此処はJAPAN。
其処は人が住めた土地ではなかった。
かつては其処も平和な土地であった。
しかし、ある時それは一変する。
それは些細な偶然であった。
本来大陸を支える聖獣達。
その中が一柱、オロチ。
彼のモノはその役目を放棄したわけではなかった。
ただ何故か、もしかしたらオロチには意思があり自らの使命を放棄してでもやりたかったことがあったのかもしれない。
しかしそれは神にも人にも関係の無いことである、
実際オロチなど居ずとも大陸は残りで支える事が可能だった。
ならばオロチは本来必要ではなかったのかもしれない。
JAPANを支えず、オロチは動き、そして重なった。
偶然。それを偶然と言わずなんと言わんとする。
オロチが何かミスをしたわけではなかった。
だが、たまたまオロチは其処に捕らわれるような形になってしまった。
それが悲しきJAPANの悲劇の始まりであった。
オロチの影響によりJAPANは地獄と繋がり地上には多くの鬼があふれ出るようになった。
その妖気によって、人とも鬼でもない存在が現れ始める。
それは妖怪。
人を越え、また力在るものは鬼をも超える存在。
そこで人が生きていくには辛すぎる環境。
大陸で起こる悲劇など此処では霞にも劣る。
このJAPANで生き残る者だけが勝者である。
ただ生き残った者だけが生き残る。
それこそ人が持つ原初の欲望。
その渇望こそが人の一つ。
生き残るという生存本能。
鬼よりも、妖怪よりも、この大地に住まう最も大きな願い。
その想いと共に、彼等は生き残る。
才能限界は伸びて長く連なる。
血を重ねるごとに強くなる。
闘いは殺し合い。
そこに喧嘩などはない。
ただ闘えば生きるか死ぬしかないのだ。
其処は他人が協力せねば生きられぬ。
だが、全てが全てを受け入れるわけがない。
誰が、鬼との子を受け入れようか?
誰が、妖怪との子を受け入れようか?
誰が、生まれも分からぬ狂気満ちた子を受け入れることなどできようか?
――否。
――――断じて否。
在りえぬ事は在りえない。
子に罪はないというかもしれない。
だが、この子や、それと似た存在だけは生まれてはいけなかった。
それが世に生まれる事だけは避ける事が大事だったのだ。
そもそも何故、何故母体が生き残ったのかが不思議といえる。
犯され、種を植えつけられる。
その状態で生き残り、母は子を産む。
死なず生き残ることなど本当に微々たる可能性。
だが、その可能性を乗り越え生き残った母が、数人いた。
その一人の内の子。
それはまさに狂気のようであった。
不思議でならない。
産んだのは人の母だったのか?
それとも妖怪の母だったのか?
それはもう分かる事は無い。
だがその子は生き残り、ただ生きるための毎日が始まった。
世は非情であり、彼の子に安息など与える事は無かった。
だが、諦めず、殺して生き残る。
たまに、偶然で生まれた子供達。
人以上の力を持ち、寿命は軽く超える。
姿は個体それぞれである。
人に近いか妖怪に近いか鬼に近いかそれだけである。
そのような存在は未来のJAPANには存在しない。
だが昔は存在した。
なぜそのような強力な存在が死に絶えたか。
それは寿命だけではない。
それは、また後に語ることにしよう。
ただ、彼らは存在した。
彼らはJAPANの民にこう呼ばれた。
――――――「混じりモノ」と。
鉄は熱いうちに打て。
その想いが砕けぬうちに打て。
まだ命が在るうちに打て。
ただただ一つの願いを叶えるために、頂きに登らんがために打ち続ける。
決して止めることなど許されぬ。
一心不乱に、ただ全てを込めて鉄を打て。
その刀身を完成させろ。
決して曲がらず、折れず、輝きを失わぬように打て。
それを、ただの道具にするか、それとも自身そのものとするかは造り手次第。
ただ打ちて、先を見る。
一つ打てども鳴り止まぬ。
二つ打てども消えはせぬ。
三つ打てども流れが止まることは無い。
四つ打てども悲鳴は止まず、止まらない。
五つ打てどもいまだ頂きには辿り着けない。
――嗚呼、いつになったら、あの頂きに登り、事を成せるのだろうか?――
幾度打てども打てどもまだ足りない。
決して満ちることなどない。
満足するためには、付加しても、何かを切っても足りぬのだ。
頂きに登りて、自身を満足させる夢など叶わじ。
それは夢の中の戯言。
だがしかし、彼女の想いと願い、渇望は全て本物。
それは至高の頂きにいる存在。
ただ切りたくて、そのためにはまだ足りない。
たった一つだけの理由の為に、彼女は刀を打ち続ける。
いや、本当に彼女だろうか?
