姫](2011/01/08 12:00)
[40] 第十一話  零れ落ちる秘密[歌姫](2011/01/22 10:58)
[41] 第十二話  迷い子達に差し伸べられた手[歌姫](2011/01/23 14:21)
[42] 第十三話  ゼロ・レスキュー[歌姫](2011/02/05 11:54)
[43] 第十四話  届いた言の葉[歌姫](2011/02/12 10:52)
[44] 第十五話  閉じられたリンク[歌姫](2011/02/12 10:37)
[45] 第十六話  連鎖する絆[歌姫](2011/02/26 11:10)
[46] 挿話  叱責のルルーシュ[歌姫](2011/03/05 13:08)
[47] 第十七話  ブリタニアの姉妹[歌姫](2011/03/13 19:30)
[48] 挿話  伝わる想い、伝わらなかった想い[歌姫](2011/03/19 11:12)
[49] 挿話  ガールズ ラバー[歌姫](2011/03/19 11:09)
[50] 第十八話  闇の裏に灯る光[歌姫](2011/04/02 10:43)
[51] 第十九話  支配の終わりの始まり[歌姫](2011/04/02 10:35)
[52] 第二十話  事実と真実の境界にて[歌姫](2011/04/09 09:56)
[53] 第二十一話  決断のユフィ[歌姫](2011/04/16 11:36)
[54] 第二十二話  騎士の意地[歌姫](2011/04/23 11:38)
[55] 第二十三話  廻ってきた順番[歌姫](2011/04/23 11:34)
[56] 第二十四話  悲しみを超えて[歌姫](2011/05/07 09:50)
[57] 挿話  優しい世界を踏みしめ  ~開眼のナナリー~[歌姫](2011/05/07 09:52)
[58] 挿話  弟妹喧嘩のススメ  ~嫉妬のロロ~[歌姫](2011/05/14 09:34)
[59] 第二十五話  動き出した世界[歌姫](2011/05/28 09:18)
[60] 第二十六話  海上の交差点[歌姫](2011/06/04 11:05)
[61] 第二十七話  嵐への備え[歌姫](2011/06/11 10:32)
[62] 第二十八話  策謀の先回り[歌姫](2011/06/11 10:22)
[63] 第二十九話  ゼロ包囲網[歌姫](2011/06/25 11:50)
[64] 第三十話  第二次日本攻防戦[歌姫](2011/07/16 08:24)
[65] 第三十一話  閃光のマリアンヌ[歌姫](2011/07/09 09:30)
[66] 第三十二話  ロード・オブ・オレンジ[歌姫](2011/07/16 08:31)
[67] 第三十三話  無自覚な裏切り[歌姫](2011/07/23 09:01)
[68] 第三十四話  コード狩り[歌姫](2011/07/30 10:22)
[69] 第三十五話  悪意の事実と真実[歌姫](2011/08/06 13:51)
[70] 挿話  極秘査問会 ~糾弾の扇~[歌姫](2011/08/13 11:24)
[71] 第三十六話  父の帰還[歌姫](2011/08/20 10:20)
[72] 第三十七話  降ろされた重荷[歌姫](2011/09/03 11:28)
[73] 第三十八話  逆境のブリタニア[歌姫](2011/09/03 11:24)
[74] 挿話  私は貴方の物語 ~幸福のエトランジュ~[歌姫](2011/09/03 11:55)
[75] 第三十九話  変わりゆくもの[歌姫](2011/09/17 22:43)
[76] 第四十話  決意とともに行く戦場[歌姫](2012/01/07 09:24)
[77] 第四十一話  エーギル海域戦[歌姫](2013/01/20 14:53)
[78] 第四十二話  フレイヤの息吹[歌姫](2013/01/20 14:56)
[79] 第四十三話  アルフォンスの仮面[歌姫](2013/01/20 15:01)
[80] 第四十四話  光差す未来への道[歌姫](2013/01/20 15:09)
[81] 第四十五話  灰色の求婚[歌姫](2013/01/20 15:12)
[82] 第四十六話  先行く者[歌姫](2013/01/20 15:15)
[83] 第四十七話  合わせ鏡の成れの果て[歌姫](2013/01/20 14:59)
[84] 第四十八話  王の歴史[歌姫](2013/01/20 14:58)
[85] 挿話   交わる絆   ~交流のアッシュフォード~[歌姫](2012/12/30 18:51)
[86] 挿話  夜のお茶会 ~憂鬱の姫君達~[歌姫](2012/12/30 14:03)
[87] 第四十九話  その手の中の希望[歌姫](2013/02/23 12:35)
[88] 第五十話  アイギスの盾[歌姫](2013/03/22 22:11)
[89] 第五十一話  皇帝 シャルル[歌姫](2013/04/20 12:39)
[90] 第五十二話  すべてに正義を[歌姫](2013/04/20 11:22)
[91] 最終話  帰る場所&エピローグ[歌姫](2013/05/04 11:58)
[92] コードギアス 反逆のルルーシュ ~架橋のエトランジュ~ オリキャラ紹介[歌姫](2011/04/06 10:27)
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[18683] 第十七話  交錯する思惑
Name: 歌姫◆59f621b7 ID:42c35733 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/09/11 12:52
第十七話  交錯する思惑



 アッシュフォードから引っ越してきたルルーシュとナナリーは、メグロにある孤児院の一室を借りてそこに住み始めた。
 ルルーシュが改築に関わっただけはあり、外観こそ古いが施設内はバリアフリー化、衛生面なども完璧な建物である。

 ルルーシュは周囲には、不具合になってしまった妹に辛く当たる父親に反発して彼女と共に家出をしようとしていたところに、この施設を紹介されたと言っていた。
 そんな話は珍しくもなかったのか、ここなら大丈夫だからと親切にいろいろと世話をしてくれる者もいるし、リハビリ施設もあるのでナナリーも同じ境遇の友人が出来、みんなでリハビリに励んだりしていた。

 そしてルルーシュはゲットー内部にある小さな事務所で働いていると言いながら黒の騎士団本部に行き、暇を見ては施設の子供達に食事を作ったりして高い好感度を得ていた。
 時折カレンも訪れるのでナナリーも最初にあった不安が消え、楽しく過ごせているようだ。

 「学生との二重生活より時間が取れるようになって、結構だなルルーシュ。
 だが、租界の外に出てから私はピザが食べられなくなってしまったのだが」

 現在の状況に満足していたルルーシュにC.Cはそう苦言を呈するが、ゲットーにピザを配達する店などないから諦めろと睨みつける。

 「仕方ないだろうC.C。恨むならスザクを恨め」

 「全く、本当に余計なことをするなあいつは・・・だがまあ仕方ないからお前が作るので我慢しよう。
 せっかくチーズ君グッズがもう一つ手に入る予定だったのに」

 「まだあのぬいぐるみが欲しいのか?一つで充分だろう」

 「保存用だ。こういう生活をしていると、どこかに置き去りにしたまままた突然引っ越しなんてのもあり得るからな」

 C.Cはそう言いながら、ルルーシュの部屋から持ってきたチーズ君を抱きしめてベッドに寝転がる。

 と、そこへエトランジュが慌てた様子でリンクを開き、ギアスで語りかけてきた。

 《突然申し訳ございませんルルーシュ様。実は中華連邦に動きが・・・!》

 《中華連邦、ですか。黒の騎士団やキョウト、ニュースを通しての情報ですか?》

 《いいえ、私達が個人的に持っているルートからです。私、当代の天子様とは友人同士ですので》

 エトランジュが日本に来る数ヶ月前、彼女は中華連邦に伯母のエリザベスと共に赴き、一週間ほど滞在していた。
 いくら小国の亡命政府といえど、長く国の元首が滞在するのは痛くもない腹を探られるとの判断で名残惜しく立ち去ったが、天子とは数年前からたまに文通をする仲であるという。

 《何でも中華連邦に亡命している日本の官房長官の澤崎とおっしゃる方が、中華の後押しを受けて日本解放を考えているそうなのです。
 天子様としては反対だと、エリザベス伯母様を通じてお言葉が》

