≪オージン≫ではなく≪佐藤芳樹≫としての記憶。
俺が前にいたところは決して魔法なんてものはなかった。管理局なんてのも別の次元世界なんてものもない。もしかしたら俺たちが知らないだけなのかもしれないが、とにかく魔法は空想の存在なんだ。
でも俺はそのありえないものにいる。架空の世界に、空想の世界に。
それは――なぜだろう?
第五話
「う~ん。やはり面白いの、面白いの。暇を潰せるわい」
そこは神のいる地。天界とも神界ともいえる天の世界。
数ある世界を見守る神ともいうべき存在。
そして彼の趣味はただ転生者を見ることであった。
「ほっほっほ、ハルケギニアを統一したか。うん、この過程がたまらんたまらんの。
おお、こやつ恋の奴に負けおった。こりゃあ死んだかの。
おお、おお、怖がっとる怖がっとる。やはりバイオハザードの世界に送り込んだのは正解じゃったな~」
ただ見ることくらいが彼にとっての娯楽。
人間は彼にとってはおもちゃにすぎないのだ。
だから彼は適度に誰かを殺し適当な世界に送り込んでその人生を見る。
ただ殺すとはいってもその大半は心のどこかで転生を望んでいるオタクたちだ。転生を望んでいるオタクたちも「ご都合主義最高!」「俺Tueeeeeee!!!」などをやらかして楽しんでいる。
これは相互のためなのだ。
オタクたちにとっては自分の願望が叶い、神にとってはその人生を見ることで暇を潰せる、相互のためになる最高の娯楽である。
「さてさて、次は……そうじゃの。リリカルなのはの世界に送ってやるかの。リリカルなのはに転生を望んどるオタクは、と。よしよし、コイツにしようかの。ここらで一番近くにあるトラックはと」
そしてまた新たなオタク殺しを始めようとする。トラックを使うことによって。
神技能の一つ「天から遣わす転生車輪」を神は発動する。ぶっちゃけ転生トラックである。
その技能はトラックを自分の能力によって自由自在に動かすことのできる能力なのである。
このスキルによって動かしているトラックに轢かれて死んだ者は自動的に神のもとに召喚されるというスキルなのだ。
「ほっひょっひょ。どんな物語になるのか、たまらんのぅ」
そしてまた新たな転生者を生み出すために、「天から遣わす転生車輪」を発動させる。
Side-Yoshiki
俺はとある銀行にいた。それは金を引き出すためにだ。
「へっへっへ~。リリカルなのはをこれで買えるぜ」
「んなもん、パソで見りゃいい話なのになんでわざわざDVDを買うかな。理解できん」
「は? オタクを甘く見るな、てことよ」
だからなんだよ。パソで見れば無料なのにわざわざ金を払ってまでDVDを買う必要ってあるのかよ。と心の内で思ってしまう。
まあお前の持ってる金だ。どう使うかはお前が自由に決めろってことだな。
「でさ、リリなの買うためにさ、家賃足んなくなるんだよ。だからちょっち貸してくんない?」
「買うの辞めろ」
前言撤回、人に借りようとすんな。
家賃払う金がないのなら、今から買おうとするものを買おうとするな。
そんなこんなを目の前にいる友人に向けて説教する。
「たく。お前さ、もしかしたらテンプレみたいな転生とか望んでるわけ?」
「は? お前、それはねぇよ。確かにちょっとはしてみたい、とは思うけどさ。リリなのの世界に転生でもしてみろよ。ぜろつかとか恋姫とか、それにジャ○プ、サ○デーとか見れなくなるじゃん。続き気になるじゃん。だからしたくねぇよ」
「まあそれもそっか」
転生なんてしてしまったら続きが読めなくなるな、きっと。
向こうの世界に同じ漫画があるかも分からないしな。
たとえジャ○プとかサ○デーとかあったとしても、絶対にリリカルなのははない。
そうしたら新しいリリカルなのはの二次創作や、それに気になってるものはきっと見れなくなるだろう。
「確かにそれは気になるな」
「だろ?」
確かに友人の言う通りだ。てっきりコイツも転生最高とか言ってるオタクかと思ったけど違うみたいだ。
やっぱり二次元は二次元ってことで見るのが一番良いってことだな。
「そういうこと。それに俺には愛しの彼女がいるからね」
「死ねよ」
なんでコイツは俺よりずっとディープなオタクなのに彼女がいるんだ。俺にはいないのに。ちくせう!!
