八神はやては疲れていた。
そしてそれと同じくしてフェイト・T・ハラオウンもまた疲れていた。
「しっかし、休んだらどうなんや? フェイト」
「ううん。今、重要な手掛かりを掴んだから」
「それって、あの科学者か?」
「ううん、違う。でも、それでも私にとって因縁のある相手」
「あいつか。そうか、頑張りや」
「うん」
ようやくその手掛かりを手に入れたのだ。
あの違法科学者の捜索の途中で、あの男の情報を手に入れられたのだ。
ならば今は休んでいる場合ではない。必ず見つけ出し、そして捕まえる。
その決意が、彼女に分かったのか。だからこれ以上何も言わない。
今はまだ見守るくらいしか、彼女にはできない。
そしてフェイトは見つめていた。
その男を必ず捕まえると、そう決めていた。
第十五話
とある管理世界。
俺、キャロ、フリードの3人で外食していた。
因みに肉料理である。俺、肉好きなんだよね。この体になる以前からも。
いや、さすがにその時は生肉は無理だったんだけどさ。
いやっはっは、手作りもいいけど外食もいいよね。
と、この頃手作りばかりだったらから久しぶりに外食をしてみることにした。
まったくこれが人間の性というものよ。
などと自分に言い訳でもしてみた。
「キュクー」
「ごちそうさま」
「はい、ごちそうさま」
2人して手を合わせてごちそうさまをする。
こちらではあまりない習慣、というか地球の日本の習慣だが、それでもすることにする。
俺はギルマン一族としての誇りもあるし、それと同時に日本人としての誇りだってある。吹けば飛びそうな誇りでも。
だからこうしてキャロとフリードと一緒になるようなってからは「いただきます」と「ごちそうさま」を欠かしてはいない。
というか2人が妙にこれを楽しそうにやっていたので、今更やめるにやめられなくなったというのが真実なのだが。
「それじゃあどうすっかな?」
ぶっちゃけすることがない状況である。
働かなくとも生きていける。というか俺の鱗を売ればいいんだし。
ここはゆったりのんびり昼寝でもするのが一番かな。
あ、でも働かないってニートは嫌だなぁ、さすがに。
などなど思ってみるが。
「あ、それなら実をとりにいきましょうよ」
「実、かぁ。ああ、俺美味しいもんね」
「えっと、まあ、オージンさんですもんね」
因みに実と言っているのはこの世界のとある山に生えている実である。
あの実は実に美味しい。本当に美味しい。
一度飲めば、まるで酔うかのように気持ちいい。
あの気持ちよさは二十歳になって酒を飲んだ時以来だ。
フリードもあれはとてもいいものだ、と言わんばかりに喜んでいる。
うん、あれはいいよな。
ただキャロは苦笑いしているが。
因みに実とは【竜酔酒の実】である。
まあキャロは飲めないから苦笑しても仕方ないか。
「んじゃまあ取りに行こうぜ」
「キュックー!」
「はい、行きましょう」
そんなわけで早速出発進行、俺もあの竜酔酒の実は楽しみでたまらん。
フリードも早速涎を垂らしているし。
まあその気持ちは俺にはよく分かる。というか寧ろ分かりやすすぎるほどに分かる。
キャロもあの実はドラゴン用の薬になるとのこと。
つまりなにかの傷を負ったり、また病気になった時のために取っておきたいとのことである。
なんせ痛み止めにもなるし、病気を治す薬にもなるし、まさに万能薬だ。
まあ俺、変身魔法で人間になってるだけで実態はドラゴンだしね。
人間用の治療なんて受けられないんだよね。たとえ受けても本性はドラゴンなのだから意味がないし。
ドラゴンに意味がある奴じゃないと、俺には意味がない。
「ほらほら行こうぜ」
「キュクルー」
そんなわけで急かす俺とフリード。
そんな急がなくても竜酔酒の実は逃げない、と言おうとしたキャロだが俺たちにはそんなものは関係ない。
