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No.18683の一覧
[0] コードギアス 反逆のルルーシュ~架橋のエトランジュ~[歌姫](2010/05/15 08:35)
[1] プロローグ&第一話  黒へと繋がる青い橋[歌姫](2010/07/24 08:56)
[2] 第二話  ファーストコンタクト[歌姫](2010/05/15 08:34)
[3] 第三話  ギアス国家[歌姫](2012/08/04 10:24)
[4] 挿話 エトランジュのギアス[歌姫](2010/05/23 13:41)
[5] 第四話 キョウト会談[歌姫](2010/08/07 11:59)
[6] 第五話  シャーリーと恋心の行方[歌姫](2010/06/05 16:48)
[7] 挿話  父親と娘と恋心[歌姫](2010/06/11 21:19)
[8] 第六話  同情のマオ[歌姫](2010/06/19 11:50)
[9] 第七話  魔女狩り[歌姫](2010/06/26 11:21)
[10] 第八話  それぞれのジレンマ[歌姫](2010/07/03 22:23)
[11] 第九話  上に立つ者の覚悟[歌姫](2010/07/10 11:33)
[12] 第十話  鳥籠姫からの電話[歌姫](2010/07/24 08:57)
[13] 第十一話  鏡の中のユフィ[歌姫](2010/07/24 10:10)
[15] 第十二話  海を漂う井戸[歌姫](2010/07/31 12:01)
[16] 第十三話  絡まり合うルール[歌姫](2010/08/07 11:53)
[17] 第十四話  枢木 スザクに願う[歌姫](2010/08/21 11:24)
[18] 第十五話  別れの陽が昇る時[歌姫](2010/08/21 12:57)
[19] 第十六話  アッシュフォードの少女達[歌姫](2011/02/12 10:47)
[20] 第十七話  交錯する思惑[歌姫](2010/09/11 12:52)
[21] 第十八話  盲目の愛情[歌姫](2010/09/11 12:09)
[22] 第十九話  皇子と皇女の計画[歌姫](2010/09/25 13:41)
[23] 第二十話  合縁奇縁の特区、生々流転の旅立ち[歌姫](2010/09/30 07:39)
[24] 挿話  親の心、子知らず ~反抗のカレン~[歌姫](2010/09/30 07:32)
[25] 挿話  鏡の中の幻影 ~両性のアルカディア~[歌姫](2010/10/09 10:35)
[26] 挿話  カルチャーショックプリンセス ~交流のユフィ~[歌姫](2010/10/09 11:36)
[27] 挿話  それぞれの特区[歌姫](2010/10/16 12:06)
[28] 挿話  ティアラの気持ち  ~自立のナナリー~[歌姫](2010/10/23 10:49)
[29] コードギアス R2 第一話  朱禁城の再会[歌姫](2010/10/30 15:44)
[30] 第二話  青の女王と白の皇子[歌姫](2010/11/13 11:51)
[31] 第三話  闇夜の密談[歌姫](2010/11/13 11:35)
[32] 第四話  花嫁救出劇[歌姫](2012/12/02 21:08)
[33] 第五話  外に望む世界[歌姫](2010/11/27 10:55)
[34] 第六話  束ねられた想いの力[歌姫](2010/12/11 11:48)
[35] 挿話  戦場の子供達 [歌姫](2010/12/11 11:42)
[36] 第七話  プレバレーション オブ パーティー[歌姫](2010/12/18 11:41)
[37] 第八話  束の間の邂逅[歌姫](2010/12/25 10:20)
[38] 第九話  呉越同舟狂想曲[歌姫](2011/01/08 12:02)
[39] 第十話  苦悩のコーネリア[歌姫](2011/01/08 12:00)
[40] 第十一話  零れ落ちる秘密[歌姫](2011/01/22 10:58)
[41] 第十二話  迷い子達に差し伸べられた手[歌姫](2011/01/23 14:21)
[42] 第十三話  ゼロ・レスキュー[歌姫](2011/02/05 11:54)
[43] 第十四話  届いた言の葉[歌姫](2011/02/12 10:52)
[44] 第十五話  閉じられたリンク[歌姫](2011/02/12 10:37)
[45] 第十六話  連鎖する絆[歌姫](2011/02/26 11:10)
[46] 挿話  叱責のルルーシュ[歌姫](2011/03/05 13:08)
[47] 第十七話  ブリタニアの姉妹[歌姫](2011/03/13 19:30)
[48] 挿話  伝わる想い、伝わらなかった想い[歌姫](2011/03/19 11:12)
[49] 挿話  ガールズ ラバー[歌姫](2011/03/19 11:09)
[50] 第十八話  闇の裏に灯る光[歌姫](2011/04/02 10:43)
[51] 第十九話  支配の終わりの始まり[歌姫](2011/04/02 10:35)
[52] 第二十話  事実と真実の境界にて[歌姫](2011/04/09 09:56)
[53] 第二十一話  決断のユフィ[歌姫](2011/04/16 11:36)
[54] 第二十二話  騎士の意地[歌姫](2011/04/23 11:38)
[55] 第二十三話  廻ってきた順番[歌姫](2011/04/23 11:34)
[56] 第二十四話  悲しみを超えて[歌姫](2011/05/07 09:50)
[57] 挿話  優しい世界を踏みしめ  ~開眼のナナリー~[歌姫](2011/05/07 09:52)
[58] 挿話  弟妹喧嘩のススメ  ~嫉妬のロロ~[歌姫](2011/05/14 09:34)
[59] 第二十五話  動き出した世界[歌姫](2011/05/28 09:18)
[60] 第二十六話  海上の交差点[歌姫](2011/06/04 11:05)
[61] 第二十七話  嵐への備え[歌姫](2011/06/11 10:32)
[62] 第二十八話  策謀の先回り[歌姫](2011/06/11 10:22)
[63] 第二十九話  ゼロ包囲網[歌姫](2011/06/25 11:50)
[64] 第三十話  第二次日本攻防戦[歌姫](2011/07/16 08:24)
[65] 第三十一話  閃光のマリアンヌ[歌姫](2011/07/09 09:30)
[66] 第三十二話  ロード・オブ・オレンジ[歌姫](2011/07/16 08:31)
[67] 第三十三話  無自覚な裏切り[歌姫](2011/07/23 09:01)
[68] 第三十四話  コード狩り[歌姫](2011/07/30 10:22)
[69] 第三十五話  悪意の事実と真実[歌姫](2011/08/06 13:51)
[70] 挿話  極秘査問会 ~糾弾の扇~[歌姫](2011/08/13 11:24)
[71] 第三十六話  父の帰還[歌姫](2011/08/20 10:20)
[72] 第三十七話  降ろされた重荷[歌姫](2011/09/03 11:28)
[73] 第三十八話  逆境のブリタニア[歌姫](2011/09/03 11:24)
[74] 挿話  私は貴方の物語 ~幸福のエトランジュ~[歌姫](2011/09/03 11:55)
[75] 第三十九話  変わりゆくもの[歌姫](2011/09/17 22:43)
[76] 第四十話  決意とともに行く戦場[歌姫](2012/01/07 09:24)
[77] 第四十一話  エーギル海域戦[歌姫](2013/01/20 14:53)
[78] 第四十二話  フレイヤの息吹[歌姫](2013/01/20 14:56)
[79] 第四十三話  アルフォンスの仮面[歌姫](2013/01/20 15:01)
[80] 第四十四話  光差す未来への道[歌姫](2013/01/20 15:09)
[81] 第四十五話  灰色の求婚[歌姫](2013/01/20 15:12)
[82] 第四十六話  先行く者[歌姫](2013/01/20 15:15)
[83] 第四十七話  合わせ鏡の成れの果て[歌姫](2013/01/20 14:59)
[84] 第四十八話  王の歴史[歌姫](2013/01/20 14:58)
[85] 挿話   交わる絆   ~交流のアッシュフォード~[歌姫](2012/12/30 18:51)
[86] 挿話  夜のお茶会 ~憂鬱の姫君達~[歌姫](2012/12/30 14:03)
[87] 第四十九話  その手の中の希望[歌姫](2013/02/23 12:35)
[88] 第五十話  アイギスの盾[歌姫](2013/03/22 22:11)
[89] 第五十一話  皇帝 シャルル[歌姫](2013/04/20 12:39)
[90] 第五十二話  すべてに正義を[歌姫](2013/04/20 11:22)
[91] 最終話  帰る場所&エピローグ[歌姫](2013/05/04 11:58)
[92] コードギアス 反逆のルルーシュ ~架橋のエトランジュ~ オリキャラ紹介[歌姫](2011/04/06 10:27)
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[18683] 第十九話  皇子と皇女の計画
Name: 歌姫◆59f621b7 ID:42c35733 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/09/25 13:41
  十九話   皇子と皇女の計画



