高町なのはとティアナ。
2人の溝は深く大きくなっていく。
だけれどもそこにシャーリーが登場。
シャーリーがなのはの過去を話す。
それはあまりにも悲惨な過去だった。
わずか9歳で戦場に突入、体に負担のかかる砲撃魔法の使用。
そして遂には撃墜され、もう二度と空を舞うのも無理ではないのか、と思われるほどの大怪我を負ってしまった。
あのまま死んでしまったとしてもおかしくないほどの大怪我を。
だからなのはは新人たちに、後輩たちに同じような目に会わせたくないと、そう考えている。
それはきっととても嫌なことなのだから。
だから必死になって鍛える。
そう、シャーリーと、そしてシグナムは伝えた。
第六十二話
俺はファナムとキャロと一緒に過ごしていた。
いや、俺自身2人と一緒にいたかったのかもしれない。
だって俺はなんていうか、怖かった。
たったそれだけ。
修吾とかいうのに目をつけられたのは拙かった、とそう思えるのだけれども。
まあ今はそんなことを気にしても仕方がない。
だって管理局勤めだもの。そんな無茶なことはやらかさないだろう。
……やらかさないと、いいなぁ。
そう本気で思ってしまう俺であった。
ただファナムとキャロとフリードと、一緒にいられるだけでいい。
なにか特別なものなんていらない。
ただ普通に普通の平穏だけでいい。たったそれだけでいいのだから。
特別な力なんていらないから、だから普通の平穏が欲しい。
ファナムと、キャロと、フリードと、
彼女らと一緒にいられるだけの平穏が欲しい。
俺は切実にそう願った。
それにきっと、なによりも怖かったのだ。
俺はただ殺されるのが怖かった。
ただ抵抗する術も暇もなにもなく、ただただ『死』を無理やり運んでくるのが。
殺されるのが怖かったから。
ああ、非殺傷じゃないか。だから殺されるなんて心配ないじゃないか。
そんなことはありえないじゃないか。
そう思っていても、ずっと殺された光景が思い浮かんでしまう。
時たま吐き気が催されるけども、それでもなんとか耐えれる状態にまでは戻って来ていた。
俺のトラウマはだんだんと強くなっていく。
「オーちゃん、オーちゃんは私が守る、から」
「おとう、さん」
2人は眠っている。
俺を抱きながら、だけれども。
特にファナムの方はなんというか俺を抱いて安心していて、それでいて不安な様子だった。
俺の自惚れでなければいいんだが、多分ファナムのトラウマがあるんだろう。
目の前で俺が殺されたことに。
だからこそ復讐にその全てを捧げて、
ただ竜を恨み憎み尽くして、
だからこそドラゴンを殺し誅し戮し尽くすための力を手に入れた。
だからこそ、トラウマになった。
守れなかった自分に対しての、トラウマ。
多分そんなところ。
俺の自惚れでなければいいけれども――
「ありがとな。ファナム」
俺は眠っているファナムを撫でる。
するとファナムは安心したように、不安が薄れていく。
きっと幸せな夢にでもなったんだろう。
そう思うと気が晴れていく。
するとファナムが起き上がる。
「オーちゃん。ん、大丈夫?」
「ん? ああ。ファナムとキャロがいてくれるからな」
これは俺の本心。
ただ愛すことができる人がいて、愛してくれる人がいる。
それだけで俺は幸福になれる。
きっと幸せっていうのはこういうことなんだろうな、と少々ばかり臭いことを言う。
まあそれでも構わないんだけどれども。
「オーちゃん」
「ファナム」
キャロもフリードも眠っている。
すぅすぅ、という寝音が、この静かな部屋に響く。
目の前にいるのはファナムの顔。
きっと誰より美しい、俺にはそう思える、ファナムがいた。
ファナムが少しずつ顔を近づけて――
「ちょーなー、話あるんやけ――」
「あ」
「オーちゃん」
誰か入ってきた。
あ、そういやあれ、八神部隊長だ。
というか、ノックしろよ! とか思った。
このまま空気が崩れた気がしたんだけれども、ファナムにはそんなこと関係なく――
そのまま俺に顔を近づけるのだった。
て! さすがに恥ずかしいんだけど、ファナムーーー!!
