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No.19764の一覧
[0] ボーイ・ミーツ・トンデモ発射場ガール【禁書目録・超電磁砲】【再構成】[nubewo](2014/02/15 15:00)
[1] prologue 01: 馴れ初め[nubewo](2013/10/12 23:36)
[2] prologue 02: 目線の高さ[nubewo](2013/10/12 23:36)
[3] prologue 03: 人と人の距離[nubewo](2013/10/12 23:37)
[4] prologue 04: 遊園地とワンピース[nubewo](2013/10/12 23:37)
[5] prologue 05: 好きな人がいるのなら[nubewo](2013/10/12 23:52)
[6] prologue 06: 彼にとっての彼女とそうではない少女[nubewo](2013/10/15 22:07)
[7] prologue 07: その心配が嬉しい[nubewo](2013/10/25 14:49)
[8] prologue 08: セブンスミストにて[nubewo](2014/02/17 10:23)
[9] prologue 09: 失ったものと得たもの[nubewo](2014/02/15 14:55)
[10] prologue 10: レベル4の先達に師事する決心[nubewo](2014/02/15 14:56)
[11] prologue 11: 渦流の紡ぎ手[nubewo](2014/02/15 14:56)
[12] prologue 12: 能力の伸ばし方[nubewo](2014/02/15 14:56)
[13] prologue 13: 彼氏の家にて[nubewo](2014/02/15 14:57)
[14] prologue (old version)[nubewo](2013/10/12 23:46)
[15] ep.1_Index 01: 魔術との邂逅[nubewo](2010/09/10 21:29)
[16] ep.1_Index 02: 誰ぞ救われぬ者は[nubewo](2013/10/25 18:13)
[17] ep.1_Index 03: 傷ついた者を背負って[nubewo](2010/09/14 11:57)
[18] ep.1_Index 04: 魔術との対峙[nubewo](2012/06/26 01:42)
[19] ep.1_Index 05: 交戦[nubewo](2011/01/17 23:31)
[20] ep.1_Index 06: 黄泉川家[nubewo](2011/01/22 11:40)
[21] interlude01: 数値流体解析 - Computational Fluid Dynamics -[nubewo](2011/03/17 01:17)
[22] ep.1_Index 07: 決意[nubewo](2011/02/02 23:45)
[23] ep.1_Index 08: イギリスへ辿り着く道[nubewo](2011/02/06 20:19)
[24] ep.1_Index 09: 鬼ごっこ[nubewo](2011/02/28 00:46)
[25] ep.1_Index 10: ここに敵はいない[nubewo](2011/02/27 18:35)
[26] ep.1_Index 11: 反撃の狼煙[nubewo](2011/02/22 02:31)
[27] ep.1_Index 12: 黒いマリア[nubewo](2012/06/26 01:43)
[28] ep.1_Index 13: ボーイ・ミーツ・トンデモ発射場ガール[nubewo](2012/06/26 01:43)
[29] ep.1_Index 14: 記憶回復の代償、そして未来[nubewo](2011/03/06 00:21)
[30] interlude02: 渦流転移 - Vortex Transition-[nubewo](2014/01/29 14:28)