 《ほう、それはそれは・・・では、至急それをキョウトにご報告を。私も今から参りますので、対応を協議致しましょう》

 幸いまだ日本に攻めてくるまでは、一週間前後の時間がある。このタイミングで情報が来たのは実にありがたいことだった。

 ルルーシュはC.Cを伴って自室を出ると、リハビリ施設にいるナナリーに声をかけた。

 「ナナリー、俺はちょっと今から仕事で出なくてはいけなくなったんだ。
 食事はすでに作ってあるから、みんなで食べるといい」

 「昨日はお休みでしたものね、お兄様。解りました、私みんなと先に頂いていますね」

 「ルルーシュさんのごはん、美味しいから好きー」

 「ねー。たまに日本食も出るもんね。昨日作って貰った栗ごはん美味しかった」

 子供達が歓声を上げるので、ルルーシュは一人一人の頭を撫でてやりながら笑いかける。

 「じゃあ、すまないがナナリーを頼むよ。デザートも冷蔵庫にあるから」

 すっかりルルーシュの食事の虜になった子供達は、はーいとよい子の返事をしてルルーシュを見送る。

 「行ってらっしゃいませ、お兄様」

 「行ってくるよ、ナナリー」

 ルルーシュがC.Cとともに施設を出ると、C.Cは不満そうに言った。

 「どうしてあんな子供のリクエストは聞くのに、私のリクエストは聞かないんだ?」

 「ピザばかりだと栄養が偏るし肥満になる。お前と違って子供は繊細なんだ、栄養面を考慮しなくてはな」

 お前はどこの母親だと言いたくなる台詞を至極真面目な顔で吐くルルーシュに、C.Cは溜息を吐く。

 「まあいい、エトランジュにはマオを通じて、租界からこっちに来る時はピザをお持ち帰りで頼むように言ってあるからな。
 後で彼女が立て替えた代金を渡しておいてくれ」

 「やはり俺持ちか?!」

 ルルーシュは嫌そうな声を上げたが、エトランジュは無限に使えるほどの金は持っていない。
 後で彼女に代金を支払おうと、ルルーシュは財布の中身を確かめるのだった。



 黒の騎士団の本部会議室では、通信回路を開いたキョウト六家の桐原、宗像、神楽耶の三名、そして席にはゼロたるルルーシュ、エトランジュとアルカディア、ディートハルト、扇、藤堂、カレンの幹部が座っている。

 皆が着席すると、ルルーシュはさっそくに切り出した。

 「枢木政権の官房長官だった澤崎が、中華の援護を受けて日本解放をすべくフクオカに侵攻するという情報を、エトランジュ様を通じて入手した。
 これについての協議を行いたい」

 「澤崎官房長官が・・・日本解放を目指すというなら、協力すべきでは」

 扇がまず無難にそう提案するが、桐原は乗り気ではないようで首を横に振る。

 「それが成ったとすれば、日本は中華の傀儡政権になるやもしれん。
 今中華では大宦官が政治を私物化しており、非常に国内が混乱していると聞いているゆえな」

 「どうも中華では、大宦官と科挙上がりの官僚とで争っているらしい。
 今回の件も、大宦官が中心で進めているとエトランジュ様がおっしゃっておりましたが・・・中華の状況をご説明して頂いてよろしいですかな?」

 宗像の問いかけにエトランジュは頷いて了承すると、先ほどアルカディアと共に作った資料をモニターに映し出す。

 「三年半ほど前に先代の中華連邦皇帝がお亡くなりになり、ご孫娘(そんじょう)である(チェン) 麗華(リーファ)様がその地位をお継ぎになられましたがまだ当時九歳という幼さのため、常から政治を司っていた大宦官が権力を独占するようになったのです」

 モニターに映し出された生気のない表情をした幼女の姿に、痛々しげな視線が集まる。

 「そしてそれ以降、先代皇帝陛下が病臥するようになってからの大宦官は政治を私物化、富を独占する行為に拍車がかかり、今大変国内は荒れているのです」

 中華のGNPや雇用情勢などを記したグラフを見て、うわあと扇から呆れの声が上がる。

 「トップがまだ何も解らない子供じゃ、傀儡にしかならないよなあ・・・って、でもこの情報は天子様からだって」

 資料にそう書いてあるのを見て扇が首を傾げると、エトランジュは頷いた。

 「先代皇帝陛下が病にお倒れになった時にEUを代表して、お父様がお見舞いに訪れたことがあったのです。
 その際にお父様が陛下にいろいろとアドバイスをなさったとかで」


 エトランジュの父・アドリスはEUのお見舞いの使者として先代皇帝に自室で横たわったままの皇帝に謁見した。
 その時皇帝の頭を占めていたのは国の行く末ではなく、ひたすらに遺される孫娘のことだった。

 まだ九歳の幼すぎる娘、確実に大宦官に利用され尽くして捨てられる未来が目に見えるようだと嘆く皇帝に、アドリスは言った。

 『失礼ながら皇帝陛下、貴方は公主(姫の意)様を思うあまり、あの方を過保護にされていらっしゃるようにお見受けします。
 護衛をつけて城に閉じこめて護るだけでは、それはいかがなものかと存じますが』

 『もし朕が死にあれまでもということになれば、次の皇帝を巡って争いになる。
 国には誰かが守る意志のある者がおるが、あれはまだ子供なんじゃ・・・朕が守ってやらねば誰が守るのじゃ・・・!」

 国よりも孫娘が大事だ、と皇帝らしからぬ台詞に眉をひそめる侍官もいたが、アドリスはそうですねと同意する。

 『私も人の親、貴方の御心はよく解ります。
 国なんぞ守る気のある者が勝手に守ればいいですが、子供を善意だけで守ってくれる人間はそうはいません・・・この動乱の時代なら、なおさらね。
 親が一番に考えるのは子供のことであるべきなのは当然です』

 ブリタニアの世界各国の侵略開始からこっち、世界各地で騒乱の種が育って血の花を咲かせている。
 中華も例外ではなく、大宦官が麗華がある程度育ったらブリタニアの皇族と結婚させて甘い汁を吸おうとする動きがあることも、皇帝は知っていた。

 『しかし陛下、公主様はまだ幼く学校にも行っておられないのだから、助けとなる者が一人もいない。
 人間は社会的生物、誰の輪にも入らぬ者を助ける者は、あいにくおりません』

 『それは・・・じゃが外に出せば何が起こるか。とてもあれを学校には』

 『でしたら、家庭教師などをつけるなりすればよろしいでしょう。
 貴方にはそれまで生きてきた中で、心から貴方が信頼し得る者が一人や二人はおいでになられるはずです。その方に後見をお願いすればよろしいのでは?』

 心から信頼出来る者がいなかったわけではない皇帝は、その言葉にううむと考え込んだ。
 だがその者達は自分が病に倒れると同時に理由をつけて左遷されてしまい、今は近くにいない。
 しかし、確かに彼らになら孫娘を託してもいいと、皇帝は考えた。

 『そしてその方々に、公主様のご教育もお願いするのです。
 陛下、王族であろうと平民であろうと、親が子供に必ず受け継がせなくてはならない財産があるのをお忘れですか?』

 『必ず受け継がせなくてはならぬ財産、とな?』

 『ええ・・・それは親がいなくなっても、一人で立ち歩いていける力です。
 子供を災厄から守り育てるのは確かに簡単ですが、それは自分がこの世から立ち去った時たちまち子供は自分ではどうすることも出来ず終わってしまうだけの結果にしかなりません。
 普通に考えれば、親が子供を置いて死ぬのが当然ですからね』

 皇帝はその言葉に、ほとんど見えなくなった目で自らの病み衰え血管の浮き出た手を見つめた。

 皇太子と妃が謀殺され、残された孫娘が皇太女として立った時から自分は息子の忘れ形見である彼女を守ろうと護衛をつけ、城から出さないようにして育てた。
 それが孫娘のためだと信じて疑わなかったが、いざ自分が倒れ身体を動かすのも難しくなった時、孫娘の行く末だけが頭を占める。

 『公主様がしっかりなさった方なら、貴方もここまで不安になることはなかったでしょう。
 私の妻も数年前に病死しましたが、彼女が死ぬ時娘に未練はありましたが心配はしておりませんでした。私がいるし、家族がたくさんいるからこの子のことは大丈夫だと』

 『麗華はおとなしいんじゃ・・・とてもあの大宦官どもと争えるような性格ではないし、能力もない・・・』

 『親の私が言うのもなんですが、私の娘も性格は温厚で能力も平凡です。
 王位を継がせるつもりはありませんし、何より嫁にやりたくないほど可愛いので問題ないですがそれはさておき。
 我が国のようにただ穏やかに暮らせる小国ならそれでいいですが、中華ほどの大国となるとそうはいかないでしょう』

