現実は時に無情であり、時には奇跡を起こす。
ああ、なんて現実は矛盾だらけなのだろう。
第十一話
とある世界、俺はあるトラウマを克服しようとしていた。
「おろろろろろろろろろ」
「キャア、オージンさん! しっかりしてください!」
「クキュー!」
俺は早速この世界で吐いている途中である。
いや、やっぱトラウマってヤバいね。
なんでこうなっているのかというと、フリードの竜魂召喚による実験をしているからである。
ついでに俺のトラウマ克服を。
あれから2年の時が経った、新暦73年、今この時である。
「あ、あの、大丈夫なんですか?」
「あ、ああ。最初の方に比べればまだ大丈夫だよ」
「クキュー」
「でもオージンさん、ドラゴンなのにドラゴンが嫌いなんておかしいですよね」
「あ、ああ。昔殺されかけてね」
実際殺されました。そんで憑依し殺してこの体を得ました。
なんて言っても信じてくれるはずがないので、殺されかけたことにした。
ぶっちゃけ管理世界では幽霊だとかそういうオカルト話は信じられていないので、信じてくれるはずもないし、言っても俺にとって嫌なことばかりを思い出させるので一度死んだということは隠している。
だが俺がドラゴンであるということは話してある。元人間ということも。
詳しいことは話していないが、おそらくキャロは呪いで竜にされてるとでも思っているのだろう。
まあ確かに呪いといってもいいかもしれない。
だが俺は実は弱点があったのだ。
それはキャロがフリードを竜魂召喚した時のことである。
俺はフリードが真の姿になって、俺はトラウマを思い出し、発狂しかけてしまった。
今まで気付かなかったが俺はドラゴン恐怖症になってしまったのだ。
まあ俺は目の前で、ドラゴンの大顎に迫られた経験があり、そして殺された経験があるのだから。
だから大型のドラゴンを目にすると俺はその時のことを思い出し、発狂しかけてしまったのだ。
多分、俺自身、変身魔法を使ってない時に鏡を見ると発狂してしまうだろう。
それくらい酷いのだ。俺は変身魔法を使ってないと鏡を見ることさえできない。
しかもこのトラウマは相当根強いらしく、フリードの真の姿の場合は吐くだけになるようなっていたが、それ以外のドラゴンは下手すると発狂しかねない。
特にフェンリール・ドラゴンの姿に似ているドラゴンほど、四本足のドラゴンを見ると恐怖してしまう。
フリードは四本足ではないが、実質似たようなものだ。
だから最初の方は苦労した。訓練して今は吐くだけになっているが。
それにしても俺が今の体になってから、キャロのフリードを見るまで今まで他のドラゴンを見たことがなかったからな。
だからあの時に自分がドラゴン恐怖症だと分かってホッとした。
もしも他の時だったらあの時と同じように俺は食われていたかもしれないし。
だから俺はなるべくドラゴンには関わらないようにした。
もうアルザスに来ることもないだろう。
因みに現在キャロはケリュイオンを持っています。
勿論ブーストデバイスです。ブースト系は召喚師にとって必要ですよね。
「ああ、とにかくまだ俺は竜は駄目らしいわ。
今日はここまでにしとく。ありがとな、キャロ、フリード」
「は、はい」
「キュクー」
なんとも明るい笑顔だ。心がほかほかしてくるそんな笑顔だ。
――今一瞬、光源氏計画とか頭に過ぎった気がする。
どこの変態だよ、俺は。俺はロリコンじゃない。
あ、でもそれだとファナムの時もそうなんじゃないのか?
いや、でもあの時体は同い年だったし。
――今の体は変身魔法でなってるんだぜ。
キャロと同年代に変身すれば無問題よ。
誰か追い出せ、この煩悩を!!
おんあみりたていぜいからうん、煩悩退散!!
そんな感じのやりとりが頭の中で起こっていた。
「それじゃあご飯作ってきますね」
「おー、よろしくなー。キャロー」
「キュクルー」
因みに炊事は全てキャロに任せてある。
俺に料理などできるわけがなかろうが!!
なんせ俺の前世は普通の大学生。
料理を作ってもらうのなんて母ちゃんに作ってもらい、一人暮らしを始めてから作ったのはチキンラーメン、カップラーメン、冷凍食品。
しかも主食は外食、もしくは学食ときたもんだ。
転生してからも俺は母親か、もしくはファナムに作ってもらっていた。
で、憑依してからは人間への変身魔法を上手くできなかった頃は野生生物を狩って食ってました。
近づくのが嫌なので魔力弾を遠距離からガンガン撃ってました。
近づいたら確実に反撃されるもん!! 痛いのやだもん!!