「てか、お前さ。いつも畜生を、ちくせうとかいう癖あるぞ」
「え!? マジで!?」
いつの間に俺にはそんな癖が。
どないせう、どないせう。てまたかよ!!
「まあぶっちゃけどうでもいっか」
「まあそれがお前の個性だしな」
そんなこんなで俺は友人と話し合う。これからこの話はどうなるのか、なんとか。
「そんじゃ立ち読みしてこーぜ。チャ○ピオン、無敵最強格闘家がどうなったのか気になるしな」
「あ、それ俺も気になる」
それにもう一つ、自転車レースがどうなったのかも気になる。気弱眼鏡、今頃どうなってんのかな?
すると携帯のメロディが鳴る。あれ? このメロディは。
思った通り、すぐに友人が携帯をとる。やはり友人の携帯だ。
「もしもし? え、マジで! うんうん、じゃな~。そんじゃ俺、あいつのとこ言ってくるから!」
「ちくせう! 神は死んだのか! 死ねよ、この非童貞!」
「あはは、それではな、明智君。ばいなら~」
そう言って先に言ってしまった友人。多分、彼女からお誘いの電話だったのだろう。ああ、恨めしい。殺したいほどに恨めしい。
なんであんな奴に彼女ができて俺にはできないのだ。なぜだ!?
てか、俺また「しょう」を「せう」って言ってるな。この癖、どうにか直らないもんか?
「はぁ、しゃーね。俺1人で立ち読みしにいくか」
そう思ってコンビニに行こうとする。
だから銀行から出ようとする。
「いらっしゃいませ~」
「グヒヒ、お金引き出して、グヒヒ。なのはちゃ~ん」
なんか気味悪いのが銀行の中に入っていく。しかも入口を占領している。なにか妄想しているのか、入口に入ったままあんま動かない。
おい、どけよ。俺が通れないだろ。
親友はもうとっくに向こうに言ったってのに、俺がコンビニに行けねぇじゃねぇか。
まあこここでいろいろと文句を言ってやりたいが、面倒臭い。とっとと――
――俺はそこでありえないものを見た。そこから非日常の世界が待っていた。
「やめろ、やめろ、止まれ、止まれ、勝手に動く――」
ダンプカーが、銀行の入り口めがけて突っ込んでくる光景を、ちょうどそのオタクに向かって一直線に問答無用に突撃しようとしている姿が――
どがあああああああああああああっ
俺は咄嗟に逃げた。逃げた。目の前のオタクを助けようともせず、自分の命が惜しいばかりに逃げ出してしまった。
だがそれでも、俺は無事なんかじゃなかった。
突っ込んできたダンプカーは同時に大爆発を起こして地獄のような世界を作り上げている。
それはまさにテロが起こったといっても過言ではない。いや、これはテロだ。おそらくは。
轢かれたオタクはグチャグチャになっていて、見るだけでもおぞましく、口から吐いてしまった。体中から今日食べたものが戻ってくるのを感じて口から外に出してしまった。
運転手はかろうじて生きている。だがすぐに亡くなるのだろう。
「あ、ああ、な、んで、なんで、勝手に動、く、んだ、よ。ぶれ、えき、効か、ないん、だよ」
運転手がなにかを言っている。まるで目の前の光景が信じられず、今の状況が信じられず。
それでいてさっきまでのなにか不思議なことが起こったかのように信じられず。
だがそれ以上に、上から瓦礫が降ってくるのが見えた。
その下には俺の姿がないことは分かりきっている。だがその下にはまだ小さい男の子が。
「ああああああああああ!!」
咄嗟に動いた、さっきはあまりにもすぐに自分の身を案じて逃げ出したのに。
今度はちゃんと動くことができた。子供のもとに全速力で走って突き飛ばして、そしてなんとか救うことができた。『子供』だけは。
ぐちゃっ
脚が潰された。瓦礫に埋もれて、骨まで粉砕された。瓦礫に押し潰されて、どうしようもなく、たださっき助けた子供がどうなったのか、助かったのか無理なのか、気にしようとすることもできず。
ただ痛かった、ただこの世で最も不幸なのは自分だろうと酔い痴れることができるくらいには痛かった。
「―――――――――――ッ!!」
声にならないくらいの激痛。叫びたくとも、あまりの激痛に叫ぶことすら許されない。
なにが起こったんだ? なにがあってこの現状があるんだ?
