ヒソカとの戦いが決着する少し前。
ヤムチャさんとヒソカが激闘をくりひろげ、ゴンとレオリオがそれを観戦していた一方そのころ。
ヤムチャさんを慕うニコルもまた、世界でもっとも危険な戦場をめざして進んでいた。
(やってやる。やってやるぞ!
一次試験は脱落していたところを助けてもらってゴールまでたどりついた!
二次試験はお情けで追加試験を認めてもらって合格できた!
三次試験では事前に仙豆を分けてもらっていたから死なずにすんだ!
今度はボクがヤムチャ様の力になる番だ。
愚かな受験生どもにボクの実力を見せつけてやる!!)
ドゴオオオオン!!
遠く戦場で、ヤムチャさんの繰気弾が爆発する。
轟音がひびきわたり、地面がグラグラと揺れる。
「くっ! なんのこれしき!
待っていてくださいヤムチャ様、ボクが華麗に助けてあげますからね!」
とうっ!
タッタッタッタ!
足取り軽く、ニコルは戦場へと向かっていた。
***
前回までのあらすじ。
「あれ? ヤムチャさん…?
…息してない! し、死んでる…!?」
トv'Z -‐z__ノ!_
. ,.'ニ.V _,-─ ,==、、く`
,. /ァ'┴' ゞ !,.-`ニヽ、トl、:. ,
rュ. .:{_ '' ヾ 、_カ-‐'¨ ̄フヽ`'|::: ,.、
、 ,ェr<`iァ'^´ 〃 lヽ ミ ∧!::: .´
ゞ'-''ス. ゛=、、、、 " _/ノf:::: ~
r_;. ::Y ''/_, ゝァナ=ニ、 メノ::: ` ;.
_ ::\,!ィ'TV =ー-、_メ:::: r、
゙ ::,ィl l. レト,ミ _/L `ヽ::: ._´
;. :ゞLレ':: \ `ー’,ィァト.:: ,.
~ ,. ,:ュ. `ヽニj/l |/::
_ .. ,、 :l !レ'::: ,. "
`’ `´ ~
ヒソカとの激闘の果て、ヤムチャさんは力尽きたのであった。
***
ヤムチャさんと合流するため戦場へと急ぐニコル。
だが、そんなニコルを見つめている影があった。
(……やはりここに来たか)
ニコルの進路上、木の上に隠れて様子をうかがっているのはクラピカだ。
(ヒソカによってヤムチャが足止めされているのなら好都合だ。
ニコル個人の格闘能力はさほど高くないだろうが、
あのデタラメなヤムチャと組まれてしまえばプレートを奪うのは難しくなる。
試験開始の直後、彼が単独行動を強いられている今が好機!)
遅れてスタートするニコルがすぐさまヤムチャさんのもとへ向かうであろうことは容易に想像がついた。
ヒソカに狙われているヤムチャに加勢しようという
レオリオの提案を断ったクラピカは、単身で自身のターゲットであるニコルを待ち構えていたのだ。
がさがさがさっ、
草木におおわれた森の中、
高くしげった草を踏み分けてヤムチャさんのもとへと急ぐニコル。
\(^o^)/~~~♪
その雄姿はものすごい自信とやる気と慢心に満ちあふれていた。
上方の死角に潜んでいるクラピカに、ニコルはまったく気がついていない。
(……隙だらけだな。
待ち伏せを警戒している様子もない。
それだけヤムチャとの合流を急いでいるということか)
駆け足で進むニコルがクラピカの隠れている木の下を通過するその瞬間。
ふっ、
タイミングを見計らっていたクラピカが、音もなく木の上から飛び降りた。
ごしゃっ!
「ぶぎゅるっ!?」
ビッターン!!
落下してきたクラピカの一撃に押し潰され、下敷きにされて地面に突っ伏すニコル。
「ぐっ、いったいなn……はうっ!?」
ガシィッ!
ギリギリギリ、
クラピカは間髪いれずに背後からニコルの首を両腕でロック。
「……が……ぎ……ッ」
ジタバタと抵抗するニコルを全力で絞め落としにかかる。
「……っ……ぉ……――」
どさっ。
戦いとも呼べないような戦い。その決着はあっけないものだった。
クラピカはニコルが意識を失っていることを確認すると、
ニコルのポケットから187番のナンバープレートを回収した。
(すまない。
4次試験の形式上やむを得ないこととはいえ、
一次試験で助けられた恩をアダで返す形になってしまった)
クラピカは倒れているニコルに胸中で詫びる。
(自分のプレートとターゲットのプレートを合わせて6点。
これで合格の条件は満たした。後は試験が終わるまでどこかに身を隠せば――)
ちゅどーん!!!
