スラルの死去。
それは突然の事だった。
それを知っていたのはトロスしかいなかった。
それ故、あまりに早い死に魔人達は驚愕した。
ある者はいつも通り。
またある者達は悲しんだ。
悲しむという行為は魔人として間違っているのかもしれない。
しかし、まだ魔人としての年数が少ない彼らには在る感情。
魔人とはいえ涙を流すこともある。
痛みや苦しみから涙を流すこともある。
それが今回は他人が死んだ悲しみというだけであった。
恥じる事はない。
それだけスラルに人望があっただけの事。
いや、人望では無かったかもしれない。
ただ彼女は家族の様な存在で、もう現れない魔王だった。
魔王という枠に彼女を入れる事はできない。
彼女は自由で、賢者とまで呼ばれた魔王だったのだから。
普段幼く見える表情の裏には魔王としての一面もある。
彼女が知った事、彼女が学んだこと。
その全てを、スラルは世に残すことはしなかった。
記した所で何もできず、意味をなさない。
だから、ヒントぐらいという気持ちで記す。
残された本の中で眠る一冊。
その中に記された真実。
それを探し出すのも魔王の務めである。
もっとも、簡単に見つけ理解できるほど安易ではない。
それは試練。
賢者が最後に残した魔王達への試練であった。
「どうした、ケイブリス?」
その場トロスが見たのは体操座りをするケイブリスだった。
「あぁ、トロスか。
なんか、変な気分なんだよ。別に悲しいわけじゃない。
ただ、俺様を認めてくれてた魔王が消えるのは、なんか変な気分だ」
「……それは喪失感か?
なんでもいいが、お前はこれからどうするんだ?」
「どうする?だって? 今まで通りだ。
誰が死んだって、俺様は止まらない。足を動かし続けるさ。
ただ、今だけは休憩するのさ。また歩き出すために……」
そのままケイブリスは立ちあがり歩き出す。
ケイブリスはこの先を歩かなければいけない。
永遠という生の道を行く。
そのための休憩に、ケイブリスは終わりを告げた。
「流石、と言っておこう。
友よ、悲しまずお前はお前の道を往け。
そのための土台は、私が用意しよう」
最初は心配していたトロスだった。
だが、それはケイブリスへの侮辱だったようだ。
ケイブリスの心は強く強固で、魔人としての生き方だった。
彼こそ魔人。
トロスは他の魔人の元へと向かう。
「まあ、カミーラには必要ないな」
「……ふぅ」
メガラスは魔王城の最上にいた。
最上といういい方をしたのは階にいるわけではないから。
文字通り最上。天辺とでもいうのだろうか。
魔王城に屋上は無い。仮にあるとするなら其処にメガラスはいた。
「……死、とは何だと思う?
あの魔王は死んだ。彼女に対し、俺は、役に立っただろうか?」
「死ってのは難しい。それは自己で解釈してくれた方がいい。
そして、もう一つも難しい。
それは、私には答えられるものじゃない。お前自身はどうだ?」
メガラスはただ空を見つめる。
その眼に涙を浮べるわけでもなく、ただ空を見つめる。
「……飛ぶことが、彼女はひどく好きだった。
よく背に乗せていた。命にも従った。
だから、失敗は無かったと、思う……」
「なら、それでいい。お前は素晴らしい臣下だっただけだ。
スラルは死に、次に進んでいくだけだ。
お前も私も、ただ次に進む。それは車輪のように回っていく。
その中で経験する事が強さになる。
お前は強い。それは私が保証しよう」
「……俺が強い、か……。
なら、少しだけ休ませてくれ。本当に、少しの間だけ……」
メガラスはそのままトロスの方に頭を乗せながら眼をつむる。
思いだすのは過去の日々。
魔人としてはいらぬ感情。
今回だけは、その感情も必要だった。
ガルティアは花を持ってたたずむ。
渡す相手もいない。
捧げる場所も無い相手を想う。
「……お前もか。愚痴ぐらいなら聞くぞ」
すこし呆れたように言うトロス。
トロス自身もここまで落ち込む魔人がいるとは思っていなかった。
