ヒソカとニコルが眠っている場所とは別方向に位置する森の中。
この場所でも仁義なきプレート争奪戦が幕を開けようとしていた。
「199番ねェ。他のヤツらの番号なんかおぼえてねーよ」
銀髪の少年、キルアは一人てきとうに島を探検しながらぼやいている。
(ひい、ふう、みぃ、3人。たいした連中じゃないな。
ま、ヒソカとハンゾー以外なら何人いてもオレの敵じゃないだろうし、
ハンター試験ってもこんなもんか。)
期待はずれ。
そんなことを思いながらテクテクと歩いていくキルアの目の前に、
「見つけたぜ!」
ザザザッ!
しっかり者の長兄アモリ、力自慢の次兄ウモリ、ちょっと臆病な末弟イモリ。
アモリ3兄弟があらわれた!!
「よぉボウズ、プレートをくんねーか。
おとなしくよこせば何もしない。」
末弟のイモリがキングオブチンピラーの風格を漂わせ、キルアにプレートを要求する。
イモリの後ろからは長兄アモリと次兄ウモリがにらみを利かせていた。
キルアは心底どうでもよさそうな表情(カオ)で3人組を見つめる。
「うしろ、危ないぜ」
「あん? そんな手にのると思って」
「うおッ!」
ガッ!ドガッ!ダダンッ!
3兄弟の死角から忍び寄っていた黒い影が、後方にいた長兄アモリを襲う。
「に、兄ちゃん!?」
「くそっ、後ろに一人隠れてやがった!」
「円陣を組め! 警戒!」
キルアの忠告により難を逃れたアモリの号令で、3兄弟は素早く戦闘に意識を切り替える。
3人が背中合わせになって全方位を警戒する防御陣形(ディフェンスフォーメーション)だ。
「てめ、人が助けようとしてやってんのにバラすとはどういう了見だゴルァ!」
抗議の声を上げたのは、さきほどの黒い影こと雲隠れ流の上忍ハンゾーだ。
彼はキルアを援護するために奇襲を仕掛けようとしていたのだが……
「べつに。助けてくれなんて頼んでねーし」
「ッ、協調性の欠片もないクソガキだな!?」
3次試験を一緒に突破したよしみで助けに出てきてみればこのざまだった。
(どうやら知り合いみたいだが、連携しているわけでもないようだな。
あとから出てきた黒いヤツの狙いはオレのプレートか?
はさみうちの形になったのはただの偶然……)
キルアとハンゾーのやりとりから、アモリは2人が積極的な協力関係にはないことを悟った。
「黒いヤツはオレが相手をする。ウモリとイモリはさっさとそのガキを仕留めろ!」
「了解。」「わかった!」
「GO!」
ダッ!
長兄アモリの指示を受けて、ウモリとイモリがキルアに襲いかかる。
まずは弱そうなキルアを弟たちに速攻でかたづけさせて、
その余勢をかって強そうなハンゾーを3人がかりの盤石の布陣で仕留める。
それがアモリの目算だった。
弟たちとキルアの戦いを背に、アモリはハンゾーと対峙する。
「ようアンタ、せっかく助けにきたってのに肝心の相手があれじゃ報われねェな」
「お、わかってくれるか。
いやー、こう見えてもオレって結構世話焼きなところがあってよ
目の前で知り合いが絡まれてるとちょっとほっとけないんだわ」
ばき!
「そうかいそうかい。
お互いに苦労性みたいだな。アンタとは気が合いそうな気がするよ」
ぼかぼか!
「……時間かせぎのつもりかも知れんがな。見込み違いだぜ。」
ごす! ごす!
「なにを言って」
ぼかばきどかばきぐしゃっ!
「ぎゃああああ!!」「のわあああ!!」
「!?」
弟たちの悲鳴を聞いて、思わず後ろを振り返ってしまうアモリ。
彼が見たのは、最愛の弟たちがキルア少年のヤクザキックを喰らってケチョンケチョンに負けている光景だった。
「ウモリ! イモリ!!」
ダン!
狙い澄ましたハンゾーの手刀が、
無防備をさらしているアモリの首筋に打ち込まれる。
「自分のこと以上に兄弟を気にかけるってのには感心するがな、敵から目を離すのはよくないぜ。」
ハンゾーのチョップがクリティカルヒットしてアモリお兄さんもノックアウト。
本試験の常連でありチームワークには定評のあったアモリ3兄弟だったが、
キルアとハンゾーのルーキーコンビ(?)に敗れ、今年は第4次試験で姿を消したのだった。
・・
「あったぜ。198番だ」
「お、199番みっけ。ラッキー♪」
やっつけたアモリ3兄弟のポケットをあさり、
無事にターゲットのナンバープレートを回収できたハンゾーとキルア。
どちらからともなく顔をあげると、両者の視線が交差する。
「ありがとうはどうしたクソ坊主。」
「別に。誰も助けてくれなんて頼んでねーし。
こんな連中くらい何人いたってオレの敵じゃないよ。
3人組を倒すのに協力してやったんだ、むしろ感謝してほしいのはこっちだね。」
「ハァ?」
手にしたプレートをもてあそびながら持論を展開するキルア。
ハンゾーは顔をひきつらせ、青筋を立ててキルアをにらみつける。
ぷい。
2人はほとんど同時にそっぽを向いて、それぞれが別々の方角へと歩きだした。
「クソ生意気なガキだぜ。ゴンの素直さを少しは見習えやボケ。」
「うっせーよ。おせっかいなハゲ忍者。」
「ッ、オレはハゲじゃ…!」
タッ!
