「光子」「当麻さん! 会いたかったです!」「俺もだよ」「おはよ、みつこ」「インデックスも来てくれましたのね」「とうまが遊びに行くのにおいてけぼりはやだもん」昼前の、常盤台中学女子寮。二つあるうちの、光子たちが今いるのは学び舎の園の外にあるほうだ。普段光子が暮らしているのはこことは別で、美琴や白井が住む場所となる。今日は盛夏祭、つまりこの女子寮の寮祭で、一般に対して寮が開放される日なのだった。光子は朝から、入り口で受付の仕事をしていた。当麻が来るというので急遽引き受けた仕事だ。ここなら絶対に当麻に会えるので、好都合だった。実際、一目見ただけで光子は心が躍るのを感じていた。「あの、こんにちは」「ええと、ごきげんよう」光子はインデックスと当麻に満面の笑顔で挨拶をして、そして二人の後ろからおずおずと出てきた女の子に、お互い戸惑いながらの挨拶をした。光子の知らない、金髪の少女。「昨日知り合ったばかりなんですけど、インデックスが遊ぼうって言ってくれたからついてきました。この子が二学期から通う学校の生徒で、エリスって言います」「インデックスがお世話になりますのね。こちらこそよろしくお願いしますわ。私の名は婚后光子と申しますの」「はい、お二人から色々伺ってますよ。上条君の、彼女さん……なんだよね?」「ええ、そうですわ」にこやかに会話をするエリスと光子の隣で、当麻はぶるりと震えた。いつもの五割り増しで愛想を振りまく光子の顔が、明らかに怒っている時の笑顔だった。「まったく当麻さんたら。初対面の私達をほったらかしにして他の女生徒に目移りなんて、よっぽど私じゃ退屈なのかしら」「えぇっ? いや、そんなことないって!」「……ふふ。上条君は婚后さんに頭上がらないんだね」「う、茶化すなよ、エリス」「あはは。ごめん」「……本当、当麻さんはどこでも女の人と仲良くなってくるんですから」面白くなさそうに光子が呟いた。「本人の前でいうのもアレだけど、エリスとはなんでもないって。第一、エリスには惚れてる相手がいるし」「もう! 上条君、ていとくんのことを言ってるって分かるけど、そういうのじゃないよ。私とていとくんは」ちょっとエリスは光子に申し訳なく感じていた。そりゃあ彼氏が知らない女と一緒に歩いていれば気に入らないだろう。エリスが同伴した理由は、第一には教会に取りに来てもらう予定だった書類を届けることになったついでだからというのと、本音としては垣根と二人で夕方の街を歩く前に、女の子の知り合いがいるところで、日中に出歩いておきたかったから。垣根には悪いが、一番初めが男の子と二人っきり、というのはやっぱり怖いのだった。その点、インデックスとは話しやすいし、同伴の上条は彼女持ちだからエリスをそういう目で見ない。そんなこんなで、急遽、光子には不本意であろう形で話が決まったのだった。「みつこ。その、エリスは私が連れてきただけだから。今回はとうまは悪くないんだよ」「もう。みっともないって分かりましたから、あまりフォローをしないで頂戴」エリスに嫉妬して当麻と光子の空気が悪くなったのを気にしたのだろう。今回に関してはその一因を担っているインデックスが、一言挟んだ。その状況を察してか、エリスがインデックスに声をかけて、当麻から少し距離をとるようにしてくれた。「当麻さんの莫迦」「む、俺は光子以外の女の子に愛想振りまいたりなんてしてないぞ」「じゃあどうして女性の知り合いが増えますの?」「どうしてって、たまたまだよ。……ところで光子、受付、しなくていいのか?」「えっ?」名前くらいしか知らない、受付担当の生徒達が興味津々と言う顔で光子たちのほうを見ていた。慌てて光子は当麻と距離をとった。「じゃあ、光子が仕事終わるまで、適当に見て回ってるよ」「はい、時間になったら、待ち合わせ場所にすぐ向かいますから」「おう」当麻の後ろにも入場希望者が集ってきている。インデックスとエリスはすでに先行して、敷地内をふらふらしているようだ。