ヌメーレ湿原をぬけると、そこはビスカ森林公園だ。
二次試験会場である仮設小屋の前には
多数の受験生たちがたむろしていた。
第二次試験はまだ開始されていない。
「どうやら間に合ったようですね」
「あんたらがいてくれて助かったぜ!」
「ありがとうヤムチャさん!」
「いいってことさ。試験がんばれよ!」
・・・
「チッ、ヒソカの野郎もきっちり到着していやがるぜ」
「ああ。試験管の目の届く範囲では大人しくしていると思いたいが…」
「ところで、なんでみんな建物の外にいるのかな?」
「中に入れないんだよ。」
「キルア!」
「どんなマジック使ったんだ?
絶対もう戻ってこれないと思ったぜ」
「ヤムチャさんが案内してくれたんだ。」
「は? ヤムチャって、あのヤムチャか?」
「うん。それにヒソカとも戦ってくれたんだよ!」
「へぇー」
(あの野グソ野郎がここまで?
ヒソカとあってよく無事だったなー)
「それで、なんで中に入れないの?」
「見ての通りさ」
仮設小屋の入り口には看板が掛けてあった。
『本日 正午 二次試験スタート』
そして正午。
第二次試験はビスカ森林公園で開始された。
試験官は美食ハンターのブハラとメンチである。
「二次試験は料理よ!!
美食ハンターのあたし達2人を満足させる食事を用意してちょうだい!」
「料理だと!?」
「くそォ、料理なんて作ったことねーぜ」
「こんな試験があるとはな」
受験生たちの困惑とざわめきのなか
巨体の男性試験官、ブハラが課題を告げる。
「オレのメニューは豚の丸焼き! オレの大好物。
森林公園に生息する豚なら種類は自由。
それじゃ、二次試験スタート!!」
「豚の丸焼きか。むずかしい料理じゃないし楽勝だな」
「あ、ヤムチャ様。豚を発見しました。」
どぉぉぉん。
そんな効果音とともに姿を現したのは
やけに巨大な豚だった。
(なんだ? あの大きな鼻だけでも人間と同じくらいの大きさがあるぞ?)
「世界で最も凶暴な豚、グレイトスタンプです。」
「「ブオオオオオ!!」」
「ていっ!」
ゴゴス!
ドサッ、バタッ、
獲物を潰し殺そうと突進してきたグレイトスタンプだったが
ヤムチャさんのワンパンチでしずんだ。
しょせんはトンパの親戚である。
「お見事です。仕留めたグレイトスタンプはボクが焼きますから、ヤムチャ様は休んでいてください」
「わかった。」
グレイトスタンプをさくっと捕まえて
二次試験前半をトップ通過しちゃったヤムチャさん。
(あのウ○コ野郎もしかしてとんでもなく強いんじゃ…!?)
トンパはその雄姿を目撃してしまっていた。
ギンッ!
「ハッ、しまった!?」
「オレは怒ったぞトンパァーーー!」
「すんませんっしタァァァーー! オレが悪かったーー!!」
ざしゃっーーー!
怒りもあらわに迫ってくるヤムチャさんに対して
トンパは土下座スタイルでおうじた。
「…いいや許さん!」
「待て! ちょっと待て!
聞いてくれ! オレも悪気があってやったわけじゃないんだ!
ハンター試験をはじめて受けに来たなんてやつらは、大概がささいな不注意で死んじまうんだよ!」
「…それがどうした!!」
「オレも試験の常連だからな。そんなやつらをたくさん見てきた。
それで、オレは自分で罠を仕掛けることにしたんだ。
オレにはめられて脱落したルーキーは次の年からはより注意深く、慎重になる。
わかるだろ? オレはあんたに死んでほしくなかったんだ!
あんたのすごい才能を、可能性を、バカげたことで失ってほしくなかったんだよ!!」
「トンパ…おまえ……」
「恥をかかせてすまなかった。もうこんなことはやめる。たのむ許してくれ!!」
「……わかった。もういい。試験、いっしょにがんばろうぜ。」
(ピッコロや天津飯たちだってむかしは悪党だったんだもんな。
もうやめるっていうなら、オレはその言葉を信じるぜ、トンパ。)
ヤムチャさんは笑顔でトンパに手を差し伸べ、
トンパはヤムチャさんの手を涙ながらに握りかえす。
(まさかあの下痢から復帰してくるとは予想外だったぜ。
あれは完璧に社会からも抹殺できたと思ってたんだが……
ウ○コ野郎のヤムチャが。つぎは確実に脱落させてやるぜ!)
