「あかん、またや」
「どうしたの? はやて」
ここは管理局。
そしてここでは久しぶりに夜天の王は金色の死神と出会っていた。
しかもその夜天の王たる彼女はとある事件に頭を悩ませていた。
「ああ。実はな、最近犯罪魔導師がな、犯罪起こしたとこである魔導師に返り討ちにされてばぁしとんのよ」
「え? それっていいことじゃないの?」
魔法を、皆のために使っている八神はやてやフェイトにとっては犯罪魔導師は許せてはおけない。
彼らのせいで世界中の皆が苦しめられているのだ。
だからそういった悪い奴らが勝手にある魔導師にやられているのだ。
管理局の魔導師でないのは残念だが、それでもそういった人のお陰でそういった犯罪者が捕まってくれるのだ。
いいことではないか。
「まあそやねんけどな。ただ、この魔導師が返り討ちにした後な、その犯罪魔導師は須らく皆、リンカーコアが抜き取られとるんや」
「ええ!?」
リンカーコア。
それは魔導師にとって最も最重要な部分。
魔法を使うものにおいて絶対必須なものであり、これがなければ魔法を使うことなどできぬ、魔法を使うための器官。
これがなくなってしまえばどのような存在でさえ魔法を使うことはできない。
それはつまり犯罪魔導師にとって魔法を使うことはできなくなるのだ。
それは再犯の心配もないが、管理局の奉仕すらできなくなるということも示している。
「こっちはそのお陰で助かっとんのやけどな。
ただ上がうるさいんよ」
魔法主義者の上層部にとってはこんなのは不愉快この上ない。
倒すだけでいいのに、なぜわざわざリンカーコアを抜き取っていくのか。
これでは犯罪者を再利用できないではないか。
と思っている。
因みに上層部は「どうして犯罪者に立ち直る機会を与えてやらない」といった感じで下の者に言っている。
まあバレバレなのだが。
「ほんま、どないしょーか」
こんなものよりもずっと危険な犯罪者だっている。
確かにこの魔導師も危険といえば危険だが、それでも重要な魔導師でもない。
今のところ、こういった犯罪者を返り討ちにしている程度なのだし。
「そうだね。もっと危険な犯罪者だっている」
たとえばフェイトがずっと追っている犯罪者。
だが上層部はそれを重要と考えていない。ただフェイトが少数、または一人で頑張って捜索している。
それでもきっと捕まえる。
そうフェイトは決意していた。
第十二話
とある管理外世界のとなる田舎。
そこは管理外世界であり、リンカーコアが生まれる者が少ない世界だ。
そんな世界で、火の手が上がっていた。
「ぎゃはははははは!!」
「犯っちまえ、殺っちまえ!!」
「ぎゅははははははは!」
「う、うわぁぁぁぁ!!」
「た、たすけてぇぇぇぇ!!」
そこは地獄。
そこは現実の世界でありながらも、地獄といわれて信じられるだろう。
抵抗した者もいた、だがあらゆる抵抗も彼らのバリアジャケットに防がれ、スフィアによって頭を撃ち抜かれた。
逃げ出した者がいた。全てバインドで捕えられ、男は殺され、女は犯された。
ぶるぶると震えている者がいた。問答無用で犯られ殺られた。
ただ無慈悲に、魔導師の手によってやられていく。
抵抗する術すらもなく、ただただ魔導師たちのいいようにされていくだけ。
「な、なんで、なんでこんなことができるんだ!」
「この悪魔!!」
「う、うえぇぇぇぇぇぇん!!」
ただ叫ぶ。非難する。それだけしかできない。たったそれだけしかできない。
抵抗することすらできないのだから。
ただ泣き叫ぶこと、怒りに任せて怒鳴ることぐらいしかできない。それくらいしかできない。
だが犯罪魔導師たちはそんな言葉などまるで聞いていない。
だがその質問の答えをせっかくだから答えようとする。
無視しようとしていたが、仲間の1人がそれに答えようとするので注目してみる犯罪魔導師たち。