 夏祭りが終わった二ヶ月後、ルルーシュ達は黒の騎士団後方基地の建設が完成し、また厄介なシュナイゼルが日本を去ったこともあって緊張がある程度解けて比較的穏やかな雰囲気であった。

 だが次兄の恐ろしさを知っているルルーシュは、エトランジュから受けた報告に眉をひそめた。
 その左目には、何故か医療用の眼帯が痛々しく当てられている。

 「中華連邦でシュナイゼルが、第一皇子のオデュッセウスと天子様との婚姻を早めようとしているようです。
 科挙組や太師や太保がまだ天子様が婚姻可能年齢になっていないと反対しているのですが、先のキュウシュウでの戦いが失敗したからブリタニアと縁を結んでおくべきと大宦官が言いだしたそうです」

 「元はと言えば自分達の失敗だろうに、尻拭いを天子様にさせようというのですか・・・情けないことだ」

 ルルーシュの心底から呆れた声に、エトランジュ達も頷いて同意した。

 「気休めかもしれませんが、こちらもこんな手段はどうかと提案しておいたのです。
 エリザベス伯母様の息子のアルフォンス・・・つまりは私の従兄なのですが、彼と天子様とを婚約させて、ブリタニアとの政略結婚を阻止しようというものなのですが」

 いくら身分が高いといえど既に三十になろうという第一皇子との婚姻より、小国な上に末流とはいえそれでも王族であり十九歳の男性との方が、天子の抵抗は少ないだろう。
 それにこれはあくまで婚約なので、ことが終われば適当な理由をつけて破棄しても問題はない。

 アルフォンスも別に自分が適当な汚名をかぶっても構わないと、了承済みである。

 「天子様はまだ成人しておりませんので、婚約とだけしておきます。
 そして天子様が二十歳前後になってから改めて考えるという形にしておけば、とりあえずブリタニアとの婚姻は阻止出来やすくなるかと思って」

 「なるほど、そういう策もありますか」

 マグヌスファミリアとの婚約にしろ、ブリタニアとの結婚にしろ、誰がどう見ても政略絡みの婚姻政策である。それならばより世間の印象をよくした形で行うのが得策であろう。

 天子が二十歳になる頃には、戦争が終わっている可能性が高い。
 ブリタニアとの戦争が終わった時点でブリタニア皇子と結婚を断るための口実なので婚約破棄と発表すれば、暗黙の了解というやつでそれで終わる。

 もちろんそのまま二人の間に愛情が出来て結婚しても、それはそれで一向に構わない。

 一度も中華連邦へ訪れていないオデュッセウスよりも、昨年エトランジュにについて訪中して面識のあるアルフォンスの方が、天子もマシだと感じるだろう。
 EUとしても中華の国力をブリタニアが得るのは防ぎたいため、天子と友人関係にあるエトランジュが従兄をさりげなく推した件については黙認する構えらしい。

 「と言いますのも、中華連邦皇帝の夫の座と言うのは魅力的らしくて・・・王族の男性を天子様にという考えを持っているEU加盟国がいるんです。
 ただ天子様がまだ幼く、このご時世いつ誰が殺されて王位を引き継がねばならないとも限らないので王族男性をおいそれと海外にやるわけにはいかないと、結構複雑みたいなんですよね」

 中世ならいざ知らず、いくら政略だからといってこの現代で皇帝といえどまだ十二歳の少女の夫にと王族の誰かを推薦するのは、ある意味非常に勇気がいる。
 ブリタニアや中華と違って、他の国は国民感情を気にしなくてはならないからだ。

 己がロリコン呼ばわりされるのを覚悟で他国に婿に行く度胸のある男が、どれほどいることか。
 かといって天子と似合いの年頃の少年となると、大宦官にいいように利用されるか殺されるかのどちらかである。

 また、世界で長引く戦争のため大人が次々に死ぬ事態に陥っている。幼い天子が皇帝にならざるを得なかったのが、いい例だ。
 ゆえにおいそれと王族の男性を他国に送り込むわけにはいかない。

 対してマグヌスファミリアの場合、人口が少ない割に王族が多いので王位を引き継ぐ誰かがいなくて困るという事態にはまずならない。
 さらに今回は天子とエトランジュが友人なので、彼女を通じて知り合い仲良くなったという建前のストーリーが作れるのだ。

 それにアルフォンスと天子の年齢差は十九歳と十二歳、ロリコン呼ばわりされても今は仕方ないが、天子が二十歳になればそう気になる年齢差ではない。
 少なくともオデュッセウスに比べればはるかにマシな世間体は整っている。
 
 「世間体を整えるのも大事なことですからね。
 なるほど、アルフォンス様を天子様に引き合わせておけば、事実はどうあれとりあえず見合い結婚という形式が作れます」

 「婚約ですからいつ破棄されるかは解りませんが、これが成れば中華とEUの間で同盟が結ばれることも不可能ではないかと」

 「ええ、そしてEUと我ら黒の騎士団との間で同盟が成れば、強力な反ブリタニア同盟が出来上がります。
 早く日本解放を行って、そちらの政策を取るよう仕向けたいものですが」

 科挙組としては天子の意志を無視する婚姻は避けたいらしく、エトランジュ達も気持ちは解るのでいざとなったらアルフォンスを、と提案するに留めている。
 いつでも破棄が可能な婚約の方がリスクこそ少ないが、それはそのまま同盟ごとEUに破棄される恐れがあるというのと同じなため、それはそれで安心出来ないのだ。

 「かといって婚姻では、ブリタニアを咎めることは出来ません。
 科挙組と連携して婚約というほうが、国民受けもいいですからね」

 あちらを立てればこちらが立たず。まったく難しい問題である。

 「エトランジュ様、当の天子様はどのように?」

 「まだお悩みのようです。太師と太保のほうも考え中とのことですが、シュナイゼルが中華連邦にいる今時間はあまりないと考えた方が・・・」

 ルルーシュはさもあらんと納得したが、同時に厄介も極まる次兄の策動にどうしたものかと思案にふける。

 もう七年も会っていないが、長兄のオデュッセウスは凡庸ではあるが穏やかな男で、正直純粋に夫としてなら彼はなかなか無難な相手と言えるだろう。

 天子を軽んじていないからこそ第一皇子を娶せたのだとアピールするための人選だろうが、エトランジュから聞いた天子の性格にもオデュッセウスは的確な相手だ。
 家族がいない天子が彼にほだされる可能性が、無きにしも非ずである。

 「・・・中華とブリタニアの婚姻政策は、何としてでも阻止する。
 近々俺は日本を離れることになると思うので、俺が直接中華に乗り込み指示を送りましょう」

 「え?!ルルーシュ様自らですか?!」

 エトランジュが驚愕して問い返すと、ルルーシュはそんなに驚かなくてもと視線で呟いた。

 「だって、日本にはナナリー様が」

 「もちろん週に一度は日本に戻って来ますよ。毎週ほんの五日、中華へ出張するだけです」

 本当はそれでも嫌なのだが、そうも言っていられない。
 神根島から戻った後、C.Cから既に中華のギアス遺跡がブリタニアの手に落ちており、そこでギアス嚮団なる組織がシャルルの元で働いていると聞いては何としても中華を手中に収めなくてはならないからだ。

