ヤムチャさんがバトルオリンピアに挑もうとしていた一方そのころ。
エイジ767年5月12日 地球。
南の都から南西9キロ地点にある大きな島の市街地に、2人組の人造人間が出現していた。
「きゃはははは!」
楽しげな奇声を発して暴れているのは、真っ白な肌をした小太りの男、人造人間19号だ。
道行く人間をくびり殺し、大型トラックを建物に投げつけて、物を破壊する喜びを満喫している。
「エネルギー吸収機能に異常なし。パワーも想定していた値をクリアしている。性能試験の結果は良好のようだな」
19号とともに街中を闊歩しているのは、浅黒い肌と腰まで伸びた白髪を持つ老人、人造人間20号だ。
深い知性を感じさせる声をしており、頭にはレッドリボン軍のイニシャルRRの文字が入った円筒状の帽子を被っている。
街の中心部に位置するメインストリート。
ファンファンファン!
市民からの通報を受けたパトカーが、けたたましいサイレンを鳴らしながら2人の人造人間を包囲した。
「動くな! 両手を頭の上に! 無駄な抵抗はやめなさい!」
ジャキジャキジャキっ!
十数人の警官たちが、19号と20号に対して一斉に銃を向ける。
「ふむ」
シャッ!
20号は目にもとまらぬスピードで動くと、左右の手刀で警官2人を血祭りに上げた。
「ひゃはっ!」
バギャッ!
19号の繰り出したとび蹴りが、警官の一人の首をへし折った。
「こ、こいつら!? 撃て! 撃てェ!!」
ダン! ダダァン!
警官たちの発砲した銃弾が19号と20号に直撃するが、その身体には傷一つ付けることができない。
「彼我の戦力差も理解できんか。おろかな連中だ」
ギュアッ!
ズドォォォォン!!
20号の手から放たれたエネルギー波により、辺り一帯を巻き込む大爆発が起こった。
・・・
この日、突如としてあらわれた人造人間たちの攻撃により、島は壊滅状態となった。
犯人を制止しようとした警官隊は全滅。国王の要請により出動した軍隊も、犯人たちの前になすすべなく敗北する。
この事態を察知したピッコロ・クリリン・天津飯・餃子(チャオズ)ら4人のZ戦士たちは、現地へと急行した。
「20号。パワーレーダーに高エネルギー反応を感知しました」
「こちらでも確認している。人間のデータを大きく超えたエネルギー値が4つ。孫悟空たちだ」
タッ、タタッ。
破壊された市街地に立っている19号と20号を発見したピッコロたちが、舞空術を解いて空から降り立った。
「貴様らは何者だ! どこから来た!」
ピッコロが犯人たちに向かって誰何の声をあげる。
「予想していたよりも少々遅かったな。待ちかねたぞ」
「ピッコロ・クリリン・テンシンハン・チャオズ… ソン・ゴクウはいないようですね」
「なんだと? オレたちのことを知っているのか?」
「こうして事件を起こせばお前たちの方からやってくると思っていた。
自己紹介をしようか。ワタシは20号。そちらは19号。我々はドクターゲロによって生み出された人造人間だ。
その目的は、レッドリボン軍を壊滅に追い込んだ孫悟空への復讐」
かつて世界征服をたくらんでいた悪の組織、レッドリボン軍の科学者だったドクターゲロが、
組織を滅ぼしたにっくき孫悟空を抹殺するために製造した殺戮マシーン。それが人造人間シリーズの正体だ。
「ドクターゲロ本人は死んでしまったが、彼が造りあげた人造人間はこうしてここにいるわけだ」
「……孫悟空ならもう死んでしまったぞ」
「なんだと? デタラメを言うな!」
「嘘ではない! 孫悟空は一年ほど前に心臓病で亡くなった!
お前たちが倒すべき相手はもうこの世にはいない!」
「……!」
ピッコロとの問答で、当初の目的がすでに失われてしまっていることを知った20号は、少し考えを改めることにした。
「いいだろう。ならば代わりに孫悟空の仲間たちを皆殺しにしてやるまでだ。
その後にキングキャッスルを制圧し、レッドリボン軍の成し得なかった世界征服の夢を実現する!」
・・・
いくつもの倒壊した建物と、そこかしこに転がっている人間の死体。
運良く生き残れた人間たちはすでに全員が避難しており、街は完全なゴーストタウンと化していた。
静まり返った街中で、ピッコロ・クリリン・天津飯・餃子(チャオズ)ら4人の戦士と、人造人間19号・20号が対峙している。
「20号。ここは私が」
「よかろう。この場はお前に任せる」
老人タイプの人造人間20号にお伺いを立ててから、白面デブの人造人間19号が前に出た。
「変だぞあいつら、まったく気を感じない。人造人間だからなのか?」
「今までの敵とは少し違うようだな。厄介なことだけはたしかだ」
未知の存在である人造人間を警戒するクリリンとピッコロ。
「敵の実力は未知数だ。ここはオレがいこう」
この場にいるZ戦士の中ではナンバー2の実力者である天津飯が、危険な先鋒役を自ら買って出る。
やられたらドラゴンボールが失われてしまうピッコロや、実力的に一段劣るクリリンとチャオズを危険にさらしたくないという配慮だった。
「むんっ!」
ズオッ!
