「クルツ………何故お前がここにいる?」
「細かい事気にすんなって、あっ俺シュークリームね」
宗介の同僚、クルツ・ウェーバー軍曹が身近にいたウエイトレスに言った。二人がいる店は、興宮にあるファミレス、エンジェルモート。この店は制服がアレなこともあり濃い客が多く訪れる。しかしそれだけではなく、この店のデザートはかなりの一品だ。決して色仕掛けだけではなく中身があるのもエンジェルモートの特徴である。
宗介の反対側に座る男、クルツは金髪碧眼の絵に描いたような美形だった。あごは細く、目は切れ長で、鼻筋は綺麗に通っている。きちんとそろえた長髪は、中世的な魅力を見事に演出していた。
「いや~それにしてもお前の住んでる場所は兎も角、この街はいい場所じゃねえか。まさかこんな店があるなんてな」
クルツはウエイトレスの一人を指差して言う。
「わからん。何故彼女達は水着で仕事をしているんだ?」
クルツははぁ~と溜息をついて
「まっ、朴念仁のお前に言ってもしょうがねえよな」
「その前に質問に答えろ。少佐は護衛には俺一人だと言っていたが」
「おいおい、別に仕事で来た訳じゃねえよ。ただ少し休みが貰えたんで、冷やかしついでにお前の顔を見に来たってわけ。姐さんも来たがってたんだけど仕事が急がしくて無理だとさ」
「そうか……………むっ、美味い」
「だろ、この店のシュークリームは美味いって評判らしいぜ」
「そうなのか?」
「たっく自分の住んでる場所の名店くらい知っておけよ………おっ、このケーキ美味いな」
黙々とケーキを食べる宗介。かたやクルツはケーキを堪能しつつ、ウエイトレスという名のデザートも目で堪能していた、セクハラ紛いの事を何度もやろうとしていたが…
「しかし俺が言うのも何だが、ここの制服は最高だぜ」
「……よく分からんが、いいものなのか?」
「当然だろ。特に足だ………確かにおっぱいも重要だが、思いっ切り晒されてる足がいい。そしてストッキング。いいか宗介。制服の美学ってのはストッキングにもあるんだよ。たかだがストッキングだと嘗めちゃいけねえ」
「そうか」
「素人は直ぐに、胸に目が行くんだが俺は違うぜ。爪先から脳天まで徹底的に拘る。その点から言ってこの店は完璧だな。いや~しかし、美人揃いだよな。一人くらい誘ってみるか」
「どうでもいいが、そのシュークリームを貰うぞ」
クルツの話には全く興味を示さず、ただひたすらシュークリームを口に運ぶ。
「ああ、さて誰を口説くかな……」
「ちょっと待ったぁ!!!」
クルツが怪しげな瞳で、ウエイトレスを嘗めるように見ていると、一人の不審者が現れた。
「突然の登場、まことに失礼いたします。先ほどまで、お二方のご考察、大変心に感銘を受け暑き大粒の涙をはらはらとこぼしておりましたが……」
「誰だあんた?」
不審者はクルツの問いを無視して続ける。
「ですがっ! 最後のお言葉だけはこのドクター…イリーの名にかけて、黙って見過ごすわけにはまいりません!
そもそもストッキングが美学の出発点であるという着眼点は良しとしますが、それで全てを悟ったとするは、あまりにも浅薄! あまりにも独善!!
まさに木を見て森を見ず、岩清水八幡宮の入り口で帰った仁和寺の法師となんら変わるものでは無いッ!!」
「なぁ、仁和寺の法師ってなんだったけ?」
「すまん、俺は古典が苦手なんだ」
「いいですか!? ウェイトレスの制服とは古来メイドとして高級階級の人々の贅沢のみであったエプロンドレスを、我々庶民の安らぎと癒しを目的としてリフォームしたのがそもそものはじまりっ!