 また、対ブリタニア組織連盟の“超合集国”を構築するためにもEUとブリタニアに並んで国力の強い中華の協力が、ぜひとも欲しいのだ。

 「幸い、ナナリーも少しずつだがしっかりしてきたことだし・・・ギアス能力者が大勢いるなら、俺の絶対遵守のギアスで連中を支配下に置くのが一番です」

 エトランジュ達のギアスでは、ギアス能力者に対抗する事は難しい。
 何しろ戦闘向きなのはアルカディアのギアスだが、それでもただ姿が感知されなくなるだけなので嚮団殲滅には向いていない。

 さらに中華で大っぴらに許可のない軍事行動を行う訳にもいかない以上、一番なのはアルカディアのギアスで嚮団の内部に侵入し、片っ端からルルーシュのギアスをかけて支配下に置くのがベストなのだ。

 「了解いたしました。では中華でエリザベス伯母様が作った隠れ家の地図を後でお渡しいたします」

 エトランジュが中華での活動に備えた拠点をいくつか作っていると話すと、ルルーシュは満足げに笑みを浮かべた。

 エトランジュも釣られて笑うと、思い出したようにバッグから小さなコンタクトレンズケースを取り出してルルーシュの前に差し出した。

 「そうだ、例のギアスの暴走を止めるためにルルーシュ様に依頼されたコンタクトレンズが出来たので、お届けいたしますね。
 アルカディア従姉様特製の、ギアスを遮断するコンタクトレンズです」

 「おや、思っていたより早く出来上がったのですね」

 ルルーシュの感心したような声に、エトランジュが小さく溜息をついて答えた。

 「眼帯をつけるというのが一般的ですが、それだと少々不便ですから・・・視覚型ギアスが多いので、アルカディア従姉様は以前から研究してたんです」

 実は先月ルルーシュのギアスが暴走を始め、エトランジュに向かって言った『俺の代わりに子供達に食事を作って貰えませんか』という言葉がたまたまエトランジュの隣に立っていたのでルルーシュの視界にいたアルカディアの耳に飛び込んだ。

 アルカディアはまだルルーシュのギアスにかかっていなかったので見事にその言葉が絶対遵守の命令となり、その時まだナイトメアやコンタクトレンズ、その他の機械開発で多忙を極めていたアルカディアは常ならば私は忙しいからヤだと怒鳴りそうなものなのに、素直に『そうね、解ったわ』とキッチンで食事を作り始めた。

 まだギアスを得て一年も経っていないのにとルルーシュもマグヌスファミリア一行も絶句したが、とりあえず眼帯をルルーシュに手渡し一時的な処置としたのである。

 「これをつけていると暴走しても相手の目を見たことにはならないのですね?」

 「アルカディア従姉様はそうおっしゃっておいでした。実験済みだそうです」

 「ありがたく頂きます。アルカディア様に礼を伝えておいて頂きたい」

 ルルーシュがエトランジュの手からコンタクトレンズケースを受け取ると、さっそくそれを左目につける。

 コンタクトをつけるのは初めてなので、少々違和感があった。だがそれもじきに馴染むだろうと、後で適当な人間にギアスをかけて改めて効果を確かめることを決めた。

 「逆に視覚型ギアスならこのコンタクトレンズで防ぐことが可能ですから、量産すればギアス嚮団なるブリタニアのギアス能力者に対する防御策にもなります。
 マオさんがつけていた色眼鏡でもいいのですが、壊されてしまえばそれまでですからね」
 
 「確かにそうですね。視覚型だけというのがネックですが、それでもないよりはいい。
 ギアス嚮団と対決するまでに、それの量産をお願いしたいのですが」

 「はい、既に手配済みです」

 ギアスについて改めて話していると、慌てた声でドアがノックされた。

 「ゼロ、ブリタニアが動きました。テレビでユーフェミア皇女による発表があるそうです!」

 カレンの声にルルーシュは来たか、と頷き、エトランジュを伴って私室を出た。

 会議室では既に主だったメンバーが揃っており、緊張した面持ちでテレビに視線を釘づけにしている。

 「皆さん、今日は重大な発表があります。
 わたくし、ユーフェミア・リ・ブリタニアはイレヴンの方々の雇用先として、また総生産を上げるための場として、工業特区日本、農業特区日本、そして経済特区日本を設立することを宣言いたします!!」

 「なんと・・・・それはどのようなものですか?」

 記者の質問に、ユーフェミアはしっかりとした口調で答えた。

 「先のテロリストを発見するためとはいえ、ゲットーを封鎖したことでイレヴンの方々から租界での仕事を奪うことになり、ゲットーの整備も行き届いていなかったせいで再就職の道がなかったために、皆様には多大な迷惑をかけてしまったと反省しました。
 よって二度とこんなことが起こらないよう、雇用政策の一環として労働の場を提供しようと考えたのです」

 「なるほど、しかし日本と言う名前をなぜ・・・」

 それではイレヴンを調子づかせることになるのでは、という意見が出ると、ユーフェミアは首を横に振った。

 「ここは元は日本と呼ばれていた場所です。その名前はイレヴンの方々にとって誇るべきもののはずです。
 ですから、その名前が一番ふさわしいと思ったのです」

 相変わらず甘い幻想のお姫様だ、と心の中で記者達が呟くが、ユーフェミアはさらに続けた。

 「ホッカイドウに農業特区を、オオサカとハンシンに工業特区を、そして富士山周辺にそれらをまとめる場として経済特区を作りたいと考えています。
 参加希望者は各地に設けられた登録所に登録し、特区戸籍を造り、その上で移住して頂くことになります。
 当面の生活費および食料の受給についても・・・」

 「思ったより遅かったな。まあ、ユーフェミアなら上出来か」

 既に話を通していた黒の騎士団の面々は、驚くことなくルルーシュの呟きに頷いた。

 神根島でユーフェミア皇女を捕らえた時、どうしても戦いたくないというユーフェミアに日本人に労働の場を与えて保護し、これ以上虐殺などの悲劇を起こらせないようにしろと諭して策を与えたと話してあった。

 「この特区を作らせた狙いは、確か俺達が作った基地に対する目くらましと日本奪回の決起に対しての物資を得るためだったよな?
 公然と物資を作れる場所ってのはありがたいから」

 玉城が言うとルルーシュはそうだ、と頷く。
 
 日本各地に散らばる黒の騎士団後方基地から適度な距離を取って特区を作らせ、その中でまず自分達が囲いきれなかった日本人に労働の場を与え、また間接的な労働力を得る場とする。

 そして黒の騎士団が作った基地が出す廃材などをこっそり特区に移して処理したり、万が一基地が潰されてもそちらに物資を移して保護出来るようにしたり、また基地にいる日本人達の避難場所にするなど、かなりメリットがある。

 「逆に特区から基地のほうに物資を横流しさせることも可能だからな。ブリタニアの資金と資材をうまく使ってやるさ」

 「騎士団にいるブリタニア人協力者を特区の経営に参画させましたから、監査役さえうまく買収するか騙すかすればいいでしょう。
 これで日本人の生活は一息入れることが出来ましたね」

 ディートハルトの言葉に、扇や玉城はうんうん、と満足げに頷く。

 ユーフェミアは最近はいくらか現実的になっているようだが、それでも根本を変えない限り日本人をはじめとするナンバーズとブリタニア人が仲良く暮らせるということが不可能だと、まだいまいち理解出来ていない。
 日本特区はしょせんは対症療法でしかなく、ないよりはマシという程度でしかないのだ。

 しかし、それでも黒の騎士団の活動と日本人の生活を安定させるついでに、彼女の夢を一時的にせよ実現させることが可能な策である。

 (無理やりに日本人の特区を作れば、さんざん試行錯誤した末に砂上の楼閣のように崩れ去るだけだからな。
 初めからこちらのコントロール下でやらせるほうがいい)

 一見ユーフェミアの掲げる理想、日本人とブリタニア人が手を取り合って暮らせる場所であり、日本人の生活を豊かにする特区政策は彼女の好みにも合致している。
 
 だが、特区がブリタニア人の特権がなかったり二十万程度の収容能力しかなかったりした挙句、黒の騎士団に参加を呼びかけるものであるなら最悪だ。

 ブリタニア人が特権を使えないなら資金、資材、人材を持つブリタニア人が参加しないのですぐに限界が見えるものになる。
 さらに一億以上いる日本人、その何十分の一もない人間しか入ることのない代物では、名誉ブリタニア人に毛が生えた程度の階級がほんの一握り出来るだけで終わってしまう。