天津飯は界王拳を使って体内の気を増幅させると、戦闘態勢に入る。
「なるほど。たしかにかなりのパワーアップを果たしているようだな。
だが、ワタシはもちろん19号でも十分に倒せるレベルだ」
「ほざけ!」
ギャウッ!
大地をけり、高速で接近した天津飯のキックが19号をぶっとばした。
(速い!)
ドガガガガッ!
天津飯は19号に対して息つく暇もないラッシュを浴びせる。
「はあーーーっ!」
ズッ! ドガーン!
天津飯は最後に19号の腹部に両掌をそえると、ゼロ距離からの気功波を叩きこんだ。
「いいぞ!」
「天さん、すごい!」
クリリンとチャオズが歓声を上げるのもつかの間。
気功波の爆発で民家に突っ込み、ダウンしていた19号が無表情のままむくりと立ち上がった。
「……ちっ、あれだけの攻撃を喰らってもケロッとしていやがる。やつら痛みを感じないようだな」
ピッコロは苦々しくつぶやいた。20号の強気な発言が、ただのハッタリではないことが証明されてしまったからだ。
「きえっ!」
奇声を発した19号は天津飯に対して突撃。掌底のようなパンチを連続で繰り出した。
シャシャシャッ! ――ズガッ!
19号の攻撃を回避した天津飯は、お返しとばかりに鋭い手刀をお見舞いする。だが、
がしっ。
(!)
天津飯からの攻撃を受けながらも、19号はひるむことなく天津飯の両腕をつかんだ。
「くっ!」
(なんだ? ち、力が抜けていく……!?)
拘束から逃れようともがく天津飯を見て、19号はニタリと笑ってみせた。
・・・
「……様子がおかしいぞ! 天津飯の気が急激に減っている!!」
攻撃らしい攻撃を受けてないのに弱っていくという異常事態に、クリリンがあせりの表情をうかべる。
「天さん!」
「まてっ! うかつに飛びだすんじゃない!」
ピッコロの制止を振り切り、大好きな天津飯のピンチを救おうと飛び出したチャオズだったが、
ズギャッ!
「わっ!?」
「そこで黙って見ているがいい。天津飯の最後をな」
間に割って入った20号に叩き落とされてしまった。
「天津飯! 餃子! くそっ、こうなったら」
ダッ!
クリリンが20号に向かってダッシュをかける。
そのまま殴りかかると見せかけての――
「太陽拳!」
「ぬぅっ!?」
クリリンは気を光に変化させて、ひたいから目くらましのフラッシュを放つ。
「でかしたぞクリリン!」
近距離からの太陽拳で20号がひるんだスキをついて、ピッコロは天津飯の援護に向かった。
「ちぃ、こしゃくなマネをしおって!」
ビッ! ビビッ!
「わっ、たっ、うわっ」
20号の目から放たれたエネルギー光線を、クリリンは不格好なステップでなんとか回避。タカタカと走って建物の陰へと身を隠した。
ドゴォ!
「……!?」
天津飯のフォローに駆けつけたピッコロのボディブローが19号の左わき腹に突き刺さる。
「だあっ!」
さらにピッコロの後ろ回し蹴りが19号の顔面に炸裂して、19号はたまらず天津飯から手を離した。
ピッコロは消耗している天津飯を抱えて素早く離脱する。
「どうした? お前らしくもない」
「気をつけろ… やつの手に掴まれたところから力が抜けていった。あの腕になにか仕掛けがあるんだ」
「…わかった。少し休んでいろ、あとはオレがやる」
バサッ! ドスンッ!