確かに見た目は女性のそれだ。
たまに出る喘ぎ声のようなものや息遣いの合間に聞こえる声は女性のモノだった。
しかし、彼女の声。
普通に話す時の声は、老人のそれだった。
まったくもって分からず、理解できね存在。
仮に彼女とするならば、彼女は混じりモノであっただけの事だった。
そんな存在に生まれた存在。
ならば彼女が望んだ渇望は簡単に予想がつく。
ただそれを成そうとする彼女こそ異常。
誰しもがそのような願いを持たず、思いつくことは無い。
それでも、彼女は思った。
だからこそ、その頂きに登るために、刀を打ち続ける。
夢を夢と語らず、ただ理想だけではなく、それを現実と成すために。
だがそれにも限界がある。
一人にでするには限界がある。
どうしようもない現実がある。
「ふん、やはり世は無情であり非情という事かね」
どこか自重気味に言う老人のような声。
彼女と呼ぶにはおかしくとも、その姿は女子なのだ。
ならばこれを彼女と呼ばずなんと呼ぶのであろう。
彼女は打ち続けていた刀を水につける。
ジュワーっと水が蒸発するような音と共に彼女はその場に座り込む。
周りにはただ刀を打つための道具があった。
少なくとも彼女にはそう見える。
だが其処に辿り着けば誰しもが驚愕し言葉を出すことはできない。
「そんなモノが刀を打つのに必要なのか?」
と口をそろえて言いそうだと予測できる。
まず其処に辿り着けることはない。
ならばそんな質問もなく心配などする必要もない。
辺りはまだ暗く、朝日も登らぬ深夜。
丑三つ時という時間帯だろう。
「……そろそろ、少なくなってきたかもねぇ。
仕入れが必要って事かなぁ」
だるそうに愚痴りながら背を伸ばす。
そのままダーっと手を伸ばし床に寝転がる。
腕を枕にしながら虚ろな眼をしながら天井を見つめる。
「次に、起きたら仕入れにいくかな。
まあ、起きた後だから、もう考えるのはやめよーっと」
何処か子供の様な無邪気さが残る彼女。
そのまま彼女は眠る。
ひたすらに、死んだように眠った。
結果、起きたのはその時から24時間ほど経ってからの事だった。
トロスはJAPANにやってきていた。
元々来る予定ではあったがナイチサがどうしても鬼が見たいといって独断行動をしたせいで別れてしまった。
大体の位置は分かるが互いにしたいことがあったためすぐに合流することはしなかった。
トロスはただ個人のために、ナイチサも個人の為に動いていた。
トロスただ期待をした様子もなく歩く。
このJAPANで成果があるとは思いもしていなかったから。
そもそもトロスはあまりJAPANについては詳しくなかった。
そのせいもあってか特に見回ることもせずに歩いていた。
だから、この出会いは在りえぬ筈だった。
彼女が起きる時がもっと早く、もしくは遅かったら会うことなど最早無かっただろう。
トロスがその道を歩かなければ彼女に合う事は無かっただろう。
だから、運命なんて言葉を使ってもいいじゃないか。
出会いは突然であり衝撃的。
彼女はただ血だらけで美しく、トロスはただその姿に魅せられた。
「これはこれは、また変わった存在が出たものよ。やはりこのころの刻というものは愛おしいと思ってしまう。なんせこの様な出会いがあるのだから。
なあお主、名を、教えてはくれないか?」
老人の声であろうと、トロスは驚きもせずただ彼女を見つめ応える。
「私の名はトロス。魔人と呼ばれるものだ。
そして、君に感謝を送ろう。私と出会ってくれた事に感謝を。
そして、君に名を聞こう。できれば応えてはくれないか?」
その問いに彼女は頷く。
満足気に頷く。
その眼に映るのはトロスであり、歓喜の気持ち。
お互いが感覚だけで理解した。
トロスは思う。
彼女こそ、自分が探し、求めたい思うほど逸材であると。
彼女は思う。
この者こそ、自分が先に進むために必要な存在だと。
「トロスよ、魔人とは何か儂には分からんが、おそらく強大な存在なのだろうよ。
それほどの存在に、名を聞かれたのならば答えよう。
儂の名は、虎眼。虎眼真傀(こがんしんかい)。人の姿をした鬼よ」
彼女は鬼に在らず。
ただ半妖のような存在。
人を書きて鬼を表す。
真の人の姿をした鬼。
故に傀である。
真傀には名の意味など関係ない。
誰がどう思って名づけようとも、彼女は彼女だから。
故に名乗るのだ。
堂々と胸を張り名乗る。
真傀の名を表すものはこの世でただ一人、彼女を置いて他になし。