・・・
「すまん、ニコル。」
「いいえ、ヤムチャ様の決断はご立派です。ブタには過ぎた配慮だと思いますが。」
「オレのことはヤムチャってよんでくれよ。様なんてつけなくてもいいんだぞ?」
「でも、ヤムチャ様はヤムチャ様ですから(はぁと)」
二次試験前半「豚の丸焼き」料理審査。
ヤムチャニコルペアほか70名通過!
そして後半戦突入!
「あたしはブハラと違ってカラ党よ!
審査もキビシクいくわよー
二次試験後半、あたしのメニューは…
『スシ』よ!!」
一ツ星(シングル)ハンターにして女性試験官であるメンチが課題を告げる。
(スシ…!?)
(どんな料理だ?)
(全く知らない料理を作るなんて不可能だぜ)
ざわざわ。ざわざわ。
「ふふん、大分困ってるわね。ま、知らないのも」
「ほほう。シースーか。」
「知っているのか?」
「うむ。酢飯の上におもに魚介類をのせた食べ物だ。オレもこの前ジャ」
ビュンッ!
ガシャアン!
「ぐわっ」
どさっ。
「あ…」
人差し指をぴんと立て、
得意げに解説していたヤムチャさんの頭に
メンチの投げたお皿が命中した。
「なんっでいきなり作り方ばらしてんのよ!!
あんたバカじゃないの!?
てゆうかバカよね!? いっぺん死んできなさい!!」
「バカはそっちだろうが! なんでそんな簡単なものを試験にだすんだ!」
「あーあーーきこえなーい、きこえないー」
「っ、このアマ」
「ぐだぐだいうと失格にするわよ?」
「くっ…」
「ふふん。わかればいいのよ。
さ、中を見てごらんなさーーーい!!
ここで料理を作るのよ!!
スシに不可欠なゴハンはこちらで用意してあげたわ!
そして最大のヒント! スシはスシでもニギリズシしか認めないわよ!
あたしが満腹になった時点で試験は終了!
その間になんコ作ってきてもいいわよ!
それじゃスタートよ!!」
ゴーン!
試験開始を告げるドラが鳴り響いた。
それぞれの思惑を胸に
受験生たちがうごきだす。
(ニギリズシ、ニギリズシか。)
(どんな食材を使うんだ?)
見当もつかずにまごつくもの。
「酢飯と魚介類っていってたね。」
「ああ、まずは外で魚の調達だな。」
ヤムチャさんの解説を聞きかじったもの。
(この課題もらったぜ!
まさかオレの国の伝統料理がテストになるとは!)
「うーむ、ニギリニギリと」
チラ…
「ぶぷっ!」
(こいつ…知ってるぜ!?)
(知ってるな。)
(カンペキに知ってやがる!!)
合格確実だと浮かれているもの。
そしてヤムチャさんはというと…
「ほれ。ニギリズシを持ってきてやったぞ!
このわがまま娘が!」
「あら、もうできたの?」
ぱくり。
「…ダメね。不合格よ!!」
「なんでだ!?」
「これ作り置きでしょ! しかも機械で作った量産品!
男だったら持ち込みなんかしないで自分の力とアイデアで勝負しなさい!!」
「メンチ、持ち込みとはいってもこんな場所でスシを用意できたのはすごいことだと思うよ?」
「あ。あんたの場合は並のスシじゃ認めないからね?」
「…なんだって?」
「最初からスシのこと知ってたんじゃ不公平でしょ? そのくらい当然よ!」
「だからメンチ、この場合はスシを知っていたことをほめるべきで」
「ブハラは黙ってて。
だいたいこいつ生意気なのよ!
美食ハンターの前で料理の講釈なんて100年早いわ!!」
「いってくれるじゃないか、
食べたこともないようなものすごいスシを持ってきてやる!
あとでほえづらかくなよ!!」
「はいはい、さっさと逝っちゃいなさい」
しっしっ!
「メンチ…」
「さて、どんなキワモノが出来てくるのか楽しみだわ。
今日は試験官としてってより料理人として来てるからね。」
「料理人として……ってのはマズイんじゃ…」
「何?」
「いやなんでも…」
(メンチの悪いクセが出なけりゃいいけど)
「出来たぜーー! オレが完成第一号だ!!
名付けてレオリオスペシャル! さあ食ってくれ!」
つ『ニギリメシに生きている魚を突っ込んだナニカ』
「食えるかぁッ!」
ぽいっ!
「よーし次はオレだ!」
つ『ゴハンのうえに生きた魚がのっているナニカ』
「403番とレベルがいっしょ!」
ぽいっ!