[31] interlude03: 乙女の昼餐(そう淑やかでもない)[nubewo](2013/10/25 18:10)
[32] interlude04: 爆縮渦流 - Implosion Vortex -[nubewo](2011/03/23 01:25)
[33] interlude05: ローレンツ収縮が滅ぼしたもの[nubewo](2011/03/25 01:31)
[34] interlude06: 能力者を繋ぐネットワーク[nubewo](2011/03/26 01:36)
[35] interlude07: 最強の電子使い(エレクトロン・マスター)[nubewo](2012/11/25 00:53)
[36] interlude08: 電話をする人しない人[nubewo](2011/04/01 01:22)
[37] interlude09: 盛夏祭開始![nubewo](2011/04/04 23:42)
[38] interlude10: キッス・イン・ザ・ダーク[nubewo](2011/04/06 22:31)
[39] 他作品の紹介[nubewo](2013/08/03 18:32)
[40] ep.2_PSI-Crystal 01: 乱雑解放(ポルターガイスト)[nubewo](2014/02/15 14:58)
[41] ep.2_PSI-Crystal 02: 友を呼ぶ声[nubewo](2011/04/16 23:32)
[42] ep.3_Deep Blood 01: 第五架空元素[nubewo](2011/05/17 02:28)
[43] ep.2_PSI-Crystal 03: 水遊び、湖畔の公園にて[nubewo](2011/05/13 00:54)
[44] ep.2_PSI-Crystal 04: 暴走する能力[nubewo](2012/08/23 22:35)
[45] ep.3_Deep Blood 02: 仲直り[nubewo](2011/06/13 23:44)
[46] ep.2_PSI-Crystal 05: 統計が結ぶ情報とエネルギー[nubewo](2011/05/25 00:00)
[47] ep.2_PSI-Crystal 06: 真実を手繰り寄せる糸[nubewo](2011/05/31 01:51)
[48] ep.4_Sisters 01: 手繰り寄せた真実からは絶望の味がした[nubewo](2011/06/06 01:26)
[49] ep.4_Sisters 02: 序列の差[nubewo](2011/06/10 11:08)
[50] ep.4_Sisters 03: 私が、知らないだけだった[nubewo](2011/06/13 00:30)
[51] Intersection of the three stories: 繋がる人と人[nubewo](2011/06/22 02:07)
[52] Intersection of the three stories: 其処に集う人達[nubewo](2011/06/21 22:20)
[53] ep.2_PSI-Crystal 07: 科学と魔術の交差点[nubewo](2011/06/30 11:42)
[54] ep.2_PSI-Crystal 08: 背中を預ける戦友は[nubewo](2011/07/14 00:24)
[55] ep.2_PSI-Crystal 09: 同じ世界の違う見え方[nubewo](2011/07/14 00:24)
[56] ep.2_PSI-Crystal 10: 渦流共鳴 - Vortex Resonance -[nubewo](2011/07/19 00:49)
[57] ep.2_PSI-Crystal 11: 踏みにじられる想い[nubewo](2011/07/24 11:42)
[58] ep.2_PSI-Crystal 12: 渦流の正しい使い方 -Advance in Implosion Vortex-[nubewo](2011/08/01 01:33)
[59] ep.2_PSI-Crystal 13: 幸せな結末[nubewo](2011/08/19 01:43)
[60] ep.3_Deep Blood 03: 不幸せな結末[nubewo](2011/10/30 07:33)
