平和な日々、いつまでも続くことをそう祈って。
それが続くだけで、それだけでいい。たったそれだけで、自分は救われるのだから。
第十三話
とある管理世界。
俺とキャロとフリードはそこで暮らしている。
「あ~、うめ」
「あはは、オージンさん、お茶好きですもんね」
うむ、特にこうしたまったりした時に飲むお茶ときたら格別だよ。
なんせ平穏な生活にはとんと縁がなかったからな。
いや、いっつも平穏だったけどこういった平穏が壊されるのはいつも一瞬だったからな。
今度はそういった平穏が壊されないように頑張ろう。
そう決意する俺であった。
「そういえばグングニール、どうするんですか?」
「グングニールねぇ。ぶっちゃけどうもしないよ」
ぶっちゃけ俺がグングニールを使う理由はバリアジャケットの装着と微妙に使えない回復魔法と、それから変身魔法の精度を上げるため、後はその他の機能を使うためくらいしかない。
攻撃魔法や防御魔法などについては竜技能≪方式形成≫によって生み出すのだから。
だからグングニールはそれほど重要じゃない。
だからこそバリアジャケットに比重を置いているのだけれど。
ぶっちゃけ俺の竜の鱗鎧だけでどこまで防御できるか不安だしね。
まあそれ以前に俺としてはこういったグングニールをセットアップする機会がない方がいいな、とは思う。
グングニールをセットアップする、ということはバリアジャケットを纏うということ。
それはつまり戦いをすることということだ。
俺はなるべくそういった戦いにはあまり参加したくはないのだから。
ゆっくり過ごすのはいいな、とも思う。
「あ、そろそろ夜ですよ。温泉に行きませんか?」
「温泉か、いいね~」
この管理世界の山には温泉があるのだ。
といっても場所があまりにも過酷すぎるため、魔法の使えない人、というか空を飛べない人はその場所に行くことはできない。
そうなると、あれしかないよな。
「うーん、確かに吐くのは嫌なんだけど、温泉に入れるとなれば話は別か。
耐えてみせるから、お願いするよ」
「あ、は、はい。それじゃあ行くよ、フリード」
俺は獣竜だから空を飛べない。
ついでに飛行魔法も使えないため、どうしようもない。
この体自体が空戦に向いておらず、≪方式形成≫で飛行魔法を使おうにもバランスがとれないのだ。
俺のは魔力で足りない部分を補う戦法。
こういった緻密なコントロールが必要なタイプの魔法は使えないといってもいい。
だからもう空を飛ぶとなればフリードに頼むしかないのである。
というわけで頼んますぜ、フリードの旦那。え、旦那じゃなくて嫁。あはは、そういや雌だったよね、フリード。
ごめんごめん。
と心の中で言っていたりしたが、なんかフリードが目で訴えてきたのでうっかり口に出しちゃってたのかな? と思ってたりする。
そしてキャロはデバイスをセットアップする。
ブーストデバイスのケリュケイオンだ。召喚師デバイスといってもいいほど、召喚師にとってはお約束なデバイスである。
そしてセットアップしたキャロはフリードに呪文を唱える。
それはフリードを真の姿に戻す作業。
ケリュケイオンは発動と同時に魔法陣が瞬く間に現れる。
「蒼穹を走る白き閃光、我が翼となり、天を駆けよ。
来よ、我が竜フリードリヒ、竜魂召喚!!」
それは儀式、封ぜられし竜がその真の姿を現すための儀式。
姿を現すのはあまり強きために封ぜられし者。だがその真の姿を現すことこそが絶対的な証。
出現させるのは、キャロの真の竜。
「 羽ばたきの竜王」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
それは巨大な白竜。
見慣れた竜。その姿はまさに白き閃光と呼ばれる存在かもしれない。
「あ、吐くことなくなった。やっぱ見慣れてるもんな」
なんとかフリードリヒに対してだけはトラウマは克服できたようだ。
確かに怖かったことは怖かった。
フェンリール・ドラゴンのトラウマは相当根強いものだった。
だが長い長いトラウマ克服のための訓練は無駄ではなかったようだ。
ついこの間までは吐く程度に留まり、今に至っては吐くこともなくなったようだ。
やはり訓練って大事だよね。
「それじゃあ行こうか。な、フリード」
「グオオオオオオオオオオオオオ!」
「はいっ!」
そんなこんなで温泉へと向かう俺とキャロ、そしてフリードであった。
フリードはその翼を羽ばたかせ、山へと飛翔する。
その姿はまさに≪羽ばたきの竜王≫だ。
Side-Caro
私はオージンさんとフリードと一緒に温泉にやってきました。
この温泉はあまりにも山奥にあって空から行けばひとっ飛びですが、それ以外からこの温泉に入る方法はないほど険しいところにあります。
私たちは今、この温泉にゆっくり入ってます。
はふ~、気持ちいいです。
「キュク~」
「は~、極楽極楽」
どうやらオージンさんもフリードも気持ちよさそうに入ってます。
オージンさんはこういった何気ない時間がなによりも好きですからね。
え、服?
