陰陽五行。
木は火を起こし、火は土に還し、土は金と成り、金は水を浮き出し、水は木を育む。
木は土を弱らせ、土は水を奪い、水は火を消し、火は金を溶かし、金は木を殺す。
五行の名のもとに、全ては回っている。
すべてはすべてに関係する。
第六十八話
現在、8歳くらいの子供は機動六課に来ていた。
「うおー、すっげーズラーな」
なんか目をキラキラ輝かせてみている。
歳相応の子供のようだ。
車椅子のハンドリムを回しながら、
彼は六課内を見回していく。
因みにヴィヴィオのことをどうして知っていたのか、
なのはは子供に問いかけたのだが、
「あれ? なんでオラ知ってるんだろ?」
みたいな感じで誤魔化されてしまった。
その後、歌を歌いまくって、ヴィヴィオに懐かれまくった車椅子の子供は、
「もっと聴きたいズラか?」
「うん」
という感じで非常に喜んでいた。
いや、だって音楽家にとって歌を聴きたい、というのは凄い褒め言葉なのだから。
そろそろ帰らなければならない時間帯になると、
ヴィヴィオが――
「なら一緒に帰ろうよ」
と、言っていた。
非常に満面の笑みで言っているので、断ったら泣きだしそうな雰囲気がぷんぷんしている。
なのはとしてはどうしよう、どうしよう、と思っていたりもする。
『あー、別にええで。連れてきても』
「軽いよ、はやてちゃん!」
ものすごく軽い感じでOKを出されてしまったのだった。
さすがにこの軽さは如何なものだろうか、と思ってしまう。
因みに自己紹介はしている。
彼の名前は――
「オラの名前はザイオンっていうズラ。
この車椅子はデバイスのスーシェンて言うズラ。よろしくズラよ」
『Yeah』
と、ザイオンという名の少年と、
車椅子型デバイススーシェンとの出会いであった。
Side-Hayate
それにしてもまぁた金髪に、翡翠と紅玉のオッドアイかいな。
なんでこないにバーゲンセール並に出てくるかなぁ? 思うてしまうわ。
そんでもバレルが使っとった『ハイパーカートリッジ』ちゅーもん。
明らかに危険すぎる。
込められとる魔力量が大きすぎて、使用者の肉体をボロボロにまで蝕んで、しまいには破壊してしまう代物や。
命を引き替えに絶大的な力を得る、そんなものや。
現にバレルは亡くなった。
自分の魔力量に押し潰されて――
なのはちゃんのディバインバスターはちゃんと非殺傷やった。
しかも魔力ダメージでの気絶で、肉体にはなんの損傷もあらへんだ。
純粋に『ハイパーカートリッジ』ちゅーもんの副作用で死んだんや。
そやけども一体誰がこんなもんを作り出したんや?
こんな危険なものを。
私はそれを考えよったけれども――
あかん。いくら考えてもあかんわ。
ここはやっぱ専門家に任せた方がええな、私はそう判断した。
こないなもん、あったらあかん。
使うとしても、人に使ってええもんやない。
「どこのアホが作ったんやろな」
従来のカートリッジにより遥かに優れている。
だが優れすぎているためにそれは不良品の類となる。
だって使ったら死んでしまうカートリッジだなんて、
たとえその効力が素晴らしくても誰も使えへんやろう。
本当、どこのドアホで外道な奴が作ったんか、
それともただの失敗作を活用でもしたんか。
どっちにしてもその効力を知っときながら、
バレルになんも知らせんと渡した外道がおるはずや。
せやけどもいくら考えてもさっぱりや。
やっぱこういうのは専門家に任せて、
私らは私らの専門のレリックと予言のことについて考えんとあかんな。
それにもうすぐ公開陳述会もあるんやし。
しっかり気張らんと。
せやないと――
――誓うたんや。あの雪の日に。
私の全てを。
予言の可能性は、その公開陳述会が怪しい、とそない判断されとる。
長年、カリムの予言を研究してきた人たちが出した内容や。
そない大外れになることはない、と私は思うで。
そやからおおよそ9割、ここが怪しいとそない決めたんや。
私とカリムと、そしてその予言研究チームの皆で。
絶対に予言の成就なんてさせへんで。
必ず、や。
しっかしそのヴィヴィオにそっくり、というわけではなく、
ちょっと似ている程度の子供。
ぶっちゃけそれほど顔は似とらへん。
せいぜいが兄妹レベルの似ている程度や。
それも髪色と瞳の色とで、余計そう思えるくらい、そんな程度のもん。
ヴィヴィオはハッキリ女の子やし、そのザイオン君も男の子、て分かるくらいや。
今はやりの男の娘なんてもんでもなかった。
せやけども彼は車椅子型のデバイスに乗っとった。
車椅子、ああ、私にも因縁のあるもんや。
小さな頃にはお世話になっとった代物やな。
今ではもうさよならしてもうとるけれども、
あんな格好の子供を見ると、昔の私を思い出す。
昔の私も脚が動かんかった。
闇の書の呪いにかかってもうたんか、
リンカーコアが浸食されとって、そのせいか脚に電気信号がまったく伝わらん、という結果になってもうた。
まあそれを闇の書の闇を倒したことで、
そして私の、夜天の王女が、私のために、自らその命を絶ったために――
せやから、うちは誓うたんや。
必ず、必ずや!