[61] ep.3_Deep Blood 04: 重なるコインの表裏[nubewo](2011/10/30 07:35)
[62] ep.3_Deep Blood 05: その名を呼ぶのが重なる時[nubewo](2012/02/04 00:22)
[63] ep.3_Deep Blood 06: 物質の支配者[nubewo](2012/02/04 00:24)
[64] ep.3_Deep Blood 07: 正義は斯くもすれ違い[nubewo](2012/04/02 23:39)
[65] ep.3_Deep Blood 08: 一途の想いが成れの果て[nubewo](2012/04/08 11:54)
[66] ep.3_Deep Blood 09: 死を受け入れる覚悟[nubewo](2012/04/12 00:45)
[67] ep.3_Deep Blood 10: 天使 - 翼を持ち奇跡をもたらす者[nubewo](2012/04/15 23:58)
[68] ep.3_Deep Blood 11: 人為、その不完全性[nubewo](2012/04/23 01:05)
[69] interlude15: 「観測」に対する能力者のスタンス[nubewo](2012/06/27 00:33)
[70] interlude16: 師匠の彼氏[nubewo](2012/09/04 23:03)
[71] interlude17: 世界、この一つだけの花[nubewo](2012/11/25 00:56)
[72] ep.4_Sisters 04: ヒトとヒトガタの姉妹[nubewo](2012/11/25 00:57)
[73] interlude18: 身体検査[システムスキャン]前編[nubewo](2012/11/25 00:57)
[74] interlude19: 身体検査[システムスキャン]中編[nubewo](2012/11/25 00:58)
[75] interlude20: 身体検査[システムスキャン]後編[nubewo](2012/11/25 00:58)
[76] ep.4_Sisters 05: 私の知らない御坂美琴[nubewo](2013/05/11 03:33)
[77] ep.4_Sisters 06: 彼女たちの邂逅[nubewo](2013/05/06 00:12)
[78] ep.4_Sisters 07: 同能力者対決[nubewo](2014/02/15 15:00)
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[19764] prologue 10: レベル4の先達に師事する決心
Name: nubewo◆7cd982ae ID:0f404a7c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/02/15 14:56

「婚后さん! あたしに空力使い<エアロハンド>の極意、教えてくださいっ!」

どんな心境の変化だったろう。
彼女では足元にも及ばぬような高位の能力者。それも自分にとって決して親しみやすいとは言えなさそうな自信家のお嬢様。
これまでにもあったことはただの一度で、ほとんど話をしたこともない相手だというのに。

その日、光子は当麻と会うため、学舎の園と普通の区域の境となるゲート前で、一人待ち合わせ時間までの数分をぼんやり過ごしていた。
当麻が到着するまでにはもう少し掛かりそうなので漫然と景色を眺めていると、視界の中に、見覚えのある二人の姿が見えた。
向こうも遊ぶ気なのだろうか、小綺麗な花を髪飾りに生けた少女と、ごく普通の花飾りで長い髪を留めた少女が、こちらに向かって歩いてくる。彼女達とは、つい先日の水着撮影のときに知り合った。たしか白井や美琴の友人だったはずだ。
先日はどうもというような当たり障りのない挨拶をし、一体今日はどうしたのかと聞こうとした直前で。



いきなりあんなお願いが飛んできたのだった。



「え、ちょっと、お待ちになって。唐突にどうしましたの? 極意を教えてって」
目を白黒させる光子に、焦った顔をした初春が頭を何度も下げた。