 とどめに黒の騎士団に参加を呼びかければ、参加すれば武力を取り上げられ、拒否すれば平和の敵と言うレッテルを貼られ、どちらにしろ騎士団は終わるだろう。
 
 (ユフィなら釘を刺しておかないと絶対、騎士団に参加を呼びかけるからな。
 あいつに主導権は意地でも渡せない)

 「では打ち合わせ通り、扇を中心として南、杉山、井上、吉田に特区に入って貰う。
 他にも騎士団や協力者から数十人特区に差し向けるので、彼らをまとめてくれ」

 「解った、任せてくれ。連絡役はカレンでいいんだな?」

 扇の確認に、カレンは小さく笑みを浮かべて頷いた。

 「ええ、特区に参加するブリタニア人グループのリーダーに私の・・・父が選ばれたから手伝いの名目で私も行けるの。
 ・・・やっと、シュタットフェルトの名前が役に立つのね」

 どこか恥ずかしそうなカレンに、周囲は笑みを浮かべる。

 カレンは、父親と和解することに成功していた。
 策ではなく、ただまっすぐに父親とぶつかり合い、話し合った末でのことだった。

 アッシュフォードで情報召集に当たっている咲世子から、カレンの正体がまだ学園に知れ渡っていないことを聞き、スザクやユーフェミアがカレンのことを報告していないことを知った。

 合わせてこの日本特区に出来れば権限の強いブリタニア人がいてくれれば助かることから、シュタットフェルトが使えないかと考えたルルーシュは、カレンに租界に戻るように頼んだところ、確かにそのほうがいいことを理解した彼女は渋々ながらも引き受けてくれたのだ。

 そして帰宅した彼女を待ち受けていたのは、娘が行方不明と聞いて本国から日本にすっ飛んで来て、顔を青ざめさせて行方を極秘で追っていた父親だった。

 突如ひょっこり戻って来た娘に安堵してソファに座り込んだ後、盛大にカレンを叱りつけたのはカレンとしても驚いた。
 ずっと自分を跡取りのための道具としてしか見ていないと思っていたのに、『百合子があんなことになって・・・お前までと思うと気が気じゃなかった』との呟きに、エトランジュの『カレンさんを引き取ったのは、純粋に貴女の将来を思ってのこと』という推測が当たっていたことを知った。

 その後、どうして自分を引き取ったのか、自分と母をどう思っていたのかを尋ねた。
 父が自分の将来のためを思って義母との間に出来た子としてシュタットフェルトの籍に入れたことや、母の百合子にどうしてもと頼まれ名誉ブリタニア人として雇い自分の傍に置いたことを聞いた。
 本当なら租界に小さな店でも与えて、兄のナオトと何不自由のない暮らしが出来るように手配するつもりだったらしい。

 父は自分が思っているような冷血漢ではなく、それなりに自分と母のことを考えていてくれたことを、彼女はやっと気づいたのだ。

 そして少しずつ少しずつ父娘の溝を埋めていき、今では少々のぎこちなさはあっても話が出来るくらいにはなっている。

 「シュタットフェルト伯爵のほうには、ユーフェミアのほうから話をするよう協力者を通してそう仕向けてある。
 皇族からの依頼と言う大義名分があれば、シュタットフェルトも動きやすいからな」

 ルルーシュはそう取り繕ったが、実際はルルーシュがユーフェミアに指示してシュタットフェルトに協力を依頼するよう言ったことを、カレンはもちろん知っている。

 ユーフェミアがスザクを通して知り合ったシュタットフェルト伯爵家の令嬢のカレンに己の特区の構想を伝え、それに協力を依頼しシュタットフェルト家が了承したという筋書きである。

 幸運なことに何故かニーナがユーフェミアと知り合っており、アッシュフォード学園絡みで知り合ったということに誰も疑問を挟まなかった。

 「何かニーナが政庁でばったりユーフェミア皇女と会ってたらしいんですよね。
 スザクが学校辞めちゃって退学届を出した時に、会長に同行した縁で」

 何でもスザクが退学届を出した際、それをスザクに渡しに来たミレイに同行した二―ナはミレイに置き去りにされ、それに気づかず政庁内で途方に暮れていたところをスザクを探しに来たユーフェミアに会って思わず近寄ったらしい。

 不審者と勘違いされて取り押さえられ掛けたが、ユーフェミアがカワグチ湖で会った少女だと気づき、ユーフェミアは事情を周囲に説明して彼女をお茶に誘ったという。

 そのためカレンがアッシュフォード学園でのスザクの学友で、そこからユーフェミアと知り合ったという説明に、二―ナの例があったからそうですかの一言で済んだのである。

 「何であれ疑われないというのは結構なことだ。これで君は公然と、ユーフェミア皇女と会うことが可能になる」

 「正直あのお姫様はまだめでたい思考するから苦手なんですけど・・・仕方ないですね。
 何とかうまくやってみます」

 この策を聞いた時カレンはあのお姫様のお守りか、と嫌な顔をしたのだが、ルルーシュにあのともすれば理想で暴走しかねない彼女を監視しろと言い換えられてころっと了承していた。

 「特区開催記念式典は一週間後です。今日、ユーフェミア皇女と政庁で打ち合わせがあって・・・」

 「ああ、後で内容を教えてくれ」

 「解りました、ゼロ。では、私は準備がありますので」

 仕事とはいえ皇女と会うのだから面倒な支度が必要だと愚痴を呟きつつも、カレンはシュタットフェルトの名をうまく使う機会なのだからと言い聞かせて部屋を出た。

 だが、扇や玉城達はルルーシュの真の狙いを知らない。
 まさかこの特区が、“失敗を前提に造られている”など、想像すらしていないだろう。

 この事実を知っているのは、桐原を初めとするキョウト六家、カレン、ディートハルト、そしてマグヌスファミリアの面々のみである。
 
 会議が終わった後、ディートハルトとエトランジュとアルカディアの三人をゼロの私室に呼び出したルルーシュは、さっそくに本当の作戦について語り出した。

 「ディートハルト、特区に参加するブリタニア人についてだが」

 「はい、主に主義者達で構成されておりますが、貴方のおっしゃった通り日本人をよく思わないブリタニア人がその特権を使って利益を横取りしようと今から動いている者が数名おりますね。
 こういう商業絡みのことは、早く要所を抑えねば利益は得られませんから」

 「よし、そいつらから目を離すな。はじめは好き放題に泳がせて利益を奪わせてやるさ。
 そのうちにそいつらの悪行を暴露し、日本人の憎悪の象徴になって貰うのだから」

 だがいくら最初から失敗が前提とはいえ、特区を早く潰し過ぎるものであったりこちらの不利益になる行為をされては困るため、監視は常にしておく必要があるのだ。

 「はい、解っております。しかしさすがゼロ・・・日本解放のきっかけにするために、このような策を・・・!」

 興奮して肩を震わせるディートハルトに、アルカディアは思わず彼から数歩離れて距離を取る。

 「特区を失敗させ、それを持って日本解放戦争の決起とする・・・それこそが、特区を作らせた本当の狙い・・・!

