熱い、痛い、頭が真っ白で、よくわかんない
第三十三話
次元震が確認された。
そしてそれと同時に、次元の狭間より1人の少年が出てきた。
数々の火傷の跡と、それ以上に体が衰弱している。それに腹と肩には大きな怪我をしている。
犯人と思われる男はおそらく『アーク・ハルシオン』。
あの複製の希少技能使いだと思われる。
おそらく次元震を起こしたのもあの男なのだろう。
すぐさまに治療をして治すことにすることにした。
ついこの前まで入院していた(目覚めてすぐ退院)していたのにまた入院生活になるとは。
つくつぐこの男もついていない。
「というかこん人、ほんまついとらんなぁ。
あのアーク・ハルシオンに二度襲われとるなんて。
ああ、でもそれでも二回生き残っとんのか。
運がええだけなんか、それともただ単純に生き残れるだけの力があるんか」
オージンは本当に不幸としかいいようがないほどに運に恵まれていない。
なぜそれほど不幸なのだ、と思われるくらいに、そして自分でも思っているくらい不幸だ。
だが他にももっと不幸な人だっているかもしれないし、確実にいる、とは思っているが。
そしてあの殺人鬼として名高いアーク・ハルシオン。
彼はかなりの確率で人を殺す。殺しまくる。
それも意味の分からない理由でだ。
とりあえず管理局のことを憎んでいる、または良く思っていない、ということだけは確かだ。
そして彼のその強さは理不尽な能力を持っている武具であると同時に、それらを扱いこなす戦闘の巧さもまた強い。
理不尽な思考と同時に理不尽な強さを持っている。
だからこそ厄介で仕方ない。
フェイトもまたアークを必死に追っているのは仕方がないといえよう。
なにせ大量殺人犯なのだから。
だがオージンはそのアークに二度も狙われ、そして二度も生き残った。
それは彼がそれほどの実力があるという証拠なのか――
だがどちらにせよ、いつ死んでいてもおかしくないほどの怪我だったのだ。
前回の怪我と比べればマシなのかもしれないが、しかしそれでも十分致命傷だった。
腹に穴が開く、な十分致命傷のレベルではないか。
とにかく素早い治療のお陰で彼の命は助かった。
それに彼は人間ではなく竜という知識もあったため、竜を治すのにとっておきの場所を選べることができた。
ただ問題点としては前回ほど治療スピードは早くないというところか。
なにせ大型生物を治療する場所に最も適している場所は現在ほぼ破棄されている施設にあったからだ。
第93研究医療所。
ファナムの竜滅一閃によって破壊された施設が最も適した場所だったのに。
「そういうわけで入院は延びるかもしれんけど、まあ自業自得ってことでな~」
「う~、そんな~」
ファナムは悲しんでいる。
はやてとしてはまだ違和感があるが、その違和感にももう慣れた。
あのキリッとした凛々しいファナムちゃんはどこ行ったんやろ、と嘆いていたが。
まあ公私の公の部分になれば出てくるので今は気にしていない。
実際はオージンが酷い目にあうので、自業自得ではないのだが、ファナムが悲しんでいるのは自業自得というところだろう。
ようやくギルマン一族の皆に会えると思ったらコレなのだから。
暫くは巨大生物専用治療所で、ドラゴンの姿でいなければならないといったところだ。
なにせ変身魔法で人間になっているだけなので人間用の治療所へと行っても無駄だし、
巨大生物専用のところでは人間になっていては治療できない。といったものだからだ。
まあ今は気にしないでおこう、ということになった。
「しっかし、まあどないすっかな~?」
とりあえずはやて三等陸佐は先のことを考えることにした。
今はそんなことに構っている暇などない。
今もまだ次元世界中で困っている人たちが大勢いるのだから。
そういうわけで仕事にとりかかる八神颯三等陸佐であった。
Side-Ordin
「オーちゃん、大丈夫だった!?」
「ぐるるー」(うん、大丈夫)
ドラゴン形態になって治療してもらってます俺。
よくよく考えたら、巨大な狼みたいなドラゴンを心配しているファナム。
うわ、傍から見たらシュールじゃね? と思ってしまう。
そしてドラゴン状態になっている俺は声帯の問題で言葉を話せない。
シュールな光景ではあるんだが、俺は同時に念話を送っているので会話には問題ない。
まあ傍から見ていたらシュールな光景であることに間違いはないのだが。
とりあえずあの必滅の黄薔薇は、俺の≪世界終焉の演奏≫の衝撃によって破壊されたか、もしくは次元震で破壊されたかのどちらかだろう。
現に今の俺は治療できているので助かっている。
もしあれが壊れていなければ、俺はこのまま腹の怪我が治らず死んでいただろう。
もしくはアークが死んだかのどっちかだろうな。
次元震が起こったのは俺のせいじゃない!
あいつが悪いんだ! あいつが俺を殺そうとするから!
などと死んだかどうかも分からないけど言い訳してみる。
俺は誰かの死を背負えるほど強いわけじゃないから。
俺のせいだと言われても、俺はそれを受け入れられないだろう、きっと。
あんな奴だったから罪悪感も少なくて済んだし、そもそも死んだかどうかも分からないから今のところは大丈夫なんだろう。
罪悪感なんて感じる必要なんてないのかもしれない。
けど感じてしまう俺は小心者なのだな、と思う。
「はい、オージンさん。コレ、料理です」
「キュクルー」
「ぐお!」(お、マジで!)