迷惑にならないようにと当麻が光子の傍を離れようとしたところで。「ごきげんよう婚后さん」「お勤めご苦労様ですわ」「ああ、湾内さんと泡浮さん」光子の友人である二人が、校舎のほうから歩いてきた。わざわざ受付に来たのには目的があるらしく、どう見てもそれは視線の先にいる、当麻だった。「あの! もしかして、こちらの方が?」「えっ? ええ……はい。そうですわ」茶色がかったふわふわした髪の女の子と、清楚な感じのストレートな黒髪の女の子。どちらも穏やかな顔をしていて、当麻の知っている二人の常盤台の女の子、光子と美琴のどちらよりもとっつきやすい感じの女の子達だと思う。その二人が、光子への挨拶もそこそこに、興味津々と言う顔で当麻に近寄ってきた。「あの! お名前でお呼びして不躾ですけれど、当麻さん、でいらっしゃいますか?」「あ、うん。そうだけど」「はじめまして。私、婚后さんの後輩で、湾内絹保と申します」「私は泡浮万彬と申します。婚后さんにはお世話になっています」「あー! 光子のよく話してくれる二人だな。俺は上条当麻だ。俺が言うことじゃないかもしれないけど、光子と仲良くしてくれてありがとな」「お名前を存じ上げていなくてすみません。上条さん、でいらっしゃいますのね」「本当に婚后さんにはお世話になっていますし、その、失礼ですけれど上条様のお話も、いつもとても楽しく聞かせていただいておりますわ」「いつもって、光子はどんな話してるんだ……?」「上条さんとどこへデートで行っただとか、どんなふうに髪を撫でてくださったかだとか、あとは、その……ね?」「ええ、これはご本人の前では言えませんわ」きゃっと頬に手を当てて、二人で恥ずかしがりながら微笑みあう。つい昨日、ファーストキスの日付をばらしてしまった光子は、二人の反応の意味を理解して真っ赤になった。「み、光子。別に話されて困ることはないけど、さすがにあんまり詳しくは……」「ご、ごめんなさい。でも私だってなるべく惚気話なんてしないように気をつけていますのよ」「まあそうでしたの? 婚后さん。私達も楽しみにしていましたけれど、婚后さんもそうとばっかり」「もう! からかうのはおよしになって! 当麻さん、受付の仕事もしなければいけませんから、そろそろ中にお入りになって。交代の時間になったら、待ち合わせ場所に伺いますから」「お、おう。そうだな」女子校で自分の彼女と、その彼女から色々聞いた女の子達に囲まれる。なんというか、ちょっと嬉しいところもあるのだが、動物園の動物になった気分だった。さっさと退散してインデックスに合流するかと当麻が思ったところで。「もしよかったら私達が案内しますわ。上条さん」「え?」「あら、湾内さん、積極的ですわね」泡浮が少し驚いた顔をした。湾内は女子校育ちで、学校の先生のような人を除いて、基本的に男の人が苦手だからだ。たぶん、分類で言えば当麻は苦手な部類に入るはずだ。「心配してくださらなくて大丈夫ですわ、泡浮さん。知らない殿方にはやっぱり怖い感じを受けますけれど、なんだか上条さんは大丈夫ですの。婚后さんに優しい方だと聞いておりますし、今お会いして、そのお話に間違いないように思いますから」ね、と微笑んでくれる湾内に当麻はドキッとした。年下の子の年下らしい可愛らしさというのはこういうものだと思う。光子よりはストレートに可愛らしい感じだ。もちろん、惚れてるのは光子にだが。「あらあら当麻さん。鼻の下がずいぶん伸びてらっしゃいますわ。治してさしあげたほうがよろしい?」おっとりと困ったわねえ、という表情で頬に手を当てて光子が首を僅かにかしげる。遠めに見るとホントにちょっと困ったという感じの態度のお嬢様にしか見えないのだが、ゆらりと立ち上る気炎はぶっちゃけ当麻にはよく見えるしちょっとドス黒い感じなのだ。「そそそそんなことないって!」「鏡なんて当麻さんはお持ちでないし、気づかれないんでしょうけれど。本当に伸びてますもの。