 そう、ルルーシュの本当の目的はまさにそれだった。

 かなりの規模の特区を成立させて日本人の生活基盤をある程度落ち着かせるが、それでも一億もの日本人がいるのだから、当然その輪に入れない者が存在する。
 もちろんゲットーにも特区から資材を出して開発を進める予定だが、それはまず特区がうまく循環してからになるため、まだ先になるだろう。

 とすると経済に明るい者はその理屈が解るだろうが、大概の者達の目から見ればユーフェミアはやはり自分に従うナンバーズのみを大事にするのだと感じ取り、不満を募らせることになる。

 そして実は特区は当初は盛大に成功させ、大いに利益を上げる。もともと日本は高い技術力があるし、サクラダイトといった資源もあるので、全くゼロからの出発と言うわけではない。
 また、日本製の米や和牛などそれなりに評価の高い農作物や畜産物もあるので、食糧自給率を上げるためにも効果的だ。

 そうして特区が多大な利益を上げて日本人が豊かな生活をするようになると、特に不利益を被ったわけでもないのに選民意識の強いブリタニア人はそれが不当なものであるように感じ、それに対して邪魔をしてくることは必至である。

 コーネリアのような連中なども、過度にナンバーズに富を与えることは危険と感じ、そんな連中に同調する可能性が高い。
 そして、それこそがルルーシュの狙いだった。

 「せっかく生活水準が上がったのに、それを不当にまた奪われればブリタニア人がいる限り自分達の生活はいつまでもよくならないと、嫌でも日本人は理解する。
 特区にブリタニア人の特権はある程度残してあるし、日本人との間に差は設けてあるのだからその相乗効果で徐々に不満が募っていったところで・・・」

 「その不満を爆発させる事件を起こし、特区を失敗させるのですね。
 この特区自体もともと失敗する要素の方が多いですから、どうせならこちらの利益になる形で失敗させる方がダメージが少なくていい」

 ディートハルトはその混乱が来る日が待ち遠しいと言わんばかりに顔を輝かせ、アルカディアはさらに彼から引いた。

 「民衆には物語が必要だからな。
 日本人とブリタニア人が手を取り合って暮らせる小さな箱庭を、己の欲望で汚したブリタニア人によって壊される・・・王道のストーリーだろう?」

 ディートハルトが幾度も頷いて同意すると、エトランジュがおずおずと尋ねた。

 「しかし、それだと少し時間がかかってしまうのでは?初めは成功させなければいけないのでしょう?」

 「そうですね、最低でも半年ないし一年はかかるでしょうが、ある程度操作して出来るだけ短い間で利益が出るようにするつもりです。
 既にある程度経済計画は立てていますし、それをカレンに持たせてユーフェミア皇女に届けさせましたから。
 最初が肝心ですからね・・・最悪な失敗だけはさせませんよ」

 「で、その間あんたは中華連邦やEUで反ブリタニア活動をする、と」

 アルカディアの言葉にルルーシュが頷くと、ディートハルトはなるほどとさらに納得した。

 経済にも精通しているゼロなら、ここに残るメンバーに指示するだけで特区は十分何とかなる。
 正義の味方である黒の騎士団は融和政策を始めたブリタニアに対して攻撃出来ない以上、失敗が公になるまでは当然活動を控えざるを得ないのだ。

 ではどうするかというと、世界各地にあるブリタニア植民地を回り、またブリタニアと交戦しているEUにも赴いて直接活動を行おうというのである。

 「そろそろ自分の目で世界の情勢を確かめたいと思っていたところだからな。
 それに中華の天子様の婚姻も阻止しなくては・・・」

 「私達に協力して下さっているブリタニアレジスタンス組織にも、ゼロとお会いしたいとのお言葉を頂いております。
 二面作戦ですのでご負担は相当なものかと存じますが、よろしくお願いいたしますね」

 「いえ、こちらも負担をお願いするのですから、大したことではありませんよ」

 ルルーシュの言葉に、アルカディアが露骨に嫌そうな顔をした。
 ルルーシュ自身が直接世界各地に赴くことはあるが、大方はアルカディアがゼロに変装してエトランジュがリンクを開いて彼の言葉を伝えて情報を得るべく各地を回れという意味だと悟ったからだった。

 エトランジュも当然、ゼロについて世界各地を回らなくてはならない。
 今現在のところ協力してくれている各国のレジスタンスはマグヌスファミリアの指揮下にあるのだから、その長である彼女がゼロを紹介しなければ受け入れて貰えないからだ。

 こうして見ると、リンクを繋いだ仲間さえいれば同時に情報を伝え合えるエトランジュのギアスは相当に強力だとつくづく思う。
 しかもギアスのことを知る親族達が各地にいて自分の意思を正確に伝えられ、さらに彼らからリアルタイムで情報が手に入るのだ。
 己の負担が大幅に減る、実にありがたいギアスである。

 「まずは式典を成功させ、ひと月ほど様子を見てから中華へと移る。天子様の政略結婚を潰すのは、私が直接指揮を取りましょう。
 ディートハルト、お前を特区の広報の担当に任命するよう裏から手を回しておいたから、その間情報収集および操作を行え」

 「お任せ下さいゼロ。私の得意とするところです。
 では、さっそく準備を整えに参りますので、失礼いたします」

 ディートハルトが嬉々として了承して私室を出ると、残された三人は日本が一年のつかの間の平和を楽しむ間、自分達は世界各地で起こる争乱を回るハードスケジュールを思って大きく溜息を吐く。

 「まず中華で天子様の政略結婚潰して、EUでシュナイゼルが張り巡らせた謀略潰して、ナイトオブラウンズによる侵略を潰して・・・はぁ、休むヒマなさそー」

 「EUでは伯父様達がゼロの知略を元にいろいろ動いて下さっておりますが、侵略の方が難しいと相談を受けております。
 マグヌスファミリアは戦争は本当に門外漢もいいところですから」
 
 アルカディアの嘆きにエトランジュも困ったように首を傾げる。

 「既に俺が常に入ってくる情報を解析して作戦を考えてあります。
 万が一俺が別行動を取っても、ある程度は貴方がたで対処が可能なようにしますので」

 ルルーシュがパソコンを操作して何十通りもの策が書き連ねられたファイルを開くと、現時点で起こり得る問題とその対処の仕方、またそれを阻止する手段などが事細かに記されていることにエトランジュは感嘆の声を上げる。

 「さすがゼロ・・・ですが、私には何が何だかさっぱりと」

 エトランジュはルルーシュをも凌ぐ語学能力の持ち主だが、意味が解らなければそれはただの解読不能な文字でしかない。

 「退路を絶った上でわざと放棄した軍事基地には焦土作戦を敢行、さらに一個大隊を持ってこれを撃破・・・焦土作戦って何ですか?」

 「侵攻してくる軍隊の進撃地にある住居や食糧、補給品などを全て焼き払って、現地調達をさせない作戦のことです。
 ブリタニアは常に戦っておりますので、侵略した地から物資を奪うのはよくある手ですからね」

 なるほどとエトランジュは納得したが、意味が解らなければ読めても意味がないので、エトランジュは軍事、経済についてせめて専門用語だけでも覚えておかねばと決意する。
 何しろ一個大隊も実は解っていなかったりするのだから、彼女の知識は偏っていると言わざるを得なかった。

 「私がいますから、それほど気負う必要はありません。
 エトランジュ様はただ、各地にいらっしゃるご親族の方に指示を伝えて頂くだけで結構です」

 「はい、ゼロ。でも念のためそのファイルの開き方を教えて頂きたいのですが」

 「もちろんです。ここをこうして、パスワードは三つありますのでしっかりご記憶頂きたい。順序も決して間違えないようにお願いします」

 「三つ、ですか・・・解りました」

 エトランジュとアルカディアがファイルの開き方とパスワードを聞き終わると、アルカディアは時計を見て立ちあがる。

 「やばい、もう時間だわ!ちょっと行ってくる」

 「ああ、そうですね。くれぐれもお気をつけて・・・アルカディア従姉様」

 エトランジュの心配そうな声に、アルカディアは大丈夫と笑った。

 「ギアスでいつも繋がってるんだから、何かあったらすぐに解るわよ。じゃ、行ってくるわ」

 アルカディアが慌てて部屋を出ると、ルルーシュは改めてTVをつけて、再度放送されているユーフェミアの特区宣言の映像を見つめた。

 今度こそ己の理想が実現すると信じて、おそらくは夜も寝ずに頑張ったのだろう、化粧で隠された隈が見えた。

 (すまないユフィ、君を利用した。
 だが、君の理想は日本だけじゃない、世界各地で実現させてみせるよ)

 それにこの策は成功した時はブリタニア人にもそれなりの利益があるものだからブリタニア人、日本人の双方からユーフェミアの評価が上がるだろう。
 だが失敗する時はその責任はあくまでも事件を起こしたブリタニア人と、利益を横取りしたブリタニア人のものだから、彼女はむしろ被害者として仕立てて責任が行かないようにするつもりだった。