俺は顔を上げた。
四足歩行から原則だから、俺はうつ伏せになって寝ている。
天井を見ながら眠ることができない状態であるのだ。
そこにキャロが料理を持ってきてくれた。
「む。キャロ、言ってくれたら私が作るのに」
「私は竜使いですよ。竜にとってどんな料理が健康にいいか分かってますから」
「キュックルー」
まあ確かに今のこの体はドラゴンだ。
ファナムがいくら体にいい料理を作れるとしてもそれはあくまで人間に対して、だ。
ドラゴンに対して体にいい料理を作れるわけでも、知っているわけでもない。
だがキャロは竜使いとして、ドラゴンに対する知識を持っている。
だからフェンリール・ドラゴンである俺にとってはどんな料理がいいのかも知っているのだ。
だから入院している間の料理はキャロに頼んでおくことにしよう。
ファナムには悪いが、キャロの方が俺の体にとっていいものを作ってくれるし。
そう言われてファナムは悔しそうにしているが。
あれだけ仲が悪かったのに、良かった良かった。
心の底から2人の仲が良くなかったことを喜んでいた。
「ぐるぁぁー」(しかし皆と会うのは、当分お預けかー)
俺としてはギルマン一族の皆に会いたかった。
久しぶりに皆と会って、あいつらならきっと信じてくれると思って、
そんで皆でタッチフットをして遊びたかった。
生きていることは嬉しいけども、そういったことができなくなるのは当分先なのだと思うと残念だ。
そう思っていると――
「オージン」
ふと、声が聞こえてくる。
それは懐かしい声で――
「オージン、あんた随分様変わりしたねー」
「ああ。そうだな。だが、たとえそんな姿になっていても――」
「生きててくれて良かったよ」
なんで? ここに?
目の前にいたのは母さんと親父だった。
なんで、ここに母さんと親父がいるんだろうか?
それは実に、7年ぶりの、ちょっと老けた母さんと親父がいた。
「ぐぁ」
咄嗟に声を出してしまった。
言いたい、けども俺は人の言葉を今は話せない。
念話でしか会話ができない。
人間にでも変身すればいいと思われるが、それでも治療にはならない。
それよりもなんでここにいるのか? そういうことを聞こうとする。
が、それより早く母さんが答えを言う。
「ファナムちゃんから連絡もらっていたのよ。
アンタが殺されたドラゴンになって生きてるって。
信じられなかったんだけどね、一目見て、アンタだってピンと来たよ。
たく、生きてたんなら生きてたで連絡ぐらい入れなさいよ」
母さんはあの時と同じように喋ってくれて、親父はいつもの如く黙っていて。
ああ、子供の頃に戻ってきたみたいで、本当に嬉しかった。
一目見ただけで分かってくれる。
ファナムの時もそうだったけども、やっぱり嬉しいものだ。
今は人型になることは無理だけれど、せめて念話だけでも伝えたい。
≪母さん、親父、ただい、ま≫
「アホ、まだただいまじゃないの」
「ああ、ただいまは、一族に戻ってからだ」
ああ、そうだよな。
いつもそうだった。
ただこんないつもの会話、嬉しくて嬉しくて、やっぱり親っていうのは偉大なんだな、とそう思える。
今はただ両親との再会を喜ぼう。
「……やっぱり敵わないな。お義父さんとお義母さんには」
「義ってついてません? ファナムさん」
「ついてるよー」
「キュククー」
「あはは、違うよー。フリードちゃん。
フリードちゃんの場合は義はつかないんだよー」
今はただ再会を喜びたい。
「と、いうか俺たち空気じゃね? というかあの空間黒くね?」
「どどどどど、どうしよう。ここここ、怖いよ!」
「落ち着け、落ち着け。大丈夫だ。あの黒いオーラはあの竜に向いている。怖がることはない。
ないったらないんだ!」
おい、見えてるぞ、そこの3人組。
再会喜んでのに空気ぶち壊しにしてんじゃねーよ!
普通に母さんと親父との再会を喜ばせろ。ギャグみたいな展開すな。
「てかマジでドラゴンになってたんだなー。微妙に信じらんね」
「ここここ、怖くない!? なんかあのドラゴン、こここ怖いよ!」
「なんであの人たちは信じられるんだ、ファナム含めて」
お前ら三人は俺がドラゴンになってること知ってるけど信じてないのかよ。
いや、まあそれが普通なんだけど。
母さんと親父は親の本能で分かってくれた、それはありがたいけど。
ファナムに至っては雌の本能でかぎ分けたとか言ってた。それは怖いよ。
まあいいや、そこら辺はまあ信じてくれるほかないか。
≪あんがと、ファナム≫
「うん、どう致しまして」
俺はファナムにお礼を言うのだった。
俺は久しぶりの両親と、親友たちの再会に喜ぶのだった。
というか俺が生きててドラゴンになってること、知ってるのなお前ら。
多分帰る時にファナムが伝えてくれたんだろうけど。