「はあ? んなもん、自業自得に決まっているだろ」
だが答えた内容はあまりにも――
「お前ら、幸せになりたきゃ魔導師として生まれてくりゃ良かったんだよ。
なのに非魔導師として生まれやがって。バカだなぁ、お前ら」
「ぎゃははははは、そうだな、そうだよな!」
「ふ、ふざけるなぁ!!」
「あげくに逆切れかよ。逆恨みもそこまで来ると勘違いも甚だしいな~」
「ぎゃははははははは!! その通りだ、その通りだ!」
魔導師たち全員で爆笑している。
こんなことは当たり前なのだ、彼らにとってみれば。
だがそんなことが許されるはずがない。
だがいくらそう言ったところで力で、魔法で無理やり押し通そうとするだけだ。
非魔導師では魔導師相手に相手になりはしないのだから。
耐えることができなかった、それでも耐えるしかなかった。
耐えられない、それでも耐えるしかない。
ただただ嘆くしかない。ただ蹂躙されるしか、彼らに運命はなく。
もう嘆く以外になにひとつ、できることがなくなって――
「ディステニー、起動」
『Yes,master』
金色の輝きを纏いし戦士が現れた。
そして――
「ディステニー、ギルガメッシュ」
『Yes,form change! Gilgamesh form!!』
彼女が持っていた斧は分解され、数千もの短剣に分解されていく。
それはフォームチェンジ。
数千にも分解された短剣の一本は彼女の手に収まり、そして告げる。
「貫け」
『Go!!』
彼女が命じると同時に、魔導師たちに突き刺さった。
それはあらゆるを封じる幾千もの刃、相手に抵抗する暇すらも与えない。
「な、なんだ!? う、うわぁぁぁ!!」
そのたった一度の命令により襲い掛かった数千もの短剣は二十二人いた魔導師のうち、十六人も戦闘不能状態にした。
たった一度で、十六人もやられた。
それは彼らにとってはショックも同然だった。
残っているのは六人。だがその六人はこの一団にとっては飛び抜けて実力者。
だからこそあの短剣の雨を耐え抜くことができ――
「デステニー、デバイスチェンジ、シャイニングハート」
『Yes,device change! Mode [ shining heart ]!!』
そう命じると同時、さっきまで短剣だったものが集まっていき,斧に戻る。
だが斧はその形を変え、杖へとその姿を変える。
ただ美しく、だが輝く魂がその杖に宿っている。
今はただ、それを放つだけでいい。
「主、今一度、貴女の杖を握ることをお許しください」
そして振るう。
「な、舐めるな! 全員でやっちまえ!!」
「お、お――」
「反撃する暇すら与えぬ。ただ灼き尽くせ、ソウルライト、ブレイカー」
それは魂の輝き、ただその一撃で相手を屈服させる圧倒的なまでの魔力。
実力差があるなんてものではない。格が違う、桁が違う、次元すら違う。
ただただ圧倒的までの力の差だ。
相手が反撃する力すらも奪ってしまう、圧倒的なまでの力の差。
挑もうとする気すらも削がれてしまう。それほどに圧倒的な力の差が、彼らにはあった。
これが、これが力の差なのか。
抵抗する手段すらも奪ってしまうほどまでの、力の差なのか。
「や、やめろ! やめるんだ!
お、俺たとは、ま、魔導師なんだぞ!
選ばれしものなんだぞ! な、なのに、なのにどうして魔導師にならなかったこいつらを庇うんだ!
悪いのは魔導師にならなかったこいつらなのに!」
だがリーダー格の男はここでもまだ惨めに悪あがきをする。
なんと惨めなのか。だがこの男は心底心の中から信じている。
悪いのは魔導師では非魔導師なのだと。
魔法を使えばよかったのに、使わなかった奴が悪いのに、使えないといって。
「こ、こいつらが悪いんだ!
リンカーコアがない!? 魔法が使えない!?