 そして日本独立戦争が終わった後、彼女は戦いによらずして日本人とブリタニア人を共存させようとした気高い皇族である、弱肉強食を訴える皇帝を倒し、彼女をブリタニアの代表として立てて世界を平和にしようという世論に持って行ければ、彼女は殺さずに済む。

 ルルーシュはその未来を実現させるため、特区を持ち上げて落とす策のために、再びパソコンに向かうのだった。



 数時間後、カレンはシュタットフェルト邸宅前にやって来た人物を見つめて、仰天したようにその人物を指さした。

 「ちょ、あの・・・ホントにアルカディア様?!」

 「しっ、その名前で呼ばないで欲しいカレン様。私はエドワード・デュランです」

 さっき念を押したでしょう、と視線で咎めるアルカディアに、カレンはもぐもぐと口を閉ざす。

 しかし、カレンが驚くのも無理はない。何しろ今のアルカディアは、細見ではあるが堂々たる男性に変装しているのだから。

 金髪碧眼といったエトランジュに少し似た容姿に高級スーツを纏った彼女は、どう見ても男性にしか見えない。

 「赤髪がカツラだってのは聞いてましたけど、身長や体格を服や靴でごまかすだけで、女でも男に化けられるものなんですねえ」

 そう、実はアルカディアの髪はカツラだった。
 何故そんな真似をしているのかと言うと、赤は一番目立ち印象に残る色なので、いつもその髪で戦場や租界をうろついておく。
 すると万一追いかけられたりした場合、カツラを処理してちょっと変装すればそれだけでも結構逃げ切れたりするのである。

 ちなみに今回は変装術が得意だという咲世子のアドバイスを受けて腰をタオルで巻いてウエストを増やしたり、シークレットブーツを履いたり、襟の詰まった服を着て喉仏がないのをごまかしたりしていると説明すると、カレンは納得して感心した。

 「さ、お喋りはここまで。父親にはまだ、黒の騎士団に入ってることは黙ってるんでしょ?」

 「は、はい。そんなことはまだ言えなくて・・・特区を希望したのも、行方不明になったお兄ちゃんを探すためって言ってあるの」

 カレンが後ろめたそうな声で答えると、アルカディアは大きく溜息を吐く。

 「仕方ないって台詞は、ほんと便利な言葉よね。それだけでみんな、カタがついちゃうんだから」

 「同感です。でも、本当にそうとしか言えないんです」

 「事情がこうだから、ほんと仕方ないわよ。こっちもせっかく家族と和解したんだから、うまくいくように調整するから心配しないで。
 私達はブリタニアを壊したいだけで、よそ様の家庭を壊したいわけじゃないんだから」

 ルルーシュも協力してくれるという意味を言葉から捉えたカレンは一瞬顔を真っ赤にして嬉しそうに笑った後、逆に怒ったような声で言った。

 「べ、別にあんな奴に心配して貰わなくたって、私は・・・!」

 「はいはい、仲間だから心配するの。私達は身内で争いまくるブリタニアとは違いますからねー」

 ブリタニアとは違うと言われて、カレンはそうですねとあっさり怒りを鎮めた。

 「仲間だからですよね、うん。仲間だから心配してくれたんだから、怒っちゃダメよね」

 「おっと、本当にお喋りはここまでよ。貴女のお父さんが来たわ」

 アルカディアは喉に手をやって咳払いを二度ほどすると、カレンも表情を引き締めて門が開く音を聞いた。
 そしてそこから大きなリムジンが出てくると、二人の前で停車して窓が開く。

 「どうしたんだカレン、そんなところで」

 門の外に出たと聞いて不思議に思っていたと言うカレンの父・シュタットフェルトに、カレンはぎこちなさそうに答える。

 「実は、特区に協力してもいいって人が来てくれて・・・この人、アッシュフォードを去年卒業したエドワードさん。
 プログラミングを主に勉強していてね、特区の情報処理システムにぜひ協力させて欲しいって言ってくれたの」

 「ああ、君がカレンが言ってた・・・どうぞ、乗って下さい」

 「失礼します、シュタットフェルト伯」

 自動で開いたドアにカレンに続いてアルカディアが乗り込むと、リムジンは音もなく走りだす。

 「改めてご挨拶をさせて頂きます。去年アッシュフォードを卒業して、今は租界の店を回って情報処理を担当しているエドワード・デュランと申します」

 「シュタットフェルトです、こちらこそよろしく。娘とはどのような縁で?」

 キランと目が光ったように感じたカレンとアルカディアだが、カレンは気のせいだとすぐにスル―し、アルカディアはエトランジュの父にして己の叔父であるアドリスと同じ目をしていると心の中で溜息を吐く。

 (あー、そうですか娘に悪い虫がついているか心配ですか)

 なら日本に母がいるとはいえ放り出して本国にいるなよ、と内心で突っ込んだが、彼にも彼なりの事情があることをカレンから聞いているアルカディアは笑顔で応対する。

 「ええ、アッシュフォードの科学部にいたのでOBとして顔を出したのですが、その時偶然に御令嬢とお会い致しまして少しお話を。
 実はここだけの話、私の祖母は日本人なのでそこからも・・・」

 「ああ、そうだったか。それで特区にご興味を?」

 「ええ、祖母は昔和菓子屋をしていたそうで、それをまたもう一度したいと言っていたので最期に夢を叶えてやりたくて・・・もう年ですから」

 お涙ちょうだいストーリーをたそがれたような顔でしゃあしゃあと言ってのけたアルカディアは、シュタットフェルトが最も気にしているであろう不安を払拭するために続けて言った。

 「特区が成功すれば、私も堂々と婚約者と結婚出来ます・・・彼女は日本人なのでね、ぜひとも成功させたいものです」

 その台詞にあからさまに安堵の息を吐いたシュタットフェルトは、今のは内緒にしておいて下さいねと手を合わせるアルカディアに幾度も頷いて了承する。

 「いや、そういうことなら結構だ。この日本特区が成功するよう、私も尽力するとしよう。
 実はあそこにリフレイン患者のための病院を建てられないかと考えているんだが、国是からすると難しそうでね・・・」

 「お母さん、出所してもまだ後遺症から抜けられるか心配だもんね。
 日本人にまだリフレイン患者は多いし、それを治療するための設備なんてないもの」

 カレンが俯いて呟くと、シュタットフェルトは慌てたように付け足す。

 「百合子が収監されている刑務所には裏で手を回して特別待遇にするよう手配はしたが、治療となるとまた別だ。
 彼女のためにもどうにかしてみせるから、心配するなカレン」

 どうやら娘にこれ以上嫌われたくないらしいな、とアルカディアはシュタットフェルトの態度から悟った。

 「話は聞いておりますが、まだカレンさんの母君が出所されるまでまだ日はあります。
 他のリフレイン患者を後回しにする気がしますが、焦って無理やり病院を設立するよりしっかりした基盤を作ってからのほうがいいと思いますよ」

 日本解放が成ったら、リフレイン患者のためのリハビリ施設を造ることはすでに決定済みだ。
 つまり特区で無理をして作らなくても、新たな日本政府の元で設立出来るのだから焦る必要はない。
 今はそれより新たなリフレイン患者を減らし、売人を摘発して潰していく方が現実的な処置なのだ。

 「ああ、そうだな・・・ああ、着いたようだ」

 リムジンが止まってドアが運転手によって開かれると、目の前には日本における敵の総本山である政庁が白くそびえ立っている。

 (この政庁、ドカーンと綺麗さっぱり消え去ってくれたらさぞ気持ちいいだろうなあ・・・コーネリアごとだったらなおのこと)