もう、どうしたら当麻さんはこの病気を治してくださるのかしら」「だから別に鼻の下なんか伸ばしてないし、光子以外の女の子に気持ちが行ったことなんてないぞ」「……もう」周りを気にして当麻が小声でそう伝えると、まだまだ言い足りなさそうな顔をしながら、光子はしぶしぶと引き下がった。受付の仕事を再開しないと、受付に人が並んでしまいそうだ。「それで、話を戻しますけれど。もしよかったら私達でご案内しますわ」「あ、ああ。連れが他にいて、そっちもまとめてでお願いしたいんだけど」「承知いたしました。それでは参りましょうか……あっ、湾内さん」「えっ?」そこで。突然泡浮に呼ばれた湾内が、振り返った。事情は当麻にはよく分からなかった。ただ、湾内は当麻の横を抜けて先導しようとしたところであり、呼ばれた自分ではないのに当麻も振り向いてしまったことで、自分と湾内の位置関係があやふやになったのは確かだった。ふよん、と手の光に柔らかい感触が乗ったのを、当麻は感じた。「へ?」「あっ……えっ。あの」お互いになんだか分からない顔をして、至近距離で湾内と当麻は見つめあった。湾内にとって、人生で最も男の人に接近された経験だった。恋人との距離、と言える短さだ。一瞬の無理解が生んだ空白を経て、湾内はさあっと頬に血が上って行くのを自覚した。初めて、男の人に胸を触られた。「ごめんっ!」すぐに当麻が真剣な顔をして謝った。湾内もショックだったが、だけど嫌悪感のようなものはなかった。事故だとすぐに分かったし、謝ってくれる態度が誠実だったから。動転しながらも赦す笑みを返すとほっとしたように当麻が笑い返してくれた。やっぱり優しい方だなと湾内は思った。……そして、気づけば満面の笑顔の光子に睨まれていた。当麻だけじゃなくてどうやら自分にまで笑顔の矛先が向けられていた。「こ、婚后さん、お許しになってあげてくださいな。上条さんは悪気はありませんでしたから。私も、すこしはしゃぎ過ぎてしまって」「……当麻さんはこういう人ですから、湾内さんもお気をつけになって。それで、大丈夫でしたの? 湾内さん」光子の怒りがおおよそは当麻に行っているのにほっとしながら、湾内は自分の男性恐怖症を気遣ってくれた光子に微笑を返す。「はい。上条さんにでしたら、私」「えっ?」「わ、湾内さん?!」上条さんは婚后さんの彼氏さんですから心配していません、と伝えたはずだったのに、酷く光子と泡浮に驚かれた。それで自分の言った言葉を反芻して、やけに深遠なことを言っているように取れることに気がついた。。「ちち、違いますの! そういう意味ではなくって、婚后さんのお付き合いされてる男性だから、気にならないというだけですの! 別にその、婚后さんがいま思い浮かべてらっしゃるようなことじゃなくて!」真っ赤になった湾内が、弁解という名の泥沼にはまるのを、一緒に溺れながら当麻は優しく見つめた。この先どれほど当麻に問題がなかろうとも、湾内が余計なことを言うたびに、光子の沼が深くなるのは確定なのだった。当麻の後姿が建物の中に消えたのを確認して、光子はため息をついた。乙女の園、常盤台中学に当麻を呼んだのは浅はかだったかもしれない。学校に来る前から知らない女を連れてきた。そして建物にも入らないうちから、あんな風に湾内と仲良くなった。湾内もあんな思わせぶりなことを言わないでくれればいいのに、と思う。心の中にわだかまるモヤモヤしたものを顔に出さないようにしながら、笑顔と元気よい挨拶をして入場者を迎えていく。多くは来年常盤台に入るつもりらしい小学生の女の子達や、その保護者らしき人。そして同年代であろう女子中学生たち。……その中に、見知った顔があった。うち一人は寮など見ずとも、つい昨日常盤台の敷地にいたくらいだ。「ごきげんよう、佐天さん。それと、初春さん、でよかったかしら」「は、はい! ご、ごきげんよう、婚后さん」「その挨拶、初春が真似しても全然しっくりこないね。