キルアはハンゾーの抗議を華麗にスルー。駆け足でその場を離れていく。
「あーあ。まだ6日間も残ってるんだよなー
だいたい早抜けなしで1週間ってのが長過ぎだろ。
こんなもん一日あればよゆーで集められるっつーの」
キルアはぐだぐだと愚痴をこぼしながら、ゼビル島の探検を再開するのだった。
・・・
・・・・・
さて、なんだかんだで試験開始から数日後の夕方である。
ゴン、レオリオ、ニコル、クラピカ、ギタラクル、キルア、ハンゾー。数多くの受験生たちがしのぎを削っているそのさなか。
会場であるゼビル島のとある場所で、あの男が復活を遂げようとしていた。
***
『でも、クロロと殺り合えないで終わるのが少し残念かな。
ねェヤムチャ。ボクの代わりにクロロと戦ってみないかい?
きっと面白いことになる。』
とある奇術師の戯言。
***
ヤムチャさんがぼんやりと目を開けると、
そこは薄暗い洞窟の中だった。
(ん、ここは……?)
ヤムチャさんは敷き詰められた木の葉の上に寝かされている。
右腕は透明なチューブで点滴パックとつながれていた。
「ヤムチャさん!」
「やっと目ェ覚ましたのかヤムチャ!
ったく、丸2日以上もグースカ眠ってるもんだから心配したんだぜ!?」
(ゴン、レオリオも、無事だったんだな。)
ヤムチャさんは上体を起こそうとする。が、
「が……ぎっ……ぐ…げごっ…!」
バタンキュー力尽きた。
ヒソカ戦のダメージでメキメキと身体が痛み、起き上がることができない。
「ヤムチャさん!」
「無理すんな、まだ起き上がらないほうが良いぜ。
ヒソカと戦ってたのは覚えてるか?
オメーは極度の疲労でぶっ倒れたんだよ。
オレがゴンにたたき起された時には心肺停止状態だったんだ。蘇生処置が間に合ってよかったぜ。
本当なら正規の病院で診てもらった方が良いんだが、いまはハンター試験中だからな。
栄養剤と痛み止めを打っといたから
しばらく安静にしてれば動けるようにはなると思うんだが――」
心配した様子のゴンとレオリオがヤムチャさんの顔をのぞき込む。
ヤムチャさんは2人を安心させようとせいいっぱいの笑顔を作ってみせた。
「2人でオレを運んでくれたのか、サンキューな。おかげで助かった。
すまんが、帯の裏のところに仙豆の入った袋があるはずだ。ちょっと食べさせてもらえるか」
「「センズ?」」
ごそごそごそ、
「これかな?」
「ああ、それだ。一粒でいい。」
ゴンは見つけた皮袋から仙豆を一粒取り出すと、ヤムチャさんの口へと放り込んだ。
カリッ、ポリポリポリ、ゴックン。
「よっ!」
シュタッ!
ヤムチャさん復活!!
「「!?」」
「心配させて悪かったな。もう大丈夫だ。
これは仙豆と言って、カリン様という仙人から分けていただいた特別な豆なんだ。
一粒食べればどんなケガでも治るし体力も回復する。」
「どんなケガでも?」
「ああ。どんなケガでもだ。首の骨が折れていたって助かるんだぜ」
ゴンの質問にちょっぴり自慢げに答えると、
「この点滴、外したいんだが抜いてもいいか?」
軽い感じで点滴パックのチューブを外そうとするヤムチャさん。
「ま、待った! ちょっと診させてくれ!」
レオリオは目の前で起こったヤムチャさんの突然の復調が信じられず、
ワタワタとヤムチャさんの診察をはじめた。
(……健康体だ。
疲労している様子はないし肌の色つやもいい。
おまけに損傷していたはずの骨や筋肉まで完全に治ってやがる!!
ついさっきまで起き上がることもできなかった人間が一瞬で!?)
「って、なんじゃそりゃーーー!!!」
暗い洞窟に、レオリオの絶叫がこだました。
・・・
その日の夜。
ヤムチャさんたちがいる洞窟に忍びよる2つの影があった。
(フン。一息ついて気が抜けたか?
見張り番も立てないとは能天気なやつらだ。
どうやってヒソカから逃れたのかは知らんが、
あの野グソ野郎を助けたのが運の尽きだったな)
からくもヒソカを退けたヤムチャさんたちのもとに、あらたなる刺客の魔の手がせまる!!