「ご、ごめんなー! ていうか無理やぁぁぁぁん!
私も彼氏欲しいぃぃぃぃぃ!!」
んなこと言って去りやがったよ、あの人はぁぁぁぁ!!
というか、ファナム。
お前、もうちょっと羞恥心を、て――あ、やべ。気持ちいい。
あー、駄目だ。
雰囲気に流される。
ファナム、こういった雰囲気を無理やり作ってちくせうー。
あ、この喋り方気持ち悪いんだった。
口に出さないようにしとこう。
Side-Hayate
とりあえず部屋に入ったらな、男と女のキスシーンに出会ったねん。
いやね、普通はね。そんなん見たらパパラッチやー、みたいな感じにすんのが私なんやけど。
あのままいたら桃色空間に押し潰される、思うて逃げてきたんや。
あかんわー。
恋人欲しいわー、絶賛募集中やー。あ、そんかし修吾君はゴメンな。
「いや、ノックしねーで入ったはやてが悪いだろ、そりゃ。つーかしろよ、ノック」
「ごっめーん、忘れてもーたー」
「それで済まない時があるんだけども」
うー、最近ヴィータが怖いぃぃ。
なんつーかうちらの、というより夜天のストッパー役になってきとる。
はっはっは、もうヴィータがリーダーやった方がええんちゃう、思うくらいにや。
あかん、マジでそう思えてきとるから仕方ないで。
私が小さい頃はなんかこう、見た目相応な気がしたんやけど。
あ、でも今でもアイスには釣られるお子ちゃまなんやけどな。
シグナム、ぶっちゃけニート侍な気がするし。
「主はやて。そのようなことはありません。私がヴォルケンリッターのリーダーです」
「なら仕事しろよ。仕事。まさか模擬戦申し込むことがお前の仕事じゃねーだろな」
「うぐぅ!」
「あかん! ヴィータの毒舌ツッコミレベルが上がってきよる!
私の可愛いヴィータはどこいったんやー!!」
そんなこんなで盛り上がっとった八神家やった。
つってもシャマルは医務室で忙しいし、ザフィーラに至ってはお座敷犬になっとって一言も喋らんかったけれども。
と、いうかもうただの大型犬としてみなされてないで、ザフィーラ。
なんか喋らな、ザフィーラ。
そう思うた私は悪ないと思う。
Side-Fanam
キャー、オーちゃんとキスしちゃったー!
いつもしてるけども、いつもしてるけども!
なんか途中で邪魔入った気もするけど、
あんまりよく分からなかったから別に気にしてない。
そう思っていると――高町教導官とティアナ・ランスター二等陸士がいた。
多分、話しあっているのだろう。
しかも茂みにはシャーリー陸曹に、他のフォワード陣もいるし。
まあ隠れている、ていうのは分かるんだけれども。
多分、和解できているんだろう。
でもまあ一応近づいていく。
あの子もきっと多分――
「こんにちは」
「あ、ファナムちゃん」
「ファナム二等空尉」
高町教導官とティアナ・ランスター二等陸士が、私の名前を呼ぶ。
私も有名になったものだ。
私が管理局にいるのは唯一つ、復讐せんがために。
でもその復讐するも無駄だった。
それでもきっとこの力は無駄にはならない。無駄にはさせない。
復讐することはなくなったとしても、
それでもオーちゃんを守れるだけの力はある。
このバルムンクで、今度こそオーちゃんを守り抜く。
「高町教導官。先ほどは訓練の邪魔をしてしまい、すみませんでした」
「あ、あはは。いいよ。私もあれはやりすぎだったと思うし」
「いえ。あれは私が無茶なことをやらかしたせいですし」
「そんなことないよ。あの二撃目はいけなかった、てヴィータちゃんに怒られちゃったし。
近々処罰を下されるって」
互いに互いが謝りあう。
きっとそれは不毛なことなのかもしれないけれど、
それでも尚しっかりと意思は持っている、のかもしれない。
「……高町教導官」
「なに?」
「……これは、私の勝手な言い分ですが、私怨を以て動く局員など、多くいます」
「……」
「そういった人たちは、安全性など度外視して力を求めます。
嘗ての私のように」
そう、私もティアナ・ランスター二等空尉のように力を求めた。
竜に対して絶対的な力を手に入れられるよう。
なにがあろうとも、ドラゴンを殺害し得る力を。
だから私自身の安全性など無視したような訓練を積んできた。
たとえ私の身が砕けようとも、あのドラゴンだけはどうあってでも殺し尽くす。
そういう意思を以て、そういった怨恨でもってして。
だからこそ理解できる。
力を求める者の気持ちを。
私は、オーちゃんが生きていたから良かった。
けれども他の人がそうじゃないってことも。
「だから、そのことも、考えてあげて、ください」
「……うん、そうだね」
トラウマのことも話した。
と、いうよりもオーちゃんは少し吐きそうになったけれども、
根性でカバーして吐かなかった。
たださすがに憑依した、てことは話さなかったけれども。
なんというか殺されかけた、何度も。
それがトラウマになっている、ということになっている。
なんでもアークというのに二回も殺され――
絶対殺す誅す戮す、オーちゃんを二回も殺しかけて、ぶっ殺す。
ふふふふふふふ、は!