そんなのお風呂なんですから入らないに決まってるじゃないですか。
ただあんまり気にされないと、ちょっとムカッと来ちゃう時もあったりしますけど、基本裸の付き合いです。
「そんじゃまあ実でも食べるか」
「キュック~」
そう言いながら、オージンさんとフリードは実を食べます。
いや、あれ私には辛い、というよりも人にとっては毒なんですよね。
オージンさんとフリードにとってはご馳走みたいなんですけど。
【竜酔酒の実】といって竜にとって酒にも薬にもなる毒の実なんですよね、あれ。
あくまで毒になるのは人間にとって、ですけど。
「とう、さん」
「ん? どうかしたか、キャロ?」
「え!? い、いえ、なんでもありません」
う~、やっぱりまだ恥ずかしいよ~。
でもいつか言えたらいいな、「お父さん」て。
「キュク~」
「いや、フリード。お前はキャロのお母さんじゃないだろ」
「キュ~」
「キャロが望んでるって? ないない。寧ろお前はキャロの娘」
オージンさんとフリードが何か話している。
というかお母さんって。
もしかして、もしかしなくてもそういうこと?
「それってどういうことかな? フリード(怒)」
「キュクー!!」
「うお、黒ッ! どうした、キャロ! 黒い、黒いぞ!」
そんなこんなで私はフリードに微笑みかけてましたが、なぜか怯えていました。
因みにオージンさんも慌てていて、しかもフリードと同じように怯えていました。
乙女に向かってそんなのって酷過ぎると思いませんか?
まったく失礼ですよね。
そう思っていますが、それでもフリードはしばらく私に近寄りませんでした。
逆に私が近づくと怖がって逃げだす始末です。本当にどうしよう。
しばらくすると戻ってきましたが。
ああ、よかった。と心の底から思いました。
いつまでもこんな日々が続くといいな、オージンさんと同じようなことを私は思っていました。
お父さん。
Side-Shugo
管理局
どういうことだ?
もう既にフェイトがキャロを拾っていてもおかしくない時期だ。
なのに一向として、フェイトがキャロを拾ったとは聞かない。どういうことだ!?
ハッ、まさかあの男か。
あの男さえいなけりゃ今頃プレシアは助けられて、フェイトは俺にメロメロだったのに。
まあ今でもメロメロだがな!!
それでもフェイトのメロメロ度はもっと上がっていたはずなのだ。
くっそ。ジュエルシード事件でも闇の書事件でも邪魔しやがって。なんなんだ、あいつは。世界を救う俺の邪魔ばっかしやがって。
まあいい。しかしあいつがロリコンだったとは。むかつく奴だぜ!!
せっかくキャロちゃんも幸せにしてやろうと思ったのに!
キャロちゃんの幸せを奪いやがって、何様のつもりなんだ、あの男は!!