「これだ!」
つ『一口大のゴハンに新鮮な魚を突っ込んだナニカ』
「あんたも403番並!!」
ぽいっ!
ガドーン!!
「そんなにショックか!?」
レオリオ、ゴン、クラピカ轟沈!
さらに後続集団にもニギリズシの体をなしているものはあらわれず
このまま試合終了かと思われたそのとき!
ジャポン出身の忍、294番ハンゾー推参!
「ふっふっふっ。
そろそろオレの出番のようだな。
どうだ! これがスシだろ!!」
つ『まともなニギリズシ』
「ふーん、ようやくそれらしいのが出てきたわね」
ぱくり。
「ダメね。おいしくないわ! やり直し!」
「な、なんだとーーー!?
メシを一口サイズの長方形に握ってその上にワサビと魚の切り身をのせるだけのお手軽料理だろーが!!
こんなもん誰が作ったって味に大差ねーーベ!?」
「「「なるほど、そういう料理か!!」」」
アホな忍はスシの作り方を暴露した!
「ちょww なんで材料どころか作り方までばらしてんのww 」
ハンゾーの後ろに並んでいたニコルがピヨッた!
「味に大差ないだと?
ざけんなてめー!!
鮨(スシ)をマトモに握れるようになるには十年の修行が必要だって言われてんだ!
キサマら素人がいくらカタチだけマネたって天と地ほど味は違うんだよボゲ!!」
ついで試験官がキレた!
「もーハゲのせいで作り方がみんなにバレちゃったじゃないの!!
こうなったら味だけで審査するしかないわね!」
「次はオレだ!」「いやオレだ!」
どどどどど!
やいのやいの、わいわい
ぎゃあぎゃあ、がごすがごす!
(あーあ。メンチの悪いクセが出ちまった。
熱くなったら最後、味に対して妥協出来なくなるからなー
メンチを満足させられる料理人なんて世界中に数えるほどしかいないっつーの)
試験会場に発生してしまったカオス空間。
そこに、
「なんだ。まだ合格者ゼロなのか? 真打登場ってとこだな。」
さっぱりしたかんじのヤムチャさんがさっそうとあらわれた。
「ヤムチャ…」
「ヤムチャだ…」
「胴着が新しくなってる…」
「まさかあいつもニギリズシを…」
「なによ42番! 自信満々じゃない!!」
「まあな。ここらでお遊びはいいかげんにしろってところを見せてやるぜ」
つ『見た目は普通のニギリズシ』
(なるほど。いうだけあって見た目は合格ラインね。さてお味の方は…)
ぱくり。
キュピーン!
「42番! あんた合格よ!!」
「よしっ!」
「「「なにーーーーーー!?」」」
「どういうことだ!?
なんでオレのがダメでこいつのはいいんだよ!?」
「握り方についてはあんたたちとどっこいだけど、
いくらかのポイントは抑えてる。素人の仕事にしたら上出来よ。
で、問題はネタの魚よ。そこらのゲテモノと違ってそこそこの一級品ね。
しかもあたしがこれまで食べたことのないものだったわ!!」
「え、うそ、メンチが食べたことない魚?」
(メンチは一般に流通している魚はもちろん
希少とされている魚でも一通り試食していたはず。
味が一級品ならなおさら見逃してるわけないと思うんだけどなー)
「合格者が出たわ! 悔しかったらあんた達もすごいの用意して見せなさいよ!!」
「しゃあ! なめられっぱなしで終われるかよ!」
「「オレ達のたたかいはこれからだぜ!!」」
ブハラの困惑をよそに試験は続行される。
未知の食材Xの持ち込みによりヤムチャさん一発合格。
合格者がでたことで受験生たちの士気は高まり、
競争は激化の一途をたどった。
しかし…
ぱくぱくぱく。
ごくごくごく。
「ふーっ、
…ワリ! おなかいっぱいになっちった!」
てへっ☆
終~~~了ォ~~~~!
「第二次試験後半
メンチの料理(メニュー)
合格者1名!」
「マジかよ」
「まさか本当にこれで試験が終わりかよ」
「冗談じゃねーぜ」
「納得いかねェな」
(#^ω^)ピキピキ
暴動寸前にまで張り詰める緊張の中、
「そうですね。このような試験結果になるとはまことに遺憾です。」
「ちょっと遺憾ってなによ!!
え? あれ? サトツさん!?」
「アレが合格で99番や294番が不合格というのは承服いたしかねます。
異例ではありますが、再試験の実地を要請いたします!」
試験の推移を見守っていた
カールひげの黒服紳士、
第一次試験の試験官サトツが待ったをかけた。