休憩室を覗いて、湾内と泡浮の二人を探す。食事に行ったか、あるいは出かけたか、二人はいなかった。夏休み中で、昼に学外へと昼食を摂りに行くのもアリだから、そうしたのかもしれない。待っても仕方ないし、二人は流体制御工学教室の学舎を出た。「あつー……」「分かってはいますけれど、外はたまりませんわね」光子は扇子を取り出してパタパタと仰いでいる。渦を作って、佐天も首筋に風を作り出した。風も生ぬるいので、あまり意味はないのだが。「冷たい麺類にしようかしら」「あ、いいですね」「割とあの食堂の冷製パスタは気に入ってますの」「パ、パスタですか」ちょっと予想外だった。てっきり冷凍麺で作った冷やし中華やうどん、そばだと思ったのだ。学食なんて普通はそんなもんだ。しかし、確かにこの学校の雰囲気にはパスタのほうが合っていた。「細かく刻んだ蛸の食感とバルサミコ酢のさっぱりした感じが、暑い日には軽くて良いですわ」「へー」とりあえず佐天の昼は決まった。具体的な説明があるとつい味を想像してしまう。聞いたところ材料はそう突飛でもないし、バルサミコ酢は家にないが黒酢ならあるから、家で真似することも出来るだろう。「おーい、佐天さん! 婚后さん!」「あら?」「あ、御坂さん」「ごきげんよう佐天さん。それと、婚后光子」「どうして呼び捨てにされなければいけないのかしら? 白井さん」別の建物から出てきたらしい二人、白井黒子と御坂美琴に返事を返す。どうも光子は白井と反りが合わないのだった。いや、反りが合わないというか、光子としては普通に接しているつもりなのだが、どこか光子の態度が白井には合わないらしかった。レベルは同じだが、学年は一つ上なのだ。もう少し態度に敬意があれば、光子のほうから歩み寄る気にもなるのだが。「これは失礼しましたわ、婚后先輩」「過ぎた慇懃は無礼と同じ、それくらい学びませんでしたの?」「私は精一杯丁寧にお詫びを申しあげただけですわ、婚后先輩」先輩という響きは、あまり常盤台では聞かれない。慣例としてさん付けが多いのだ。だからその先輩というフレーズを強調する白井が、やっぱり気に入らない光子なのだった。そしてお姉さまに比べて自分の能力を鼻にかけてお嬢様な態度をとりがちな先輩の婚后が、どうも気に入らない白井なのだった。「ま、まあまあ。それで佐天さん、今日も婚后さんにレッスン受けてたの?」「はい。そうなんですよ」「佐天さんは物凄く伸びがよろしいですわ。二学期が始まる前が大変でしょうね」「……え? なんでですか?」「転校されるんだったら、どこに移るかは大事なことだと思いますけれど」「え? 佐天さん転校するの?」「え? いや、私まだ考えてないですけど……」サラリと光子が言ったことは、先生には言われていたが、光子とは話をしたことがなかった内容だ。突然だったので動揺してしまった。「今の段階で、通ってらっしゃる中学ではもう一番だと思いますわよ。上の学年も含めて」「へー! 佐天さんそんなに伸びたんだ。すごいじゃない!」「い、いや、全然実感がないんで分からないんですけどね」「今、レベルはいくつですの?」「まだレベル1ですけど」「すぐに上がりますわ」レベルを尋ねた白井に、光子が隣でそう断言した。もうレベル2という評価がすぐ手元に近づいている状況だった。そしてレベル2なら、中堅の学校を狙う段階だ。支給される奨学金の額が全く変わってくるからだ。きりもちょうど良いし、確かに順当に行けば転校が自然なことなのかもしれない。「でも、初春さんと別れちゃうのは寂しいよね」「そうですね。入学してからずっと一緒に遊んでましたし」「大丈夫ですわ。あの子は転校したくらいで忘れる薄情者じゃありませんし、風紀委員の支部に来れば毎日でも会えますわよ」白井と初春の信頼関係は、自分と初春のそれとは違う。二人がスキンシップを取っているようなところは見たところがない。なんというか、相棒なのだ。そういう関係が羨ましくないこともなかった。「ねえ、立ち話もなんだし、さっさと食堂に行きましょ」「ですわね。