そんな言い訳で魔導師にならなかったこいつらが悪いんだ!? な、な、だからさ――」
なんという惨めな言い訳なのだろうか。もう既に言い訳にすらなっていない。
最初から期待などしていなかった。
だがこうも惨めだと、こうも醜いと、期待すらしていなかったことすら生温いとすら感じてしまう。
もうどうでもいいだろう。その口を開くな、耳が穢れる。
「シャイニングハート、デバイスチェンジ」
『Yeah!!』
「ヘルオアへヴン」
『Yes,device change! Mode [ hell or heaven ]!!』
そして再び杖型デバイスはその形を変える。輝く魂の意味をもった杖はその役目を終える。
広範囲の敵に対して有効なバルディッシュ・ギルガメッシュ、反撃する気概すらも奪い殺してしまうシャイニングハート。
ならばこれより生み出すのはなにか。
ただ戦斧から数千もの短剣へ、それから杖へ、そして――
そこにあったのは一冊の本。
ただただ本がそこに一冊あるだけであった。
だがそれだけでいい。ただこの一冊があるだけで、それだけでいい。
「ツムジ。貴女に力を借りたくなどありませんでした。
ですがそうも言ってられません。私は貴女を嫌いでしたが、貴女の騎士と融合魔導器はそうでもありませんでした。
ですから貴女の融合魔導器、借ります」
ただ独り言のように呟く。
そして――
「奪い取れ」
『了解しまよ、リナス。久しぶりだね。そして、行くよ』
その日、二十二人の魔導師のリンカーコアは残らず全て失くなっていた。
ただ1人で歩いていた。
かつて共に歩いた仲間も、かつて喧嘩していた天敵も、そして愛すべき主もない。
ただなにもない。
「本当に、ここはアルハザードではないのですね。
そしてミッドチルダ。本当に、ドクターの言っていた通りでした」
ドクターは未来視が使えると言っていた。
だがあまりにもドクターは胡散臭く、その胡散臭さと言ったらもう一人の天才ドクターと並び立つほどの胡散臭さだった。
原作がどーの、俺Tueeeeeeじゃねぇぇぇぇ、だのと言っていた。
全く以て意味が分からなかった。
そうこうしているうちにドクターは私を、いや私たちを作った。
そしてドクターは言った。
アルハザードは滅び、そしてベルカが出来上がりまた滅び、そしてミッドチルダと、そして管理局ができる、と常々言っていた。
そんなこと信じられるわけもなく、ただ今ここにいるといなければ信じられなかった。
「……行きましょう。今隣におらずとも、今は中にいるでしょう。
友よ、部下よ、仲間よ、好敵手よ。みなよ。
そして、主よ」
今はただ過去の思い出。
だが彼女の中にいる。たとえ肉体は滅びようと、魂は彼女の中で眠っている。
体の中に眠っている魂から力を借り、その魂から魔導器を作りだした。彼らの愛魔導器を。
今はただ、自分の目的を果たすために。
「魔は人を狂わす。だからこそアルハザードもまた滅んだ。
この世界をアルハザードの二の舞になど、させぬ。必ず、我が手で魔を滅ぼす。
これこそが我ら、アルハザード騎士団が総意。そうでしょう、主よ、みなよ」
アルハザードが滅んだのはあまりにも発達しすぎた魔導技術、などではない。
魔導技術は決して滅ぼすほどのものではなかった。あまりにも圧倒的ではあるが、それをきちんと制御化に置いていた。
ならばなにが滅ぼしたのか。
それは魔法に取り憑かれた者、魔法によって狂わされた者。
魔導の真髄は人を簡単に狂わす。
だからこそ魔導はあってはならないものなのだ。
たとえそれが独りよがりのセリフなのだとしても、それが主の願い、騎士団の願い。
ただ一人生き残った自分の使命。
皆を喰らうことで生き残った自分への、たった一つの償いの使命。
だからこそ必ず完遂させる。
己が名に誓って。
「アルハザード第三騎士リナス=サノマウン、必ず、遂行する」
『リリカルなのはStrikerS最強の魔導師型戦闘機人』、リナス=サノマウン。
製作者、アルハザード最高の技術者、ジュエル・スカリエッティに並ぶ大天才技術者『オリッシュ=トリッパー』。