「……ハァ、ハァ、……ふぅ」
荒い息をしながら男は近くの気に背を預ける。
男は息を整えながらゆっくりと眼の前の女性を見た。
「へ、へへ。絶対に、言うものかよォ……。
こんな事は絶対に教えてやるものか。教えるわきゃぁねぇ」
男は体を震わせながら自身の体を抱くようにして腕を抱いた。
それは恐怖?それとも悲しい事でもあったのか?
否、そんなもの微塵も感じていない。
今この男を支配しているのは歓喜。
圧倒的な歓喜。
それは誰にも止められないほどの感情の流れ。
それを発見した男は歓喜した。
ただ襲っただけだった。
ただ犯しただけだった。
彼女の全てを蹂躙しただけであった。
その時、男の興味を引く現象が起こった。
それは変化だ。
ただ色が変わった。
その額に埋まりし宝石の色が変わった。
男はそれに魅せられ手を伸ばす。
下にいる女性の事はお構いなしで手を伸ばす。
彼女がどんなに拒否し、抗おうと無駄。
そんなチンケな力でこの男を止められるわけがない。
今この人間を支配しているのは好奇心という感情だけ。
それは時に身を滅ぼすほど絶大な力を持った感情なのだ。
故に必然。
彼女がその額から宝石を抜かれる。
色が変わった宝石を手に取った瞬間、彼女は死んだ。
だがそれにも眼もくれず、男はただ手の上に在るソレを見つめる。
それを、男はごく自然な動作で、そのまま手のひらに叩き付けた。
何を思ったかは分からない。
それはこの男にしかわからない。
まるで使い方を知っていたように、男は自然にソレを使用した。
その時、男の人生が変わった。
力も、何もかもが変わった。
以前の自分とは比べようもない力。
だからかもしれない。
男が馬鹿なことを思ったのは。
何故これだけで満足しなかったのだろう。
それが人間。欲望こそ満たす事が無いのが人間。
故に、男は思った。
(もっと、欲しい)と。
愚か、欲が過ぎたがためにこの男の命運は決まった。
そして、男は念願の二個目のソレを手に入れ、木に体を預けていた。
「これで、完璧だ。俺は、このクソッタレな世界で、生き残れる。
いひひひひ。ざまぁみやがれ。俺は、生き残る……!」
なんて様だろう。
せっかく誰もしらない事を知り、
この時代において間違いなく最強のアイテムを手にしながら、
彼は最後に慢心した。
最後まで眼を滾らせていればいいだけの話だったのに……
「……ならば、私は最高の憎悪を剣に籠め、汝にこれを突き刺すとしよう」
そんな女性の声がした瞬間、男の咽に銀の色をしたものが突き刺さった。
「!? ッガハ、ヒュぅ。 ぐそ、な……」
言葉でない。
出せるわけがない。
その潰れた咽からは血が吹き出て、言葉を成そうとする事は不可能だ。
それを分かっていない男は必死に声を出しながら、手を伸ばす。
喉にソレが突き刺さった状態でも、男は体を前に動かし手を伸ばす。
その女に、聞き取れない呪詛を吐きながら近づこうとする。
それほどまでの執念。
生きたい、死にたくないという想い。
だが想いだけで人は生きられない。
男はそのまま何も成し得ぬまま、事切れた。
「……すまない。我が同胞よ、救えなかった私を許してほしい。
せめて、私からたむけとして最愛の炎を君に送ろう」
カラーの死体に火をつける。
これ以上その姿を此の世に残さないために。
「またか。また私は救えなかった。
でも、諦められない。私がしなければ、一体誰が救えるというのか…!」
剣、レイピアと混合したような剣から血を拭いさり彼女は鞘に納める。
そして手を力一杯握りしめる。
無力な自分を呪いながらも助けるという行為を続ける。
それは自分が他の者よりも力があるから。
それは自分の価値観の違い。
カラーである彼女は常に自らを騎士としていたかった。
なのに同胞を守れず、その刃を捧げる主君すら見つけられない。
その姿を騎士と言うにはあまりにも無様だった。
「……本当に、何故だろうな。
もしかしたら、お前以外の誰かがするかもしれない。
もしかしたら、お前がしていることは無駄かもしれない。
ならば何故、何故救おうとする?