こんにちは、婚后さん」昨日もそうだったが、街中で会うよりも佐天の装いが良家の子女らしい感じになっている。襟付きの白いシャツの上から紺のカーディガンを羽織り、ベージュのパンツを履いている。パンツの裾が短くサンダルを履いているのは夏らしかった。初春のほうも、薄手だが長いスカートを履いていた。いつものことながら、髪飾りに生けた花が可愛らしい。「昨日は寮祭のこと、思い出させてくださって助かりましたわ」「どういたしまして、って……もしかして、婚后さん?!」佐天が寮祭のことを話に出してくれたおかげで当麻と会えた。そのことに礼を言うと、目を煌かせて佐天がこちらを見た。まあ、言いたいことは、分かる。「……ええ。お呼びしましたわ。だって、会いたかったですもの」「おおおおおおおおおお!!!」「え? どうしたんですか?」話を聞いていないらしい初春が、困惑しながら光子と佐天の顔を往復で見た。「婚后さんの彼氏さんが、今日ここにきてるんだってさー!」「ちょ、ちょっと佐天さん! 声が大きいですわ。先生方に見つかったらなんて言われるか……」「あ、すみません。でも気になるよね初春っ! ……初春? ちょっとどうしたの?」「婚后さんのお付き合いしてる人……はぅ。どんな人なんでしょう。やっぱり婚后さんに釣りあう人ですから、いいところの育ちで、すっごく紳士な感じなんでしょうか」「聞いてないや、こっちのこと」「もう……変な想像はしていただいても困るんですけれど」普段の言動から佐天にはなんとなく初春の脳内のイメージ図が予測できた。おそらく白馬にでも乗っているのだろう。あと歯はキラリと輝いているはずだ。初春の想像図の雰囲気は察せた光子は、なんともいえない気持ちになった。残念ながら当麻は光子の、というか常盤台の学生にふさわしい印象の生徒ではないだろう。客観的に見てそうだということは、分かっているのだ。だけど勿論、当麻のことが大好きだ。もし、初春が当麻を見てがっかりしたりするなら、それはすごく嫌だなと、光子は思う。落胆されるようなところなんて、当麻にはないのに。「それで、お二人の待ち合わせは……ああ、ちょうど来ましたわね」「あ、ほんとだ。おーい御坂さん、白井さん」自室から直接来たのだろうか、寮祭で公開されてない建物から二人は出てきた。白井が挨拶をすると同時に、あきれたような顔になった。「ごきげんよう、佐天さん。それと初春……の燃えかすですの? これ」「燃えかすって酷いですよ白井さん!」「初春さんなんか考え事してたみたいだけど、どうしたの? あ、おはよう」ジト目の白井の一歩後ろから美琴が挨拶をした。聞いてくれとばかりに、佐天が情報の売り込みにかかる。「聞いてくださいよ御坂さん! 婚后さんが彼氏さん呼んだらしいですよ」「へぇー! そ、そっか。やっぱそういう子もいるのよね。それじゃ仕事終わったら会うの?」「え、ええまあ。呼んだからには会いますけれど」努めて素っ気無い態度を光子は取るものの、彼氏持ちを羨む周囲の視線にちょっと優越感を感じる光子だった。ケッ、という擬音がふさわしいような態度で、白井がそれに冷や水をかける。「寮祭でカップルがイチャつくというのは随分と斬新ですわね」「別に二人っきりで会うわけではありませんもの。私達の共通の知り合いも含めて案内するのですわ」「そうですの。良かったですわ、婚后さんが破廉恥なことをなさる学生でなくって」「ええ、貴女とは違いますもの。良識くらい、わきまえていますわ。白井さん」カチンときた白井が光子をにらみ返す。人のことをアレコレいえるほど、白井は常識人ではないだろうと光子は思うのだが、白井は白井でおかしいのは光子だけだと思うらしい。「私が非常識なような物言いですわね」「違いますの? 御坂さん」「う、私に話振っちゃうか。……悪いけど黒子、フォローはしないから」「そ、そんなっ! お姉さまの露払いとして恥ずかしくないよう、精一杯振舞ってきたつもりですわ」「ああそう。アレが、そうだったのね」ジットリと睨みつけられた白井が怯んだ。