「佐天さん! いきなりそれじゃわからないですよ」
「あ、そうですよね。アハハ」
脈絡のない性急な切り出しは、佐天の緊張の表れだったらしい。光子と初春から説明を求める目で見つめられて、佐天は続きを言いよどんだ。
だが、すぐに意を決したように視線をまっすぐ光子に向けて、もう一度自分の願いを口にした。
「あたしの能力、空力使いなんです。レベルは全然、大したことないですけど」
「はあ」
「これまでもずっと能力は伸びないで、全然駄目なままだったんですけど、最近、伸びない自分から逃げないで、ちゃんと向き合いたいって、思うことがあったんです。それで、知り合いにレベル4の同系統の能力者の人がいるなんてすっごくラッキーな偶然じゃないですか」
「だから、能力について教えて欲しい、と?」
続きを先取りするように光子はそう言い、佐天に確認を取った。
帰ってきたのは、あっさりとした首肯だった。
「はい。もちろんご迷惑になるでしょうからそんなに教えてもらえないかもしれないですけど、アドバイスとかもらえたら嬉しいなーって」
光子がこの申し出をどう思うか、それは初春には分からなかった。しかし佐天が明るい態度の裏に、いつになく真剣な思いが潜んでいることに初春は気づいていた。
佐天は言葉を切って、真面目な顔で頭を下げた。
「あの、お願い、出来ませんか?」
光子はじっとその姿を見つめた。目の前の少女とは、直接話したことはほとんどない。初めて会った水着撮影の一日で、光子は佐天のことを、明るくて苦労の類と縁がない子だと勝手に思っていた。
「佐天さん、だったわね」
「あ、はい。佐天……佐天涙子って言います」
「可愛いお名前ね」
「はあ」
佐天は肩透かしを食らって気の無い返事をした。
「もし、軽い気持ちでアドバイスを貰いたいのなら、お断りするわ。能力の伸ばし方なんてそれこそ人によって違いますから、簡単な助言が欲しいのなら学校で先生に聞いたほうがずっとよろしいわ。私は先生ではありませんから、あなたにとって良くないアドバイスをするかも知れませんし」
それは事実だったし、興味本位にアドバイスが欲しいという程度の安っぽい仕事を引き受ける気は光子にはなかった。
試されているのを感じたのか、佐天は姿勢をキュッと正し、
「あの、答えになってないんですけど、婚后さんは自分のこと、天才だって思ってますか?」
「ええ、勿論。あんなふうに世界を解釈し、力を発現できるのは世界でただ1人、私だけですもの」
即答だった。そして、佐天の返事を聞くより先に言葉を繋いだ。
「でも、努力ならいつだってしていましたわ。そして一切努力をせずにレベル5になれるような人だけを天才というのなら、私は天才ではありませんわね」
その言葉の意味を理解するようにほんの少しの間、佐天は返事をするのに時間をあけた。
白井との喧嘩を横から眺めていて、この婚后という先輩は気が強く嫌味な相手なのかもしれないと不安に思っていたが、どうやら少し違うようだった。
彼女が口にした天才という言葉には、自分より力のない他者を見下すような意味合いではなく、自分自身に言い聞かせるような響きがあった。
「私も、この学園都市に来たからには自分だけの力が欲しくて、でも学校の授業を聞いても、グラウンドを走っても、能力が身につく気がどうしてもしないんです。それが一番の近道なのかもしれないけど、それも信じられなくて……。だから、努力をして力を身につけた人の言葉が欲しいんです。婚后さんが、学校の授業を真面目に受けるのが一番だって言うなら、それを信じます。いままでよりもっとがむしゃらにやります。だから……」
ふ、と光子は自分の昔を思い出して笑った。それは低レベル能力者が誰しもが感じる悩みだ。かつて自分もそれを抱えていた人間として佐天の思いをほろ苦く感じながら、言葉に詰まった佐天に助け舟を出した。
「私に出来ることなんて高が知れているでしょうけれど。でも、弟子を取るからには指導には容赦をしなくってよ」
弄んでいた扇子をパッと開き、挑むような目で佐天を見つめた。
「えっ、あの、教えてくれるんですか?!」
半分くらい、断られるのを覚悟していた佐天は、あっさりとした承諾の返事に思わず聞き返してしまった。
「貴女にやる気があるのなら、ね」
試すような目付きでのぞき込まれて、ビッ、と佐天は敬礼のポーズをとった。