その小さな手につかめた者などなにも無かったではないか。
誰も救えず、何もできず、自分を過信した騎士よ、
お前は何故その行為をやめないのだ?」
声がする。
彼女がこの声を聞くのは初めてではない。
そしてその姿を見たことも無い。
ただ声しか聞こえない。
探そうとしても見つからない。
決して見つける事はできない。
だがその声の主は彼女を傷つける事もなくただ疑問をぶつける。
そのほとんどが正論。
彼女が言い争いで勝てたことはなかった。
「……ふん、知りたいのなら私の前に姿を現せ臆病者め。私がこの手で葬ってやろう」
「その言葉は答えられないといっているようなものだ。
だいたい、私が姿を見せずとも君が探せばいいだけの話だ。
まあ、それすらできないからそうして虚空に叫ぶことしかできない。
まさしく今の君だ。無力な自分を嘆き謝ることしかできない。なんとも哀れじゃないか」
まさしく正論。
彼女がいくら言おうと姿なき者は気にもしない。
ただ平然と言葉を返すだけ。
罵詈雑言を吐いたことはないがそれでも相手が怒るというのが想像できない。
「私が、私があのカラー達を救わなくてどうする。
まだ秘密に気づいたものは少ないが確実にいるのだ。ならば救わなければならない。
どんな事をしても、相手を殺してでも助けなければいけないのだ」
「救う?今まで誰かを救えたのか?
少なくとも私が見たのは君が死んだ同胞を火葬したところしか見ていない。
それに君はどんな事をしてでもと言ったがしていないではないか。
どんな事でもするならどんな手段を用いてでも力を手に入れろ。
さすれば今よりかは救える者が増えるぞ」
これもいつも同じような会話。
所詮行き着く先は彼女の負けと決まっている。
「それは私ではない。
私が私の力をもって成し得るから意味がる。それこそ騎士ではないのか?
正義を掲げて戦うのはいけないことなのか?
同胞を救おうとする私は正義ではないのか!?」
問いかける。
ただ問いかけなければいけない。
その答えによっては、今までの自分が破壊されてしまいそうだから。
心が弱い彼女は聞かずにはいられない。
「問いかけに焦りが混じっているぞ。まだまだ青いなぁ。
だから何も救えず、何も成し得ないのだ。
騎士についてはしらんが君が騎士と言うのなら君は騎士なのだろう。
だが、正義など誰が決める。君が行っているのは殺人だ。
それを正義と言うのか?
救うためなどと理由をつけて自分を保護しようとしている。
所詮君は自身の意思で救おうと思ったことは無い。
ただ自分が騎士だから、騎士でありたいから救うんじゃないのか?」
「……ッツ」
反論できない。
彼女は分からなくなってしまった。
何が正義で、騎士で、自身の意思で、正しいことなのか理解できない。
もう頭がいっぱいで何も入らない。
今までの自分が否定された様であった。
今までになかった会話。
それによって彼女は変わろうとしていた。
「……ッ、ならば、ならばどうすればよかったのだ!
私は騎士としてどう生きればよかったのだ……!」
「知らん。まったくもって知らんよ私は。
それは君が決める事だ。少なくとも私は色々と言っているが君の生き方は正しいと感じる。
後は君が君を認めるだけだ。
答えを出すのは君だ。私から言う事は今はもう無い、自分で答えを出せ」
何故かその声の主は助言的な事を言って消えた。
姿見えずとも分かる。
それが毎晩のように続く行為だから。
それは彼女が答えを出すまで決して終わることは無い。
某所。
誰にも知られることなくその青年は剣を研ぐ。
小さな小屋の中で剣を研ぐ。
その意思はたった一つのために動く。
復讐という火種をもって点火された彼の心はもう止まらない。
復讐を成し得るまで、その体も心も止まらない。
止めるためには殺す以外ないだろう。
そんな少年が、暗闇に話しかける。
「……アンタか、何の用だ?」
その問いに、暗闇から応えが帰ってきた。
――そうか、君はそれを選んだか……。
本当に、それを選んで後悔はしないのか?――
「それは、愚問っていうんだぜ。
これでいいんだ。後悔するわけがない。
こんな事する切っ掛けをくれたアンタには感謝している。
真実を教えてくれたアンタは、一体何がしたかったんだ?」
――何も。ただ君がどうするか知りたかった。
だから君の兄の本当の死因を教えた。