分からない分からない、でも分かることだけは一つ。『死にたくない』
だから助けてと泣き叫んだ。神に祈った。でも現状は変わらない。
そして見える。上の方を向くと、そこには――今にも落ちてきそうな天井が、今すぐにでも瓦礫となって襲いかかってくる天井があった。
「助けてッ! 誰か!! 誰か、誰か、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて!!」
恥も外聞もなく泣き叫んだ。死にたくない想いがあまりにも強すぎた。
だから誰か助けてくれ、助けてくれ。俺は――俺は――
そうして降ってくるのは天井の瓦礫、それは頭を叩き潰す、人1人を即死させるには十分な瓦礫が襲い掛かる。
『死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくな――』
≪佐藤芳樹≫は死んだ。首から上は瓦礫に潰されて消えている。
現場には脚と首が潰されて亡くなっている死体がそこに残った。
そこには多くの死体があった。
事故だったのか、それともテロだったのか。とにかくこの事件の犯人の≪蔵元源蔵≫氏はこの事件にてダンプカーの中で死亡していた。
生存者はたったの28人、その中には小さな子供もいた。芳樹が命をかけて――かけるつもりは毛頭なかったが――救った小さな小さな、男の子である。
「リリカルなのはの世界に送ってやろうかの」
「おお、マジ!? マジで、ひゃっほーーーーーーーーーー!!」
天界には神が1人の男にある特典を与えていた。
その男はさっきダンプカーに轢かれて体中が粉々になってしまった男である。
「すまんの。わしのミスでこんなことになってしまって。代わりにお主の好きなリリカルなのはの世界に送ってやるからの。それに特典もやろうかの。なにが欲しいんじゃ?」
「そ、そうだな~」
「無限の剣製か? 王の財宝か? それとも幻想殺しなんてどうじゃ? なんならアルハザードや古代ベルカのデバイスを作ってやってもよいぞ」
「マジかよ。サンキューな。神様。良い人だぜ、神様は」
「ほっほ。そうじゃろそうじゃろ」
力を与えてやることにする。何を望んでいるのか。
そしてそのオタクは遂に特典を決めるのだった。いろいろな特典を貰った。
「よっしゃあ。SSSランクの魔力量に、古代ベルカ式アームドユニゾンデバイスのカリバーン。それに魔力変換資質『電気』『炎熱』『氷結』。そして銀髪にオッドアイ。女性にも見えるほどの美形! これで勝つる!! 待ってろよ。俺が皆を救ってやるぜ!」
「それじゃ送るぞ。気をつけてな~」
「へ? 急になるなぁぁぁぁぁぁぁ!!」
いろいろとそのオタクに特典をつけて送り出す。そこには穴があった。
突然なのはの世界へと送り出される。とはいっても憑依でもトリップでもなく、ただの転生なため雰囲気だけであるのだが。
こうして神の娯楽は始まるのだった。
「いやはや、たまらんの~。なんとテンプレ設定。最近テンプレを見るのも久しぶりじゃし、初心に帰ってテンプレでも見てみるかの」
ただ娯楽のためだけに殺された。ただの娯楽のためだけに。
ただ――そこに天使が現る。
「神様。なぜこのようなことを。死者が大勢来ていますよ!」
「なんじゃ、天使。構わんじゃろ。今回で死んだ奴を天国と地獄にでも分けてやればいいじゃろ。全く、これは事故なんじゃから」
「しかし!!」
「仕方ないの~。ほれ、何人か同じ世界に送ってやるからこれで許してちょんまげ」
これは事故。