「はい! 頑張ります!」
それを聞いて、話に割り込まず隣で聞いているだけだった初春も、安心するように笑った。
劣等感を隠すための強がりとしての明るさと、生来の朗らかさ、その両方を佐天涙子という友人は持ち合わせている。前向きなときも後ろ向きな時も明るく振舞ってしまうのが、気遣いができる彼女の美徳であり短所であった。初春は彼女が前向きな気持ちでこうした話を出来ていることが嬉しかった。能力の話は、彼女が最も劣等感を感じ、苦しんでいる事柄だったからだ。
「そうね、それじゃまず申し上げておきたいことは」
しばらく思案していた光子が言葉を紡ぐ。
「まず、学校のことを学校で一番になれるくらいきちんとやるのは最低限のことですわ」
その一言で、佐天の顔が曇った。『出来る人間の台詞』が第一声に飛んできたからだった。
「別に次の考査で学年トップになれなんて言ってるわけではありませんのよ。ただ、あとで後悔するような努力しかしていなければ、そこから前向きな気持ちが折れていくでしょう? それでは伸びませんわ」
わずかに佐天の表情も明るくなったが、やはりその言葉は聞きなれた理想論でしかなく、彼女の閉塞感を吹き飛ばすものではなかった。
光子も常盤台においては上位クラスに所属するもののその中ではごく凡庸な位置にいるので、自分自身が自分の垂れた説教を好きになれなかった。
「それで佐天さん、あなたのレベルはいくつですの?」
「あ、えっと……ゼロ、です」
噴出する劣等感を顔に出さないようにするのに、佐天は必死になった。ただレベルを申告するだけなら、チラリと顔を見せるその感情に蓋をするだけでよかったかもしれない。だが幻想御手(レベルアッパー)という誘惑に負けた自分の浅ましさは、レベル0いきなりであるという劣等感を何倍にも膨れ上がらせ、持て余すほどに堆積していた。
「ゼロ? あの、出鼻をくじいて悪いですけど、本当に空力使いという自信はおありなのね?」
弱い意志が誘惑に負けてズルをした過日の自分を思い出して、ひどい自己嫌悪が蘇る。
「あ、はい! あたし一度だけ力が使えたことがあって、そのとき、手のひらの上で風が回ったんです。先生にも相談したらほぼ間違いなく空力使いだって」
はぐらかす自分も嫌になる。何もかもが後ろ向きになって、思わず光子に謝って今の話を無かったことにしてもらおうかなんて考えすら湧いてくる。
「そう、分かりましたわ。そうですわね……私もこれから用がありますし、この週末に時間をとってやるのでよろしくって?」
「はい、それはもうもちろん! レベル4の人に見てもらえるなんてどんなにお願いしたって普通は出来ないことなんですから!」
自分の退路を一つ一つ断っていった。それが最善の道だと、そう決めてかかった行為だった。
「ふふ。じゃあ、宿題を出しておきましょうか」
「え、宿題、ですか?」
光子は頼られるのが好きだった。真面目でひたむきな佐天の姿勢は、先輩風を吹かせたい気持ちをくすぐるものがあった。そして、自分の面倒を見てくれている先生からかけられた言葉を思い出し、それを口にする。
「貴女、風はお好き?」
「え? あの、風って。扇風機の風とかですか?」
その問いはあまりにシンプルで、逆に難しかった。
「扇風機も確かに風を吹かせるわね。もう一度言うわ。風はお好き? それ以上のアドバイスはしませんから、自分でよく答えを考えてみなさいな」
「はあ……」
どうしたらよいのかと思案すると同時に、今までとまったく違ったアプローチで攻められることが面白く思えていた。
「私が自分の力を伸ばすきっかけになった質問ですのよ、それ。念のために言っておきますけれど、ちゃんと考えて答えを出さないと何の意味もありませんからね」
「自分で、ちゃんと考えてみます」
不思議と面白い思索だった。返事をする傍ら、頭の中ではすでにぐるぐると回る風の軌跡が描かれていた。
「そうしなさい。今週末に答えを聞かせてもらうわ」
「ありがとうございます。でも……あの、いいんですか? 自分で言うのもなんですけど、こんな面倒なお願いを簡単に引き受けてもらっちゃって」
「あら、私こう見えても後輩の面倒見はいいほうですのよ? 真面目に何かを学び取ろうとする人は、嫌いではありませんし」
佐天に微笑みかけるその表情は、すでに教え子を見る顔になっていた。