 だからこそそれを補う人材をまずはつけておき、いずれ国政を担える能力を身につけさせるべきだと説くアドリスに、皇帝はふふ、と自嘲の笑みを浮かべた。

 『いつぞや聞いた話じゃが、マグヌスファミリアでは王が健在なうちに成人した王族の誰かを選んで王位を譲るそうじゃな?
 息子が死んだ時、朕もそうする法律を作っておくべきじゃったわ』

 『ええ、私の国では譲位制度がありまして、だいたい在位二十年前後で次代に王位を譲り渡す習慣があります。
 開国した当時は祖父が、そして祖父の弟、母との順で現在の王が私です。
 今私が死ねば、私の娘はまだ成人年齢に達していないので、私の兄弟の誰かが王になるでしょう』

 『縁戚の誰かを養子として迎え、早めに譲位しておけば・・・ここまで事態は悪くならなんだやも知れぬ。
 今更言っても詮無きことじゃがの・・・・』

 今それをすれば養子とした者が殺されたり、妨害工作が入ることは間違いない。自分がまだ権力を握っていたうちに、そうしておけばよかったのだ。

 『じゃが、アドリス殿の申すことはもっともじゃ。歳はとりたくないものじゃなあ・・・』

 過去にお前は次期皇帝なのだからと息子に厳しい教育を課していたことを思い浮かべて、何故そんな大事なことを忘れていたのかと自嘲する。

 『今からでも遅くはございません。公主様に教育を・・・そして大宦官を抑える政策を行ってはいかがでしょうか』

 具体的なことを示唆すれば内政干渉になるため、ぎりぎりの線でそう提案するアドリスに皇帝は決意した。

 『・・・失礼じゃがアドリス殿、朕は用事が出来たゆえ席を外して貰いたいのじゃが』

 『ああ、これは失礼いたしました。長居し過ぎたようです・・・そうです陛下。うちの娘と公主様はお年も似たようなものですし、文通などいかがですか?』

 『文通、とな?』

 『私の妻は父が中華連邦人でして、十歳までここにいたのですよ。娘も妻の母から中華語を教わっているので、出来ればお願いしたいなと。
 大国ならこんな情勢ですから妙な誤解をされるかもしれませんが、我が国ような小国の王女と文通したところで、誰も気にしませんよ』

 城から出られないのなら、せめて小さくとも外の世界を見る窓口をというアドリスに、皇帝は目を見開いた。

 『そうか、それもいいものじゃな・・・麗華もよい刺激になろうて。アドリス殿・・・謝々(シェイシェイ)

 皇帝は末期の水を飲む前に大事なことを教えてくれたアドリスに礼を言うと、その翌日からさっそく行動に移し始めた。

 自分を支えてくれた左遷されていた重臣を呼び、幼い天子を教育する役目の太師、太保という役職に据えて後見人とし、病を押して任命式まで行った。
 名誉職ゆえ権限こそないが、それゆえに権限の強い役職ばかりを求める大宦官には盲点であった。

 そして久しく行われていなかった科挙(官僚になるための国家試験)を行い、幅広く人材を求めた。
 大宦官の妨害が入ったので百名に満たなかったが、それでも合格して新たに官僚となった者達に国を頼むとテレビ放送までして信頼する旨を伝えた。

 これまでの無理が祟ったのか、その後ほどなくして皇帝は亡くなり麗華がその後を継ぎ天子と呼ばれるようになった。

 天子はまだまだ幼く教育段階であったが、大宦官ではなく太師と太保から国政を司る者としての教育を受け、そしてたまに来るエトランジュからの手紙を楽しみにして勉学に励む日々を送っていた。

 エトランジュも初めての外国の友達が出来たと喜び、一週間に一度のEU本土の定期便を待ち、自分の手紙を届けまた返事が来るのが楽しみだった。

 一方、科挙組と呼ばれる官僚達が大宦官の専横を止めるべく奮闘していたが、既に確固たる地位を築いている大宦官を止めるのは容易なことではなく、特に人事関係が大宦官の派閥に取り込まれていることが災いして取り立てて効果が上がらなかった。

 それでも生前の皇帝がある程度の地位を科挙組に与えていたため、情報を得て会議などに出られる程度のことは可能であった。


 「今回の件は、大宦官の肝いりで行われたようです。
 日本をブリタニア侵略から解放するとなれば国際世論は中華側に向くでしょうし、サクラダイトの利権も手に入るとの思惑だそうです。
 あと、科挙組の方からは『単純に国内がうまくいってないから、外国侵略して目を逸らそう』という汚い理由が一番だとのご意見が」

 「よくあるパターンだな。ブリタニアと同じだ」

 国の政策が失敗し国内が荒れている場合、他国にそれの理由づけをするというのはよく使われる手段である。ようするに国が行う八つ当たりだ。

 ルルーシュはフンと不愉快そうに資料を机に落とすと、桐原達に視線を移す。

 「私としてはブリタニアの支配を逃れても今度は中華の支配を受けるというのはいかがなものかと思うのですが、キョウトのご意見は?」

 「虎を避けて狼を招き入れることなかれと言いますな。我らに図らずこのような愚挙は止めるべきかと」

 「ましてこの件が成功すれば、日本は中華とブリタニアとの戦の場となる。私も反対ですな。
 ただ日本の名が戻り権利を回復したとしても、それが形式的なものでは何の意味もない」

 桐原と宗像の反対意見に、扇はそれでも日本解放の一手になるのではと意見する。

 「戦力を集めることこそブリタニアを倒すために必要だと、ゼロも言っている。
 天子様とお知り合いのエトランジュ様なら、中華の力を正しい形でお借り出来るのでは?」

 「申し訳ございません扇さん・・・実は天子様と科挙組の方としては、この件を止めて欲しいそうなのです」

 実はこの日本解放と銘打った侵攻の件は、天子を始めとした科挙組が強く反対して出兵が遅れていたという背景があった。
 国内が荒れているのに外国を助けている場合かという、酷くはあるが最もな意見に対してサクラダイトの利権を手に入れれば財政が潤うと言う大宦官に、それでは火事場泥棒以外の何だというのか、目的は人道による日本解放ではないのかと返す。

 正論を武器にされれば勝ち目のない大宦官達は、結局無理やり出兵を認める決定を行った。

 このゴリ押しに憤った科挙組が訪れたのは、反ブリタニア同盟とギアス遺跡について調べるために訪中していたエトランジュの伯母であるエリザベスの元だった。

 彼女から今天子の文通友達であるエトランジュが日本の、しかも黒の騎士団に滞在していると聞いていた彼らは、黒の騎士団に協力しているエトランジュを通じて彼らに出来るだけ被害を少なくして軍を追い払って貰おうと考えたのである。

 C.Cが黒の騎士団の使者として繋ぎを取ったのも科挙組で、大宦官がこともあろうに天子をブリタニア皇子と娶せ中華を売ろうとしていることから反ブリタニア派が多かった。そのため、それなりの縁はあったのである。

 『こちらは大宦官の思惑を止めたい、日本は中華の侵攻を止めたいと利害は一致しておりますもの、受け入れてくれると思います。
 私からエトランジュに申し伝えましょう・・・もちろん表だっては何もなかったと言い含めておきますのでご安心を』

 日本が無意味に争いの場となれば、姪とそれに付き従っている子供達が心配なエリザベスも同意し、ギアスを使った定期連絡でエトランジュにその旨を伝えてきたというわけである。

 「つまり、中華としても国内が荒れている今長期戦争をするような愚は犯したくないということだ。
 私達が大宦官派の将軍を捕え、天子様が黒の騎士団に引き渡しを依頼して無傷で送り返せば天子様は大宦官どもに貸しを作れて、私達も中華との間に太いパイプが出来る」

 何事も形式は大事だからな、というルルーシュに、桐原と宗像が頷く。

 シナリオとしては日本解放と銘打った中華連邦の侵攻に黒の騎士団が反対してブリタニアが動く前に鎮圧し、中華連邦へ追い返す。
 そして捕らえた中華連邦軍の幹部達を、天子の方からエトランジュを通じて解放を依頼したという形にして引き渡すのである。

 「これこそ理想的な国家のやりとりというものじゃ。扇よ、他国の力を借りるというのは、言うほど簡単なものではない。
 エトランジュ様が個人的に天子様と仲が良くても、それを元に国の力を借りるのとはまた別の話じゃ。
 今回のように個人的な縁を政治に介入させてうまくいく例は少ないと心得よ」