赤い閃光が森を照らす。
くぐもったような爆発音が聞こえてきた。
(ヤムチャとヒソカの戦いが続いているのか。
どちらも人間離れしているとは思っていたが、これほどとは。
もはや人間の領域を超えている…!)
「ゴン、レオリオ、死ぬなよ。」
ぽつりとつぶやき、クラピカは森の中へと姿を消した。
・・・
・・・・・・
クラピカの襲撃にあったニコルが意識を取り戻したのは
しばらく経ってからのことだった。
「ぐぞッ、油断したッ!」
うつ伏せの姿勢で地面に倒されていたニコルは
背中にズキズキとはしる痛みをこらえて跳ね起きる。
(オレのナンバープレートがない!!
誰だ! いったい誰が奪っていった!?
拘束されていないのはそれだけの余裕がなかったからか!?)
ナンバープレートを奪っていったのだから、
自分を襲った相手が他の受験生たちの誰かであることは確実だ。
だがそこまでだった。ニコルは襲撃者の顔を見ることすらできずに敗北している。
「~~~ッ!」
ニコルは乱雑に頭をかきむしる。
(チクショウ!!
どうして防げなかった!?
オレを狙ってるヤツがいることはわかっていたはずなのに!
相手が誰かも分からないんじゃ取り戻しようがないじゃないか!!)
止めを刺されることもなく、拘束されることもなく、ただ捨て置かれた。
(まるで相手にされていない……! このボクが、敵に情けをかけられたとでもいうのか!?)
ニコルの体が自分自身への怒りに震える。
(まだだ。まずは80番の彼女を見つけてプレートを奪う!
自分のプレートを失っていてもこの試験には合格できるんだ。
ターゲットのプレートを手に入れれば3点、状況は五分に戻せる!
残りの3点は適当なやつらから奪ってそろえればいい!!)
ニコルはわりと無謀な計画を立てると、
普段の余裕と冷静さを失って再び駆け出していた。
(とにかくヤムチャ様と合流しよう!
ヒソカから奪ったプレートが余っていれば譲ってもらえるかもしれない。
くそっ、ボクが油断するのはこれが最後だぞ!!
オレの前に立ちはだかる奴はどんな相手だろうとぶっとばす!!
オレの……オレのジークンドーの力を見せてやる!)
・・・
ザザザザザ、ザッ!
ニコルははやてのように森を駆け抜け、目的地へと到着した。
(戦いはもう終わってる。
一足遅かったか。
あの襲撃にさえ遭わなければ!!)
遅れて到着したニコルを待っていたのは
えぐれた大地となぎ倒された木々、そして物言わぬヒソカのむくろだった。
戦場にただよう血の匂いに惹かれた好血蝶がひろひらとあたりを舞っている。
(ふん、ヤムチャ様を襲って返り討ちにあったんだな。
合格確実と言われていた奇術師ヒソカもここでリタイヤか。
ヤムチャ様はどこに行ったんだろう?)
この戦場跡にヤムチャさんの姿はない。
ならばどこに行ったのか。
ニコルはヤムチャさんの行き先を知るための手掛かりが残されていないかとあたりを調べる。
(これは、折りたたみ式の刃物?
ヤムチャ様は武器なんて使わないしヒソカの武器はトランプのはず。
2人以外にも誰かがここに――)
「やあ。」
ふいに、背後から声をかけられた。
「!?」バッ!
即座に反応したニコルが後ろを振り向くとそこには――
ヽ--、ヽ`ートィ_,ィ
ーヾ_,?_ミl}//p カタ
ノ? o o pヽo カタ
,、/o o, ヽた カタ
l o p ヽ o { l8 カタ
,-l、 / へ、_ ∠、} カタ
r-、lム ='= (='ゝ,=}=O
`-'ヽミ_l{| 8 {` ノ´
o_l`ミ_ヘ ー==┘l-o
ol、_ l_l; `o├ーo
r ‐、 ,、_」 9l l 8 l} rー、
ヽ ヘ /l○( oヽ=r=o )r' (⌒i
-、_,、-'´ ヽ O``--、r', O}-く 、//ー' (⌒i
_ノ、 r‐、`丶、__○_ム-'´ //丶、/>-'
ヽ) ヽノ、 |<| ´ ヾ`ヽ、
r‐-、 |<| ,--‐-、 /Z,
ヽ- く |<| l 301l /Z ヽ
ニコルの後ろには顔と首筋に数十本の針を刺している不気味な男が立っている。
ひどく病的な様相の顔面針男ルーキー、301番のギタラクルだった。
(なんだコイツ!?
こんなに見通しが良い場所なのに気づかなかった!?
いったいどこから現れたんだ!?)