いうなれば我々の同朋たちが血と汗、そして涙を流し培ってきた、努力と愛情の結晶なのです!!
ならば、先人が獲得し積み重ねた至福を享受し、心ゆくまで堪能し満喫するこkdhじッッッ!!」
何時の間にか宗介が、銃弾(模擬弾だがプロボクサーのパンチ並みの威力)を不審者に向かって発砲していた。
それを見ていた一人の店員が、いそいそとやって来る。
「すみませんね~、直ぐに片付けますので……………あれ?もしかして宗ちゃん?」
「むっ、魅音。何故ここにいる?」
「なんだ宗介。知り合いか?」
「俺のクラスの委員長だ。魅音、こいつは俺のどうりょ――――――――外国の知人のクルツだ。観光ついでに俺の顔を見に来たらしい」
寸前で、適当な嘘で取り繕った。
「はぁ、その宗ちゃん……ですよね?」
「?俺は相良宗介だが、どうした?――――――――ッッッ!!まさか敵の諜報員に拷問を受けて記憶を!?」
「そんなわけありませんッ!!!実は私、魅音じゃないんです。双子の妹の詩音です」
「魅音に妹がいたのか。初耳だな」
「私は分校じゃなくて興宮の学校に通ってますから。それより外国からの転入生って本当だったんですね」
宗介と一緒に座っているクルツを見て言った。
「そんなに変か?」
「はい。雛見沢って辺鄙な村ですから、私も外人さんを生で見たのは久しぶりですよ」
「成る程ね。ところで詩音ちゃん。どうだい?これから俺と遊びに行かない?」
少しキザったらしく言った。こんなキザな言い方をしても、全く違和感がないのは、クルツがクルツたる所以だろう。
「あはははは。お気持ちは嬉しいですけど遠慮しておきます。まだバイトも終わってないんで」
「ちぇっ………っと俺もそろそろ帰るわ。これから東京に行かなくちゃなんねえからな」
「用事か?」
「まあな、折角日本に来たんだから、久しぶりに里帰りだ」
「では俺も帰ろう。詩音、会計を」
「了解です。では…………2120円になります」
「よしっ。宗介任せた!」
割り勘で払おうと思い、財布を確かめている間に、クルツはさっさと帰っていった。普通の人間ならば停止させる事も出来ただろうが、クルツも宗介と同じSRT。上手い具合に逃走した。
「………………」
「あ~、残念でしたね。じゃっ、お会計たのみますよ。宗ちゃん」
結局、宗介はクルツも分まで払う事になった。
余談だが謎の不審者I氏は店外に捨てられていた所を、翌日に発見された。
~その後の雛見沢分校での一幕~
「宗ちゃん。昨日エンジェルモートってお店に行ったでしょう。聞くところじゃ大分鼻の下伸ばしてたみたいだけど~」
「…………見事だ」
「は?」
「だから見事だ。部員の同行を調べる為に、わざわざ後を付けるとは並みの人間に出来る事ではない」
「いや別に私が付けたわけじゃ……」
「謙遜しなくていい。君に俺にさえ尾行の形跡を掴ませない程の力量があったとは、正直見縊っていた」
「あのねぇ~、私は叔父さんに聞いただけだよ。エンジェルモートも私の叔父さんが経営している店の一つなの。それに昨日、詩音にも会ったでしょ」
「ああ、君とよく似ていたが双子だそうだな」
「まあね。昔は姉妹で入れ替わって遊んだりしたよ」
「おいどうやら授業が始まるようだぞ」
「あっ、いけね」
「ふむ………今日辺りにアレを完成させるのもいいかもしれんな」
「ん?何の話?」
「いや何でもない」
今までのドタバタな日常とは違い、緩やかに時間が過ぎていった。
後書き
今回は時間の関係上、短いです。申し訳ないです。
そして皆さん。お待たせしました。次回、少しですが、ついにボン太くんが動きます。