物語は進んでいく。
ストーリーは続いていく。
そして現実もまた先へと続く道となる。
ああ、だからこそ、だからこそ――
第四十話
Side-Shugo
くそっ、くそっ、なんなんだ! あいつは!
せっかく俺が眼をつけたファナムちゃんを急に、急に! 許せねぇ!!
いや、攻略可能キャラじゃなかっただけだったのか……?
けっ、所詮はモブキャラってところかよ!
ああ、もう。モブキャラの癖に美人だなんて生意気だ!
モブキャラはモブキャラらしく個性がない顔になっておけよ。
でないと紛らわしいんだよ!
しかしあの男の邪魔さえ入らんなきゃ、今頃あの子は俺のものだったのに。
全くムカつく奴だぜ。
しかし俺が幸せにしてやるつもりだったのに。
あんな奴にあの子が幸せにできるものか! 見たところ、Bランク相応の魔力しか持ってなかったし。
それなのにSSSランクの俺にあんな態度とりやがって。
ムカつく!!
仕方ない。
ここは地道に王道原作キャラの攻略でもするか。
ふふ、やっぱり最初に手を出すのはなのはだな。
んで次にフェイト。その体を堪能してやるぜ。
それから八神家丼だな。ふふ、待っていろよ、ククク。
それからどうやって機動六課に所属するかな。
まあはやての招集もあるだろうし、そんなことを気にする必要もねぇか。
ただ問題なのはフェイトがキャロを保護してないってことだな。
確か保護したという報告を聞いたはずなのに、フェイトが保護してないだなんて。
何が起こったってんだ? まさかバタフライ効果なのか?
まあいない奴のことを言ってても仕方ねぇか。
素直なロリもいいが、ヴィータみたいな強気なロリで我慢するとするか。
ふふふ、待っていろよ。皆。
俺が幸せにしてやるからな。
俺はカリバーンを輝かせていた。
ああ、俺の全てを輝かせているようだ。
俺たちは一応自然保護隊で働くこととなっていた。
よく考えてみればファナムは一応前科犯だ。
いくら俺やキャロが許しても、それでも施設破壊の問題だけは俺たちにはどうしようもできない。
だってあれは管理局のものなのだから。
今は軽い罪で許されている。
減給だとか謹慎だとか、そういったものでだ。
でも管理局は結構平気で小さな子供を才能があるだけで戦力扱いし、碌な訓練も施さず前線に送る。
これだけは間違いない。
ここだけは間違っていない。
だからといってアークの言っていることに賛同は全くできないが。
原作を知る限りでも、フェイトだって結構大変なことをやらかしている。
まあそれも管理局の奉仕で許されているのだが。
逆を言えば、ファナムは管理局に貢献しているSランク魔導師の管理局員だったから許されたと言っても過言ではない。
なのにここで止めてしまえば、そのことを盾になにかやらかしてくるかもしれない。
そういったことが容易に思いつけてしまうから怖い。
それに止めようとすれば、管理局の一部、暗部が必ず俺を狙ってくるだろう。
なんせ俺は計測上Bランクの魔導師、またはBランクの魔力を持っているドラゴンなのだから。
だからその程度の存在がSランクの魔導師を持っていく、などすれば容赦なく襲い掛かってくる。
たとえ全体が悪くなくとも、そういった暗い部分があることだけは知っている。
主に3脳とか。
だからこそ気軽に辞められないんだが。
まあだからといってヒモになるのも嫌だしなぁ、てことで。
「えーと、現在自然保護隊にいます」
でもなにこの状況?