うー、私、いつの間にかこんな感じに暗黒面に落ちかけているよ。
でもいいかな。オーちゃんと一緒にいられるんだし。
こうして私は高町教導官やティアナ・ランスター二等陸士と話し終わって、今日という日は終わっていく。
とある管理外世界にある暗黒街。
とある者が刀を持ち、そして振り回していた。
いや、振り回すというにはやはりなんというか違いすぎる。
ただ男が何人か、惨殺されていた。
「たはは、本当に知らないんですね。あたなたち」
「し、知らねぇ! 知らねぇんだよ!」
「くっそぉ! 俺たちは解放軍なんだ! 管理局から皆を救うんだよ!」
「なのに邪魔すんなぁぁぁ!!」
「……どうでもいいんですよ。まあ関係ないと分かっただけよしとしますか」
そこにいるのは小さな少年。
まだ12歳くらいではないのだろうか、10歳から12歳くらいの少年。
しかしまだ小さな小さな少年は、しかしそれでも大の大人たちを相手に圧倒していた。
こいつらの名は解放軍。
管理局を敵としており、管理局からの解放を目的とする組織である。
そしてそのためなら無辜の民ですら平気で犠牲にする。
それは平和のための必要な犠牲である、と称して。
だがそんなものはすぐさまに崩された。
たった1人の少年によって。
刀を持つ少年によって。
「いやはっはっは。正義だなんだの称して無関係の人をぶっ殺しまくるのに虫唾が湧いただけですよ。
たははは、なんなら今すぐここで殺してあげますよ」
「糞! 糞ぉ! なんなんだ、テメェはぁぁ!!」
「たははは。もういいです。むかつきましたから九割殺しにでもして管理局にでも届けますか。
一応あなたたち、広域次元犯罪者ですし」
「くそ! 魔導師でもない貴様が、俺らを相手にできるとでも!」
「できるからこそ、あなたがたは血の海にいるんでしょ?」
そう。事実だった。
魔導師でもない存在。
だがその力はあまりにも絶大にして強大だった。
そしてこの少年はこういった男が大嫌いだった。
本当に、本当に、心底大嫌いだった。
似ているから、本当に似ているから。
だから殺したくなって、殺したくなって――
それでも尚――
「だからもう」
ただの一瞬にして倒す。
このままダラダラ続けていたらいつ殺意が湧くか、分からないから。
だから一瞬にして九割殺しにする。
本当に虫の息といってもいい。
この状態のこいつらを簀巻きにでもして、管理局のある場所にでも放りこむ。
それだけで十分だから。
「たははは。なにか分かりましたか?」
「いや。やはりなにも分からなかった」
すると少年の近くにある者が現れる。
それは人ではなかった。
純白の毛色をした狼。狼型の使い魔である。
だがこの少年のではない。
少年は魔導師ではなく、ならばこの純白の狼の使い魔は誰の使い魔なのか。
それが全く分かっていない。
「たははは。やっぱりそう見つからないものですね」
「……もう、止めにしないか?」
すると狼がなにかを口にする。
すると少年は突然動きが止まったかのようになる。
それはなにを示しているのか――?
「なにを、ですか?」
「復讐、だよ。そんなことをしても、あいつは喜ばんぞ!