安全地帯からの遠距離からの魔力弾による攻撃で相手の死亡確認してから生で食ってました。
いや、最初の頃は吐いてたけど慣れって怖いよね。
人間になってからも基本は外食か、狩ったものを焼いてか。
とにかく料理なんて一切覚えなかった。
そのため俺には料理なんてできやしない。
そういやなんでオリ主って料理できる奴多いんだろ?
――オリ主は基本完璧だから。
なんか変な妄想が湧いて出てきた。
悪かったな、完璧じゃなくて。
そんなこんなでキャロが必然的に料理ができるようになっていったのだ。
因みに俺の鱗、実は結構貴重で高く売れるので金の心配はしていない。
金の消費スピードよりも俺の鱗が再び生えてくるのが早いし。
キャロはまだ料理はできる。という程度の腕だ。
感嘆するほど、だとか感動するほど、だとかいうレベルの料理はさすがに作れない。
だが家庭料理っぽさの、懐かしい、そんな味があるのだから毎日食べたくなるのは必然だ。
そういうわけで俺とフリードは基本的にキャロに料理を作ってもらっている。
金も十分というわけではないが、それなりにあるしね。
ぶっちゃけ危ないことはしとりません。
どっか落ち着けるとこに暮らしたいな~、ぐらいには思ってたりしてます。
そんなこんなで平穏な暮らしをしております。
「……やっぱ、1人じゃないっていいな」
人は1人では生きていけない。これは真実だ。
俺は確かに1人で生きていけるだけの力を持っている。
でも1人で生きていられるだけの心を持っていない。
だがそれは決して弱いということではない。
俺がまだまだ普通な人間である証拠なのだから。
俺はあの頃少しおかしかったんだろう。『孤独』に怯えて、同時に『死』に怯えて。
もう『孤独』じゃなくなった。
ファナムと一緒にいたかったけれど。
でも『孤独』じゃないのって、誰かと一緒にいるのって、素晴らしいことだと、俺はそう思う。
今の俺は心が晴れやかだ。
――あの男をそのままにしていてもいいのか?
どうだっていい。実感がわかない。
殺されたことを思い出そうとすると食われた時の痛みと『死』の経験が蘇ってくる。
だから考えるな。
法的に奴を裁くなんて真似は俺にはできないし、物理的に復讐しようとすると管理局が邪魔になる。
それに今の俺に――そんなことをする度胸すらもない。
今の俺は圧倒的な魔力がある。
でもだからといって威張り腐るな、油断するな、増長するな。
今の俺はただ単にほぼ無限の魔力を引き出せるだけの、ただの素人だ。
俺はおそらくスターライトブレイカー級の砲撃でさえ防げるシールド、核すらも凌げるプロテクション、スターライトブレイカ―よりも圧倒的な破壊力のある砲撃、天をも覆い尽くすシュータ―を生み出せる魔力。
でも俺には空戦適正はないし、なによりバリアジャケットなんてグングニールの容量をの大半を注ぎ込んであるが、それでも破れることはできるレベルだ。
なんせ方式形成があるからこそこういう真似ができるのだから。
だが方式形成は外側にある魔力を直接魔法に変換する竜技能。
内側から働きかけるタイプに使用することはできない。
分かりやすくいうならばブースト系魔法やバリアジャケット系、回復魔法には転用できないのだ。
他にも俺は精密な技術が必要とされる魔法は使えない。
ただ単に圧倒的な魔力で足りない部分を補っているだけなのだから。
俺の術式はほぼ穴だらけ、ただ単に書いてあった魔術式をそのまま丸写しで使用して、足りないのを神域の魔力から展開導入するだけなのだから。
だから不意をつかりたりすれば、俺はただの素人で、負ける。
戦闘すらもできない。
何よりも俺は、戦うことが怖い。
だから復讐する気すらも湧かない。
ゾークを殺したい気持ちだってある、そういった憎しみだってある。
でもそうやって復讐しようと立ち上がろうとする度に、俺は脳に『食われた経験』が蘇ってくるのだから。
だから今の俺にそんな勇気はなく。
それに今更この平穏を崩すのも嫌で。
今はただこの平穏な中を生きていたい、そう願っているだけである。
ただそれだけでいい。
『オージン=ギルマン』の時には叶えられなかった願いを、『オージン』は叶えるだけなのだから。
「できました。オージンさん」
「ん。それじゃあいただこうか」
そういうわけでいつもの通り、いただきますをすることにした。
キャロとフリードは知らなかったが、俺の真似をするようになってキャロたちも手と手を合わせていただきますをする。
「「いただいます」」
「キュクルー」
キャロの料理を食べる。
ああ、やっぱ美味しい。人が作った手作り料理ってのは美味しいもんだよな。
手作りの温かさってのが心にしみる。
2年間も作ってもらっているが、この暖かさってのはどうしようもなくいいものだ。
やっぱり平穏ってのはいいな、俺は心の底からそう思った。
キャロとフリード、俺の生活は続いていく。
願わくはこの平穏がずっと続いていますように。