ヤムチャさんが天空闘技場で活躍している一方その頃。
ここはパドキア共和国の内陸部に位置するククルーマウンテン。
伝説の殺し屋一族、ゾルディック家が住まう場所だ。
広大なゾルディック家の敷地と外界をへだてる長大な城壁と巨大な正門。
力無きものの侵入を拒むことから、正式名称「試しの門」
片側16トン、合計で32トンにもなる両開きの門が、
ズズズズズ……
内側からゆっくりと開けられていく。
巨大な門を開けて出てきたのは、冷酷さを感じさせる冷めた瞳の男だった。
幻影旅団の団長、クロロ=ルシルフル。
艶やかな黒髪をオールバックにまとめ、十字架をあしらった漆黒のコートを羽織った青年だ。
クロロの後ろには背の高い金髪の女性パクノダと、長い前髪で顔を隠した小柄な青年コルトピが付き従っている。
ゾルディック家の敷地から出てきたクロロは灰色の曇り空を見上げると、ポケットから携帯電話を手に取った。
「オレだ。
キルア=ゾルディックとイルミ=ゾルディックはシロだった。
ヒソカを殺したのはヤムチャという男らしい」
『ヤムチャか。今期の合格者の一人だね。どうやって調べたのさ?』
携帯電話の通話先は、旅団の情報担当シャルナークだ。
「イルミから直接聞いた。
やっていない殺しを自分たちのせいにされたくないそうだ」
『そりゃま、ごもっとも。
ヤムチャはいま天空闘技場だね。現在200階クラスで3連勝中。
フロアマスター入りは確実ってことで大人気みたい』
「現在判明しているヤムチャの念能力についてはメールで送る。
見たら驚くぞ。いままで無名だったのが不思議なくらいだ」
クロロは携帯電話を操作して、シャルナークのパソコンにメールを送信した。
『えーと、分かっているだけで発が4つに超回復効果がある仙豆か。
本人は明らかに戦闘系だから、仙豆はヤムチャの仲間が作成したものだろうね。
でも、数キロ以上はなれた相手のオーラを感じ取れるってのはさすがにガセなんじゃない?』
「イルミ=ゾルディックと取引して得た情報だ。精度については信頼していいだろう」
『ふーん。とりあえずの方針はヤムチャのスカウトってことでOK?』
「ああ、可能なら引きこむつもりだ。
全団員に連絡をまわせ。ひまな奴は天空闘技場に集合。
ゼビル島でヒソカの死体を確認したあと、オレたちも合流する」
・・・
「うーむ」
天空闘技場の自室で座禅を組みながら、ヤムチャさんは悩んでいた。
ネテロ会長からもらった本を読んで修行をおこない、一通りの基本技と応用技を身につけたヤムチャさんは、
繰気斬に続く新たな必殺技、念法でいうところの『発』について考えているのである。
(放出系と強化系と操作系、3つの系統をうまく組み合わせれば最強の必殺技が完成するはず)
放出系はオーラを飛ばす能力。
各種気弾のほか、孫悟空の瞬間移動もこれに分類される。
強化系は肉体や武器を強化する能力。
代表的なのは狼牙風風拳だが、試してみたところ手に持った青龍刀やヌンチャクを強化することも可能だった。
操作系は主に物体や生物を操る能力。
ヤムチャさんは繰気弾の誘導に使っているが、使い方によっては対戦相手自体を操ることも可能らしい。
うむむむむっ、と考えこむヤムチャさん。
ファットマンやギドとの戦いを経てもまだ、これといったインスピレーションがわいてこない。
悟空のマネをして難易度Sランクの大技『瞬間移動』にも挑戦しているのだが、いまだに成功してはいなかった。
(考え方を変えよう。格闘技以外でオレが得意なものというと、やはり野球だよな)
念能力はなんらかの思い入れがあった方が強力な技になりやすいのだと、ヤムチャさんはギドとの戦いを通して実感していた。
ヤムチャさんはバットを握りしめて敵に殴りかかる自分を想像してみる。
あるいは繰気弾を野球のボールに見立てて相手に投げつけてみるとか……って、
(ピッチャーに殴りかかるバッターに、最初からデッドボールを狙って投球するピッチャーか、それはもう野球じゃないよな)
なかなか考えが煮詰まらないヤムチャさんは座禅を解き、気分転換のためにテレビの野球中継をつけてみた。
テレビ画面のなかでは、ヤムチャさんがひいきにしているウルフルズと、ライバルのタイガースが一進一退の投手戦を繰り広げている。
(気をピンポイントに集中して瞬間的に攻防力をあげる『流』と『硬』も使えるようになったことだし、
気円斬と繰気弾を組み合わせた繰気斬があれば、必殺技についてはもう充分かもしれんな)
ヤムチャさんがテレビを見ながら栄養ドリンクとスナック菓子をつまんでリラックスしていたその時、
ピピピピピッ!