早くあの極上の味を味わいたいのだ。
因みに現在は竜酔酒の実を持っているが、少しだけでは酔う意味もないため一斉に飲みたいのだ。俺は。
すっかりドラゴンになってるな、俺。
まあ今のこの体になってから酒を飲んでもあんまり美味しくないと感じてるし、酔いも回らないからな。竜酔酒の実に傾倒するのは仕方がないことと言えよう。
そうして俺たちはその山へと向かった。
――その途中で見てしまった。
ある男と、管理局員が争っているその姿を。
たった1人に対して複数の局員が囲っている姿を。
――なによりも圧倒的なその姿を。
その髪は白いオールバック、その身に纏っているのは紅の外套、その下にあるのは黒尽くめの服装。
なによりも惹かれるのは鷹のようなその瞳。
俺はそいつのその姿に、どこかで見た気がした。
それはいつだったのか、古い記憶にある気がした。
そして男あとある魔法を出す。
そしてその紅の外套を纏いし男はとある魔法を生み出す。
魔法陣は生まれず、だがその手にある魔法はあまりにも、禍々しすぎた。
「!!」
その手にある魔法は確実に呪いの類。
見過ごすことなど、ただ通りかかっただけだ。
こんなのは無視すればいい話だ。
相手は今までのような相手ではない。
それでも、咄嗟に――。
「危ない!」
俺はラウンドシールドを張ってしまった。
Side-とある管理局員
俺たちはある魔導師を追っていた。
だがその魔導師はいきなりとして魔法を繰り出してきた。
だがその魔法は圧倒的で、為す術もなく、皆やられていく。
その魔法の威力は凄まじく、シールドもプロテクションもバリアジャケットも意味のないかのようで。
圧倒的なその剣技はただ無骨で、それでも美しく。
ただただ磨き抜かれた技術なのだと分かるようで。
だからこそどうしてこんなことをするのか、あまり分からなかった。
そして思い出した。
この格好、そしてこの特殊な魔法。
この男は確か管理局にて指名手配されていた男だ。それも6年前に昔にだ。
あまりにも凄まじい魔法を繰り広げる。
その男の名は――
「I am the bone of my sowrd」
それは呪文、己を暗示させる最高峰の呪文。
そして男の手には、一本の弓ができあがる。
「偽・螺旋剣」
その手にあるのは一本の剣。
それを矢へと変化させていく。
あまりにも膨大な呪いをかけられたその矢は、確実に局員たちの命を奪う。
もう俺でさえ、身動きが取れないほどに、いや、いつ気絶してもおかしくないくらいに。
局員たちも気絶している。
その上で尚、この男は俺たちを殺そうとしている気でいる。
その矢で貫くは俺たちなのだと、そして明確な死が俺たちに襲いかかっていると、感じ取った。
そして男が弓を引くと同時、矢は俺たちに向かって飛んでいき――
瞬間、目の前に翠の盾が出現し、それがその矢を防ぎきった。
Side-Ordin
完全にラウンドシールドで防ぎきった。
だがあの矢は完全に通常レベルの威力じゃない。
俺の圧倒的魔力でコーティングしたラウンドシールドだからこそ防げたのだ。
これひとつ生み出すのにスターライトブレイカーくらいの魔力を必要とするのだから。
だがそれでもあの威力はヤバい。
あんなのを咄嗟に生み出せるだなんて、あの紅の外套を纏った男、危険すぎる。
早く、早く、ここから逃げ出さないと。
俺の中にあるなにかはそれを警告していた。
咄嗟に逃げ出さないと――
「ふむ、貴様。なぜ、私の邪魔をするのかね?」
突然、男は語りかけてきてくる。
いきなり邪魔をしてくる男に対してそう言ったのだ。
これは警告なのか。いや、でもそれでも――
ここから逃げ出していいのか? いいに決まっているだろう。
それ以外の選択肢がどこにある。
