2人の魔導師が激突する。
片方はオレンジ色のジャンパーを着た魔導師。
希少技能である≪影分身≫を持つ魔導師。
その希少技能によって10体の影から生み起こした分身を作り出して対峙している。
そしてもう片方の女性。
その手に握られているのはバルディッシュに似た戦斧型デバイス。
その名はディステニー。
そう、彼女こそアルハザード時代の戦闘機人『リナス・サノマウン』である。
第四十一話
2人の魔導師がその手に武器を持つ。
その手にあるのは互いにデバイス。
つまり戦い合う者同士。
ならば激突するのもまた必至。
「行くってばよ! 螺旋!」
スパイラルはクナイ型デバイス螺旋を起動させる。
非人格型アームドデバイスだ。
そしてリナスもまたディステニーで攻撃を仕掛ける。
だが――
「この俺の一斉攻撃を避けられるかってばよ! ファイア!」
「ブリザード!」
「ウィンド!」
「グラビディ!」
「サンダー!」
「ロック!」
「シャインジャベリン!」
「アイアンラッシュ!」
「ウォーター!」
「プラントウェーブ!」
十属性の別々の攻撃を仕掛けてくる。
それぞれ簡易な魔法ではあるが、それでも十属性を同時に使いこなすなんて。
本来は属性が反発しあって発動なんてできない。
だが影は本来別々の存在に、分身となって発動しているのだ。
だからこそこの組み合わせは凶悪。
別々の属性による攻撃が襲い掛かってくるのだから。
だがリナスは慌てない。
こんな同時攻撃に対する対処法など、彼女は心得ているから。
ただその対処法に従って、相手をするのみ。
「ディステニー、ギルガメッシュ」
『Yes,form change! Gilgamesh form!!』
そう、ディステニーには戦斧型形態以外にももう一つの形態が存在する。
その形態こそがディステニーにとって真の効果を発揮する形態。
それこそがディステニー・ギルガメッシュフォーム。
その形態は、数千の短剣。
それらの全てが、リナスの支配下にあった。
そして数千あるうちの、ある特定の短剣に魔力を送り込み、短剣に魔力刃を発生させる。
そして魔力刃を発生させた短剣によって、その全てを相殺させる。
多方向から来る攻撃ならば、ギルガメッシュで対処するのが最も的確な対処法なのだ。
多方向から来る攻撃には多方向から放てる攻撃。
対処法として最善を討った。
リナスは冷静に、討ったのだ。
なんという的確な選択か。
この実力は一体どれほどの魔導師ランクを有しているというのか。
その真実の実力は未だ誰にも分かっていない。
「くっそ! こうなったら! こうなったら!」
「うおおおおおお!」
再びまた全員による攻撃が始まる。
数々の攻撃を、多方向から更に多方向。
誘導弾、砲撃、直射魔法、接近攻撃。
だがそれら全てをディステニー・ギルガメッシュによって対処する。
近づく者にはギルガメッシュが突き刺さり、
誘導弾の全てを短剣で相殺し、
直射魔法や砲撃に至ってはスピードを以てして避けている。
全く相手になっていない。
スパイラル・ラーメンが圧倒的に実力的に、リナスより弱いのだ。
A+11人、リナスはそれらを相手にしても全く負けていなかった。
いつの間にか、「てばよ」口調もなくなってしまっていた。
幾ら10人もの分身を生み出せるとしても、所詮はA+11人。
1人が相手ではなく、集団が相手だと思えば対処は可能なのだ。
これが実力差。
スパイラル・ラーメンではリナス・サノマウンには勝てない。
「く、糞糞糞ッ!」
実力差が大きすぎる。
それは今更ながらスパイラル・ラーメンは感じ取ってしまった。
こんなものでは勝てない。勝てるわけがない。
だがそれでもスパイラルにはとっておきがあった。
「こうなったら合体魔法! 喰らえ!!」
「スー!」
「パー!」
「合体!」
「魔法!」
「攻撃!」
「風輪!」
「大玉!」
「螺旋!」
「丸砲!!!!!!!!!」
「喰らえぇぇぇぇ!!」
10人による最強砲撃、同時に回転する風属性の螺旋に回転する砲撃を撃ち放つ。
それはスパイラル・ラーメンにとってのとっておきの大技。
これならばいかなる防御だろうと打ち崩せる。そう信じて。
魔力のほとんど全てをこの砲撃に注ぎ込んだ、文字通り彼らの必殺技だ。
あらゆるものを切り裂く究極の必殺技。
これならばさすがのディステニー・ギルガメッシュで防御しようがない、究極の砲撃魔法ともいうべき攻撃魔法。
ゆえにこそ確信していた。
この砲撃が敗れるはずがない、と。
自分たちのとっておきの必殺魔法なのだから。
だがそれすらもあっさりと破られる。
リナスの手には指輪があり、その指輪から発せられる魔力が防御魔法を生み出し、砲撃を防いでいた。
そう、彼女の持つデバイスの一つ、アヴァロン。
「障壁」
障壁と呼ばれる魔法によって、砲撃を完全に防いでいたのだ。
あの砲撃魔法でさえ完全に防御できるというのか……!?
