新暦75年のこと。
とある日のこと。
八神はやては悩んでいるのだった。
第四十二話
機動六課、というものを設立しようとは思っている。
既に隊長陣の構成は決まっている。
高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、ヴィータ、シグナム。
それにロングアーチにはシャマルがおるし、自分の傍にはザフィーラがいてる。
後見人にはリンディさんやクロノ君、ほんでカリムがおる。
どっからどう見ても完全な身内で固めたチームや。
こんなもんで設立してもええように思われることなんぞ決してあらへん。
なによりもメンバーがメンバーや。
せやけどもカリムの預言者の著書によって出された預言。
それは無視にするにしてはあんまりにも大きすぎる。
やからカリムに頼んでこのチームを設立してもらうよう頼んだ。
信用できるメンバーが少ないよってに、身内で固めるのは仕方あらへん。
信用できるメンバーで尚且つ実力がそれなりにあるメンバー、でというこやけどな。
どう考えても、こんなんで他からはええ返事なんて貰えるはずがあらへんやん。
せやけどもこれで推し進めなあかん。
こんなんちょっと考えればおかしいのは当たり前の組織やけども。
確実にこの『機動六課』は設立させたい。
預言者の著書による預言をなんとしても覆したい。
せやからこの多少おかしくても強引に進めたいんや。
詳しいことは2人には話しとらんけども、なのはちゃんやフェイトちゃんの承諾はちゃんと得た。
後はあの海千山千の爺共をどう潜り抜けるかや。
三提督やカリム、クロノ君やリンディさんが後見人であっても、あの爺共を潜り抜けるんは難しい。
これはいっちょう苦労しそうやな。
私はどう海千山千の爺共を潜り抜けるかを思案しとった。
せやけどももっと大変なことがある。
隊長陣に優秀なんを集め過ぎて、古参の、役に立ちそうな局員を集められへん。
元来機動六課、迅速に動かさなあかんチームの場合、経験が豊富なんを集める必要がある。
そやけども隊長陣に強力なんを集め過ぎた。
それこそリミッターで抑えつけなあかんくらい強い人らを。
いくら信用できる人でも、リミッターはつけなあかんくらい。
そやけども、納得できへん隊っちゅーことは、古参の経験豊富な局員を、あいつらが渡してくれるはずがあらへん。
つまり海千山千の爺共の息がかかっとらん局員。
つまりは新人くらいしか、手に入れることができへんのや。
まあ幸い、なのはちゃんとヴィータは教導官の資格をもっとる。
新人を集めて訓練して使えるようにする、ちゅー計画はそないに夢物語やないちゅーこっちゃ。
問題はどんな新人を手に入れるかや。
理想的なんはランクが高すぎず低すぎず、尚且つ伸び代のある新人や。
まあそういった人材は2人とも見つけられたし、ええか。
なのはちゃんもあの2人やったら訓練しがいがありそうとか言うそうやし。
……ただやりすぎとれへんかなぁ。
この頃、なのはちゃんの訓練がきつすぎる、て直訴しにくる局員もおるくらいやし。
まあなのはちゃんの訓練に耐えられる局員が増えてきたから、訓練も厳しとーだけやと思うんやけど。
新人たちがなのはちゃんの訓練耐えられるかなぁ……?
そこらへんが心配になる私やった。
問題はフェイトちゃんが隊長を務めるライトニング隊のことや。
1人は決まっとる。
フェイトちゃんもすっごく心配しおったけども、なんとか説得させて入れることには成功させたわ。
ただフェイトちゃん、親バカも大概にせなあかんで。
と、突っ込みたかったけれども突っ込めんかったわ。
恐るべし、フェイトちゃん!
と、なると最後の問題はもう1人のライトニング隊メンバーちゅーことや。
誰かおらへんかな?
候補はおるけどもな。
キャロちゃんや。
ただキャロちゃんの場合はお父さんにベタベタやさかい、離れてくれるか問題やし。
オージン君呼んだら呼んだでファナムちゃんに殺されそうやし、
これ以上Sランクを呼ぶのはほぼ無理やしで、
うん、無理やろな、とは思う私やった。
ちったー親離れせなあかんよー、と叫びたい私やった。
まあ無理やろうけども。
なんせフェイトちゃんに子離れせな、とか言うのと同じくらい難しいことやかいな。
なんでうちの周りには子煩悩な母親や、父親大好きな子供がおるん!?
ほんま、ライトニング隊の最後の1人、どないしょ。と思う。
4人目の新人、強すぎず弱すぎず、伸び代のある新人、かぁ。
キャロちゃんが一番の適任なんやけどな。
ポジション的に考えてフルバックが欲しいところやしな。
4人目をどないするか、私は必死になって考えてた。
まあ他にも問題があるからなぁ。
海千山千の爺共をどう相手にするか、ちゅー問題がなぁ。
それに最大の難敵のレジアス中将。
糞爺とは違って、レジアス中将は立派やねんけど、その立派さのせいで分が悪いしな。
しかも私嫌われとるし。
まあそこはしゃーない。
いくら立派な中将が相手やからといって、私も手を抜かれへん。
カリムの預言が当たったらヤバいことにやるんや。
それだけはなんとしても阻止せな。
そのためには多少無茶で無謀やろうとも、この『機動六課』だけは設立させる。
なんとしも、預言は止めたるわ!