「ぐるる~」
「がるる~」
すっげぇ懐かれてます。
最初の方は凄いビビっていた。
逃げ出そうとしていた奴もいた。だが逃げ出そうとしていた奴もいたが、結局逃げ出さなかった。
これはあまりの恐怖に逃げ出したいが、逃げたらもっと怖い目に会う!とでも思っていたのだろう。
野生の生物がそんなことを考え付いたのかどうかは知らないが。
ただ俺は竜語を話せるのと同時に獣語も話せるので説得することにしたのだ。
フェンリール・ドラゴンは竜であると同時に獣王でもある。
獣の因子も持っているだけに獣語さえも語ることが可能なのである。
おそらくはドラゴンと大型獣との間にできた子供が自然界に定着して、そのまま生態系に組み込まれたのだろう。
そう思えるくらい、ドラゴンと獣としての能力を両立させている。
だからこそこうして会話ができているのだ。
だが俺は獣王たる存在で、だからこそ一方的な重圧を放てる。
だって今の俺はフェンリール・ドラゴン、獣王なのだから。
獣王、とはいってもフェンリール・ドラゴンは王道によって獣王となったわけではない。
寧ろその逆。
覇道によってその道を切り開いてきた暴虐王だ。
まあ獣の世界ではそれが正しい。
暴虐によって相手を蹂躙し、相手を屈服させる。
フェンリール・ドラゴンは獣の世界の法則に従って獣王となった。
勿論、フェンリール・ドラゴンは王になるつもりで暴虐を繰り広げてきたのではない。
ただ喰らうために暴虐を繰り広げてきた。
ただ喰らうための行動が、いつの間にか獣王と呼ばれる存在の種族になっていただけだ。
俺には本能によってこの個体のことがよく分かる。
フェンリール・ドラゴンという種族のことが全く以てよく分かる。
ただこの獣王竜は食欲に忠実で、ただ食べるためだけにその身が存在している。
喰らうことのみにその欲を充満させている。
常に獣王竜は飢えているのだ。
だからこそ暴虐の限りを尽くして他生物を喰らう、喰らい尽くす。
あまりにも圧倒的な暴力によって、あまりにも絶望的な肉体的差で。
逃げることも許さず、立ち向かうことすら愚かと思えるような。
それほどに圧倒的な差の暴虐を以てして獲物を喰らう。
ゆえにこそフェンリール・ドラゴン、獣王の名を冠せし竜となったのだ。
だからこそ俺はここまで脅えられているだけで。
それでも逃げようとしないのは、逃げられないのは、脚が竦んでいるからだろう。
それくらいの力の差が、生物的としての根源的差が存在しているのだから。
まあそれも俺が説得していたらいつの間にか懐かれていた。
「キュックー!」
「オージンさん、離れてください! そいつら、潰します!」
「て、待て待て待てェェェェ!」
いつの間にか、キャロとフリードが戦闘態勢を取っていた。
と、いうか待て!
こいつらは保護対象なんだぞ!
なのに攻撃するとかやっちゃいけないことだろうに!
うお、キャロ、ケリュケイオンを構えるな!
フリード、そうやってブラストフレアを放とうとするんじゃない!!
しかし本当に危なかった。
俺が止めてなきゃ本当に。
「しっかしあんたら、成果凄いねぇ。
これならすぐに一番になれるよ」
などと自然保護隊の先輩に言われる。
まあそもそもが俺たちにこの仕事は向いているだろうしな。
「ファナムさん以外でお父さんをとる奴なんて、ぶつぶつ」
「キュックルー!」
なんか黒いオーラが出てきた気がする。
最近はあんまり出て来なかったのに。
まあ頭を撫でてやるとそういった空気も薄れてくるからいいんだけど。
まあ獣たちが懐いてくるのは大抵が雌だ。
というか俺のことを雄として認識して懐いてくるんだよな。あいつら。
まあ獣というのは人間と違って強さというものがもてる。
だから強ければ強いほどもてるといっても、獣の世界では過言ではない。
獣王竜フェンリール・ドラゴンはあまりにも圧倒的な暴虐の限りを尽くすドラゴン。
だからこそ本来は脅えられて然るべき存在。
だが俺には理性が存在する。
『俺』という意思が存在している。
だからこそむやみやたらと襲い掛かることなんてしないし、攻撃なんて加えやしない。
最初の方は脅えていた獣たちだったが、俺にそんな気がないと分かってからか一転して俺に懐いてくる。
フェンリール・ドラゴンという極上の雄なのだ。
自分たちに危険がないと分かれば、その血を自分の子孫に残したくなるんだろう。
獣たちの本能がそれを促している。
いや、俺にはファナムがいるから絶対浮気なんぞしないが。
ファナムがヤンデレ、てのもあるが、それ以上に俺がファナムを愛してるからなぁ。
まずファナム以外にありえない、て。
と、俺は心の中で惚気たり。
因みに俺はこっそりと――
「オーちゃぁぁぁぁん!」
「ふぁ、ファナム!」
「おー。名物のバカップルが来た来た」
凄い勢いで俺に飛びついて抱きついてくるファナム。
受け止めた俺はかなり痛かったと思う。
まあフェンリール・ドラゴンなのでそこまで痛くはないが。
因みに自然保護隊の皆は微笑ましい笑みを浮かべている。
ここにいる人たちはおおらかな人が大半だ。
というかそんな人たちだからこそ、こういった自然保護隊に入っているのだ。
もっと出世願望が強いとかカッコイイのがいいとか、そういう人なら武装局員にでもなってるだろうし。
だから俺はここの人たちと仲良くできているのだ。
嫉妬とかで襲ってくる人たちはこの自然保護隊にはいない。
田舎から来た人が多く、田舎の幼馴染と仲の良い人が多いらしい。
「あー、おだだづも帰るべかなー、そろそろ田舎っぺに」
「んだんだ。久しぶりにまゆと会いでーしなー」
どこの方言だ、という人もいる。
というか方言すぎて聞きとれない言語の人もいるし。
相変わらず言語関係が疎い俺であった。
竜語とか獣語なら得意なのに。
まあんなもん使っている人はいないけれども。(獣や竜は使うが)
まあすっかりと俺とファナムの仲は有名になっているのだ。
時折嫉妬団とかいうのが襲い掛かってくるが、その度にファナムが粛清して、そいつらは高町教導官のしごきに耐えられるようになってきている。
高町教導官も最近は教導しがいのある人が増えてきて喜んでいるようだ。
ただそのためか教導のレベルがアップして、普通の訓練生は更に音を上げ始めたとか。
トラウマになっている人たちも多い。
訓練に耐えられる人が増えてくるのと同時に、トラウマになっている人たちも多く出ている。
さすが原作で新人たちを公開処刑した魔王だ。
確か原作でそんなシーンがあった気がする。
今では霞んできている原作知識を頼りに、そう思った。
もしかしたら間違っているかもしれないが。
まあどっちにしても高町教導官がトラウマを作っていることは間違いない。
どれだけ怖いんだ。あの人は。などと思ったりもした。
思ったら原作のStrikerSの事件ていつ頃始まるんだったけ?