とつじょ室内にひびく電子音。
テーブルの上に置かれたヤムチャさん専用通信機、これが鳴るということは、依頼完了の証!
ヤムチャさんは素早く通話ボタンを押して、通信機に向かって話しかける。
「ブルマか?」
『あ、ヤムチャ?
ドラゴンボールにニコルって人を生き返らせてくれるようにお願いしといたわよ』
「サンキュー!」
『おほほほ、いいのよこのくらい。
その代わり、おみやげのジュエリーは一番高いやつをよろしくね!』
・・・
ブルマからニコル復活の報を受けたヤムチャさんは、ハンターライセンスを使ってニコルの連絡先を調べた。
電話でアポを取り、舞空術で移動してニコルの実家を訪問する。
「はじめまして。プロハンターのヤムチャです」
「どうも、ニコルの父です。息子が家に友人を招くなんてひさしぶりのことですよ」
ヤムチャさんはぽっちゃりしたインテリのニコルパパと握手を交わす。
「ヤムチャ様!」
「よっ、ひさしぶりだな」
ニコルと再開したヤムチャさんは、ニコル脱落後のハンター試験について語る。
ニコルは父親との約束を守って親の会社を継ぐこと、来年のハンター試験には参加しないことを表明した。
お互いの好きな食事やスポーツについての雑談。語られるハイスクール時代の武勇伝。
サーフィンをしたり、バーベキューをしたり、一緒にテレビを見たりして、ヤムチャさんは数日間、ニコルの家に滞在した。
そして別れの日。ヤムチャさんとニコルが屋敷の門前で話している。
「もう少しゆっくりしていけませんか?」
「すまんな。天空闘技場で次の試合が控えてるんだ」
「そうですよね。ごめんなさい」
「ニコル、オレがおまえのことを生き返らせてやれるのはこの一回きりなんだ。
命を大切にしてくれ。親父さんと仲良くやるんだぞ」
「はい。ヤムチャ様もお体にお気をつけて。
バトルオリンピアがんばってください。ボクもかならず応援に行きますから」
「ああ。もちろん優勝してやるさ」
「はい!」
空に向かって飛び立つヤムチャさんを、ニコルは笑顔で見送る。
そんな2人の様子を、ニコルの父親は少し離れた位置から見守っていた。
(ハンター試験を終えて戻ってきたとき、息子からは人を見下す傲慢さが消えていました。
わがままでいつも独りよがりだったニコルが、人の上に立つにふさわしい人間となって帰ってきてくれた。
すべてはヤムチャさん、あなたのおかげです。ありがとう。本当にありがとう)
ニコルの父親はヤムチャさんに心からの感謝をささげ、深く頭を垂れた。
・・・
ヤムチャさんがニコルのお家を訪問していた時のこと。
クロロ・パクノダ・コルトピの3人は、第4次試験の舞台となったゼビル島に上陸していた。
ヤムチャさんとの闘いに敗れ、ギタラクル(イルミ)によって埋められていたヒソカの死体が、クロロたちの手で地面から掘り出される。
ヒソカの死体は両腕の骨が折れて、上半身と下半身が分かれた状態で発見された。
「死体は本物よ。
ヒソカを殺したのはヤムチャで間違いないわ。
緑の服を着た子供と、スーツ姿の男も手伝っていたみたい」
ヒソカの死体に触れて目を閉じていたパクノダが、調査結果をクロロに報告する。
パクノダは人や物体に触れることで、そこに残された記憶を読みとることができる特質系の念能力者だ。
「このなかにいるか?」
「この2人だわ。ゴンとレオリオね」
第4次試験の参加者リストに目を通したパクノダが、ゴンとレオリオの顔写真を指差した。
「コルトピ」
「ボクもこの死体は本物だと思う」
クロロに意見を促されたコルトピが、この死体は偽物(フェイク)ではないと断言する。
コルトピは物体のコピーを創りだせる具現化系の念能力者であり、物の真贋を判定するスペシャリストだ。
最後までヒソカの死に疑念を抱いていたクロロだったが、専門家2人の意見が一致した以上、もはや事実と認めざるを得ない。
(残念だよ。ヒソカ)
クロロは瞑目して、かりそめとはいえ家族の一員であったヒソカのために祈りをささげた。
ヒソカの死体を調べたことで、クロロたちがゼビル島を訪れた目的は達した。
だが、クロロにはさきほどから一つ気にかかっていることがある。
(同じ場所に埋めたと言っていたもう一つの死体がないな)
現時点でニコルのことを知っているのは、イルミから直接話を聞いたクロロのみだ。
ニコルはヤムチャの関係者ではあるが、すでに死亡しており、本人も念能力者ではなかったという話なので重要視していなかった。
(オレたちが来る前に誰かが持ち去った?