 「は、勉強不足で申し訳ありません」

 桐原に諭された扇が頭を下げて詫びると、藤堂が口を開いた。

 「では、今回の中華の侵攻を阻止するということだな。
 問題はどのようにして止めるかだが・・・ゼロ、どうするつもりだ?」

 「エトランジュ様が科挙組の官僚を通じて得た情報によれば、奴らはキュウシュウのフクオカから日本上陸を目指すらしい。
 しかし大々的に部隊を動かせば、中華を撃退した後漁夫の利を狙ったブリタニア軍に我々が襲われる可能性が高い。
 よって少数精鋭で迅速に片をつけるべきだろう」

 うむ、と頷く藤堂に、エトランジュが言った。

 「幸いある程度の軍事情報は、既にエリザベス伯母様が入手して下さっております。
 何でもまだ戦力としては大軍を動員していないらしくて、キュウシュウブロックを制圧してからさらに増援を寄越す予定だとか」

 「ならば初戦で連中を根こそぎ叩き出せばいいな。カレンの紅蓮と私のガウェインで迎え撃つとしよう」

 「たった二機で?大丈夫なのか?」

 藤堂が眉をひそめるが、ルルーシュは不敵な笑みを浮かべて頷く。

 「ブリタニアも無能ではない、奴らを倒すべく兵を投入していくだろうが、苦戦するだろうな。
 だがフクオカ基地を占拠するくらいは成功するだろう」

 ならば連中がフクオカ基地を占拠し、周囲の交通網を寸断すべく動いたところで基地を強襲すればいい。
 キュウシュウブロックにも黒の騎士団の基地が一つあるのだ、潜伏するのに何ら困ることはあるまい。

 「今から動けば、紅蓮とガウェインをキュウシュウまで内密に運ぶくらい造作もないことだ。すぐに準備に取り掛かろう」

 「承知した。では俺と四聖剣はいざという時のために出撃準備をしておく」

 「そうしておいてくれ。
 それからキョウト六家は、フクオカ基地を占拠したところでサクラダイトの利権についての相談ないし通告があるだろうが、ブリタニアに余計な疑惑を持たれぬよう否の答えを返しておいて頂きたいのですが、よろしいですか?」

 「当然じゃな。中華とのほうもわしらが取り繕っておく」

 桐原が了承したところで会議がお開きになると、カレンはキュウシュウに向かうべく準備を整えに会議室を出た。

 「ゼロと二人きりで作戦展開・・・!やった!」

 ゼロがルルーシュと知って複雑だったカレンだが、ルルーシュがゼロとしてふるまっている間は以前のまま彼を敬愛している。
 それなのにルルーシュがルルーシュとしている間はさばけた態度になるのだから、女は解らないと当の本人からは首を傾げられていた。

 鼻歌を歌いながら軽い足取りで紅蓮の準備をすべく格納庫に来たカレンに、既に詳細を聞いていたラクシャータは『若いっていいわねぇ~』と笑いながら、隣の改造済みのガウェインともどもキュウシュウに移す作業を行うのだった。



 次兄シュナイゼルに呼び出されたユーフェミアは、スザクを伴って彼の部屋へと訪れた。
 室内にはダールトンとシュナイゼルがいて、シュナイゼルがいつものように穏やかな笑みを浮かべて席を勧める。

 「すまないねユフィ、勉強中に呼び出したりして」

 「いいえ、とんでもありませんわシュナイゼル兄様。それで、どんなご用事でしょうか?」

 ユーフェミアは神根島から戻った後、まずは政治の仕方を覚えろとルルーシュに言われたことを実行に移すべく、政庁の資料室長の男を自分の秘書に抜擢し、まず日本の状況を正確に把握することから始めた。

 室長は主義者ではあるものの黒の騎士団の協力者ではなく、協力者の知り合い程度の男だった。
 だがルルーシュによってギアスをかけられており、時折ユーフェミアの状況を密告したりしているのだが、彼女はもちろんそれを知らない。

 だがそれでも主義者の彼は日本をよくするために、正確な情報を望むユーフェミアの望みを叶えていた。
 さらに計画書の立て方などを教わり、彼から説得の方法や人間関係などについての本を借りては読み、知識を入れることに余念がなかった。

 「ああ、実はちょっと君に聞きたいことがあってね。まずはこれを見て欲しいんだが」

 そう言ってシュナイゼルがパソコンのモニターに出した映像は、見出しに“EU連邦加盟国マグヌスファミリア王国の亡命政府、新たな王としてアドリス国王の息女、エトランジュ王女を擁立”とある電子新聞だった。

 二年半前の日付に大きめの写真に載せられていたのは、生気のない顔を年齢に似合わぬ化粧でごまかし、青いドレスを着せられて立つ金髪碧眼の少女だった。

 「あ・・・この方・・・!」

 年齢こそ下だが、確かに神根島で自分を捕えて説教という名のアドバイスをしてくれた少女である。

 姉に滅ぼされた国の者、と言っていたが、まさか女王だったとは思いもせず、ユーフェミアは目を丸くしながら写真を凝視する。

 「やはり、彼女だったか・・・君達が急に落ちて来た時、彼女の顔が見えてね」

 EU攻略を担当しているシュナイゼルは、EUの情報を逐一集めては自分で解析していた。
 コーネリアが滅ぼした国の一つが国民全員で亡命するという他国では不可能な行動を起こした上に亡命政府を樹立したことも、その政府が国王の一人娘を王に据えたことももちろん知っていた。

 ただ所詮は二千人程度の王国、EUもただ盟約で彼らを助けたのだろうと妥当な判断を下したシュナイゼルはその情報を脳内に押しやっていたが、いきなり異母妹がゼロと共に落下して来た時ゼロを庇うように立ちふさがった彼女を見た際、彼の優秀な脳はその時の映像が蘇ったのである、

 「エトランジュ・アイリス・ポンティキュラス、世界で二番目に人口の少ないマグヌスファミリア王国の女王にして、前国王アドリス王の愛娘。
 コーネリアが滅ぼし我が国のエリア16にした国だが・・・よく君が無事に生きて戻れたものだ」

 「はい・・・あの、お姉様を恨んではいるが、別にわたくしに恨みはないからと。やつあたりで殺すようなお姉様と同類にはなりたくないと言っておりました」

 「何と生意気なことを!コーネリア様をよってたかって殺そうとするような卑劣な行為をしておきながら、自分が高潔な人間のように振舞うとは」

 ダールトンが憤慨するが、シュナイゼルは内心軍隊を持っていない自国に攻め込んで来たのだから、その程度のことをしても彼女達からすれば卑劣でも何でもないのだろうなと納得していた。

 「なるほど、彼女がゼロに協力、ね」

 恐らく反ブリタニア同盟を築くべくエトランジュがゼロに協力を依頼したか、逆にゼロが彼女と繋ぎをとったか、どちらかだろう。
 日本だけでブリタニアと戦うなど、まず不可能だ。ならば各植民地にあるレジスタンスと連携し、ブリタニアを追いつめる方が効率的である。

 「これは困ったね・・・少し厄介なことになった」

 「どういうことですかシュナイゼル兄様。資料によりますとこの国、二千人くらいしか国民がいないとありますけど・・・」

 大した国力がないことを人口が示していると言うユーフェミアに、シュナイゼルが説明してやった。

 「確かに本人に大した力はないが、ゼロが彼女につくとなると厄介なんだよ。
 王族のお家芸を使われると、EUにゼロが入ることになるからね」

 「王族のお家芸?」

 「ああ、私達も得意と言えばそうだけどね・・・政略結婚だよ」

 EUは大小様々な国が入り乱れ、争い、また融和を繰り返してきた歴史を持つ。
 とある王家は“戦争は他家に任せ、我が一族は結婚せよ”と家訓を残し、政略結婚で領地を増やしてきた例すらあった。

 そのためEUでは身分こそ重んじるが他国民の血が混じることを恥とは思わない傾向があり、混血でない王家など非常に少ない。
 現在のEUの王族や貴族はほとんどが象徴的なものとなったが、系図を紐解くとあちこちの国に遠戚がいる。

 マグヌスファミリアは長らく鎖国していたとはいえ、開国後は現イギリス国王の遠戚がエトランジュの叔母の一人と結婚しており、それなりに縁がある。
 特に世界中に戦火が上がるようになると、結束力を強めるためにEU内での王族・貴族の婚姻が数多く行われるようになった。