それからもう少し軽い話をして、初春と佐天は学舎の園の中へと向かっていった。
当麻は待ち合わせの時間より5分遅れてやってきた。
遅刻されるのは嫌いだった。相手にも事情があるだろうとか、そんなことを考えるより、自分のことを大切に思ってないのだろうかという不安のほうが先に湧いてくるからだ。そして不安の矢は当麻の側を向いて、怒りや苛立ちに変わるのだった。
「どうして遅れましたの」
最大限に自制を効かせてそう尋ねると、財布を溝に落としたので拾い上げようとしたら自転車とぶつかったとの説明が帰ってきた。当麻は硬貨を、相手は買い物を散々にぶちまけ、さらには外れたチェーンの巻き直しまでしたのだとか。
ひと月に足らないこの短い付き合いですっかり納得させられるのもどうかと思うが、この上条当麻という想い人の運の悪さを光子はよく理解している。だからそんな絵に描いたような言い訳を、それでも疑いはしなかった。なじるのを止めたりはしなかったが。

二人で歩くときは当麻の左を歩くのが、光子の習慣になっていた。
当麻は鞄を右手で持つことが多い。それに合わせて当麻の左手と自分の右手を繋ぐのだった。
「鞄、持つよ」
自分の鞄を持ったままの当麻の手が、光子の前に伸びてきた。
「はい、お願いしますわ」
ありがとうを言わず、微笑を返した。その気安さが嬉しい。
鞄を持ってもらい、開いた自分の両腕を使って当麻の左腕に抱きついた。当麻が照れるのが分かる。こうしてべったりと抱きつくといつもそうだった。
私も恥ずかしいですけど、でも嬉しいんですもの。当麻さんもきっと喜んでくださっているのよね。
そう光子は納得していた。
自分のプロポーションに自信があるものの、それをダイレクトに感じている男性がドキッとしていることに思い当たらないあたり、光子は初心(うぶ)だった。

「それで、佐天さんに空力使いとしてちょっと指導をすることになりましたの」
安いファストフードの店でホットアップルパイを食べるのが光子のお気に入りだった。初めてそれを口にしたのは当麻と知り合ったその日だから、それは特別な食べ物なのだ。今でもそれをアップルパイとは認めていないが、中身のとろとろとした食感は気に入っていた。
そのファストフード店への道すがら。頼ってくれる人間が出来たことが嬉しくて、すぐさっきの話を当麻にした。
「へえ。そういうのって珍しいんじゃないのか? 能力者が能力者の指導をするなんてさ」
「まあ学校の先輩後輩でなら稀にありますけれど。でもこんな風に依頼されたのは私くらいかもしれませんわね」
「しかも相手はレベル0なんだろ? なんていうか、それで伸びるもんなのかね?」
そこで、光子はハッと息を呑んで、当麻の顔を見た。
彼もレベル0であり、その彼よりも別の能力者の手伝いをすると言った自分の無神経さに気づいたからだった。
自分がレベル0であることに、当麻は全く劣等感を見せない。だからこそ当麻と一緒にいることに息苦しさを感じないでいられるのだろう。そして彼の能力について付き合うより前に聞いてから、実はあまり詳しい話は聞いたことがなかったのだった。
レベル4の自分が話を振るのは、すこし怖かった。
「あの、怒ってらっしゃらない?」
「へ? なんで?」
恐る恐る確認を取った光子に、当麻は間の抜けた顔をした。急に光子が不安な表情を見せたことが全く理解できなかったらしかった。
「その、当麻さんも確か、レベルが」
「あ、うん。ゼロだな」
「ですから、その、佐天さんにあれこれと能力のことでアドバイスなんてするのを、当麻さんがお嫌だったらどうしようって」
「ああ、そういうことか。なんだ、そんなの気にすることないのに」
「構いませんの?」
「気にしないって。その子、光子と同じ系統の能力なんだろ? それならうなずける話だし、光子がいくらレベル4だからって、俺の右手をどうにかできるとは思えないしな」
そう言って握った拳を見せつけてきた当麻に、光子は曖昧な笑みを返した。
「じゃあ、佐天さんにこの週末、お会いしてきますわね」
「ああ」
「それで、当麻さんの能力の話についてなんですけれど」
光子の視線が右手に落ちたのを見て、当麻が首をかしげる。
ちょうどいいタイミングだから、光子は当麻の能力について尋ねてみる気だった。
「当麻さんの能力は……AIM拡散場を介した能力のジャミング、でよろしいのかしら?」