困惑するニコルをよそに、ギタラクルは顔に似合わぬ気楽な調子で言葉をつづける。
「ヒソカ、死んでるね。
まさかヒソカの方が殺されちゃってるとは思わなかったよ。
そんなに強そうには見えなかったんだけどなー」
(コイツ、もしかしてヒソカの仲間なのか?)
グッ、
「ああ、そんなに警戒しなくていいよ。
キミは見逃してあげるから。」
(ハッ! このボクを“見逃してあげる”だとぅ!?)
(#^ω^)ビキビキ。
「42番がヒソカを殺したのはまあどうでもいいけど、
弟にまで手を出されるようだとちょっと困るんだよね。」
なおも一方的にしゃべり続けるギタラクル。
その間、ニコルの視線はギタラクルの左胸につけられている301番のナンバープレートに吸い寄せられていった。
「キミは42番とよく一緒にいた人だよね。
ねェ、42番ってどういう人物なのかな?」
「…………」
ギタラクルの問いかけに沈黙で答えるニコル。
見るからにオツムの出来が悪そうな男に、スーパーエリートである自分が軽んじられている。
その事実が、ニコルには例えようもなく不愉快だった。
シュッ! シュバッ! ビシィッ!
ニコルは大仰な動作で相手を威嚇するような構えをとる。完全な戦闘態勢だった。
「このボクが、命の恩人を売り渡すようなマネをするとでも思いましたか?」
「ん?」
「さきほど貴方はこのボクを見逃すなどと言っていましたね。
思い上がりもはなはだしい!
来なさい。格の違いを教えてさしあげましょう!」
波乱含みの出会い。マジでキレる5秒前。
それが謎の顔面針男ギタラクルと、ニコルのファーストコンタクトだった。
「うーん、42番の情報だけ教えてくれればいいんだけどな。
キミを殺したのが42番に知られたらめんどくさいことになりそうだし。」
クワッ!!
ギタラクルのなにげない一言に、自分を無視されたニコルの怒りが爆発する。
「……ふざけんな。
なめてんじゃねーぞ! このドチクショーがァ!!」
ジャッ!
ニコルは力強く大地をけった。
右と見せかけて左、左と見せかけて右。
ニコルはいくえにもフェイントを交えたトリッキーな動きでギタラクルに襲いかかる!
「ちぇすとー!!」
「ん。」
ビッ!
ドスドスドスドス、ブシュゥッ!!
ギタラクルが右腕をひらめかせると、投擲された無数の針が飛びかかろうとするニコルの顔面に突き刺さった。
「あ…が…」
苦悶の声をあげて、ニコルはその場にくずれ落ちる。
「あーあ。殺しちゃった。
せっかく見逃してあげようと思ったのに。
なんで攻撃してくるかなー」
(ヤ…ムチャ…さ……ま………と…う…さ……ん……)
「情報を引き出すだけなら死んでたってかまわないか。
あんまり無駄な殺しはしないように言われてるんだけどな」
ギタラクルの声には緊張感の欠片もない。
殺人を犯してもなお、ギタラクルはどこまでも自然体だった。
・・・
とある手段を用いて、
物言わぬ死体となったニコルからヤムチャさんの情報を引き出したギタラクル。
わかったことはヤムチャさんが世界有数の念の使い手であろうという事実だ。
ギタラクルは考える。
(かめはめ波、舞空術、繰気弾、狼牙風風拳。
強力な発を複数習得している、おそらくは放出系に属する念能力者。
強化、放出、操作の3系統を高いレベルで使いこなし、仙豆という優秀な回復手段まで有している。)
「なるほど。これならヒソカが負けるのも無理ないか」
戦闘目的で練磨された複数の念能力とほぼ無尽蔵とも思える圧倒的なタフネス。
正面からの戦闘で打ち破るには骨が折れる相手だろう。
加えて、ヒソカにはギリギリの戦いを愉しもうとする悪癖があった。
仙豆を持っていることを知らずに対峙したのなら、ヒソカほどの実力者であっても足元をすくわれることは十分にありうる。
(まだヒソカを真っ二つにした奥の手も隠し持っているはず。
それに、オレが42番の擬態を見抜けなかったってことは
42番はオレよりも数段上の実力者ってことになっちゃうんだよね。)
とはいえ、自分から率先して戦いを仕掛けるほど好戦的ではないようだし
こちらから手を出さなければ問題はない。
この試験に参加している自分の弟が殺されることもないだろう。
そう結論付けたことで、ギタラクルの心配事は解消された。
「あ、死体が見つかったら傷口でオレが殺したってわかっちゃうよね。
しょうがない。埋めとくか。
そうだ。寂しくないようにヒソカも一緒に埋めておいてあげよう。
うーん、オレって優しいな~」
猫目の青年は素手で地面を掘りはじめる。
ザック、ザック、ザック、
――ヒソカとニコルは仲良く埋葬された。