 「マグヌスファミリアに突出した人材がいないことは、開国後もあまり発展していない様子からも解る。だから祖国を取り戻したくてもその力がない。
 だが、ブリタニアに対してれっきとした成果を上げているゼロが彼女と結婚したら、いくら仮面をつけているとはいえ“マグヌスファミリア女王の伴侶”という素性が出来る」

 そうすればその肩書きの元、EUの軍隊に関与する機会が与えられることになる。
 もちろんそれを認めるかどうかは議会の決定次第だが、ブリタニアに追い詰められれば選択の余地なく彼に指揮権を与える可能性が非常に高い。
 そう、ブリタニアが名誉ブリタニア人と侮蔑していたスザクを、結局は彼にしか動かせなかったランスロットのデヴァイサーにし、黒の騎士団と戦わせたようにだ。

 おそらくゼロの目的は、まず日本解放を実現させて自分には植民地を解放する能力があると世界的に知らしめ、各地にある植民地に存在するレジスタンスを糾合する。
 それと同時にブリタニアと交戦中のEUとも同盟を結び、ブリタニアを包囲するつもりだろう。そのためには形式的にでも、EUの元首が必要なのだ。

 陳腐だが効果的かつ合理的な作戦に、シュナイゼルはどうしたものかと思案する。

 今EUにテロリストと繋がりを持つのかとを言えば、たかだが小国の幼い女王のすることに大仰なと侮られるし、ブリタニアが彼らにしたことに対して反抗することの何がおかしいとすら言われるだろう。
 現在でもEUとブリタニアは戦争状態であり、下手に彼女達のことを口に出せば堂々ゼロとエトランジュを結婚させて当然の行為であると世界に発表しかねない。

 亡国の女王と世界的カリスマのレジスタンスリーダーのゼロ、世間から見れば実に受けの良い光景である。

 さらに言えばたとえゼロが失敗したとしても、その場合エトランジュごと切り捨てれば済む話だ、EUとしては大した損失はない。
 成功すれば儲けもの程度だろうとシュナイゼルは見抜いている。

 だが最近EUに対する謀略がいくつか止められているところを見ると、ゼロが彼女を通じて既にEUに対して多少なりとも貸しを作っているだろう。
 表向きはマグヌスファミリアの手柄としておけば、EUの面子は守られる。
 それが積み重なっていけば、確実にEUはゼロを無視出来なくなる。

 「小さすぎて見えなかったね・・・盲点だったよ」

 恐らくエトランジュはゼロの腹話術の人形となり、ゼロの策と言葉で持って世界各地のレジスタンス組織と連絡を取っているだろう。
 胡散臭い仮面の男よりも、小国といえどブリタニアに滅ぼされた女王の言葉なら聞く人間が多いからだ。

 シュナイゼルはエトランジュの幼さと今まで表だった成果がなかったせいか、彼女がゼロの台頭以前からせっせと世界各地を回っていたという発想はなかった。
 確かに本格的な同盟を構築したのはゼロが仲間になってからだが、自力で地道に下地を作っていたので割と手早く反ブリタニア同盟が出来上がったのだ。
 もちろん決定打になったのは、ルルーシュによる対ブリタニアに対する効果的な作戦の示唆や同盟を組むことによるメリットの説明であるが、本人の言うとおり“小さすぎて見えていない”ようである。

 だがそれを差し引いても、シュナイゼルは反ブリタニア同盟を築くキーを握るエトランジュの存在を知ってしまった。

 「こちらも早急に手を打たねばならないね。教えてくれてありがとう、ユフィ」

 「いえ、こちらこそ報告せずにいて申し訳ありません」

 ユーフェミアは化粧でごまかしてあるとはいえ、生気のない顔で玉座に座るエトランジュの写真を見て、神根島で会った時の彼女とを比較した。

 俯き震える写真と違い、あの時の彼女は無表情ではあったがそれでもまっすぐに顔を上げて淡々と現実を語った。
 何があろうとも現実を直視すると決め、どれほど醜いことでもありのままを見続けきたエトランジュと、安穏と姉の保護のもとで綺麗な幻想だけを見てきた自分。

 最近顔つきが変わったようだと、昨日ダールトンに言われた。
 必死になって勉強に取り組み以前のような夢見がちなものではなく、まだまだなところはあっても現実を見据えた政策を考えるようになったユーフェミアに、ダールトンはそう言って自分を褒めたたえた。
 苦労は人を変えるというのは、本当のようだ・・・外見的な意味でも、内面的な意味においても。

 「では、わたくしは資料を探しに資料室へ参りますので、失礼させて頂きます。
 またなにかございましたら、お呼び下さいませ」

 「うん、頑張っておいで。ああ、それと枢木少佐」

 シュナイゼルはユーフェミアの背後で立っていたスザクに視線を向けると、少し困ったような表情で言った。

 「ランスロットの件だが・・・ロイドが君以外だと適合率が半分いくかいかない者ばかりだから、デヴァイサーをなかなか決めてくれないんだ。
 やはり、君が一番あれを扱いきれるようだね」

 「お褒め頂き光栄ですが、でもあんなことがあっては、自分がユーフェミア様のお傍を離れることは出来ません。
 とてもランスロットに乗って黒の騎士団と戦う気は・・・」

 帝国宰相の言葉に逆らうとは、と常ならば怒りそうなダールトンだが、理由が理由なだけに彼はスザクの言い分を否定出来ず、大きく溜息を吐く。

 神根島から戻ってきたユーフェミアからスザクを囮にシュナイゼルがミサイルを放つことが許せず、護衛部隊から離れてスザクを助けに行こうとした結果、爆風に飛ばされて神根島に漂流した挙句、ゼロの人質になったと聞かされて真っ青になった。

 幸い同じく漂流したスザクが人質交換で奪還に成功したから良かったようなものの、今後ともこんな出来事が起こらぬよう、彼女の傍にいて護衛をいうのは実に正しいと言わざるを得ない。

 ただスザクが乗っているランスロットが彼にしか扱いきれず、そのランスロットが黒の騎士団に黒星を与え続けているナイトメアのため、シュナイゼルがわざわざ口を出しているのである。

 「シュナイゼル殿下、もともとナイトメアは純粋なるブリタニア人のみが騎乗するべきものです。
 ユーフェミア殿下は幸いコーネリア殿下と異なり戦場に出られる方ではないのですから、彼以外のデヴァイサーを見つけるのが一番かと」

 「それが出来たらいいのだが、ロイドが適合率八割は超えないと認めないと言うものでね・・・君は彼のお気に入りだし、お願い出来ないものだろうか?」

 「恐れながらシュナイゼル殿下、あの時ユーフェミア様をお止め出来なかった護衛部隊があの体たらくでは、枢木少佐も不安になりましょう。
 彼の身体能力はまことに素晴らしく、護衛としては私としても安心出来るほどです」

 ダールトンがそう褒めたたえるのも無理はない。
 ナイトメアの操縦以外に護衛として役に立つのかと皮肉を言われた際、ダールトンが試しに肉弾戦で試合をさせてみると、彼はそのことごとくに勝利した。

 データを見てみると筋力、脚力、動体視力、その他の身体能力は絶句の一言に尽きるほど秀でており、なるほどあのナイトメアを動かせるわけだと納得しつつ驚愕したものだ。
 しかも銃弾を軽々避け、壁まで走る様を見せられてはダールトンとしては彼に主君の宝物を任せても不安はない。

 エトランジュの信用はして貰うものではなく積み上げていくものという言葉を証明するように、スザクは確かに黒の騎士団に対して実績を上げており、またシュナイゼルから黒の騎士団に対する囮にされても『ルールを破るよりいい!!』と答えて従っているため、それなりの信用はあった。

 彼がランスロットのデヴァイサーを降りた理由については誰も疑わず、シュナイゼルですら今回の件があったのでとりあえずデヴァイサーを探して代わりが見つかればそれでよしとしたかったのだが、そううまくいかなかったようだ。