後3年くらい後だったかな?
大人になってからの話しって聞いていたからな~。
新暦74年の春のことだった。
因みにキャロのことはあの男にはばれていない。
原作キャラであるキャロのことがばれれば、どんなことが起こるか分からない。
もしかしたらアークみたいに変な理屈でも並べられてしまうかもしれない。
そうなると非常に危険な気がするが。
これ以上、俺に不幸が降りかからないでくれよ。と内心で思う俺であった。
まあなんせこれまでがこれまでだし。
神の転生トラックの巻き添えを喰らって、
更にその上、幼馴染の婚約者の目の前で竜に食われ、
しかも同じ転生者である男に殺されかける。
うん、どんだけ不幸なんだよ。俺は。
なんだ、運命が悪いのか!?
世界はいつだってこんなはずじゃなかったことばかりなのか!!
そう大声を張り上げて言いたい気分だった。
でもそんなことはない。
今の俺にはファナムとキャロとフリードがいる。
だから今の俺は幸せなんだ。
こんな幸せがいつまでも続くといいな。
そう思える一幕だった。
とある管理外世界。
そこではある魔導師と魔導師が戦っていた。
管理外世界だというのに、戦っていた。
そこは魔法の認知されない世界。
だからこそ人避けの結界を張ることで、魔法関係者以外はその地を入ることすら許されない。
そういった土地。
だからこそ安心して戦える。
邪魔する者などいないのだから。
それはどちらにとっての安心なのかは、分からないが。
オレンジ色のジャンパーを着た金髪の少年。
彼は次元犯罪者『スパイラル・ラーメン』。
ある特殊な希少技能を持っている。
「くっそ! お前、なんなんだってばよ!
俺の邪魔をしやがって!」
そこにいるのはたくさんの女たち。
倒れ伏しているのは皆、女。
死んでいるわけではない。だがその瞳に映っている者は皆虚ろだ。
それだけでなにがあったのかが分かる。
ただ生きる希望すらもない。そんな状態だった。
「くそっ! こうなったらお前もやってやるってばよ!
見てみたら結構良い女なんだってば!」
ただ彼の目には欲望だけしか映っていない。
ただ目の前にいる魔導師を、欲望の捌け口にしようと思っているのだ。
だが彼女はなんの反応もない。
ただただ、目の前にいる男に対して冷静に対処するだけだ。
心の内にどれだけの激情があろうとも。
「喰らうがいいってば! 希少技能!!
影分身!!」
これこそがスパイラル・ラーメンの持つ希少技能≪影分身≫。
影からその影の情報を読み取り、本物そっくりの自分の分身を生み出す。
ただその欠点は自分の影しか情報を読み取ることができないが、それでも十分。
影から生みだされし者の強さは本物と瓜二つ。
たとえその分身を作っても弱くなどならない。
いうならもう1人の本物を生みだすようなもの。
1人生みだそうが、10人生み出そうが、1人1人の強さは本物と変わらない。
そしてスパイラルは影分身によって10人を生み出した。
影から生み出されし影人形の数は10。
そして1体1体が本物のスパイラルと同等の強さを持つ。
単純計算でいえば、彼の強さは11倍になったようなものだ。
そしてスパイラルの魔導師ランクは推定A+ランク。
A+ランクが11人。
これはなかなかに厄介なことといえる。
目の前にいる女性は大丈夫なのだろうか……!?
「ディステニー」
『Yes.mode[destiny]!』
彼女の名はリナス・サノマウン。
その手にあるのは戦斧型デバイス・ディステニー。
『運命』の名を冠せし戦斧型デバイスだった。
2人の魔導師が、激突する。