お姉さま、今日は何にしますの?」「んー、麻婆豆腐の気分かな?」「御坂さん、この暑いのによくそんなもの召し上がりますわね……」「今日は東洋の気分なのよねー」「東洋?」「お姉さまの共同研究先、今回は東洋医学の方々らしいですわ」「え、御坂さんが医学、ですか?」発電系能力者というのはそんなこともするのか。佐天は軽い驚きを感じた。それに美琴が、シュッシュッとシャドーボクシングをしながら茶化して返事をした。「まあね。ちょっと殺気の感じ方を勉強しようかと」「え?」食堂に入る。中はそこそこ混んでいて、僅かに並んだ人の列の最後尾で四人は立ち止まる。美琴の不思議な発言に、白井が軽く顔を片手で覆っていた。「変わった依頼をお引き受けになったと思ったら、マンガが動機ですの?」「別に良いじゃない。それなりに成果をまとめる自信があるから引き受けたんだし」「西洋医学でも発電系能力者を必要としているところなんて山ほどあるでしょうに」「そういうところに協力したこともあるわよ。筋ジストロフィーのとか。今回はそういうので見てないところに切り込もうってだけ」オーダーの順番が回ってくる。佐天と光子は冷製パスタを、美琴は麻婆豆腐、黒子は炊き込みご飯のランチセットを手早く頼む。「御坂さん、東洋医学と電気、というのはどういう組み合わせになりますの?」「ん? ほら、人間の体にはツボってあるじゃない? 足の裏のある場所を押すと肩こりがほぐれる、とか。お灸や鍼もあるよね。経験則として東洋医学はこれを体系化してるけど、東洋医学でここにツボがあるっていう場所を切開しても、西洋医学では何も見つけられないんだよね。で、この前黒子に肩揉んで貰ってて、ふと思ったのよ。皮膚の表面電位とツボって関係してるっぽいって」「お姉さま……もしかして、黒子がお役に立って、いましたの?」「え? うんまあ、あの後手が急に胸に伸びてこなきゃ感謝しようと思ったんだけど」「じ、事故ですわ」「随分と意図的な事故だったように思うけど?」感極まって目をウルウルさせたかと思うと、一転して冷や汗をダラダラ垂らす白井だった。「ま、まあそれでさ。考えれば当たり前だなーって。脳は人間の体を制御する重要な部位だけど、国家だとかと同じで、中枢が何でもかんでも裁くわけにはいかないでしょ。細かいことは現場、人間で言えば皮膚が知的な処理ってのを行っててもおかしくないのよね」空いた席に適当に座って、四人はランチを始めた。常盤台の常識なのか、座ってきちんといただきますを言う三人に佐天も唱和する。細いパスタ、カッペリーニに黒みがかったソースと蛸を乗せて、口に運んでみた。「あ、美味しい」「でしょう?」「さっぱりしてていいですね」「辛っ……」「お姉さま、かなり辛いと書いてありましたの、読みませんでしたの?」「い、いや学食のメニューなんてもっと万人向けじゃない? 普通は」「数量限定メニューですわよ、これ」白井があきれた目で炊き込みご飯をパクつきながら、涙目の美琴を眺めた。空腹をとりあえず解消する程度まで箸を進めて、軽く落ち着いた辺りで白井が美琴に尋ねた。「そういえばお姉さま、お昼からはどうされますの?」「え? 昼から? んー」「婚后さん、私達は?」「昼からは佐天さんは猛特訓ですわ。へとへとになって意識が混濁するまで頑張ってもらいますわよ」「え、意識が、混濁ですか?」ニコニコとたおやかに微笑む光子の裏に、ゆらっとオーラが見えた。スパルタ指導者の雰囲気というか、そんな感じだった。「ええ。昼からは外部の研究者の方もいらっしゃって、航空機のエンジン開発の手伝いをしてもらう予定ですわ。あら佐天さん。そんな顔はおよしになって。新薬の被験者に応募するのの倍くらいはお小遣いが手に入りますわよ?」「自由になるお金が増えるのはありがたい事ですけれど、そんな直截的な言い方ではあまりに品がありませんわ。裕福な家庭の子女の多い常盤台ですけれど、それだけに成金上がりも多いですから、どうぞ言葉遣いには注意なさったら? 婚后さん」「素敵な箴言をくださってありがとう、白井さん。