ある種これは初めての事であり、それだけスラルに人望あっての結果である。
これからは無いとしてもトロスはかなり疲れていた。
それは知らないガルティアは口を開く。
「……アイツは、よく俺に飯を作ってくれてたよ。
お礼だとか言ってたけど、かなり不味かった。だけど、どうですか?って聞いてくるから、美味いって応える自分が馬鹿みたいだった。
俺は、アイツの魔人として、うまくやれてたかって心配になる。
アンタの眼には、どう映っていた?」
ガルティアは馬鹿かもしれない。
それでも、他人を思いやる優しい心をもっている。
魔人になってもその根本は変わらない。
だからこそ悩む。
今までの過去を悔む。
もっと出来たと、こうしておけばよかったと。
意味がなくとも、スラルは自身を魔人にした魔王。
だからこそ、心配だった。
自分の生みの親に、親孝行をするような感覚。
心配だからこそ、他人からの評価が欲しかった。
「出来ていたよ。お前は良い魔人だった。
だから、スラルも喜んでいた筈だ」
だから、こんな軽い口調で言われても納得する。
「……そうか。なら、そろそろお別れだ」
ガルティアは手に持つ花を風に流す。
手を離し、花は風に誘われ空へと上がり飛んでいく。
「感傷なんて、俺らしくねぇよ。
だから、俺の今の姿を世に見せ付けてやるぜ」
誓いなのだろうか。
誇るべきことなのか。
感謝なのか。
彼は、これからも誇り続けるだろう。
自分こそ、魔王スラルに仕えた魔人だと。
「まったく、面倒なものだ。だが次で最後だ」
歩む先。
それはまだまだ青い騎士の元。
彼女は悔む。
自身の騎士としての在り方に。
剣を捧げ、忠誠を誓った主が死んだ。
ならば何故嘆まずにいられようか。
ただ涙の跡を頬に刻み、その場にたたずむ。
何もない場所。
されど此処は誓いの場所。
それは3人しか知らぬ誓いがあった場所。
彼女が騎士となった初めての場所。
何を想っても始まらない。
次に進む選択をしない限り、彼女は騎士ではない。
その場で止まる程度では騎士ではない。
彼女は魔人であり、魔王スラルの為の騎士。
それが、この程度では話にはならない。
それが分かっている。
それでも、彼女は動けない。
思うのだ。
それは彼女を忘れる事ではないかと。
分からない。
まだ若い彼女に応え出すなど不可能。
酷な事に違いない。
だが、出さなければいけない。
他人に答えを聞いても、結局選択するのは自分。
悩めばいい。
今しかできないことがある。だから悩んで、先に眼を向ければいい。
「だからこそ、私は、どうすればよいのでしょうか?」
後ろに声をかける。
其処にいる人物は決まっている。
だが、決して姿は見ない。
あの時、トロスが姿を見せたのはケッセルリンクを認めたからだ。
だからちゃんとケッセルリンクと、彼女に向かって名を言った。
今は昔のように、姿を見せる気にもなれなかった。
「昔のようだぞ。君は答えなければいけない。
これは魔人となった君に対する問いになる。
スラルは死んだ。だから、答えをだせ。それをしなければ、君は騎士では無かったという事になる」
侮るなかれ。
彼女は成長した。
悩み、悔んだ。
その彼女に、答えを出せないなどという事はない。
トロスは予想していた。確信していた。
この魔人は答えをだすと。
自分が彼女に目を付けたことは間違いでないと。
魔人としての在り方はまだ若い故仕方ない。
だが、あと1000年もすれば魔人となる。
自己の確実なる意思をもった存在になると。
「やっぱり、貴方はすこし冷たい気がします。
ならば、言いましょう。私の答えを」
彼女は胸を張る。
「私はかつて言いました。
二人に、剣を捧げると。ならばそれが変わることなど決してないのです!!
我が剣は未だ未熟、されど、再び貴方に捧げる事を許してほしい」
「……そうか。しかし次の魔王はどうする?
君は次の魔王にもその剣を捧げるのか?」
彼女は静かに首を横に振る。
「私の魔王とはスラル様ただ一人!!