 物騒な感想を抱きながらエントランスに入ると、受付でシュタットフェルトの名前を告げて特別訪問者用IDを受け取って奥へと入る。

 さすが伯爵なだけあって、VIP用のエレベーターでスザクに会いに来たミレイより上の階にある応接室に通され、さらに上質の葉で淹れられた紅茶を出された。

 「ユーフェミア副総督閣下は間もなくこちらにおいでになられますので、もうしばらくお待ち下さい」

 「はい、解りました」

 女性職員が立ち去ると、敵陣真っ只中にいるカレンとアルカディアは落ち着かなさけにそわそわする。

 「落ち着けカレン、エドワード君。そう緊張しては副総督閣下がおいでになられた時どんなことになるか・・・」

 「そ、そんなんじゃなくて・・・・いや、やっぱそうかも」

 カレンは慌ててごまかすと、不意にドアがノックされて静かに開いた。

 「申し訳ありませんシュタットフェルト伯!お待たせしてしまいましたわ」

 少し慌てて入室して来たのは、背後にスザクとダールトンを従えたユーフェミアだった。
 先ほどまでエリア11における経済状況についての会議が行われ、それが少し長びいて遅れてしまって申し訳ないと再度謝罪する。

 「いえいえ、とんでもございませんユーフェミア皇女殿下。お忙しい中お時間を頂きまして、まことにありがとうございます」

 ソファから立ち上がって臣下の礼を取るシュタットフェルトに、内心嫌で仕方なかったがカレンとアルカディアも同様の礼を取った。

 「今回はぜひ特区に協力したいと申し出てきた青年をお連れさせて頂きました。エドワード・デュランです」

 「エドワード・デュランと申しますユーフェミア皇女殿下。お会い出来て光栄です」

 アルカディアがにっこりを笑みを浮かべると、特区参加協力者と聞いてユーフェミアは嬉しそうな笑みを浮かべた。

 「まあ、特区の?!さっそく協力者が来て下さるなんて、嬉しいわ!さあ、どうかお座りになって下さいな」

 ユーフェミアに促されて三人が再度ソファに座ると、ユーフェミアは近くにいた侍女に改めて紅茶とお茶菓子の用意を言いつけた。

 ユーフェミアが三人の前のソファに座ると、その背後にスザクとダールトンが立つ。

 「ではさっそくですが、特区日本の式典についてお話を」

 「はい、ユーフェミア副総督閣下。実は私どもでいろいろと考えた計画書がございますのでぜひ、ご覧頂きたいのです」

 カレンが数枚の書類が入った袋をユーフェミアに差し出すと、カレンの正体が黒の騎士団のゼロの親衛隊隊長・・・すなわちルルーシュの側近だと知っているユーフェミアはこれが彼からのものだとすぐに解った。

 逸る気持ちを抑えてユーフェミアが書類を出して読むと、それにはそれぞれの特区における今後の予想展開図とその対処法がずらずらと並べられている。

 エトランジュと異なり知識は高いユーフェミアはその正確さに喜んで、これなら特区の成功は間違いないと顔を輝かせる。

 「ありがとう、さっそく会議にかけて検討致しますわ。皆さんにお礼を申しあげておいて下さらないかしら?」

 「はい、必ずお伝えさせて頂きます」

 カレンが軽く頭を下げて了承すると、大事そうに書類を袋に戻してテーブルの上に置く。

 「一週間後の開催記念式典ですが、主なスケジュールは先日お送りさせて頂いた通りです。
 既に資材の準備は整っておりまして、参加者は農業特区ホッカイドウが十万人、オオサカ・ハンシン工業特区が十五万人、さらに経済特区が二十万人です。
 現在簡易的に戸籍が作られておりますが、いずれ本格的な物を作らねばならないでしょう」

 シュタットフェルトの説明に、予想より少ない参加人数にユーフェミアは肩を落とした。

 「もう少し集まって下さると思ったのですが・・・」

 「軌道に乗れば、人は自然にこちらに集まりますユーフェミア副総督閣下。稼働出来るだけの人数は十二分にあるのですから、問題ありません」

 やはり以前のゲットー封鎖が尾を引いたのか、特区に閉じ込められ奴隷労働でもさせるつもりじゃないだろうかという後ろ向きな考えを持つ者が大勢いたりするせいで、参加をためらう日本人が多かった。

 ユーフェミアはそれも自業自得だから仕方ないと諦め、とにかく何が何でも特区を成功させるのだと己を奮い立たせる。

 「記念式典には、私達も参加させて頂きます。
 あの、それと二ーナからなんですが、彼女もぜひ協力参加させて欲しいとお願いされたのですが・・・どうしましょう?」

 つい先ほどテレビを見た二ーナはすぐさま特区について調べたところ、次のニュースでシュタットフェルト家が主に主導すると知ってカレンに電話をかけてきたという。

 「まあ、ニーナも?嬉しいわ。でも、学校の方はどうするの?」

 「早期単位取得制度を使ったら、もともと卒業が近いしすぐに卒業出来るからって言ってました。二ーナは成績優秀だし、真面目ですから」

 「協力してくれる人が多いのは心強いわ。でも無理はしないでって伝えておいて下さるかしら」

 「はい、かしこまりました。すぐにお伝えしておきます」

 日本人の参加者が少ないことに落ち込んでいたユーフェミアだが、逆にブリタニア人の協力者が多いことに彼女は希望を持てたらしい。

 (やっぱり、人はこうやって助け合えるものなのよ。
 戦わなくてもこうして手を取り合っていろんなことをしているのを見れば、お姉様だってきっと解って下さる)

 未だ意識不明のコーネリアだが、勝手なことをしたと始めは叱られるだろう。
 けれど結果がすべてと言ったのは姉なのだから、いい結果を出せば認めてくれるとユーフェミアは信じている。

 「喜んで下さいユーフェミア副総督閣下。既に特区に入場を始めたイレヴンの中には、まだ記念式典が始まっていないのに仕事を始めている者もいるようです。
 ああ、もちろんきちんと監督役のブリタニア人の指揮のもとでですのでご安心を」

 「本当ですか?日本人の方は勤勉だと伺っておりましたが、気がお早いこと」

 シュタットフェルトの報告にユーフェミアが苦笑しつつも嬉しそうな様子に、アルカディアが言った。

 「働くことが美徳だとされた国民性だそうですから、仕事をさせれば大いに利益を上げてくれると思いますよ。
 いつか聞いたのですが、十何年か前のCMで“24時間働けますか?”がキャッチフレーズな商品があったとか」

 仕事中毒にもほどがあると呆れるアルカディアに、ユーフェミアは目を丸くする。

 「さすがにそれは無理でしょう・・・わたくしだって睡眠時間が五時間きった時は・・・あ」

 思わず自分の手を覆って台詞を止めたが、しっかりダールトンとスザクには聞こえていた。じろりと見つめられて、ユーフェミアは視線をそらす。

 「いけませんよユーフェミア様!あれほどご無理はなさいませんようにと申し上げたではありませんか!」

 「もう寝るからって僕を退出させた後、部屋で仕事してたんですね・・・」

 道理で朝早くからあれこれ指示を出せていたはずだと納得した二人が頭を押さえると、アルカディアがやれやれと肩をすくめてアドバイスする。

 「お疲れのようですので僭越ながら申し上げます。
 時間がない時は確かに睡眠時間を削るしかないのですが、無理をなさってお倒れになられては意味がありません。
 無理して起きるより、眠くなったらすぐに寝て早めに起きて仕事をなさる方がよほど効果的です」

