ヒソカの死んだふりに騙されて、バンジーボールの中に閉じ込められてしまったヤムチャさん。
敗色濃厚なヤムチャさんを助けようと、2人の戦士が戦場に姿を現した。
「ヤムチャさんを離せ! ヒソカ!!」
「そこまでだ!
それ以上やるってんならオレたちが相手がなるぜ!!」
摩訶不思議な超能力バトルはさっぱり理解できなかったゴンとレオリオだったが、
バンジーボールに閉じ込められたヤムチャさんがスーパーピンチであることだけはわかっていた。
「キミたちは…
確かゴンとレオリオだったかな。
ヤムチャを助けに来たのかい?」
乱入者である2人に、ヒソカは笑顔を向けた。
「キミたちがヤムチャを助けたいなら、
ボクを殺すか気絶させることだ。
それで彼を閉じ込めている変幻自在の愛(バンジーボール)は解除される。
早くしないと死んじゃうから急がないとね。」
表面上は穏やかなヒソカの対応。
だが、ヒソカから放たれるプレッシャーによって
ゴンとレオリオは身動きがとれなくなっていた。
(な、なんだこれ!?
ダメだ! これ以上近づけない!!)
ヒソカと戦うどころの話ではない。
ゴンはすぐにでもここから逃げ出したい衝動に駆られた。
(ダメだ! もう無理!! 限界!!
見るに見かねて飛び出しちまったが、こいつはヤバイ!!
こうやって向かい合ってるだけで心臓が止まっちまいそうだ!!)
レオリオは全身がガタガタと震えだしていた。
この場に立っているストレスだけでショック死しそうな勢いだ。
「そうだな。このまま立ち去るのなら見逃してあげよう。
でも、そこから一歩でもこっちに近づいたら」
『死ぬよ。』
ババッ!
ヒソカの用いた「舌」と「錬」に気圧されて、ゴンとレオリオは弾かれるように後退した。
ガクガクブルブル…
ガクガクブルブル…
ガク…
体の震えは止まらない。
「畜生…チクショー!!
オレはな!!
友達(ダチ)を見捨てるような真似だけは死んでも御免なんだよ!!!」
ダッ!
「レオリオ!」
「うぉおおお!!」
レオリオは刃物を腰だめに構え、ヒソカに向かって突撃する!!
「うん、いい顔だ。」
ガッ!
レオリオが突きだした刃物は、ヒソカの胸に刺さることなく止まっていた。
(……え?)
トン。
ヒソカが軽くなでるようにレオリオの足を払うと
グルグルグルンッ! ドシャアッ!
レオリオは真上に吹っ飛びながらくるくると2回転半。
頭から地面に落下する見事な車田落ちを披露した。
「レオリオーー!!」
戦いの荒野にゴンの絶叫が響きわたる。
・・・
『オレはな!!
友達(ダチ)を見捨てるような真似だけは死んでも御免なんだよ!!!』
「……ぐッ」
(この声は……レオリオ、か?)
ヒソカのバンジーボールの中で、
気絶していたヤムチャさんの意識が覚醒した。
(そうか、オレはかめはめ波をはね返されて
気を失っていたのか。
ぐっ、身体に力が入らん。限界を超えた界王拳の反動か!)
バンジーボールに反射された自分のかめはめ波を、
ヤムチャさんは界王拳の倍率を無理やり引き上げることで凌いでいた。
状況を把握するため、ヤムチャさんは精神を集中して外の気を探る。
(外にいるのはヒソカと…
小さい気がレオリオだな。
レオリオと一緒にいるのはゴンか?
まずいな。ヒソカは2人が敵う相手じゃないぞ。)
本気になったヒソカはヤムチャさんを追いつめるほどの実力者だ。
まかり間違ってもゴンやレオリオが太刀打ちできる相手ではない。
『レオリオーー!!』
(ゴンの声!!
なんでレオリオとヒソカが戦ってるんだ!?
くそっ、2人が危ない。
ぶっつけ本番だが、やるしかないか。)
ヤムチャさんはギシギシときしむ身体に活を入れて、
残っている気を右手に集中していく。
「技を借りるぜ。クリリン。
はぁぁぁああッ!!」
ボウッ!
ブゥン、ブゥン、ブゥン、
ヤムチャさんの右手に浮かんだ繰気弾が、回転しながらその形を変えていく。
「へへへ、泣いても笑ってもこいつが最後だな。
オレは卑怯なだまし討ちでむざむざ殺されてやるほどお人よしじゃないぞ。
行け! 繰気斬(そうきざん)!!」
渾身の繰気斬を放ったことで
全身の気を使い果たし、ヤムチャさんは意識を失った。
ザシュッ!
ギューン!!
ヤムチャさんの繰気斬が、バンジーボールを切り裂いてヒソカに襲いかかる!
・・・
痛みにもだえるレオリオを鑑賞して悦に入っていたヒソカだったが、
「ッ!!」
繰気斬によってバンジーボールが内部から切り裂かれていくのを感知して
バッ!
その場から大きく飛び退いた。
ザシュッ!
ギューン!!
(しまった。)
バンジーボールから飛び出したヤムチャさんの繰気斬は弧を描き、
バシュッ!