動機がないな。ハンター協会の公式発表は行方不明。
……いや、そう考えればつじつまは合うのか)
「まさに魂の存在証明というわけだ」
「団長?」
「念能力による死者蘇生。可能だと思うか?」
旅団は次第に、事の真相に辿り着きつつあった。
・・・
『さあついにこの日がやってきました!
本日は天空闘技場200階クラスが誇る最強闘士たちのドリームマッチ!
狼牙風風拳のヤムチャ選手 VS 虎咬拳(ここうけん)のカストロ選手の一戦です!』
「がんばれヤムチャー! オレはおまえを信じてるぞー!」
「カストロ様ー! 負けないでー!」
観客たちの声援のなか、ヤムチャ、カストロ両選手が入場する。
「ヤムチャ、君と手合わせできて光栄だ。いい試合にしよう」
「こちらこそ」
カストロは柔和な笑みを浮かべてヤムチャさんと言葉を交わす。
ヤムチャさんの対戦相手であるカストロは、白を基調とした服装とマントの似合うハンサムさんだった。
ていうか、肩まで伸ばしたロン毛が似合っている超イケメンだった。
『絶好調のヤムチャ選手はここまで3勝0敗といまだ負け知らず!
対するカストロ選手も初戦で敗れて以来8連勝! 8勝1敗という好成績を残しています!
それでは会場のみなさま、ギャンブルスイッチをどうぞっ!』
ギャンブルスイッチの結果はヤムチャさん1.7倍に対してカストロが1.8倍と僅差だ。
(フッ、私の方が彼よりも下と見られているか。プロハンターの肩書きとは偉大なものだな)
(どうやら相当の使い手みたいだ。気を引き締めてかからないとな)
ゴゴゴゴゴ……
こいつには負けたくない。
同じ武道家としてのライバル意識から、2人の緊張が高まっていく。
「ポイント&KO制、時間無制限一本勝負! はじめ!」
ダッ! 試合開始と同時、2人は申し合わせたかのようにダッシュをかける。
「狼牙風風拳!」
「虎咬拳(ここうけん)!」
ズガァッ!
リング中央で2人の必殺技が火花を散らした。
ヤムチャさんが繰り出した狼牙のごとき鋭い右ストレートを、カストロは上下にかまえた掌(てのひら)の虎口で迎え撃つ。
交錯してすれ違い、動きを止める2人の武道家、わずかな静寂の後。
ブシッ!
ヤムチャさんの右腕に裂傷がはしり、鮮血が散った。
観客たち「ウオオオオオオオッッッ!!」
『双方待ったなしッ!
いきなりクライマックスの第一ラウンドッ!
狼牙風風拳と虎咬拳、狼虎のぶつかり合いはカストロ選手に軍配が上がったーーー!!』
さほど深い傷ではないものの、ヤムチャさんはダメージを受けた右腕を見て渋い顔をする。
両者の技のキレはほぼ互角。技に込められたオーラ量ではヤムチャさんが若干勝っていた。
ではなぜこのような結果となったのか?
(このカストロという男、強化系だな)
勝負の明暗を分けたのはオーラによる肉体強化の効率の差。
強化系と放出系、カストロとヤムチャさんの天性のオーラ資質の違いにほかならない。
試合には直接関係しないものの、今日の観客席にはひときわ異彩を放つ集団が座っていた。
「アイツ全然たいしたことないよ。ヒソカに勝たとは思えないね」
「どっちもまだまだ本気じゃねェだろ。お手並み拝見といこうぜ」
糸目の少年フェイタンと、眉の無い強面の喧嘩師フィンクス。
「相手のカストロって男もそこそこできるみてェだな」
顔につぎはぎのある大男フランクリン。
「以前ヒソカに負けてた奴だし、ヤムチャに勝てるとは思えないけどね」
可憐な容姿の格闘美少女マチ。
彼らはクロロの招集に応じて集まった幻影旅団のメンバーたちだ。
「おまたせー」
軽く一仕事終えて戻ってきたシャルナークが、ついでに盗ってきた人数分の飲み物をみんなに配る。
「首尾は?」
「細工は流々、あとは仕上げをごろうじろってね」
マチの問いかけにシャルナークは自信ありげに答えると、自分用の缶コーヒーに口をつけながらヤムチャさんの試合に目を向けた。
「どうした? こないのならばこちらからいくぞ!」
リングの上。カストロはかまえた両手にオーラを集中して、ヤムチャさんに突進する。
カストロの虎咬拳は、掌(てのひら)を虎の牙や爪に模して敵を裂く拳法だ。
その極限にまで強化された手指には岩をも噛み砕き、大木を真っ二つに切り裂くだけの威力が秘められている。
ババッ! シュバッ!