だが目の前のこの男はその選択肢を許さない。
「そ、そんなの、お、お前、殺そうとしていた、じゃないか」
「ふん、やはり偽善者か。
そも管理局がどれほど民を傷つけているのか分かっているのか?」
うわ、決めつけられたよ。
ただ殺されかけた奴を見て、咄嗟にシールドを張っただけだ。
偽善者といえばそうかもしれないけれど、かけられた本人からすれば非常にありがたいものだ。
俺の時もそうやって誰かに助けられていたらそれこそ感謝しまくっていただろう。
まあ実際にそんなことはなく、俺はそのまま死んだのだが。
管理局だって確かに黒い面はある。
でもそれは表の面だってあるのだ。
そしてこの人たちはそういった表の面の人たちなのだろう。
そういった人たちを攻撃して殺して、でもそれじゃ裏の人たちは消せないはずなのに。
それでもこの男はそんなことは関係ないとでもいう風に、ただこの人たちを殺そうとした。
俺は見たくなかっただけだった。人が死ぬシーンを。
俺はきっとそんなものを見ても耐えられない。
もしかしたらあっさりと狩りで動物を殺したこともあるが、それでも吐いた。
だから俺は人が死ぬシーンを見たくないといった理由だけで、咄嗟に守ってしまったのだ。
「管理局によって泣かされた奴が一体何人いると思うのだ!?
資質のないものをバカにし、人のものを勝手に強奪し、資質がある子供は誘拐し、ろくな訓練も施さず前線に送る!
これが害悪でなくてなんだというのだ!!」
この男は管理局を憎んでいるのだろう。
だがどうしてなのだろうか?
この男は確かに管理局に対してあまり良い感情を持っていない。
だが決して『恨んで』はいない。
寧ろ彼は自分に『酔っている』。そんな感じがする。
自分は選ばれし者、だからこそ管理局を潰してやることこそが自分にとっての使命。
そう考えている節が彼にはあるのだ。
でもそれを指摘してはいけない。絶対100%怒るだろうから。
あの男は『危険』なのだと理解しているのだから。
そうして男が演説している。
今の内に逃げ出したい。そう感じた俺はキャロに転移魔法を気付かれないように、と指示を出す。
俺が変身を解いて、フェンリール・ドラゴンになって、キャロとフリードを乗せて全速力で走りだしてもあいつからは逃げ出せないだろう。
今回は俺の野生の勘がそれを伝えている。
あの男からは逃げ出せない、そんななにかを持っている。
そう安易に言ってるかのように、男からそういう空気が漏れ出している。
そうやって逃げ出そうとした瞬間だった。
「!!」
男はキャロを見た瞬間、その顔が驚愕に変わった。
「まさか、キャロが、まさか、……くっ、そういう、ことか!」
そしていきなりとして男は魔法を唱えた。
いや、魔法ではない。そんな代物などでは決してない。
「貴様、キャロを光源氏計画で手に入れる計画だったのだろう。
だが俺が来たからには、そんな邪な計画など粉砕してくれる!!
ここは現実世界だ! お前のような奴がいて良い場所などではない!!
このロリコンめが!!
I am the bone of my sowrd」
突然怒り出したそいつはある呪文を唱える。
俺はその呪文に聞き覚えがあった。そしてこの世界では聞き覚えがなかった。
それは当然だ。なんせそれはこの世界の魔法などではないからだ。
その手に握られているのは一つの矢。
それは先ほど出された偽・螺旋剣。それを手にし、そして弓に番え、放った。
一直線に、俺の顔目掛けて襲い掛かってきた。
『アーク=ハルシオン
希少技能:『複製』
6年前、ジュエルシード事件、闇の書事件に参加していた次元犯罪者。
彼の使う魔法は希少技能を駆使した戦い方。
その戦い方はあまりにも圧倒的なため、下級の武装局員では対応できない』