その結果がどうなるかを知りたかっただけだ――
「きひひひひ、やっぱアンタはおかしいな。
だが、そのおかげで俺はこうして復讐できる。
兄貴の仇を、たった一人の肉親の仇をとることができんだからよォ」
――……君の兄は、カラーの女性を犯し殺した。それに対して殺されたのに仇を討つのか。
それでいいのか?君の兄はやってはいけないような事をしたんだぞ?――
「アンタからそんな事が聞けるとは思わなかった。
だが応えるよ。兄貴はさ、俺を守ろうと力が欲しかったのさ。
いつでも生を願い、この俺達を産んだクッソタレな世界が嫌いで、見返す力が欲しかった。
なら、殺された兄貴じゃなくて、そうさせた世界の方が、俺は憎くて憎くてしょうがない。
だから、殺した相手を殺して兄貴に対して最高の土産を用意してやんのさ」
――なるほど、君は私ともかなりズレタ考え方をもっているようだ。
だが、相手は強敵。死ぬかもしれんぞ?――
「それなら兄貴の所に行くだけさ、それならそれでいいんだよ」
――誰かが言った。殺し合いは終わらない。
殺った殺られたを繰り返しているから殺し合いは終わらない。
だから誰かが相手を許さなければおわないと。君は相手を許さないのか?――
「はぁ?馬鹿じゃねぇのソレ言った奴。
そんな事言えるのは殺られたことがねぇからだ。許すのは相手に対する気持ちが弱いからだ。例えば愛する人、誰でもいい。恋人、妻、妹、姉。
彼女らが見知らぬ男に犯されてぐちゃぐちゃにされて、殺されて、それで相手を許せるか?
それが、俺にとって兄貴だっただけ。そこに正義なんてない。
ただ、この想いを治めたくて、相手をぶっ殺したいだけだ」
――君の兄が殺した相手にも家族がいたのかもしれない。
だから復讐をした。それでも君はその相手に復讐してもいいんだな――
「その通り。それは仕方ないことなのさ。
それが人間の関係。いや、これには人種とかそんなのは関係ねぇ。
もしそれに正義を掲げる連中がいたら笑ってやらぁ。
そいつらは自分達が同じことをしてるのに気付かないクズだ。
自分だけは正しいと心から信じてる狂人なのさ」
――……そうか、そこまでいうなら君が辞める事はないだろう。
ならば、頑張ってくれたまえ。相手は強いのだからな――
長い喋りが終わり、彼は一息ついた。
もはや其処に先ほどまで相手をしていたモノはいない。
彼は自身の剣を見ながら呟く。
「心配したのか?いやねぇな。アイツは俺がこうなることを望んでた。
きひひひひ。だってこんなもんだって置いていくんだからなぁ」
それを手に取り眺める。
それは綺麗な蒼の色をした宝石。
彼の兄が初期に持っていたもの。
彼は兄と共に闘う為に、その宝石を使うことにした。
「ふぅ、喋るだけというのも疲れる。
そろそろ、私自身が出る時なのだろうな」
椅子にすわるのは魔人。
たった一人の魔人が椅子に座っていた。
「あれ?トロス、何をしているのですか?」
トロスが座っていた部屋の扉をあけるのは魔王スラル。
何処か幼げで、か弱き少女の面影を残した魔王が問う。
「もうすこしで、もうすこしで貴女に仕える者が増えるかもしれません」
「え?それってどうゆうことですか?」
分かっているようで分かっていない魔王は問う。
「……聞くよりも、行きましょうか。
もうこの喜劇も終盤。短い劇なれど彼らの物語は続いている。
せめて最後は看取ることにしましょうか」
そう言ってトロスは椅子から立ち上がる。
「えっと、だからどうゆう事ですか?」
事情が分かっていないスラルを無視してトロスは近づく。
そしてそのままスラルを胸の中で抱える。
まあ、お姫様抱っこ的なことをしている。
「へ?な、何をするんですかトロス!?」
「お静かに、舌を噛むかもしれませんよ」
有無を言わせずトロスはそのまま背中の翼を開く。
大きく広がったソレは、劇の舞台に急ぐ。
既に終盤。ラストはどちらかの死で飾り、終わりを迎える。
あとがき
まさかの二部構成。
なんか分かりづらい話なきがします。
どうでもいいことだけど妖怪大戦書きたい。
そこまで進めるには長過ぎて疲れたお。
お町さんとか正宗とかノワールとかノワールとか書きたい。
ただし其処に行くまで設定変えてるんだけどね。
とりあえずナイチサ完結目指して頑張ります。
しかし書き直しなわけですけど難しいですね。
誤字等あれば報告お願いします。