「へ? なにそれ」
まるで初耳だと言わんばかりの顔で当麻が聞き返してきた。断片的な会話からの光子の推測だったのだが、どうやら外れたらしい。
「ごめんなさい、違いましたのね。右手で能力を打ち消すようなことをおっしゃっていたから、身体接触を条件にAIM拡散力場に直接干渉できるような能力なのかしらって思っていたんですけれど」
「能力を打ち消すところは合ってるけど……。そうか光子はそんな風に解釈してたのか」
よくそんなことを考えつくな、という風に感心しながら、当麻がニッと笑った。
「せっかくだし、試してみるか」
そう言って、当麻が大通りの隣にある休憩スペースのベンチを指差したのだった。


ベンチに腰掛け、すぐさま『実験』を始めた。
能力者に特別な準備は必要ない。風を作るよう指示されて、光子は当麻の右手の手のひらに、風の噴出点を作ろうとした。
「嘘……なんで、どうしてですの?!」
結果を知るのも、あっという間だった。能力の制御に失敗するだとか、妨害されるといった感覚とは、全く違っていた。
とにかく、何も起こらない。遠慮をしてはじめは小さな威力で始めるつもりだったが、今や台風を優に超える風速と風量を発現させるつもりで脳をフル回転しているのに、世界は普段ならいつでも観測できるような超常現象を、これっぽっちも光子に感じ取らせない。
顔に困惑といらだちが浮かぶと共に威力は上がっていき、もはや、光子は全力だった。本当なら当麻は。自分の視界から音速で吹っ飛ぶはずなのに。何故か、そうはならなかった。
「何も出来ないなんて……。当麻さん、本当にレベルはゼロですの?」
当麻の右手は、学園都市でも明確にエリートに分類されるレベル4の能力者である自分の能力を、完全に押さえ込んでいる。
いや、それどころか、どんな能力で封じ込めたのかすらも悟らせない。
それは途方もない異常のはずだ。
もし当麻が、光子自身が推測したようにAIM拡散場を介した能力のジャミングを行なっているのだとしたら、当麻のレベルは5でなくてはならない。
「こんなことをできる能力者が、無能力者なわけがありませんわ」
「だよなぁ。ホント、これでレベルが貰えるんなら貰いたいよ。レベル上がればこないだみたいに卵だけでタンパク質取らなくてももっといいメシが食えるのにさ」
「身体検査<システムスキャン>で結果は出ませんでしたの?」
「ああ。俺自身が世界に対して何かを働きかける能力は完全にゼロだ。十年近くこの街にいて、それこそ身体検査なんて何回受けたかわかんないけど、一度たりとも能力が発現したことはない。まあ、この右手のせいなのは一目瞭然だから、逆に気は楽だけど」
ため息たっぷりに、当麻がそんな愚痴をこぼした。当麻の環境に、光子は目眩を覚えそうになる。
能力のレベルは学園都市で最も重んじられる数字だ。通える学校から奨学金まで、それこそカーストのように学生たちのあり方を決定づける因子である。
それを、生活費の足し程度にしか考えていない当麻も当麻だし、こんな変わった能力を放置している学園都市側も問題だろう。
「当麻さんより、学園都市側に文句を言うべきなのかしら……。本来、レベル4の能力者がレベル0の無能力者に純粋な能力の比べ合いで負けた、というのはあってはならないことだと思うんですけれど」
「うーん、レベル制度に穴があるって状態だもんな。でもこれ、能力なのかどうか、わかんないんだよな」
「え?」
当麻の言葉の意味が、光子にはわからなかった。だって、能力でもないのに光子の風をキャンセルするなんて、どうやったらできるのだろう。
「能力者は多かれ少なかれ、何かに干渉するために演算を行うわけだろ? 俺、そんなの考えたことないし」
「はあ」
その言葉には肯けるところがないでもない。能力同士のぶつかり合いに負けたという意識は、光子の側にもない。ただ一方的に、なかったことにされただけというのが正直な感想だ。あまりに非常識すぎる結論だが。
「それに演算の速さだとかの比べ合いだってんなら、レベルが高い奴には負けるはずだろ? 俺の右手は、それが超常現象なら何でも無効化できるんだ。レベル5の電撃でも平気だったし、たぶんレベルは関係ないんじゃないか?」
「はあ……え? ちょっとお待ちになって。当麻さん、超能力者(レベル5)と能力をぶつけ合ったことがありますの?!」