 「適合率がそれくらいないと、戦場に出てもどうせやられるだけだと言って聞かないんだよ。
 陛下のナイトオブラウンズクラスでなければ、どうやら無理のようだね」

 頑なにランスロットには乗らないというスザクに、この手の人間を説得するのには骨が折れると知っているシュナイゼルは説得を断念した。

 シュナイゼルが退出を促したので、三人が頭を下げてシュナイゼルの執務室を退室すると、スザクはダールトンに礼を言った。

 「ありがとうございます、ダールトン将軍。殿下の命令を断った自分を庇って下さって・・・」

 「何、貴殿の言うことは尤もなことだし、ユーフェミア様もそれを望んでおられるからな。聞けば学園まで辞めたというではないか・・・騎士として見事だ。
 後任さえ見つかれば丸く収まるのだが・・・全く、息子どもも情けないことよ」

 スザクがデヴァイサーを降りるとなった時にその理由を聞いたダールトンは納得し、まずは自分の子飼いの部下にして義理の息子達でもあるグラストンナイツを後任にと特派に差し向けた。

 だがあまりの高性能振りと相当な身体能力がなければ動かせないため、最高でも適合率六十%前後という数値を出すだけで終わり、優秀ではあるが同時に妥協を知らない研究者のロイドに拒否されてすごすごと引き下がった。

 ランスロットのデヴァイサーであるというのはスザクの強みでもあったのだが、それを捨ててまで主の護衛に専念するという姿勢を褒める者もいたし、自ら栄誉あるナイトメアのデヴァイサーを降りるとは身の程知らずなと責める者もいる。

 また、スザクがアッシュフォード学園を退学したことが知られるとタイミングがタイミングだったため、ユーフェミアの護衛のためだと誤解したダールトンは彼を素直に認めて擁護した。
 さらにコーネリアの騎士ギルフォードもその行動を称賛し、ユーフェミアも同意した上にシュナイゼルが黙認したのであれば、それ以上は皇族批判にもなりかねない。
 
 実はこれらは、神根島でルルーシュがスザクに行った入れ知恵である。

 『ユーフェミアの護衛に専念するからランスロットを降りると言え。
 シュナイゼルがユフィは大丈夫と言っておいてこのザマになったんだから、奴も強くは言えないだろう。
 お前の圧倒的な身体能力を見せ付ければ、他の奴らも黙るさ』

 案の定微妙な立場にはなったがいいタイミングでアッシュフォード学園を退学したこともあり、スザクは円満にとはいかなかったがランスロットのデヴァイサーを降りることに成功した。
 後はユーフェミアを戦場から離れさせておけば、自分はルルーシュ率いる黒の騎士団と戦わなくてもいいのである。
 
 名誉ブリタニア人が操縦しているランスロットは黒の騎士団に対する安易に切れる切り札と考える者が多かったので、戦場から逃げる言いわけだと言いがかりをつける者はいたが、自分が予想するより味方が多かったのでスザクは内心驚いていたりする。

 と、そこへ慌てた様子でグラストンナイツの一人がやって来た。

 「ユーフェミア殿下、ダールトン将軍!」

 「どうした、騒々しい。黒の騎士団に動きでもあったのか」

 「いいえ、中華です。中華連邦がなぜか日本の国旗を掲げてエリア11に侵攻してきたとの報告が!」

 「何だと?!ユーフェミア殿下」

 ダールトンが呻くと、ユーフェミアとスザクが司令室へ足を向けるのを見てダールトンも後を追う。

 司令室へ飛び込むと、中華連邦軍がフクオカ基地を強襲し、それを占拠したとの報が届いたところだった。

 そしてモニターに映ったスーツを着た中年の男が目を光らせて、厳かに宣言する。

 「我々はここに正統なる独立私権国家、『日本』の再興を宣言する!!」

 「この人は・・・父の政権で官房長官だった澤崎さんです。まさかこんなことをするなんて・・・!」

 スザクの言葉にダールトンが日本政府の亡霊が、と吐き捨てる。

 「コーネリア殿下がおられない時に、なんと・・・やむを得ん、私が指揮を執る!
 枢木少佐、貴殿は全力でユーフェミア殿下をお守り参らせよ!」

 「イエス、マイロード」

 スザクが了承するとダールトンは続けてグラストンナイツに指示する。

 「速やかにキュウシュウブロックに向けて出発する!
 この隙を狙って、黒の騎士団や他のテロリストどもが小うるさく蠢動するやもしれん。
 気を抜かず租界の守りも徹底して行え!」

 慌ただしく交戦の準備に入った司令部の中、不安になったユーフェミアだがそれを振り払うようにして言った。

 「ダールトン、軍のことはお任せします。
 わたくしは租界の護りや国民への説明について、シュナイゼル殿下と協議の上行わなくてはなりませんから」

 「おお、そうですなユーフェミア殿下。あの中華に操られた亡霊など、すぐさま成仏させてご覧にいれますゆえ、どうかご安心を。
 私は留守に致しますが、グラストンナイツのうちから作った護衛部隊を置いておきます」

 彼らにはユーフェミアの突飛な行動を抑えるように言い含めてあるし、スザクにも協力的な者を選んで構成してあるから彼とも連携を取っていけるだろう。
 再びシュナイゼルの執務室へと戻るユーフェミアの後ろ姿を見て、副総督として徐々にしっかりしてきた彼女にダールトンは不敬とは知りつつも成長した娘を見る気分であった。

 彼女の頑張りを無にしないためにも、迅速に奴らを殲滅しなくては。
 そう決意を固めたダールトンは、改めて軍に指令を飛ばすのだった。



 「予想通りだな。澤崎のグループはキュウシュウブロック内のテロ組織と協力し、ホンシュウ、シコクブロックとの陸上交通網を寸断した」

 キュウシュウブロックにある黒の騎士団後方支援基地内部で、ルルーシュは澤崎の行動についてつまらなそうに弄んでいたチェスの駒を倒した。

 中華連邦両党軍管区の支援を受け、フクオカ、ナガサキ、オオイタを中心に勢力を広げるつもりだろう。
 そしてエトランジュがエリザベスを通じて手に入れた情報によれば、それから中華から増援が寄越される予定のはずだ。つまり、叩くとしたら今が好機なのだ。

 「“中華連邦のツァオ将軍によると、これはあくまで人道支援であり”・・・ね。サクラダイト目当てのくせに、よく言ったものだ」

 「キョウトには一方的なサクラダイトに関する権利について、通告があったそうです。
 もちろん即座に断り、ブリタニアにも報告して彼らとの間に関係はないことを強調しておいたと桐原公から連絡が」

 エトランジュの報告に、ルルーシュは満足げに頷く。

 「既に条件はクリアされた。あとは奴らを潰すだけ・・・カレン、準備はいいか?」

 「もちろん、いつでも出撃出来るわ」

 カレンはゼロとの共同作戦に張り切っていたが、内心実は少し複雑であった。
 ガウェインは副座式であり、直接機体を動かすパイロットとシステムを動かす者とが同時に乗り込まなくては本来の機能を引き出せない。

 ルルーシュは素顔を知っているC.Cにしか任せられないとすぐに彼女をパイロットに任命したのだが、同じく素顔を知っていても自分には紅蓮があるので立候補を断念せざるを得なかったのだ。

 「この基地の存在がバレるわけにはいかないから、ある程度場所を移動してからフクオカ基地を強襲する。
 今ならキュウシュウ地方を手中に収めるために戦力を分散しているだろうから、楽なはずだ・・・行くぞ」

 「はい、ゼロ!」

 ルルーシュは作戦を説明しながら仮面を被ると、カレンとC.Cとエトランジュを伴い部屋を出ると、四聖剣の仙波と卜部が外で待っていた。

 「思っていたより遅かったな。ま、エトランジュの様の情報ですぐ俺らが動けたせいだけど」

 「中華の動きの方はあらかた予測済みだが、ブリタニアの動きのほうが気になる。
 そちらは藤堂達に任せてあるが、お前達はエトランジュ様をサポートして貰いたい」

 「承知した。任せてくれゼロ」

 エトランジュには捕らえた中華連邦軍の幹部の前で天子と会談し、ゼロに自分を通じて中華に返すという形式(しばい)をして貰う役目がある。
 あくまでも黒の騎士団は日本の権利を守るために動いただけで中華連邦と敵対する意思はないと告げ、天子もそれを了解した上で自国の軍幹部の引き渡しを依頼、エトランジュはその仲立ちをした形にするわけだ。

 それには幹部達の前で直接エトランジュが説明を行う必要があるため、卜部と仙波の仕事は万が一に備えての護衛である。

 「お願いします、卜部少尉、仙波中尉」

 キュウシュウブロックに作った基地に中華連邦の幹部を招き入れればこの基地の存在がバレる危険があるため、黒の騎士団建設当初に本部にしていたトレーラーと同じものを新たに手に入れてある。