でも杞憂ですわ。婚后は旧くからの名家ですし、その子女として厳しく躾けられてきましたもの。私が強調したかったのは、学園都市や両親から与えられたお金ではなくて、自分の努力で手にしたお金が手に入る、ということですわ」「ああ、そうでしたの。それは失礼しましたわ。婚后さんがそのようなことを仰るとは思い至りませんでしたの」「分かってくだされば結構ですわ」ふふふふ、と本音を見せずに微笑みあう婚后と白井を見て、仲がいいんだか悪いんだかと佐天は心の中で呟いた。「それで、御坂さんは昼から何するんですか?」「あ、うん。私は佐天さんたちと違ってもう学校に用事はないから、ちょっと出かけようかなって。黒子は確か風紀委員の仕事よね?」「そうですけれど、それが何か?」「いや別に、ちょっと確認しただけ」ちょっと、黒子には聞かれたくないことだった。だがそれに何か感づいたのか、黒子がクワァッと目を開いて、手をわななかせた。「おおおお姉さま。まさか、まさかとは思いますが。その……殿方と?」「へっ?」「いけません、いけませんわそんなこと!」「ハァ? アンタ突然何言ってんのよ。私デートなんて一言も」「デートっ!? お姉さま、今デートと仰いましたの?!」「だから落ち着け! ったく!」「これが落ち着いていられますか!」両手を頬にぎゅっと押し付けてアッチョンブリケな表情をして黒子があとずさる。傍らには椅子が倒れていた。「お姉さまは最近、変ですもの」「へー、御坂さんのそういう話、ちょっと気になるなー。ね、婚后さん?」「ええ、まあ」そうでもない光子だった。彼氏持ちの余裕だった。とはいえここは佐天と白井にあわせたほうが面白そうなので、相槌を打っておく。「佐天さんと婚后さんまで……もう、別に遊びに行くわけじゃないわよ」「ふうん……白井さん、御坂さんって気になる人、いるんですか?」「そうなんですのよ佐天さん! 私というものがありながらお姉さまったら最近はことあるごとに、あのバカは、あのバカなら、あのバカと、なんて『あのバカ』さんの話をなさいますのよ」「グガホゲホゴホッ! わ、私は別にそんな何度もアイツのことなんか――」「やっぱりいるんですね! 気になる人!」「ちちち違うわよ! 大体す、す、好きな人にあのバカとか言うわけないでしょ!」「好きなんですか?」「だから違う! 逆、逆よ。大体頼みもしないのに助けてくれちゃったりさ、正義の味方気取りの調子に乗ったヤツなのよ!」ん? と光子は首をかしげる。なんとなく引っかかりを感じたのだ。となりで歯噛みする白井と目を爛々と輝かせた佐天が容赦なく追及していた。「御坂さんが不良に絡まれてるときに、助けに来てくれたってことですか?」「え、ああ、うん。まあ勿論手助けなんていらなかったし、余計なお世話だったんだけど。……ってああもう! この話はもういいでしょ?」「分かりました。それじゃあ次行きましょう。どんなところに惹かれたんですか?」「だーかーらーもう、佐天さん! からかわないでよね」「アハハ。ごめんなさい。でも、御坂さんも可愛いとこありますね」「か、可愛いって……。そ、それより! 佐天さんはどうなの?」攻撃は最大の防御と言わんばかりに、美琴が佐天に矛を向ける。光子は美琴の恋愛事情よりは興味があった。自分の弟子の話だからだ。「私も聞きたいわ。佐天さんは気になる殿方はいらっしゃるの?」「え? やだなぁ、そういうの、今はないですよ。今は初春一筋ですから」「えっ?」美琴が凍りつく。なにせ、『そういうの』の実例が自分の同居人にして今も隣に座っているのだ。そういう趣味には見えなかったのだが、言われてみれば佐天はかなり初春とのスキンシップが好きだ。それも、結構濃くて、初春が真っ赤になるような感じの。「初春ですの? それじゃ同性じゃありませんか」「え?」「? 何か?」不審な目で白井を見つめた美琴に、不審げな視線が返ってきた。自分の普段の行いをまるで振り返っちゃいない態度だった。「白井さんだって御坂さんのこと好きでしょ?」