レベル5の雷撃と言えば、光子の同級生の超電磁砲<レールガン>の能力だろう。名前も知らないし面識はないのだが、その能力の凄まじさは見たことがある。身体検査の日に、音速をはるかに超えて加速されたプロジェクタイルの運動エネルギーを殺すため、盛大にプールに水柱を立てていたのを思い出した。
やり方によっては回避・無効化することはもちろん可能だが、真正面から受け止められる能力者なんて、果たして何人いるのだろうか。
「ああ、なんか道端で知り合ってさ」
その言葉に、ちょっと引っかかる。当麻は、道端で自分以外の常盤台生にも、声をかけたということだろうか。
「そうですの」
「それから時々街で見かけるんだけどさ、その度にアイツ、やたらと絡んで来るんだよな。こないだの決着をつけてやる、とか訳わかんないこと言ってさ。そういや、光子はやっぱりアイツと知り合いなのか? 確か中二って言ってたし、光子と同級生だよな」
共通の知り合いがいるのかもしれないと思って嬉しそうに話を振った当麻だったが、光子の表情を見て固まった。
「仲、よろしいのね」
自分だけの席に、無理やり割り込まれたような気持ち。知り合いというだけなら当麻にも女性のクラスメイトはいるだろうに、同じ常盤台の中学二年で当麻の心許した相手というのが、やけに疎ましかった。
「い、いや。別に、ただ知り合いってだけだぞ? なんかいちいち突っかかってくるから相手してるだけで」
「そうですの」
全然納得してない表情の光子を見て、なんなんだ? と当麻が首をかしげた。
そんな反応に、ますます苛立つ。唇が尖るのを、抑えられなかった。
他の女性の話なんて、しなくていいのに。
「……もしかして、妬いてるのか?」
驚きのこもった表情で、当麻がストレートにそう問いかけてきた。それに答える義理なんて、あるものか。
「知りません」
扇子をたたんで、鞄の取手に手をかける。
本気ではなかったけれど、立ち上がる素振りを見せたところで、当麻にきゅっと抱き寄せられた。
「可愛いな、そういうとこ」
「だって」
軽く睨むと、邪気なく微笑む当麻に髪を撫でられた。
それで機嫌を直してしまうのは悔しいのに、つい喜んでしまう光子だった。
当麻にされるがままになり、二人は警備員(アンチスキル)に追い払われるまでこの公園で甘い雰囲気を撒き散らした。






あっという間にはすぎて、週末を迎える。
第七学区の中央近くにある小さな公園のゲートをくぐって、佐天は広場の方へと進む。ここが、宿題を課した光子との待ち合わせ場所だった。
「こんにちは、佐天さん」
「こんにちわです。婚后さん」
姿勢を正して、丁寧に腰を折り曲げる。
「今日はよろしく、お願いします」
光子は厳しいでも朗らかでもない、その真ん中くらいの表情だった。これから自分は、アドバイスを与えるに値する人間かどうかを評価されるのだと、否応なしに自覚させられる。
「それで宿題はできましたの?」
一言で、光子が単刀直入に本題に踏み込んだ。
「あ……はい、一応、考えてきました」
「一応ね……答え次第では今すぐにでも話を終わりにしますわよ? ちゃんと自分で納得した答えですのね?」
佐天はその質問にはいという返事を返そうと、思い切れないでいた。
宿題をもらった瞬間の、やってやろうじゃん、という気持ちはすっかり萎えきっていた。
数日間自分で悩みぬいた結論。それを自信を持って伝えることが出来ない。
もっといい結論を自分は出せないかと色んなふうに考えてみたが、結局、満足出来るようなものを胸に抱くことが出来なかった。
「……自分で、結論を出しました。精一杯の答えだから、変わったりはしません」
「そう、じゃあ、話して御覧なさい。『貴女、風はお好き?』」
誰かの口調の真似たと思わしき、少し前に聞かされた問いと、寸分たがわぬ言い回し。
自分が空力使い<エアロバンド>だというなら、心の底からそれを愛しているのが自然だろうに。
きっと高位の能力者の人たちは、それを満喫しているだろうに。
自分の答えのつまらなさが、たまらなく不快だった。
「嫌いだなんてことはないですけど、私は多分、風っていうものを、そんなに好きじゃないと思います」


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