 さらに短時間で熟眠出来るコツやアロマテラピーなどによるリラックス法を教えると、ユーフェミアは幾度となく頷いてメモを取る。

 「ついでに料理人の方にも、疲れを取る食材を使った料理を作って貰えれば少しはましかと存じますが」

 「なるほど、すぐに手配しよう。こういうことに我々は疎いからな・・・いや、助かった」

 アルカディアが己の主君を半殺しの目に遭わせた一人だとも知らず、ダールトンが礼を言うとアルカディアは実に嬉しそうにお役にたてれば何よりですなどと言って笑っている。

 と、そこへダールトンの携帯が鳴り響き、ユーフェミアが頷いたので彼が一礼して退出すると待ってましたとばかりに彼女はカレンに尋ねた。

 「式典には彼も来てくれるのかしら?やっぱり、無理?」

 「会場にはブリタニア人もいますし、それほど目立たないと思うんですけど今のところは聞いていないんです。
 いちおう手紙を預かってきましたので」

 ルルーシュから隙を見て渡せと言われていた手紙をカレンから手渡されたユーフェミアは、嬉しそうにそれを受け取り宝物のように胸に抱く。

 「ありがとう、カレンさん。ああ、長居させてしまって申し訳なかったわ。
 では次は記念式典でお会い致しましょう」

 「はい、今日はお時間を賜りましてまことにありがとうございました」

 シュタットフェルトが頭を下げて二人もそれに倣うと、ユーフェミアは頭を上げるように促した。

 「こちらこそいろいろと助けて頂いておりますもの、お気になさらないで。
 どなたか御三方をエントランスまで送って差し上げて下さいな」

 近くにいた職員に先導されて全員で応接室を出ると、ダールトンが慌てた様子でやって来た。

 「どうかしたのですか、ダールトン」

 「は、ユーフェミア様・・・どうかこちらへ」

 カレン達に一瞬視線を向けたダールトンの言葉に、ユーフェミアは眉根を寄せながらも彼についてその場を離れた。

 いきなりユーフェミアが立ち去ってしまったので、帰っていいものかと途方に暮れた一同がその場に取り残された五分後、難しい表情をしたユーフェミアが戻ってきた。

 「何か緊急のご報告があったようですね。邪魔になりますゆえ、私どもはこれで・・・」

 シュタットフェルトがそう切り出すと、ユーフェミアはカレンに向かって言った。

 「ええ、お姉様に呼び出されてしまったから、今からお姉様のところへ行かなくてはならなくなったの。
 もしかしたらお姉様から特区について改めて説明を求められるかもしれませんが、その時はお手数ですけどお願いしてもよろしいかしら?」

 「!!!」

 (これって・・・もしかしてコーネリアが目を覚ましたってこと?!)

 ユーフェミアの言葉の真の意味を瞬時に悟ったカレンとアルカディアは、内心で舌打ちしつつも顔は何とか笑顔を取り繕う。

 「解りました、改めてご説明に上がらせて頂きます。それでは、私どもはこれで御前を失礼させて頂きます」

 「ええ、今日は本当にありがとう」

 ユーフェミアはこのタイミングで姉が目を覚ますなんてと少し姉不幸なことを考えながらも、エレベーターに乗り込み去っていく三人を見送った後、スザクに向かって言った。

 「今すぐお姉様の入院されている病院へ向かいます。
 きっとお姉様はお怒りでしょうけれど、解って下さるまで説得するわ」

 ユーフェミアはそう決意すると、スザクと共に姉に会うべく駐車場へと向かうのだった。



 「何がどうなっている!お前達が付いていながら何と言うことだ!!」

 目を覚まして早々、医者とギルフォードから自分の状態を聞かされたコーネリアは自分があのテロにやられて以降三ヶ月も眠っていたと知らされ、いくらまめに体位変換を行い筋肉をほぐしてあったとはいえ、それでもろくに動かせぬ己の身体に呆然となった。

 だがそれより先に最愛の妹の様子が気になってギルフォードに尋ねてみると、まずユーフェミアはこともあろうにイレヴンである枢木 スザクを選任騎士に選び、さらに次兄シュナイゼルについて視察を手伝いに行った際に黒の騎士団に襲撃され、海を漂って偶然流れ着いた島で人質にされたと聞いた時は血の気が引いた。

 だが同じく漂着したスザクによって救出され、以降は彼女を守るために栄誉あるナイトメアのデヴァイサーと学園を辞めてまで護衛について以降は何事もないと聞き、ほっと安堵する。

 「イレヴンではありますが、彼は騎士として実に立派な男です。
 聞けば戦闘能力も群を抜いておりまして、グラストンナイツですら彼には敵わなかったとか」

 「そうか、お前が言うならそうなのだろうな。ユフィもあれ以降無茶なことはしなくなったのなら、奴が騎士であることは認めよう。
 だが、この特区日本と言うのは何だ?!イレヴンを調子づかせるだけではないか」

 テレビから流れるニュースを見ながら怒鳴るコーネリアに、ギルフォードがたしなめる。

 「ユーフェミア様もお考えがあってのことです。
 今こちらに向かわれているとのことなのですから、直接伺った方が・・・!」

 「ユフィ・・・誰も止めなかったのか?」

 「は、あの方もこの二か月、特区のために寝食を忘れて特区成立に向けて努力されておりました。
 それに私から見ても見切り発車ではなく、きちんとシュタットフェルト伯爵家を始めとする有力貴族に協力を仰いで推し進め、経済計画、予算計画などもしっかり考えておいででした」

 思いがけず妹の成長ぶりを聞かされたコーネリアは、目を見開いた。
 そしてギルフォードから特区について書かれた書類を手渡されて、食い入るように見つめる。

 「これは・・・本当にユフィが考えたのか?」

 「は、細かい部分は会議で決定していったようですが、大枠はユーフェミア様です。
 参加者も特区稼働には充分な人数が集まり、ブリタニア人の参加者もそれなりにいるようですが」

 コーネリアも馬鹿ではない。この特区がこのエリア11の経済活性化に貢献の余地があることは、すぐに理解出来た。

 だがこの特区が成功すればイレヴンに余計な富を与えることになり、それによってまたテロを起こす輩が現れる可能性もある。

 だからといって万一にも失敗すれば、特区の提唱者であるユーフェミアに大きな傷がつく。

 どちらに転んでも最善とは言えない結果になる特区に、コーネリアは頭が痛くなった。

 しかし、既にここまで事が大きくなり、たった今全国に向けて発表が行われた以上覆すことは出来ない。

 「おのれ・・・私がこのような目に遭ってさえいなければ、意地でも阻止したものを!!
 あのテロリストども、許さんぞ!!」

 「申し訳ございません姫様、奴らはまだ捕縛出来ておらず・・・しかし正体は解りました。
 エリア16・・・元マグヌスファミリアの亡命政府の女王、エトランジュ率いるテロリストグループです。
 ゼロと組んで、身の程知らずにも我がブリタニアに刃向おうとしているのです」

 「あの、マグヌスファミリアか!たかが二千人程度しかおらぬ小国の分際で・・・!」

 その二千人程度しかいない国に攻め込んだことに対して恥を感じることはなかったらしい。
 コーネリアはろくに動かぬ身体で怒りを発散すべく、テーブルに置かれていたカップを薙ぎ払った。

 「ユフィは?ユフィはまだか?!」

 常に沈着冷静な誇り高い主の時ならぬ狂態に、ギルフォードは鎮静剤が入った飲み物を主君に差し出しながらなだめた。

 「どうか落ち着いて下さい姫様。ユーフェミア様も貴女様にご迷惑をかけようとしているのではありません。
 この特区でイレヴンが飢えることなく暮らせるようになればテロなど起こさなくなる、そうなれば姫様も無理に戦わなくてもよくなるとおっしゃっておいででした。
 貴女様を思っての特区でもあるのですよ」

 「ユフィ・・・だがそれは理想論だ」

 うなだれながらそう呟くコーネリアの視線の先には、テレビの中で顔を輝かせて特区設立を宣言する最愛の妹の姿があった。



 《コーネリアが目を覚ました?構いません想定の範囲内です》

 命が助かりいずれ目を覚ますと知っていたのだ、さして驚くことではないと、アルカディアから報告を聞いたルルーシュは別段気にすることなく言った。

 《既に特区成立の宣言は成ったのです。今更彼女に何が出来ます》

 《だけど、あの女がどう出るか》

 《そのユフィからコーネリアの動きを知ることが出来るように、カレンをやったのです。
 カレンの正体がバレないようにだけ気をつけて貰えれば結構》

 《了解・・・うっかり医療ミスでも起きて死ねばよかったのに》

 そうすれば自動的にユーフェミアが総督だ。いろいろと後の作業が楽になるのにとアルカディアは心の底から残念に思った。

 (今頃姉妹喧嘩の真っ最中だろうな。さて、どうするコーネリア)

 今更特区は覆せない。だが失敗の要素が多い特区だから、ユーフェミアの失点になるとさぞかし焦っているだろう。

 (ですがご安心を姉上。ユフィに余計な傷を負わせるつもりはありませんので)

 コーネリアにはさらなる傷を負わせる予定だが、と内心で付け足し、ルルーシュはあくどい笑みを浮かべた。


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