機動六課
そこでは1人の少年が歌っていた。
因みにヴィヴィオはその歌を聴いていた。
「すーだららー、ぐーたららー」
「きゃー」
因みに某作品の歌を歌っていた。
皆大好きスーダラ節である。
ヴィヴィオはすっかりとザイオンに懐いていた。
まあなのはとフェイトにより懐いてはいるが。
ギターを弾いて歌っている。
車椅子に乗っているけれども、彼は全然暗くなんてなかった。
寧ろ逆に明るい。
「うわー、上手だね。あの子」
「うん、そうね。ただ――」
「なんでここにいるんでしょうね?」
ご飯を食べながら、雑談しているフォワード陣女子メンバーで話している。
スバルは純粋に歌が上手いことを褒め、
ティアナとヨモギはどうしてここ六課にいるのかが不可解に思ったのだった。
なんといえばいいのだろうか。
どうしてわざわざ六課にいるのか、ちょっと疑問に思ってしまったようで。
「いやー、宿取るの忘れてたズラから、
泊めてもらえることになってありがたいズラ」
まあ最大の理由としてはヴィヴィオが懐いているからだろう。
なのはやフェイト並に懐いているわけではないが、
しかしそれでもおおいに懐いているため、離れようとすると大泣きしてしまう。
だから引き留めざるを得ないのだ。
いや、ヴィヴィオを納得させれば話は別なのだから。
絶対に引き留めないといけない、というわけではないのだが。
「んじゃあ次何歌って欲しいズラか~?」
「しっかし独特な訛りね~」
「一体どこ出身なんだろうね」
この「ズラ」訛りはティアナやスバルにとっても聞き覚えがない。
まあそれくらい、珍しい部類の訛りということになる。
どこ出身なのか、よく分からない、といったところだ。
しかしヨモギはというと――
(どう考えてもトリッパーじゃん)
と、確信していた。
ただ問題としては彼がどのようなタイプのトリッパーなのか、
そこをまず判断しないとヤバいと思われる。
つまりは修吾みたいなトリッパーなのか、
またはオージンのようなトリッパーなのか、
そのどちらかを判断せねばならない。
できれば修吾みたいなタイプの転生者でないことを祈ろう。
と思って、ヨモギは接触してみたのだが。
「んー、ここがちょっと甘いズラな。
ここはもっと高く、あ、ここは低くした方がいいズラな」
音楽一直線にやっていた。
あ、駄目だ。コイツ、音楽オタク、みたいな奴だ。
物凄い音楽好きだと分かって、とりあえず介入するつもりはないらしい。
ただ――
「キャロ? ヨモギ? それがどうしたズラ?」
「あ、うん、どうでもいいや」
なのは、ヴィヴィオのことは知っていたらしい。
けれどもキャロとヨモギが入れ替わっていることに何の疑問も持たなかった。
あまりにも自然すぎたために、一瞬本当にトリッパーなのか? と、思ってしまうくらいに。
ヨモギもその返事を聞いて、思った。
(トリッパーによるバタフライ効果、または原作知識あんまり持ってない転生者)
と、いうことを判断づけたのだった。
なのは、ヴィヴィオのことは知ってた割に、
キャロのこととかはあんまり知らなかったらしい。
まあつまりはその程度の原作知識しか持っていない、ということである。
そういうわけでヨモギは警戒するのを止めたのだった。
ザイオンに非常に懐いているヴィヴィオであった。
「そんじゃ、ヴィヴィオ。
オラの作曲した歌を歌ってやるズラ。オラのとっておきズラよ」
歌うのは、ただ一曲。
だけれどもヴィヴィオはこの歌が好きだった。
「帰ろ、帰ろ、家に帰~ろ~、
僕たちの住む街へ~、
家族の待つ家へ~と」
それはただ平穏を歌う歌。
ただのんぼりと、のほほんとした歌。
懐かしさを思い出させてくれるかのような、そんな歌。
ヴィヴィオはこの曲が好きだった。
なぜかは分からないが。
公開陳述会まで、残り僅か――