次の魔王も、その次の魔王にも従いましょう。
されど、剣を捧げるのは二人だけです。それが、私の誓いであり答えです」
満足気な顔をして、胸をはる。
既に彼女は正面を向いていた。
眼の前には勿論トロスがいた。
「ケッセルリンク。確かに聞き遂げた。
これからも、しっかりやってくれ。お前は私の剣なのだから」
その答えにケッセルリンクは嬉しそうに肯定の返事をした。
「あれ?カミーラ様。一体どうしたのですか?」
七星は己が主に聞く。
カミーラは静かに部屋の窓から空を眺めていた。
普段ならば椅子に座っている場合が多いが今回は立っていた。
「なに、ただ別れを告げているのだ。
私を、魔人筆頭にしたあの魔王に……」
悲しみはなく、ただカミーラは別れを告げる。
「さらば、我を正当に評価した魔王よ。
汝、我が認めし魔王よ。永劫安らかに眠るがいい」
浮かぶのはスラルの笑顔。
カミーラはあの笑顔が報われたような気がした。
そのまま、カミーラは普段通りに振る舞う。
既に別れは告げた。
ならばこれ以上はいらない。
忘れるでもなく、ただ心にその存在を刻む。
それは、魔王の中において最も慕われたであろうスラルの死後のことだった。
オマケ
ス「スラルと~」
ク「……(ククルククルの~)」←喋れない。
ス・ク「魔王ラジオ!!」
ス「遂にこの時間がやってきました。第一回魔王ラジオ。
これは死んだ魔王達のためのラジオです。
尚、これは作者の気分しだいで乗せられます。
連続だったり、結構無い時があるかもしれません」
ク「……(それっていいの?)」
ス「いいのです。ちなみにお便りなどがあれば感想掲示板に
魔王ラジオ用
と先に記入の上で書き込んでください。
内容は何でも構いません。
質問でも、ゲスト希望の方でも、日ごろの悩み。
どんな事にも答えます」
ク「……(お待ちしています)」
ス「……ったく、声が出ね奴は死ね。めんどくせぇ。
ってことでククルククルさんは死にました。
これからは私とゲストで進めていきます。
第一回なのにゲスト?
細かい事は気にしちゃいけません。
それでは登場。現魔王のナイチサさんで~す」
ナ「我、まだ死んでないんだけど……」
ス「ゲストなんで構いません。そんなこと言ってられるほど余裕はないのです」
ナ「ま、まあいい。それよりさっきからこの場所はおかしくないか?
なんか、ぶにょぶにょしているのだが」
ス「当たり前ですよ。だって此処、ククルククルさんの頭の上ですから」
ナ「なんという現状。言葉も出ぬ。
そういえば、アベルという魔王はいないのか?」
ス「ああ、彼ならトロスが殺して行きました。
まあ、作者は生理的に嫌いですからね、存在否定しておきます」
ナ「こんな事が毎回起きるのなら、これはまさにカオスだな。
それともう一つ質問だ。なぜ台詞形式で話が進む?」
ス「簡単に言うならこのラジオではキャラが壊れます。
その際人物が分かるようにするための処置です。
もしかしたら赤字使用もありますよ」
ナ「それなんてうみねこ?
と言ってる間に、そろそろ時間が来たようだ」
ス「へ?早いですね。第一回だから仕方ありませんね。
それでは皆さま。質問、ゲスト希望、ネタの提案、悩み。
など、感想掲示板の方までお願いします。
しっかりと
魔王ラジオ用
という言葉を最初にお願いします。
尚、これからククルククルが出る可能性は無いでしょう。
長くなりましたがこれにて終幕。
第二回をお待ちください。
あとがき
オマケは冗談ではないです。
なんにかあれば感想掲示板の方までお願いします。
不評なら二回目で最終回っていう可能性もあります。
作品の方の感想もお願いします。
それでは次回も番外編です。
その次にやっと本編に戻ります。
ここまでがとても長かった。
書き直しから始まった話も終わり。
これからも頑張ります。