そう決意する私やった。
この決意は誰にも破られることは、ないで!
「ただなぁ。うん、修吾君がな~」
修吾君が機動六課に誘えって言ってくるねん。
いやまあ戦力としては申し分ないねん、戦力としては。
ただ信用できるかどうか、で言ったら信用もなぁ。できるこたできんねけど。
腹芸なんて無理そうやしな、修吾君は。
ただ修吾君が来るとなると、新人たちにも悪い影響与えそうやし。
勿論隊長陣にも悪い影響与えそうや。
そもそもからしてSSSランクの修吾君なんて入れるわけにもいかへんやん。
リミッターつけても入れること無理やん。
大体修吾君入れられるんやったら、
ファナムちゃんをリミッター入りで誘って、オージン君とキャロちゃんを引き入れようとするわ!
まあオージン君が来るかどうかは知らへんねんけどな。
ほんま、こっちのこともどないしょ。
海千山千の爺共と違って、こっちもやりにくいったらありゃせんわ。
第一管理世界ミッドチルダ
管理局の総本山のある地。
そのミッドチルダのとある道端。
必死になって歌っている少年がいた。
およそ八歳くらいの少年。
その姿はあまりにも奇妙だった。
ギターを弾いている少年、それだけなら就職年齢の低いミッドチルダでは珍しいことではない。
いや、ギターを弾いて流れているのは珍しいことではあるのだが。
なんせここはあまりにも人が多いのだから。
そして就職年齢の低い子供の大半は魔導師的に優れている子供が多い。
だから就職年齢の低い子供は魔法関係の職についているのだ。
逆に魔法に関係のない仕事は基本的に就職年齢が高い、これが普通なのだ。
だからギターを使って音楽を鳴らすような、それも流離の、なんて珍しいことこの上ない。
それも子供であれば尚更だ。
しかも子供の容姿が更に奇妙さを継ぐ。
まず車椅子に乗っている。
ここからしてどうしてこんな車椅子に乗っている子供が流浪の旅に出ているのかが分からない。
もっと然るべきところにいるべきなのだ。
しかも顔には刺青が彫ってある。
それも最近の若者が面白がってつけたり、ヤクザが箔をつけるためにするような刺青などではない。
まるで呪術を扱う者が彫るような、呪術のため、民族のため、歴史を感じさせるような、そんな刺青が彫ってあったのだ。
まるで呪いの意味を込められた刺青かのような。
まるでどこかの蛮族か民族かが入れたかのような、そんな刺青を顔に掘っているのだから。
そして右目にあるのは翠色の瞳。
左目は深く被っている帽子のせいで見えない。
右目が見えるのは、深く被っている帽子に右目の部分だけちょうど切れ目が入っているからだ。
髪色は金色、それも綺麗な金色だ。
そういうせいか、容姿も悪くない。
ショタコンなお姉様が見たらお持ち帰りしたくなるくらいかもしれない。
車椅子、深く被った帽子、民族風の刺青、八歳くらいの子供、ギター。
うん、確かにどこからどう見てもおかしいところだらけだ。
だがまあそんなことは気にしない。
ただ少年は歌っている、唄っている。
ただ好きな歌を、ただ奏でている。
奏でると同時に唄っている。
それだけでいいのだ。
彼にとってそれが幸せ。
それで生きていければいい。
どうやら彼の持っていたバケツの中にはお金がたまっている。
結構人気があるようだ。
「そんだらまぁ、次は自作行くズラ!」
と、そういうと、「ズラ」とかいう口調が出てきた。
これは方言なのだろうか、そう思ってしまうくらいの言葉だ。
あまりにも訛っている。
まあここミッドチルダはいろんな世界から人が来ている。
ちょっとくらい変な訛りがある程度では気にしないだろう。
少年はギターを鳴らす。
それはただ好きな歌を奏でるだけ、それでいいのだから。
「帰ろ、帰ろ、家に帰~ろ~、
僕たちの住む町へ~、
家族の待つ家へ~と」
ただ奏でる。
ただ唄う。
それが皆に伝わってくれるのなら、それはなんて良いことなのだろう。
なんて嬉しいことなんだろう。なんて幸せなことなんだろう。
ただそれだけでいい。
だから奏で唄う。
それだけが、きっと望みだったから。
「私の~大好きな家族の~、待つ家へ~、
帰ろ、帰ろ、家へ帰ろう~」
そして唄い終わる。
ギターもそれから少しして終了する。
そして観客たちからバケツの中にたくさんのお金が投げ込まれた。
どうやら大成功のようだ。
「良かったズラ~。
うう、自作がこんだけヒットしたのはこれが初めてズラよ~」
というか何度も何度も自作で挑戦していたけども悉く失敗していたらしい。
ただ今回のはかなり好評だったらしい。
それが彼にとってはかなりの幸せなことだったんだろう。
「やったズラ。やったズラ」
彼にとって歌を認められることは非常に嬉しいことだ。
彼にとって歌というものは大切なものなのだから。
泣くほどに嬉しかったのだ。
ただ彼は嬉しそうに、そして次を歌う。
もう一度、この前作った自作の歌を――
ただそれは不評に終わったらしく、項垂れていた。
その涙の理由は嬉しいのではなく悲しいからなのだが。
この涙の理由を変えられるのか!?