虎の爪に見立てた両手をふるってヤムチャさんを切り裂こうとするカストロ。
「むっ」
ヤムチャさんはヤプー戦でも見せた回避能力を発揮してカストロの連続攻撃をかわしていく。そして…
「どうした、足元がお留守だぜっ」
「なにっ!?」
ドゴォッ!
ヤムチャさんの反撃! 動揺してしまったカストロの『腹』にヤムチャキックが炸裂した!!
「クリーンヒット! ヤムチャ1ポイント!」
『これは意外な展開です! ちょっぴりズルい心理作戦がみごとに的中! 先にポイントを奪ったのはヤムチャ選手だぁ!』
「貴様ァ、なにが足元だっ!?」
「すまん。言ってみたかっただけだ」
ヤムチャさんはカストロの抗議をさらりと受け流した。
(うーむ、へたに防御しても防ぎきれんよな。
相手は接近戦が得意な強化系。正面きっての殴り合いじゃちょっと分が悪いか)
「私を愚弄するか!」
接近戦は危険と判断したヤムチャさんは、頭部を狙ってきたカストロの蹴撃を大きくのけぞって回避。
シャッ! シャッ! シャッ!
そのまま連続でバク転して距離をとりながら、繰気斬を放った。
「繰気斬(そうきざん)!」
ギューン!
切れ味鋭い念の刃がカストロに迫る。
カストロは回避を選ばない。その場に足を止めて掌を上下にかまえ、真正面から迎え撃った。
「虎咬拳!」
ズギャッ!
怒れる虎の牙が上下から突き刺さり、繰気斬をかみ砕いた。
「!」
「今のはギドとの試合で使っていた技だな。すまないが、その技はすでに研究済みだ」
ヤムチャさんの過去の戦いを事前にビデオで確認していたカストロは、
繰気斬が回避しても遠隔操作で追いかけてくる性質を持つこと、上下から加えられる圧力に弱いであろうことを承知していた。
「私に一度見せた技が通じるとは思わないでもらおうか」
「なるほどな。だったらこいつでどうだ」
ビッ!
『ここでヤムチャ選手、再び狼牙風風拳の構えです!』
「こりない男だ」
「はいやぁー!」
(狼牙風風拳。狼のごとき鋭い攻撃を繰り出す必殺拳法――)
「――だが見切った!」
最初の激突で右腕を負傷してしまった影響か、ヤムチャさんの動きが鈍っているのを見てとったカストロは、
(足元がお留守なのは貴様の方だ!)
さきほどの意趣返しの意図も込めて、カウンターの虎咬拳でヤムチャさんの軸足を刈りにいく。
ボウッ!
しかし、カストロの虎咬拳は空気だけを裂いてすり抜けた。命中したと思った瞬間、ヤムチャさんの姿がぶれて消えたのだ。
(しまった! 誘われていたのか!?)
カストロは馬鹿正直に突っ込んできたヤムチャさんが残像だったこと、
さきほどの挑発が自分のカウンターを誘うための布石となっていたことに思い至ったが、時すでに遅し。
「狼牙残像拳だッ!」
虎咬拳を空振りしたスキをついて、死角から忍び寄っていたヤムチャさんの拳がカストロの顔面をとらえた。
「とりゃーーーっ!」
ズドドドドドッ!
ヤムチャさんは身体がわずかに宙に浮いて身動きが取れなくなっているカストロを、高速の連続コンボでメッタ打ちにする。
(こいつで終わりだ!)
最後にヤムチャさんが気を集中し、強力な掌底を叩き込んで勝負を決めようとした、次の瞬間!
バキィッ!!
カストロとヤムチャさん、2人の横から飛び込んできたカストロツヴァイの蹴りがヤムチャさんのわき腹を直撃した!
(なんで!?)
ドーン!
不意打ちを食らったヤムチャさんはリングの外までふきとばされた。
「クリティカル&ダウン! ポイント4-3!」
『め、めまぐるしい攻防の末なんとヤムチャ選手とカストロ選手がダブルノックダウン!
審判は両選手にたいしてクリティカルヒットとダウンの判定です!