「ええ、心の底から体の先、髪の一本一本に至るまでお姉さまのことをお慕いしていますわ」「気持ちだけなら受け取ったげるから離れろ黒子!」イカかタコのようににゅるりと腕を滑らせて白井が美琴に絡みつく。見事な手裁きで美琴の脇の下に差し込まれた腕は、明らかに美琴の慎ましい胸にタッチしていた。「私も初春のこと、なんかほっとけないんですよね。クラスの男子は皆ゲームだのなんだのってはしゃいでて、あんまり興味もてないし」「自分の話となると、興味はないのかしら。それとももっと年上の方が好みとか?」「んー……。それもわかんないんですよね。学校の先輩とかじゃピンとこないし、高校生の知り合いはいないし。むしろ今ここで教えてほしいです。婚后さんは年上の人とお付き合いしてるんだし、いろいろ知ってるじゃないですか」「婚后さん、彼氏いるの?!」美琴はこないだ街中で会っているときに彼氏に電話をしているらしい光子に出会っていたから、ちょっと気になっていた。隣で白井が露骨にありえない、という顔をした。「えっ? ええ、まあ……」「あなたに……? まあ、物好きな殿方もいらしたものね」「少なくとも白井さんに懸想する殿方よりは普通だと思いますけれど」こんなお姉さまLOVE!という空気を撒き散らす女子生徒に寄り付く男のほうが、当麻よりも物好きだと思う。「そういえば私も聞いてなかったですけど、どんな方なんですか?」「どんなって、その、ちょっとエッチですし何かとおっちょこちょいなことをして不幸だなんて呟きますけど、格好よくて、いざというときにはすごく頼りになって、私には優しくって……」「へー……好き、なんだね」白井が露骨にイラッとした顔を見せ、佐天と美琴は困ったように顔を見合わせた。惚気話というのはこんなにもめんどくさいのか。独り者のやっかみかも知れないが、正直長く聞いていたい代物ではなかった。「そ、それはやっぱりお付き合いしているんですもの。好きに決まっていますわ」「一応聞いておきますけれど、ちゃんとお相手の方からも愛されていますの?」「と、当然ですわ! 失礼なこと仰らないで」「ごめんあそばせ。でもそんな顔をその方の前でされたら千年の恋も冷めますわ」当麻は光子の怒った顔も結構好きなのでそんなことはないのだが、光子はくっと堪えて自制する。そしてスカートのポケットから丁寧に鍵入れにしまった鍵を取り出す。「物で証明するのは浅ましいとお思いかもしれませんけれど。あの人は家の合鍵を、私にくれましたわ」「おおおおおおおーーー!」「う、わぁ。それ、確かに常盤台の寮の鍵じゃないよね」「ええ、それはこちらですもの」違う寮に住んではいるが、光子の寮の鍵は美琴のと同じ意匠だ。光子が手にしているのはいかにも下宿の鍵、という感じの鍵だ。それにちょっと劣等感を覚える美琴だった。光子はまあ、言葉の端々にお嬢様なというか、無自覚に不遜な振る舞いが出ることはあるが、根はいい子だしスタイルもいいし、間違いなく美人だ。受け答えだって、知り合った頃よりもずっと丸くなった。以前の彼女ならいざ知らず、今の光子なら、付き合いたいという男が山のようにいることだろう。「はぁー、婚后さん、大人だね。年上って言ってたけど、三年生? それとも高校生?」「高校一年の方ですわ」「近くに住んでるの?」「ええ、同じ第七学区の学校に通っておられますの。寮もこの学区内ですわ」「じゃあ出会いのきっかけってナンパとか……そういうのですか?」「違いますわ。その、不良に追われてらっしゃったのを私が助けたのがきっかけなんですけれど」「あ、それじゃ御坂さんと逆なんですね」「そうなりますわね」あれ、と美琴は首をかしげる。そういやこないだ、あのバカを追いかける不良どもを軽く焦がしてやったっけ。なんとなく引っかかるものを感じた。「それからどうやって仲良くなったんですか?」「佐天さん、もうよろしいんじゃありませんこと? 婚后さんが話したくってうずうずされてますわ」「べっ、別にそんなことは……!」「惚気たいって顔に書いてありますわよ。