ピッコロは修行用に身につけていた重いマントとターバンを外して身軽になると、全身から気を開放した。
・・・
「バカな!? ピッコロのパワーが19号と同レベルにまで跳ね上がっただと!?」
ピッコロの巨大なパワーをレーダーに捉えた20号が、あまりのおどろきに動きを止める。
(ええい、いったいどうなっているのだ)
20号は地上の死角に隠れているクリリンを追いかけるのを中断し、見通しのきく空中へと飛び上がった。
もしもクリリンがピッコロクラスの実力を隠していた場合、逆に自分が倒されてしまうかもしれないという万に一つの可能性を恐れたのである。
ピッコロと人造人間19号の戦いは、ピッコロが優勢に進めていた。
今回がデビュー戦である19号はまだ実戦経験に乏しく、多くの実戦で培ってきたピッコロの動きについていけないのだ。
19号の繰り出す単調な攻撃が空を切る一方で、ピッコロの攻撃は19号を的確に痛めつけていった。
「ぬんっ!」
ピッコロが牽制に放った気功波を、19号はジャンプしてよける。
だが次の瞬間、ピッコロは右腕を数メートルほど伸ばして空に逃れようとした19号の足を掴んだ。
ピッコロは19号をそのまま振り回して手近な地面へと叩きつける。
「……ッ」
19号は緩慢な動作で起き上がると、鋭い目つきでピッコロをにらみつけた。
互角のパワーを誇っていたはずの自分がいいようにやられてしまっている現状に、19号は苛立ちを隠しきれないでいた。
たび重なる攻撃を受けて19号の動きが鈍っているのを見てとったピッコロは、止めの必殺技を撃つ態勢に入る。
ピッコロの右手。ピンと立てた人差し指と中指に集中した気が、バチバチと音を立ててスパークする。
「魔貫光殺砲(まかんこうさっぽう)!!」
ズギュオッ!
集束され、螺旋状のひねりを加えられた気功波が一直線に19号へと伸びる。
百戦錬磨のピッコロが必殺を確信して放った一撃。
だが、19号はまるで我慢していたご褒美をようやくもらえた子供のような、歓喜の表情を浮かべていた。
「ひゃっはーーー!」
ギュウウウンッ!
19号が向けた掌のレンズに、ピッコロの魔貫光殺砲が吸い込まれる。
「オレの技を吸収したというのか……!?」
「うかつだったな! 今の攻撃を吸収したことで19号のパワーは大幅に上昇したぞ!」
敗色濃厚の展開にはらはらしていた20号が、喜色満面の笑顔で叫んだ。
人造人間19号と20号の動力にはエネルギー吸収式が採用されている。
エネルギー吸収式最大の特徴は、掌に埋め込まれたレンズから他者の気を吸収することで、際限なくパワーを増していくことができる点だ。
相手の身体に直接触れればもちろんのこと、撃ちだされた気功波の類であっても問答無用で吸収することが可能なのだ。
ギッ! ドンッ!!
「ぐわっ!」
少なからず動揺していたピッコロは、19号が唐突に放ったロケット頭突きをまともに喰らい、ビルを3棟ぶち抜いてがれきの中へと姿を消した。
「離れて遠くから攻撃しようとしてもダメってことか。
でも接近して戦ったら天津飯の二の舞だし、どうすりゃいいんだよ……」
天津飯とピッコロがやられてしまってちょいピンチ。
だが、物陰に隠れて弱音を吐いているクリリンの前に、ついにあの男があらわれた!!
ザッ!
「あの程度の敵になにを手こずっていやがる」
青と白を基調とした戦闘服。キリッと逆立っている黒髪。超絶ふてぶてしい態度と邪悪な気配。ベジータさまである。
・・・
「黙って見ていれば、どいつもこいつも情けない戦い方ばかりしやがって」
Z戦士たちがピンチに陥ったのを見かねて、サイヤ人の王子ベジータさまが自信たっぷりに登場した。
真打は遅れてやってくる。彼はかなり最初のころから戦闘の様子をうかがって、出待ちしていたのである。
「ベジータか。いまさら貴様1人が加わったところで戦況は動かん。
ピッコロや天津飯たちと協力していれば話は違ったかも知れんがな」
ピッコロを退けた19号と合流して、強気になった20号がベジータの参戦をあざわらう。
「ふざけるな!!
このオレがナメック星人や地球人なんぞと手を組んで戦うわけがないだろう!
貴様らごとき、このオレ一人で十分だ!!」
グググ……
ベジータはなめた態度の人造人間20号に対してタンカをきると、おもむろに気を高め始めた。
「はぁっ!」
ベジータが気合を込めると、サイヤ人の特徴である黒髪が金髪へと変化する。
ボウッ!!
そこにはかつてフリーザ親子を打ち破った孫悟空と同じ、黄金色に輝くオーラを纏った金色の戦士がいた。
(ベ、ベジータが超サイヤ人になった……!?