ヒソカとバンジーボールをつないでいたオーラだけを切断して飛び去っていった。
(円盤状に練り上げたオーラを高速回転させて
ボクの変幻自在の愛(バンジーボール)を切り裂いたのか。
やられたね。)
パァン!!
ヤムチャさんを閉じ込めていたバンジーボールが弾けるように消滅した。
ヒソカの身体から離しては使用できないという、
変幻自在の愛(バンジーボール)を維持するための制約が破られたためだ。
「なるほど。器用なことをする。
でも、今ので本当にガス欠みたいだね。」
ヤムチャさんはその場に倒れたままで立ち上がる気配がない。
(今の光線みたいなのはヤムチャがやったのか!?)
解放されたヤムチャさんにゴンが駆け寄って行くのを見て、
レオリオは決断した。
「ゴン! ヤムチャを連れて逃げろ!!」
「レオリオ!?」
「オレはここでヒソカを足止めする!!
心配すんな!!
相手は両腕折れてる上に顔面ぼこぼこの重傷なんだからよ!!
オレはいいからヤムチャを守ってやってくれ!!」
気合と根性で立ち上がったレオリオは、
汗をだらだら流しながらもそう言い切った。
「…わかった!」
ゴンは意識を失っているヤムチャさんを肩に担ぎあげ、
隠れる場所の多い森へ向かって――
ドゴォ!
ギュルルルルル!! ズシャァーーー!
「!?」
逃げようとしたゴンの目の前に、きりもみ回転しながらレオリオが飛んできた。
レオリオは顔面が大きくはれ上がり、完全に意識を失っている。
「ダメダメ。
キミとそっちの彼はともかく、
ヤムチャを逃がすわけにはいかないな。」
(ダメだ。逃げられない。
オレとレオリオだけなら逃げられる?
ヤムチャさんを残して?
…違う、ダメだ。オレはレオリオからヤムチャさんを頼まれたんだ。
絶対にあきらめるもんか!)
「オレは、絶対にあきらめない!!
勝負だ! ヒソカ!!」
ヤムチャさんを肩からおろし、
ゴンは決死の戦いに挑む覚悟を完了した。
「ん~~いい顔だ。
仲間を助けるために命をかけるのかい?
いいコだね~~~~」
ダッ!
追い詰められたゴンはヒソカに向かって猛ダッシュ!
「うわぁああーーーー!!」
武器である釣り竿をがむしゃらに振り回した!
スッ、ススッ、
そんなゴンの攻撃を、ヒソカは容易く回避した。
ドッ!
ヒソカのつま先が、ゴンの腹にめり込む。
「……っ」
ゴンは釣り竿をとり落とし、前のめりに膝をついた。
「グッバイ。ゴン。」
がしっ!
「?」
ヤムチャに止めを刺しに行こうとするヒソカの足に
ゴンは必死でしがみつく。
「レオリオに……頼まれたんだ……
ヤムチャさんには…指一本……触れさせないぞ…!」
「そのセリフはもっと力をつけてから言うべきだね。
少なくとも、今のキミじゃボクを止めることはできないな。」
ビッ! ドシャア!
ヒソカは大きく足を振ってゴンの拘束を振り払った。
『ヒソカの完全勝利』
すべての障害を取り除き、
ヤムチャさんの命に王手をかけたことでヒソカは勝利を確信していた。…だが、
ピシッ!
ヒソカの背後、足元の地面に亀裂が入る。
「!」
ザシュゥッ!!
次の瞬間、地面を割って飛び出してきた繰気斬によって
ヒソカの胴体と両腕はざっくりと切断されていた。
「…ごふっ…」
(バカな…飛び去ったオーラが地中から…
ヤムチャが意識を失っている以上、念弾の遠隔操作は不可能なはず……?)
ヒソカに致命傷を与えた繰気斬はゆっくりと空へ舞い上がり、
徐々に速度を落としながら緩やかに弧を描いていく。
繰気斬を構成していたオーラは霧散し、光の粒子となって中空へと溶けていった。
(ククク、なるほどね…
こっちの念弾は自動追尾型……いや、先行入力型なのか。
初撃が回避された場合は地中からボクを狙うようあらかじめインプットされていた…
攻撃の気配が希薄だったのは本体がすでに意識を失っているから…
これはずるいよ。ヤムチャ…)
ヒソカは視界がかすみ、意識がもうろうとする。
(すべてを失い、すべてが終わる。
これが死という感覚か。悪くない。
でも、クロロと殺り合えないで終わるのが少し残念かな。
ねェヤムチャ。ボクの代わりにクロロと戦ってみないかい?
きっと面白いことになる。)
――ヒソカは死亡した。
・・・
「はっ、はっ、はっ、」
ヤムチャとレオリオは倒れ、ヒソカは死んだ。
戦場に残されているのはゴンだけだ。
(ヒソカが、死んだ…?)
「…そうだ!
レオリオ! ヤムチャさん!」
(良かった。レオリオは気を失ってるだけだ。
ヤムチャさんは…?)
「あれ? ヤムチャさん…?
…息してない!!
し、死んでる…!?」
ヤムチャさんは力尽きていた。
DEAD END …?