いつものやり取りらしく佐天と初春は苦笑いで見ていたのだが、ハッと気づいたように佐天が美琴のほうを向いた。「そうだ! 御坂さんは気になる人、呼んだんですか?」「へっ? い、いやそんなわけないじゃない!」「えー、呼ばなかったんですか?」つまらない、と佐天は口を尖らせる。面白くなさそうに白井がそっぽを向いて嫌味を言った。「昨日もお会いしておりましたのに?」「ぅえぇっ?! 黒子なんでアンタ……!」「お姉さま、まさか」がばりと振り返る。ちょっとカマをかけただけだったらしい。釣れると思ってなかった大物が釣れてしまったようだ。過剰反応する美琴を見て、白井が絶望的な顔をした。「べべべべつに会ってなんかないわよ! それに別に誘うようなヤツじゃないんだから! あんなヤツここに来たらどうせ女の子みてヘラヘラするに決まってんのよ!」「……」ちょっと共感してしまった光子だった。まあ、殿方というのはそういう生き物なのだろう。自分とて、きちんとした服装と仕草を身に着けた好青年と、だらしない青年なら、どちらに愛想良くするか。おそらく平等には扱うまい。そういう論理で納得は出来ないが、そういうものなのだろう。「それじゃ、時間も勿体無いですからそろそろ行きませんか?」「そうですわね。初春が待ちきれないようですし」「だってせっかくの常盤台ですよ! 今日はは最初から最後までリミッター解除ですから!」ふんす、とこぶしを握り締めて初春が鼻息を荒くした。「彼氏さんをまた紹介してくださいね、婚后さん」「え、ええ。まああの人に佐天さんは紹介してくれって頼まれていますから」「へっ?」「よく私が佐天さんの話をしますのよ」「あー、あはは。なんかちょっと恥ずかしくなってきました」「それじゃあね、婚后さん」「ええ、御坂さん。独奏頑張ってくださいね」「うん、ありがと」彼氏を呼んだ光子を羨ましそうな目で一瞬見つめてから、美琴は白井を連れて二人を案内しだした。はしゃぐエリスとインデックスを後ろで見守りながら当麻が歩いていると、後ろから歩いてきた集団に見覚えのある女の子がいるのを見かけた。案内役らしい常盤台の女の子が一人、私服の子が二人。大きな生花の髪飾りをつけた子に見覚えがあった。向こうも気づいたらしい。「あっ。こんにちは」「おう、こんにちは。たしか風紀委員の」「初春です」「ああそうだ、下の名前は覚えてたんだけど」飾利という名前は髪に付けたアクセサリとよく対応しているからだ。だがそれをどうも気障ったらしい意味合いに受け取ったのか、隣の常盤台の女の子が不審げな顔をした。「初春。こちらは?」「えっと……上条さん、でよかったですか?」「ああ」「こちら、固法先輩の中学時代のお知り合いの方で、上条さんです。春先くらいに町をパトロールしてるときに、ちょっとお世話になったんです」「固法先輩の?」「なんか親しそうだったんで固法先輩の好きな人だったりしないかなーって思ってたら、上条さんから固法先輩の本命の相手を教えてもらっちゃったんですよね」「……初春。その話は後でじっくりしましょうか」「いいですよ、白井さん」ニヤ、と二人で笑ったところを見ると、どうやら常盤台の女の子、白井のほうも風紀委員らしい。固法も大変だなあと当麻は心の中で思った。一昔前はワルの側にいてうるさいことは言わなかったのに、進学校に行って風紀委員になってからは固法はどちらかというと会いたくない相手だった。「そういやさっき固法のやつをチラッと見かけたな」「あ、そうなんですか。ところで上条さん、今日は誰に誘われたんですか?」うっ、と当麻は初春の興味津々な態度に怯んだ。あまり物怖じしない子だなとは以前会ったときにも思ったことだが、誰に誘われたのかを話すのはちょっと恥ずかしい。入場チケットは当然、常盤台の生徒から貰っているはずで、それが誰かといえば、彼女からなのだ。「あーうん、まあ。