おだやかな心を持っていないとなれないんじゃなかったのかよ!?)
初めて見るベジータの超サイヤ人形態に、こっそり移動中のクリリンはビビりまくっている。
「変身しただと? ワタシと19号のパワーをはるかに上回っている……!!
どういうことだ!? おまえは本当にベジータなのか!?」
チッチッチ、金色の戦士は立てた人さし指を横に振り、舌を打ち鳴らしてからこう言った。
「どうやらなにもわかっていないようだな」
「な、なんだと?」
「オレは、超ベジータだ!!」
「ス、超ベジータだと? 超ベジータとはいったいなんなのだ!?」
「説明するのも面倒だが、ようするに」
「きぇい!」
2人の会話をさえぎり、19号が奇声をあげながらベジータに掴みかかる。
(19号め! ベジータのパワーに目がくらんだか!
たしかに奴のパワーを吸収することができればお前は最強の存在になることができるかもしれん。
だがそれは、吸収することができればの話だ!)
ガッ! ガシィッ!
ベジータは19号の両腕をつかんで止めた。
「ガラクタ人形ふぜいが。どうした? 掌から気を吸収するんだろう? やってみろよ」
「ぬぎぎぎぎ……」
ギリギリギリ、ブヂィッ!
19号の両腕はベジータの圧倒的なパワーによって握りつぶされ、ねじ切られた。
「~~~ッ!」
エネルギー吸収装置を破壊された19号は声にならない悲鳴を上げると、大きく後方に飛び退いた。
そして十分な加速距離をとってから気合とともに突撃する。さきほどピッコロをぶっとばしたロケット頭突きだ。
ギッ! ドゴォンッ!!
「ぶばぁっ!」
ベジータとの衝突で本日最大の打撃音をひびかせると、19号は鼻血らしきものを噴き出しながらぶっ倒れた。
「どうした。オレはまだ一歩も動いていないぞ」
ベジータはただ、19号が突っ込んでくるのに合わせてヒザ蹴りを叩き込んだだけだ。
「あ… あう……」
「もう終わりか。つまらんな」
ベジータは戦意を喪失している19号に向かって手をかざすと、掌に気を集中させる。
「ひっ! ま、まって」
ボンッ!
ベジータから放たれた気功波が、19号の身体をバラバラに打ち砕いた。
(まさかベジータがここまで強くなっているとは…
ワタシとしたことが、と……とんでもない誤算だった)
「さてと、次は貴様の番だな」
キッ!
ベジータは残った人造人間20号に向けて視線を飛ばした。
「くっ」
シャウッ!
勝てるわけがない。20号は全力を持ってこの場からの逃亡を図る。だが……
「ピ、ピッコロ!?」
「あの程度でくたばったとでも思ったか? オレたちから目をはなしたのは失敗だったな」
「すぐに止めを刺さなかったことを後悔させてやるぜ」
クリリンから気を分けてもらって復活したピッコロと天津飯が、20号の逃げ道をふさいでいた。
「だから終わりだと言っただろう。自分がかこまれていることにも気づかんクズが。
てめえら人造人間はパワーはあっても戦い方はまったくの素人だ。終わりなんだよ。人形野郎」
ベジータ、ピッコロ、天津飯。前に出てきていないクリリンとチャオズも加えれば5対一の戦力差だ。
進むことも逃げることもできない絶望的な状況。19号を失った20号には、もはや打つ手がなかった。
「おのれ! この場に17号と18号がいれば……
17号と18号さえ起動していれば、すぐにでも貴様らの息の根を止めてやれるものを!」
「ほう。そいつらならこのオレにも勝てると言いたいわけか?」
20号が苦し紛れに言った言葉にベジータが興味を示す。
「そ、そのとおりだ!
永久エネルギー炉を搭載している17号と18号は、エネルギー吸収式タイプであるワタシや19号をはるかに上回る性能を持っている!」
「ならばなぜそいつらを連れてこなかった」
「まだ調整が完全ではないため今回は連れてこられなかったのだ! 再調整を行えば完成させられる!」
「なるほどな。その再調整とやらにはどのくらいの時間がいるんだ?」
「おい! ベジータ!」
会話を聞いていたピッコロが抗議の声をあげるが、ベジータは無視した。
「……1週間もあれば可能だ」
「3日だ。3日だけ時間をやろう。3日後の正午、その17号と18号とやらを連れてこの場所に来い」
超サイヤ人に覚醒して名実ともに宇宙最強の戦士となったベジータの決定に、異を唱えられるものはいなかった。