 「エトランジュ様の大事なお役目を全うして頂くためにも、我々も協力は惜しみませぬ。
 では、予定ポイントまで移動をお願いいたします」

 仙波に促されて、エトランジュは頷いてトレーラーに乗り込むべくルルーシュと別れ、ルルーシュもまたカレンとともにナイトメア格納庫へと向かうのだった。



 キュウシュウブロック周辺では、ブリタニア軍と中華連邦軍が小競り合いを続けていたが、互いに一進一退を繰り返していた。

 澤崎は自分にキュウシュウ周辺のレジスタンスが協力してくれるものと考えていたのだが、既にキュウシュウ基地建設の際に黒の騎士団に組み入れられたため、思っていたより少なかったせいだ。

 「おのれ、日本を取り戻せる好機だと言うのに!機を読めぬ馬鹿どもが!!」

 「ご心配には及びませんぞ澤崎殿。
 フクオカ基地は我らの手に落ちたのです、じきにキュウシュウ全域を」

 ツァオ将軍がそうたしなめた時、数十機のブリタニアのナイトメアを撃破したとの報が届いて澤崎は破顔した。

 「おお、さすがは中華連邦ですな。貴軍ならばこのまま日本を解放して下さる日も遠くはありませんよ」

 「もちろんですとも澤崎殿。日中で力を合わせてブリタニアを倒し、末長いお付き合いをお願いしたいものです」

 ツァオ将軍の空々しい台詞に、澤崎はうんうんと幾度も頷く。自分が利用されているという考えは、どうやらまったくないようである。
 だがその笑顔は、長く続かなかった。

 「・・・!ツァオ将軍、二機のナイトメアを確認!凄まじいスピードで我が基地へと進撃してきます!
 我が方のナイトメア数体が撃破されました」

 「何?!ブリタニアか」

 「いいえ、違います・・・あれは、黒の騎士団のマーク?!」

 モニターに映し出されたナイトメアには、黒の騎士団のエンブレムが誇らしげに掲げられており、彼らが何者であるかを雄弁に語っている。

 「何だと?!黒の騎士団が、何故日本解放の邪魔をするのだ?!」
 
 澤崎が呻くが、誰もその答えを返さない。
 ツァオ将軍も理由は解らなかったが、敵対行為を取っている以上こちらも応戦しなくてはならない。

 「そのナイトメアを撃破せよ!これは明らかに我が方への敵対行為である!」

 「はっ!」

 たちまち応戦すべく動きだした軍に、澤崎はモニターを睨みつけた。

 「止まれ!中華連邦は日本解放のために進軍したいわば友軍である!
 日本解放を目指す黒の騎士団が、何ゆえ邪魔をするか?!
 ゼロ!!お前達は日本を憂うる同志ではないのか?!」

 「我ら黒の騎士団は、不当な暴力を振るう者全ての敵だ」

 「不当だと!?私は日本のために」

 基地から聞こえてきた澤崎の台詞に、ルルーシュは傲岸不遜名声で応じた。

 空に舞い上がる黒いガウェインと、真紅の紅蓮がそれを守るようにコンクリートの無機質な地面に立っている。

 「友軍?サクラダイトの利権目当ての通告をしておいて、何を言うやら。
 この戦い、日本の飼い主の名前を変えるだけの行為にしかならない!
 自らの手で勝ち取ってこその名前であり、権利であり、自由であることが、どうして解らない!」

 一方的に中華連邦の見返りを受けるわけにはいかないからサクラダイトを提供するという安易な考えでは、今後も日本はそれ目当てに搾取され続ける奴隷国家だ。

 ルルーシュでさえEUと盟約を結んだ際、切り札のサクラダイトの密輸はあくまでほんの一部だけとして主な提供物は情報、策略といったものであり、またEUからも同じく情報と最小限の物資を提供するという小さくとも対等な取引を行っている。
 日本解放が成れば、お互いにもっと本格的な同盟条約が結ばれるだろうことは、すでに暗黙の了解である。

 「行くぞ、カレン!
 あの傀儡になっていることすら解らぬ愚か者と、私欲のために日本を汚す者達を日本から叩き出せ!」

 「はい、ゼロ!」

 紅蓮は嬉々としてガウェインの先頭に立ち、敵のナイトメアを次々に撃破していく。
 空から襲撃して来た飛空艦艇を見て、ルルーシュが面倒そうにキーボードを叩く。

 「邪魔なんだよ、君達は」

 ガウェインの肩から砲撃が現れたかと思うと、中華連邦の飛空艦艇は抵抗する間もなく撃墜されていく。

 「空のハエは私に任せろ!カレン、君は地上部隊を主になぎ払え!」

 「了解!」

 二人は見事な連係プレイで中華軍を倒し、基地の中を進撃していく。
 だが今後の中華との対応を考えて出来る限り死者を出さないよう、足やエナジーフィラーを狙って攻撃している。

 瞬く間に基地の三分の二が制圧されると、ツァオ将軍と澤崎は撤退を決意せざるを得なかった。

 「外国に助力を乞い、機会を待って何が悪い…!それこそが戦略というものなのに・・・!」

 確かにそれも一つの戦略であるし、一概に悪いとは言えない。
 だが中華連邦もサクラダイトが目当てであり、ブリタニアと戦うための拠点として日本を手にいれたがっていることが問題だと、この男はまったく解っていなかった。

 「カゴシマならまだ防衛線が引けますよ」

 「は、世話になります」

 車に乗って撤退しようと基地を移動し軍事ヘリの元に辿り着いた刹那、軍事ヘリを壊した紅蓮が、二人の乗る車の前に立ちふさがった。

 「ここまでだな」

 「まさか・・・キュウシュウ最大の要害を、いとも簡単に・・・?!」

 二人が絶句すると、ルルーシュは通信をキーボードを操作してエトランジュと通信を開き、さらにそれを外へと繋ぐ。

 「ツァオ将軍、聞こえますでしょうか?
 以前一度お会いしたかと思いますが、マグヌスファミリア女王、エトランジュ・アイリス・ポンティキュラスです」

 しっかりした発音の中華語に、ツァオ将軍は驚いた。

 「・・・!去年来たあの!」

 先帝の見舞いに訪れた彼女の父親の仲介で天子と文通友達であるという縁から、天子の誕生日のお祝いにとEUの使者として訪れたのは確かに彼女だ。

 「現在我がマグヌスファミリアは、ブリタニア植民地のレジスタンス同盟を組むべく世界各地を回っているのですが、ちょうど日本におりまして黒の騎士団に滞在しているのです。
 今回ゼロをお止めすることは出来ませんでしたが、中華の方々の身の保証は何とかお願い出来ました。
 ですからお願いいたします、どうかこの場は矛を収めて頂けませんでしょうか?」

 ツァオ将軍は予想外の展開に驚愕したが、弱小国であり亡命政府であったとしてもれっきとしたEU加盟国の元首の元で明言されたのなら、もはや選択の余地はない。
 既に己の首に、チェックは掛けられたのだ。思いもがけずブリタニアへ送られずに済んだのだから、幸運と言うべきだろう。
 
 「やむを得ませんな・・・全軍に通達!速やかに母国中華へと撤退せよ!」

 「そ、そんな・・・!ここまで来て!」

 澤崎が絶望の呻き声を上げてへたり込むと、ゼロが告げる。

 「貴方がたの身柄は、一度我々が預らせて頂く。だがすぐに中華へお返しすることをお約束しよう」

 「好きにするがいい」

 ツァオ将軍の指示で武装が解除され、数人の高級将校のみを残して全軍が中華へと撤退していくのを見ながら、紅蓮とガウェインは彼らを連れてフクオカ基地を後にした。



 それから一時間後、黒の騎士団トレーラー型基地にて、今回の騒動(えんげき)の結末を飾る役者が勢揃いしていた。

 まずはゼロがモニターの前に立ち、その横にエトランジュが座り、さらに卜部、仙波が護衛として背後に立つ。

 モニターに緊張した面持ちの幼い天子が映し出されると、その前にはツァオ将軍を始めとする中華連邦軍の幹部が何とも言えない顔で途方に暮れている。

 「えっと、今回我が中華連邦は、日本の解放・・・という人道・・・支援のために軍を派遣させて頂いたのですが」

 明らかにカンペを読んでいると解る口調でそう切り出した天子に、ゼロが穏やかに応じる。

 「しかし天子様、NACに対しサクラダイトの一方的な供給を要求されたとあっては、日本としては承服致しかねます。
 サクラダイトは日本にとって重要な資源、それを中華が独占するとなるとブリタニアもそれを奪われまいと更なる軍を派遣してくることは明白、そうなれば日本はどうなります。
 何より日本独立後に日本が立ち直るためにも、あれは重要な資源なので他国にそう簡単に供給する訳には参りません」