トロスが来る少し前。
彼女は森の中に立っていた。
時間的には危なき刻。
この世の鬼が最も多く彷徨う時間だ。
「ヒャッハァァァァー!!」
「オブツハショウドクダー!!」
モヒカンではなく頭に角を生やした鬼達は我がもの顔で暴れる。
この時、彼女を見つけなかったのら生きられた。
いや、どちらにしろ彼女に近づいてしまった時点で鬼達の末路は決まっていた。
鬼達が好き勝手しているのに理由は特にない。
しいて言うならば人間の女に子を孕ませる事ぐらいだろう。
そのために女を探す。
そして、声を止めて見つけてしまった。
その悪魔のような女性を。
「ふむ、釣れたのは鬼風情か。しかも下級か……
まぁよい。ちょうど切らしておったところよ」
その声が正面から聞こえた時、鬼達の時は止まったかのように遅くなった。
一体が気づけども叫ぶことさえ叶わなかった。
思考が止まる。
それは人外といえど仕方ない。
まったく想定外の事が起こったのだから。
いきなり仲間が血を流し倒れ伏せばどうなるだろう。
いきなり人間が刀を持って切りつけてきた時、鬼達は思考が止まった。
馬鹿だから、理解できないから、まともな行動ができなくなる。
予想外の奇襲こそ決定打になりうるのだ。
それに下級程度の鬼が何かしらを出来るわけがない。
気づけばもう一体が切り伏せられた。
信じられずも理解するしかない。
自分達はあの女に皆殺しに合おうとしていると。
「んッん~、喋り方が違ったか?貴様らは別の喋り方の方がよいかのう。
こんな感じで無邪気な方がいい?僕はどっちでもいいよ~」
ただ声色は変わらず喋り方が変わる。
それは彼女がこの地で生きていくために手に入れた技能。
そんなものでもなければ生きてはいけない。
それほどまでに、この地で生きていくには過酷すぎるのだ。
それは以外にも便利なものだった。
それを変えるだけで寄って来るものがいた。去る者もいた。
来る者はただ殺し、欲しい物を奪う。
まだ力が無かった頃など奇襲ぐらいしか攻撃方法がなかったから。
それは既に過去のこと。
今となっては要らぬもの。
ただ相手を挑発するように言う。
それはある意味相手を試しているのだ。
それだけで怒り襲ってくるようならば器がしれる。
所詮その程度という事で終わる。
ただ切り伏せられ死ぬ。
「どうした、何か言うがいい。ただしその時は素晴らしい断末魔で送ってくれ」
鬼は喋らない。
あるのは恐怖と対抗心。
残った鬼達はただ拳を握り反撃の機会を窺う。
このまま仲間を殺され逃げるなどという選択肢はない。
鬼とは魂を浄化するための存在。
彼らはルドラサウムに魂を献上する存在。
たとえ下級といえど、プライドが引くことを許さなかった。
その態度に、彼女は満足した。
彼女は鬼を切りその血で汚れてもそれを拭おうとはしなかった。
その銀のような髪にゆっくりと赤が浸透していく。
辻ヶ花であしらった浴衣のような着物のような服にも浸透する。
その月夜にて、彼女の赤い瞳は輝いていた。
満足そうに頷く。
眼を閉じ数回頷くと、彼女は何処か酔ったように雰囲気を出して眼をあける。
堪能し終えた様に、彼女は刀に手を掛けた。
「――人に逢うては人を切る。
――鬼に逢うては鬼を切る。
――神に逢うては神を墜とす。
儂が打ちし、刀の真理は此処に在り。
今宵の虎徹は――――――血に飢えておる」
さらば鬼よ。
この時鬼達は、自身の死を見る事になった。
彼女が打つ刀に、殺せぬモノなど何もない。
ただその体に血が張り付いた状態で立つ。
まだその体は滾り収まらない。
だから感じるのだ、まだあると。まだ何かがあると。
そして、その予感は的中する。
彼女が打ちし至高の刀を抜く時がきた。
それほどまでの存在。
先に行くための門番という印象。
なんせ彼女の願いとは、神を自身が打った刀で切り、その地位から墜とすことなのだから。
あとがき
なんか疲れた今週の内にもう一本投稿したいですが難しいです。
たぶん無理。
まあこの作品は予想通りに行く事なんてありませんでしたけどね。
これからはオリジナルの話が増えそうです。
特に人類との闘いはオリジナル。
てか設定しか残ってない。
これでアリスソフト様に設定変更されたら泣きます。
オロチの説明っていりますか?
大体の方は分かってると思いますが
詳しく知りたい方がいるなら感想の方に行ってください。
次回の更新の時に書きます。