ただ蔵元源蔵のミスによって起こった事故として判断される。それがたとえ神様の技能による≪天から遣わす転生車輪≫の効果だっとしても。
だから今回は蔵元源蔵の過失。彼は地獄行きとなってしまった。たくさんの人を殺してしまったとして。
神はこんなことで悪びれもしない。
それから少しして何人か選定してから同じリリカル世界へと送りこんだ。
ただテンプレ主人公を見るのもいいが、複数人いた方が面白いかもしれない、と神が判断したからだ。
とはいっても送るのは神の能力で、転生することで喜ぶような奴だけなのだが。
「さてさて。ん? 今回の一人だけ、技能持ちがおったんじゃな。どんなスキルなんじゃろ」
技能持ち、それは現存するはずの世界にある能力を持った者のこと。
いわゆるその世界ではありえない能力を持った者のことである。
因みに転生者もその技能持ちになっていることもある。
簡単にいえば恋姫無双の世界に魔法を使える者がいたり
リリカルなのはの世界で宝具の力を持つ者がいたり
ゼロの使い魔の世界で杖を持たずに系統魔法を扱える者がいたり
バカとテストと召喚獣の世界で超能力者がいたり
そういったその世界には現存しない能力者のことを技能持ちというのだ。
そして現実世界にある、現実世界にあってはならない能力を持った者が1人いた。
技能持ちは幾らでも作れる。だが今回の天然物の技能持ちのようだ。
天然物の技能持ち、つまり神が手を加えなかった者の場合、その確率はほとんど0に近しい。それとも地球滅亡並の確立だ。それほどありえない確率。
だがその天然物の技能持ちが見つかって興味深いとのことである。
「さてさて、どんなスキルかの。気になるの。どれ、どんなスキルだったのか、見せてみい」
「は、はあ」
天使はあまりにも傲慢なこの神の態度に苦々しく思っている。
だがどんなに苦々しく思ってもこの神には逆らえない。天使は神に逆らえない。それが絶対不文律だからだ。
かつて神に反逆することができた堕天使にはこの絶対不文律がなかったために成功できたのだ。それを思い直した神は逆らえないようにDNAの一片にまでその絶対不文律を刻み込んでいる。
だからこの天使は神に対して逆らうことができない。
「なになに? えーと、佐藤芳樹。無自覚タイプ。自分のスキルに気付かんままに死んだのか。勿体な――」
転機が現れる。神の肉体に変化が訪れる。
それは浸食、神の肉体を犯す者が現れたことを意味する。
「な!? や、やめ、辞めろ! 辞めるんじゃ! こ、くの、この、き、切り離さねば――!」
あまりの浸食速度に神は恐怖した。
今すぐにこの浸食の原因を切り離さなければ自分は食われる。
だから神はすぐさまに切り離した。幾ばくかの能力を犠牲に、この浸食者に肉体と神技能を与えて。
「こ、殺せ! コイツを、すぐに、すぐさまに――なっ!?」
だが切り離した途端、切り離された魂はすぐさまに消え去る。いや、さっきの穴をくぐる。その穴はさっきのオタクを送り込んだ穴。
つまりこの魂は、『リリカルなのは』の世界に逃げ込もうとしているのだ。
「な、なんなんじゃ! なんなんじゃ!! なんなのじゃ!! あれはぁぁぁぁぁぁ!!」
報告書にはこう書いてあった。
≪佐藤芳樹 20歳 男
無自覚技能持ち
所持技能(スキル):「罪と罰」
詳細:すさまじい怨念によって自分を殺害した者を殺し奪う技能≫
Side-Ordin
不思議な光景が目の前にあった。
目の前には下半身だけになって血溜まりに倒れている俺の下半身と、それを見て泣き喚くファナムの姿があった。
そして俺の口の中には――
――死体になっている俺の上半身があった。