あまりの事実にスパイラル・ラーメンたちは愕然としていた。
「鋼の、軛」
それと同時に範囲型の拘束魔法が、愕然としていたスパイラル・ラーメンたちを捕まえていた。
対象に軛を突き刺すという荒業な拘束魔法によって。
それはあまりにも痛い、激痛だったために――
「あああああああああああああああああああああ!!」
11人いるスパイラル・ラーメンのうち、10人が消失する。
否、影に戻っていく。
分身だからこそ、あまりの痛みに耐えきれず影に戻ってしまったのだ。
つまりこれでスパイラル・ラーメンはただ1人で――
「アヴァロン、シャイニングハートに」
『Yes! Device change,mode[shining heart]!!』
指輪型デバイスアヴァロンはその形態を変化させる。
その姿はまさに杖。
まるでレイジングハートのような、その姿。
だが細部が所々違う。
そしてその名もまた大きく違う。
不屈の魂、ではない。
ただただ輝く。眩いばかりに輝く一筋の光。
そんな光を表しているかのような、そんな心。
ああ、まさにこの名前は、貴女にぴったりです。
デバイスの名は『シャイニングハート』。
あらゆるものを畏怖させる絶対砲撃魔導を使えるデバイスの一つ。
そして恐怖する。
鋼の軛にその身を捕えられながら、それでも一生懸命に抵抗しようとする。
「や、やめろ! 助けてk――」
「ソウルライト、ブレイカ」
だがその懇願ですら、問答無用に焼き尽くす。
あらゆるものを畏怖させ恐怖させ、その絶対的な恐怖によってアルハザードを守ってきた騎士の、最大の奥義を。
スパイラル・ラーメンはこの一瞬により、一生消えぬトラウマが生まれてしまった。
「ヘルオアへヴン」
『Yes,device change! Mode[hell or heaven]!』
そしてシャイニングハートは本型デバイスとなる。
本型融合騎、ヘルオアへヴン。
魔導書型デバイスだ。
そしてリナスはヘルオアへヴンを泡を吹いて気絶しているスパイラルに寄せる。
「へヴン。コイツのリンカーコアを」
『はいはい。分かってますよっと。あれ? 結構美味しいかも。
おお、リナス! コイツの希少技能、結構使えるよ!」
あっさりと、あっさりとリンカーコアを引き抜く。
あまりにもあっさりとだ。
希少技能≪影分身≫、その効果はへヴンもまた認めるほど。
そしてリナスもまたへヴンの言葉に頷く。
「ああ。これなら」
彼女はどこを見ているのか、何を見ているのか。
それはかつての日々なのか。
そして彼女は呟く。
「後10年はかかるかと思っていたが、このスキルを使えば、
おそらくは後1年か、2年。それくらいで計画の実施は可能だ」
計画、それはなにを表しているのだろうか。
リナスはこの希少技能を使うことで何をしようとしているのか。
それは誰にも分からない。
だがおぞましい、なにかをしていることだけは確か。間違いないだろう。
ただ計画を実行するのは1年か2年にまで短縮された。
後10年はかかるものが、一気に短縮されてしまったのだ。
それがなにを意味するのかは分からない。しかしこの男が負けたことは、この男の能力を得たことはそれだけの価値がある。
それだけは分かったのだ。
計画を実施すべきか、しないべきか、彼女は迷っている。
「……もし、計画を実施するよりも、管理局が正しく魔導を扱えているのなら問題はない」
「リナス……」
リナスは魔導のことをあまりよく思っていない。
自分自身もその恩恵を持っていながらも、いや持っているからこそ、その破滅の道を知っているのだ。
その破滅の道がなにを表しているのかも。
魔導を放っておけばどんなことが起こるのかも、分かっているからこそ。
「だが」
だからこそ彼女は魔導を導かなくてはならない。
それが自分に課せられた使命なのだと。
たとえ自分勝手と煽られようとも構わない。
このままこのミッドチルダ含め、この次元世界を、かつての故郷アルハザードのようにするわけにはいかないのだから。
「管理局もまた、魔導に狂わされているのなら、確実に計画を実行する」
それは本型デバイスから出てきた小さな妖精もまた頷いていた。
妖精のような少女、彼女はヘルオアへヴンの管制人格の1体、へヴン。
ユニゾンデバイスとして実体化してこの場に現れたのだ。
そして彼女もまた頷いたということは、へヴンもまたその案に賛成なのである。
かつてのアルハザードを、今のアルハザードのようにするのはもう二度と嫌なのだから。
大切な人を奪った魔導が嫌なのだから。
そしてその計画の名を呟く。
そう、その計画こそが――
「『魔導堕し』を」
――魔導堕し