 「エトランジュ様のお話では、黒の騎士団はあくまで黒日本の権利を守り、また日本を無駄な・・・戦火に巻き込みたくないとの意向で、動かれたとのことですが」

 「はい、相違ございません天子様。
 決して中華連邦と敵対する意志はなく、今回の件は私としても遺憾に思っておりますので、出来る限り被害は抑えたつもりです。
 たまたまこちらに滞在中のエトランジュ様が、中華連邦は母方の祖父の故郷でありまた天子様とも一方ならぬご親交があるので出来る限り無傷で鎮圧して頂けないかとお願いされたことですし」

 椅子に座ってにっこりと笑うエトランジュに、天子もほっとしたように笑みを浮かべた。

 「そちらの事情は、解りました。こちらも日本の・・・事情をよく把握していなかったようですので、今後とも気をつけていきたいと、思います」

 「では、今回の件はお互い様ということに致しましょう。
 すぐにもツァオ将軍や他の将校の方々を中華へお返しいたしますので、その件について話し合いたいのですが」

 「はい、蓬莱島に出迎えの準備をしておきますので、どうかよろしくお願いいたします。
 今回はいろいろとご迷惑をおかけいたしました」

 「いいえ、こちらこそ事情があるとはいえ、中華連邦軍と交戦してしまったことは申し訳なく思っております。
 今後はぜひ、そうなることのないようにお願いしたいものです」

 最初から決まっていたやり取りを何とか言い終えた天子はほっと溜息をついてエトランジュを見つめると、エトランジュは椅子から立ち上がって中華語で言った。

 「今回、いろいろと事情が絡み合って残念な結果を招いてしまいましたが、大きなものに発展しなくて済んたことは幸いでしょう。
 今はあちこちで戦火が広がっているのです、無駄な争いは避けていければと存じます」
 
 「私もそう思いますエトランジュ様。戦争は怖い・・・痛いのも辛いのも嫌です・・・悲しいです」

 これは天子の本心だろう、俯き震える小さな声に、エトランジュは慰めるように言った。

 「私も同感です。だからこそ私達はこうして話し合っているのですよ天子様。
 私達は人間です。ここには日本語、中華語、ラテン語、英語と様々な言語に分かれた人間がおりますが、こうして意思を伝え合い考えを述べ合い、そして未来を語ることが出来る唯一の生き物です。
 どうか忘れないで下さい、痛くて怖い思いをしなくても、解決の糸口をつかめる手段があるということを」

 「エトランジュ様・・・!はい!」

 天子の明るい笑顔に黙ったまま話を聞いていた澤崎が、吐き捨てるように言った。

 「これだから子供は・・・!綺麗事で世界は動かん!
 今は動乱の世の中なのだ、非常の手段と言うものがある!ましてや話し合いなど不可能だ!」

 「存じております。私も既に人を殺した身です。人を殺した時点で既に悪でしょう」

 正当防衛とはいえ、エトランジュはその手を血に染めた。あれほど非常の手段と言う言葉にふさわしい行為はあるまい。

 「それでも、安易に人を殺す行為には走りたくありません。それは憎しみの連鎖を生むだけです。
 だからこそ私はたとえ口汚く罵るだけであっても、話をしたいのです。それだけなら心は傷つくかもしれませんが、身体は傷つきませんしましてや死ぬこともありません。
 死なないのならまだ取り返しは付きます、何度でもやり直しが可能でしょう。
 私の言うことが確かに綺麗事なのは認めましょう。ですが、綺麗事よりも戦争が正しい手段なのでしょうか?
 澤崎官房長官、貴方は日本の何を守りたいのですか?日本国と言う名前さえあれば、日本が戦火に燃やされ国民が苦しみあえいでも構いませんか?」

 「それは・・・・だが、それも独立のための!私が中華の傀儡政権というなら、お前自身はどうなのだ?!
 EUの、ゼロの傀儡にしか見えんぞ小娘が!!」

 澤崎が激昂して叫ぶと、エトランジュはあっさり認めた。

 「澤崎官房長官、認めましょう、私は確かに操り人形です。
 父が行方不明になり、本来なら王になる筈ではなかったのに伯父達の思惑で王になり、EUの思惑で反ブリタニア同盟を組むための使者になりました」

 「・・・・」

 「ですが、私は私の操り手を選びました。伯父達を信じたからこそ王になり、反ブリタニア同盟は私の国を戻すために必要だと考えたからこそ使者になりました。
 そしてゼロも、ブリタニアを倒すために必要な力を持っていると思ったから、私は彼の言葉に従ったのです」

 エトランジュは傀儡でも、それには確かに意思がある。
 自らの操り手を選び、ふさわしくないと思えば否と撥ねつけ操るための糸を切る程度のことはするつもりだ。

 「お互いに心行くまで話し合った末に納得したことです。
 話し合いとは相手の話を聞くことから始まると、お母様が教えて下さいました。
 だから澤崎官房長官も、どうか話して下さいな。貴方の望む日本の在り方を。
 そしてみんなで考えていけばいいではありませんか。“三人で集まれば宝石の知恵”なのでしょう?」

 「・・・“三人寄れば文殊の知恵”ですよ、エトランジュ女王陛下」

 はは、と乾いた声でそう修正した澤崎は、疲れたように床に座り込んだ。

 子供は単純でいい、綺麗事で満足できる、素晴らしい時代だ。
 自分もあの年代の頃は、政治家になって日本を導く夢を叶えるために猛勉強をしていた日々を思い出す。
 
 だが、もうその時代はすでに過ぎ去り、今や自分は敗残者として仮面をかぶった怪しい男に生殺与奪を握られる身となった。

 「澤崎よ、お前の身柄は我が黒の騎士団が預かる。当分の間、自らを省みることだな」
 
 「あっ・・・ではゼロ、今回はいろいろとお世話になりました。それでは失礼いたします」

 天子が再度礼を言って通信を切り、会談は終わった。

 その後、ツァオ将軍達はカゴシマにいた中華連邦軍に送り届けられて中華へと撤退していった。
 それで今回の件は、対外的には綺麗に決着がついたことになる。

 黒の騎士団はこれで天子との間にパイプが出来、天子をはじめとする科挙組は大宦官達に貸しを作れた上に発言力を削ることが出来る。
 特にこれで、海外派兵に関してはこの件を持ち出して止めることが容易になるだろう。

 理想的な結末に、ルルーシュは満足した。



 「ゼロが中華連邦軍を撃退?・・・なるほどね」

 ゼロの狙いを看破したシュナイゼルは、感心したような声を上げて納得する。

 必要なことは勝利ではなく、中華連邦の侵攻に黒の騎士団が反対したという事実だ。これは彼らの立場を全世界に伝える役に立つ。
 これまでブリタニアは情報操作で彼らの行動をテロによるものだと位置づけていたが、この行為により彼らの目的や存在意義は世界に知れ渡るだろう。
 何しろ騎士団にはエトランジュがいるのだ、いくらブリタニアが表だって情報を流さなくとも、彼女から確実に世界に広まる。

 (本当に地味に厄介な女王様だね・・・さて、どうしたものか)

 その報告をしたロイドは、自分が開発したハドロン砲を収束させられた、僕が完成させるはずだったのにいいい!!と別方面で地団太踏んで悔しがっている。

 と、そこへ黒の騎士団に捕えられた中華連邦軍幹部が解放されてカゴシマから中華へ撤退したようだとの報を受け、あまりにも早い対応に柳眉をひそめた。

 ブリタニアから逃がすためにというなら、捕らえることなくさっさと日本から追い出せば済む話である。
 わざわざ捕えておきながら、数時間も経たないうちに何故解放したのだろう。

 (まさか・・・すぐに中華連邦に探りを入れてみるとしよう)

 疑問の裏付けを行うべく、シュナイゼルは自分の副官に連絡を入れ、中華連邦の動きを調べるよう命を下すのだった。



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