あいつはお前に幸せに生きてほしい! そう願っているに決ま――」
「あの人はそんなこと考えてませんよ」
それはただ重い言葉。
少年の目から冷たい視線しか生まない。
「あの人は本当に身勝手で自分勝手で、命の恩人でもなけりゃ尊敬もしてませんし、
でも、それでも」
「憎しみは、憎しみしか呼ばないんだぞ! あいつはんなことは望んでなんて――」
「分かり切ってますよ。それでもいいんです。私はあいつを殺せれば。
憎しみや恨みで動いてなにが悪いんですか? 怨恨で戦ってもいいじゃないか。
たとえそれが私の自己満足だとしても、私はそれで十分に満足ですよ」
狼は何度もこの少年を説得した。
だがその説得の全ても無駄に終わってしまう。
この少年はただ意固地に、ただ辛い人生を自ら歩む。
忘れて、ただ幸せな人生を送って欲しい、ただそれだけなのに。
少年はただ迫害されてきた。ただもう自殺しようか、そう思えるくらいに。
拾われた時もただ憎んでいた。信じられなかった。
ただ孤独と怨恨と不信が続く。
でもそれでも拾った男は少年に構い続けた。
それは何度でも何度でも――
ああ、陳腐な展開だけれども、少年は少しずつ心を開けた。
陳腐な展開だけれども、少年は拾った男を好きになった。
だから拾った男は父親になった。少年にとって。
嬉しかった。
その時、父親になってくれた男が使役していた使い魔がこの狼だった。
幸せな生活が続くと思っていた。
でも、そんな生活も続かなかった。
目の前で、殺された。
殺した奴は次元犯罪者だった。
それ以来からだった。
陳腐な展開だけれども、復讐を誓った。必ず殺すことを誓った。
ただただ殺して殺して殺してやる、とそう誓った。
それ以来からだ。
少年は次元犯罪者を嫌いになった。
非魔導師の身でありながらも尚、魔導師を圧倒するだけの実力を身に付けた。
特に正義だなんだの言って何の関係のない人を襲う奴を。
必ず見つけ出し、殺してやる。
それが少年の決意だったのだから。
「……糞。くそ――」
「分かっているんでしょう。あなたじゃ私を止められないことくらい。
止められるとしたらあの人の幽霊くらいでしょうか。いや、それでもきっと無理でしょうね」
自己満足なのだと分かっているかもしれない。
それでも尚憎くて憎くてたまらない。
殺し尽くしたいくらいに、殺意が芽生える。
ああ、憎しみで戦うことは悪いことなのか?
ああ、ならば間違っていたとしてもいいじゃないか。
止められないのだから。
憎しみを以て戦うことのどこが悪い?
ただ少年はそう思うようになっていった。
今ではすっかりと、戦うことに喜びを、傷つけることに喜びを覚えてしまったのかもしれない。
このままではあの男と、父親を殺した男と同類になってしまう。
そう分かっていながらも、少年は止められなかった。
憎しみはより加速していくだけだった。
狼は止めようとしたけれども、無駄だった。
「ほら、行くよ。
必ず見つけて、殺してやる。
お父さんのこの名刀≪吉備団子≫で。
だから待ってろよ、【アーク・ハルシオン】」
父親が持っていたのはロストロギアとも思えるような刀だったのかもしれない。
その刀の名は名刀≪吉備団子≫。
切れ味は最高級クラスの業物。
そして少年の父親を殺したのは白のオールバックに紅の外套を纏いし男。
ああ、その男が心底憎くてたまらない。
【アーク・ハルシオン】
それが仇の名前。
殺したくて殺したくて仕方のない男。
父親を殺した理由は、「トリッパーだから」だの「正義のため」だの「覚悟を背負うゆえ」だのなんだの意味の分からない理由で殺された。
ああ、だからこそ殺してやる。
ただ後悔して死ね。
少年の復讐の旅は続いていく。
狼の名は≪イヌ≫。
かつて少年の父親の使い魔だった。
名刀≪吉備団子≫を持ち、≪イヌ≫を連れ、ただ旅は続いていく。
彼の名は≪キジ≫。
【アーク・ハルシオン】を殺す者。
殺し誅し戮す者が再び現れる。