突如としてあらわれた2人目のカストロ選手(?)がヤムチャ選手を蹴り飛ばしたように見えましたが…
今のはいったい何だったんだーー!?』
全身に打撲を受けながらもなんとか立ち上がったカストロと、よっこら歩いて場外から帰還したヤムチャさんがリング中央で相対する。
「ヤムチャ。私は君の実力を侮っていたようだ。その非礼をここに詫びよう」
「こっちこそおどろいたぜ。まさか分身するとはな」
「私の分身(ダブル)を初見で理解したか。さすがはプロハンターだと言っておこう」
スゥ――
ヤムチャさんと観客たちの目の前で、一人だったカストロが2人に増える。
「私は念によって私自身の分身(ダブル)をつくり出すことに成功した。
つまり君は2人の私を同時に相手にしなければならないというわけだ」
(自分の分身を具現化する念能力か。天津飯が使ってた四身の拳と同じタイプの技だな)
カストロの念能力『分身(ダブル)』は残像拳とは違う、実体をもった本体の写し身だ。
仮にカストロの分身が本体と同等のパフォーマンスを発揮するのであれば、相手と同等になるよう戦闘力を抑えたままのヤムチャさんに勝ち目はない。
「これこそが念によって完成した真の虎咬拳。名付けて虎咬真拳(ここうしんけん)だ!!」
2人のカストロがそろって虎咬拳のポーズをとる。
『これはすごいぞカストロ選手! でもそのまんまのネーミングだー!』
「本来ならヒソカとの再戦まで使うつもりはなかったのだがな。
ここからは出し惜しみなしだ。どちらがより優れた武道家か、いざ参る!」
「虎咬真拳!」
「繰気連弾(そうきれんだん)!」
手数は2倍! 強さも2倍? 2人に増えてしまったカストロを、ヤムチャさんは2つの繰気弾を操り迎え撃つ!!
オレたちの本当の戦いはこれからだッッッ!!
・・・
試合終了後。
天空闘技場200階クラスの第4戦を勝利で飾ったヤムチャさんは、いきつけの売店に足を向けていた。
(なんとか勝てた。本にも載ってたけど、やっぱ得意系統の影響は大きいんだな)
カストロとヤムチャさんの試合は接戦にもつれ込んだが、最終的には複数の繰気弾をばらまいてけん制しつつ
空中からのかめはめ波でカストロの本体と分身を一気になぎ払う作戦に出たヤムチャさんのKO勝利に終わったのだ。
「おばちゃん、いつもの栄養ドリンクね」
「アいよ。ヤムチャちゃん今日モ勝ったんダってね。記念に一本おまけシとくよ」
「ありがとうございます」
ヤムチャさんは軽く頭を下げる。
「いいんだヨ、常連さンは大切にしないとネ。
その代わリ、次の試合もがンばるんダよ!」
「ふっふっふ、任せといてください」
おばちゃんに向かってVサイン。ファンに応援されて嬉しくなり、心の中でるんるんスキップしちゃうヤムチャさん。
売店のおばちゃんに起こっていた異変には気づかぬまま、ヤムチャさんは自室へと戻っていった。
***
次号急展開!
カストロとの戦いでうっかり片腕を失ってしまったヤムチャさんは(注:失ってません)幻影旅団に襲撃される!
人数に押されて防戦一方となってしまうヤムチャさん。ピンチに陥ったヤムチャさんを救ったのは見覚えのある独楽だった……!
「勘違いするなよ。お前には命を助けられたからな。その時の借りを返しに来ただけだ」
「おいおい一人で格好つけるなよ」「ギドっちだけじゃ殺されちゃうよ?」
助けに来たのはかつてのライバルたちだ。ギド・リールベルト・サダソら新人狩りの3人。
「ふふっ、戦う姿も美しい。レインボーサイクロン!」
ピエロメイクの「美しい魔闘家鈴木」そして――
「ふぁっ、なさけないですね~」
「勝手に負けかけてんじゃねえぞコラ! テメェを倒すのはこのヤプー様なんだよ!」
爆肉鋼体でマッチョマンにクラスチェンジした元ファットマンと、ツンデレキャラとして謎のパワーアップを遂げたヤプーだった!
はたしてピエロさん特製のインチキグッズを装備した彼らの実力とは!?
次回『助っ人闘士軍団全滅! ヤムチャ怒りのヌンチャク殺法!』
星の光が胸を撃つ時 サザンクロスが燃え上がる 轟けヤムチャサイクロン!!
***
――というのはもちろん嘘予告です。イイネー、そんな熱いバトル展開になったらオモシロイヨネー(遠い目)