まあ、恋人が出来るというのはそういうことなのかもしれませんけど」「まあいいじゃないですか白井さん。ね、御坂さんも気になりません? 街中で知り合った男の人と仲良くなる方法」「え? そ、そんなの別に興味ないわよ!」こういうとき素直になれないのが美琴なのだ。佐天はそれが分かっているから、光子を誘導する。光子も佐天の意図に気がついた。白井に嫌味を言われたことだし、自慢にならない範囲で美琴のアドバイスになるよう、言葉を選ぶ。「助けて差し上げた関係で初めて会ったその日に、ファストフードのお店でアップルパイをご馳走していただきましたの。おかしなきっかけだったんですけれど、会えば話すような仲になって……。それで、三度目だったかしら、街でお見かけしたら、あと15分で卵のタイムセールがおわっちまう、一人二パックまでいけるんだ、なんて仰るから、つい面白くなってお手伝いしましたの。それから一緒に遊びに出かけたりして」「へー。彼氏さん、結構家庭的なんですね」「そうですわね。私より、料理の腕は確かですもの。ちょっと悔しくなってしまいますわ」「おー。じゃあ、気になる男の人がいる御坂さんに何かアドバイスは?」「ア、アドバイスですの? そんなこと言われましても、その方がどんなことか分からないことには……」面白くなさそうな白井の横で、『わ、わたしそんな話興味ないわよ!』という顔をしながら耳を澄ませている美琴を見る。露骨に動揺して、『うぇっ、だ、だから好きとかそんなんじゃないって』という感じだった。「御坂さんも隠すのは得意なほうではありませんわね」「か、隠すって何よ。私は別に、アイツのことなんか気にしてないし!」「じゃあ例えば他の女性がその方と仲良くしていても問題ありませんのね?」「そりゃ、そりゃそうよ。私とアイツはなんでもないし……」ズズズズガラガラガラガラと氷っぽくなった紅茶を吸い上げて、美琴がガジガジとストローを噛んだ。隣の佐天がわかりやすいなあ、と苦笑いを浮かべていた。「その人って高校生ですか?」「も、もうこの話はいいでしょ?!」「何言ってるんですかこれからですよ!」「高校生の方とお見受けします」「え?」「ブツブツと部屋で呟いているお姉さまの口の端から聞こえてきた情報ですわ」「ほっほーぅ、婚后さん、御坂さんも高校生が好きらしいですよ。何かアドバイスを!」「さ、佐天さん。もう……そうですわね、やっぱり、あまり妬き餅を焼かないことですわね。口げんかをするとすぐに年下扱いされて、同い年ではありませんことを思い知りますの。クラスメイトの女性の方と話す当麻さん……あの人を見たことがありますけれど、やっぱり私では子どもなのかしらって、悔しくなってしまって」「……」今光子はなんと言っただろう。ドキリ、として美琴は咄嗟に相槌を打てなかった。こっそりとネットワークにハックして手に入れたアイツの情報。名前が、似ている気がした。しかし聞き返すのもおかしいいし、確かめられなかった。「ですから天邪鬼な態度はお止めになったほうがよろしいわ、御坂さん」「え?」「気持ちを確かめるのって、すごく勇気が必要で、だから相手の方だって躊躇ってしまうものですわ。やっぱり男の方から告白されたいっていうのは、みんな思うことだと思いますけれど、きっと素直に相手に接することが、思いをかなえるためのハードルを下げるための大切な方法なんだって、思いましたの」「はぁー、もうっ! 婚后さん惚気すぎですよ」「さ、佐天さん。今のはアドバイスであって惚気とかそんなんじゃ……」「まったく。もうお姉さまを解放してくださいまし。昼休みが終わってしまいますわよ」「ごめん遊ばせ。御坂さんが可愛らしくて、つい」「可愛いって、もう、婚后さん」「ふふ。ごめんなさい。でも御坂さんはお綺麗だし、その方にアタックすればきっと」「しないって!」「それでお姉さま。お昼から、その方のところでないのなら、どちらへ?」「ああ、うん」急に醒めたように、美琴が浮ついた表情を消して、椅子に腰掛けなおした。「木山のところに、行ってみようかなって」