「キャウッ!」
「おっと、ごめんよ。大丈夫かい?」
「え? あ、しゅ、修吾さん! あ、ありがとうござます」
ぶつかってきたのはどうやら新人の女の子のようだ。
でもこんな子、俺は知らねぇな。どうやらモブのようだ。しかも顔も平凡だし。
まあでも優しくしといて損はねぇな。
「大丈夫かい? 今度からは気をつけるんだよ」
そう言って俺は彼女の頭を撫でる。
するとみるみるうちに顔を赤くしていく。
「あ、ありがとうございました///」
顔を赤くした彼女は逃げ出すように去って行った。
はあ、なんて純粋な子なんだろうな。俺の撫で撫ではそんなに気持ち良かったのか。
どんな娘でも幸せになれる権利はあるんだ。俺はいつでも待ってるぜ。まあモブだからメインと比べるとぞんざいになるけど、それでも幸せになれるんだからいいよな。
おっとそんなことよりも早く行かなくては。
今日はなのはのとこに行こうかな、それともフェイトか? いや、八神とヴォルケン丼でもいいよな。
う~ん、悩むところだぜ。
するととある女の子がやってきた。
あのクールビューティーは!!
「やあ、ファナムちゃん。久しぶりだね。どうだい? 仕事は」
「順調」
そこにやってきたのはモブの割には顔が良いクールビューティーなファナムちゃんだ!!
おお、なんて凛々しいんだ、ファナムちゃんは。
こりゃあオリ主の俺のために生まれてきた娘だ。サンキュー、神様。
まだ攻略できてねぇけどすぐに俺の虜になるんだ。気にしねぇ気にしねぇ。
「そう? でも駄目だよ、女の子が危ないことをしちゃあ。
君の死んだ幼馴染だってそんなことは喜ばないよ。きっと幸せになってほしいんじゃないかな?」
なんでも死んだ幼馴染の恋人の仇討ちのために管理局に入ったという設定らしい。
ここは俺の頑張っているところを見せて、彼女が寂しくしているところを俺が優しくして攻略してやろうか。
それにその幼馴染とやらが死んだの十歳くらいらしいからやってねぇだろうしな。
グフフ、さあ陥ちろ、陥ちるんだ!!
「……ああ、望んでない」
おお!! これはイベント来たか!
今までは「関係ない」だとか「関わるな」だとか無視したりだとか一向に反応を返さなかったというのに。
これは攻略イベントか!! 来たぜ、攻略イベントゥ!!
「オージンは、私に仇討ちを望む望まない以前に!!
彼が望んでいたのは、私と彼とが一緒に過ごす、そんな幸せだ!!
私に仇討ちを望む暇すらもなく、死んだんだ!! 望むわけがないだろ!!
あの人が、オーちゃんが――関係ない」
突然堰を切ったかのように叫び出し始めた。あまりの怒涛の勢いに、俺は押されてしまった。
すると急に冷めたかのように、自分の現状を思い出した。
そして急に話を遮って去っていく。
う~ん、こりゃ攻略は難しそうだな。
だが一旦攻略しちまえば俺に絶対メロメロになっちまうな、これは確定だ。
待ってろよ!!
まあ他の人も幸せにしなくちゃならなきゃいけないしな。
それが俺の使命ってもんだ。
俺と一緒にいれることが幸せなんだ。必ず攻略して君を幸せにして見せるさ!!
するとなのはとフェイトがやってきた。
「やあ、なのは、フェイト」
「あ、しゅ、修吾君」
「ひ、久しぶりだね」
「ああ、君たちも久しぶりだね」
なぜか僕と会うと微妙な顔をして後ずさっている彼女ら。
まったく、それほど緊張しなくていいじゃないか。
僕は大丈夫なんだから。あ、でもさすがに緊張しなくてもいい、とは言っても彼女らには酷か。
全く僕って奴は。
それにしてもあの男は許せないな!!