常盤台の知り合いからさ」「知り合いじゃなくて彼女でしょ、とうま」「イ、インデックス」離れていたはずのインデックスが引き返してきて、女の子と仲よさげにしている当麻を睨みつけていた。光子以外の女の子に光子を彼女ではないかのように説明するのは、インデックス的にはアウトなのだった。それは、浮気である。「上条さんって常盤台の彼女さんがいらっしゃるんですか?!」「あ、ああ」「あの! もしかしてそれって、婚后さんて人だったりしませんか?」「へ? なんで……」黒髪の可愛らしい女の子が、光子の名前をスバリと当ててきた。思わず怯む。「私、佐天涙子って言います」「お! それじゃ光子の教えてる子って」それで当麻にも合点が行った。えへへ、という感じで佐天が頭をかく。「はい、私です。白井さん! この人が婚后さんの彼氏さんみたいですよ」「どうして分かりましたの?」「いまそっちのシスターの子が、下の名前呼んでたじゃないですか。それで」佐天と白井がインデックスのほうを見つめると、むーーっ!!と敵対的な目でにらみ返された。連れと思わしき金髪の女の子が一歩離れて苦笑していた。「とうま。この人たちとどういう知り合い!?」「どういうって、初春さんは友達の後輩って感じで、佐天さんは光子がアドバイスしてあげてる子だ。言っとくけど疚しいことは何もないぞ」「……まるで彼女に弁解するような口ぶりですわね」光子の彼氏であるはずの当麻がインデックスの尻に敷かれているのを見て、白井は困惑していた。「コイツはインデックスって言って、今度光子が一緒に暮らす相手だ」「暮らす? 常盤台の学生は全て寮暮らしですけれど」「あれ、知らないか。光子は今度寮を出て、インデックスと一緒に別のマンションで暮らすんだよ」「そうなんですか? 昨日婚后さんと会いましたけど、そんなこと言ってませんでした」微妙に佐天が悔しそうな顔をした。佐天は光子の弟子、インデックスは光子の妹。ちょっとポジションがかぶってお互いに面白くないのであった。「にしても。婚后さんとお付き合いする殿方にしては、いささか普通の印象の方ですわね」「ちょ、ちょっと白井さん」白井がストレートな感想を当麻の前で臆面もなく吐き出したのを見て、初春が焦った。自慢が多く高飛車な婚后光子の事だから、彼氏もさぞかしお高く留まったお坊ちゃんだろうと思っていたのだ。それが意外と、率直に言ってみずぼらしいどこにでもいそうな高校生なので、拍子抜けしたのだ。「まあ、言いたいことは分かるけどな。光子がお嬢様なのは確かだしさ。でも光子は裏表のあるタイプじゃないしさ、うまいこと付き合ってやってくれるとありがたい」「……ええ、そうやって頼まれた以上は、ある程度は応えますけれど」軽く頭を下げた当麻に、白井は困りながら応えた。あまり好きではない相手の彼氏だが、普通の感覚を持った人間のようだし、頭を下げられたのを無碍に扱うのは常盤台の学生としての沽券に関わる。「これからどちらへ行かれますの? よろしければご案内しますわよ」「ああ、ありがとう。でももうじき光子と合流できるからさ、大丈夫だ」「そうですの」エリスが頭を下げ、インデックスが不満げに佐天から視線を外す。光子に嫌な思いをさせそうで湾内と泡浮の案内も断ったので、白井の申し出も同じ理由で遠慮した。待ち合わせ場所は食堂だ。少し早いが、混む前に食べたほうがいいだろう。当麻は軽く手を上げて、佐天たちから離れた。後姿を見つめる佐天が、耳打ちするように白井に呟いた。「後で御坂さんにも教えてあげなきゃいけませんね。婚后さんの彼氏って、結構いい人みたいでしたよって」「別に私はどちらでもよろしいですわ。どうせそんな話をしたら、上条さんなどそっちのけで、ご自分の気になる『あのバカ』さんのことでお姉さまの頭の中は一杯になるのですわ」ふんっと詰まらなさそうに白井がため息をついた。美琴は午前に割り当てられた雑用をこなしているところだった。「ごちそうさま、っと」「よく食べましたわね、当麻さん」「バイキングだとやっぱな。……まあ、あっちには到底かなわないけど」「当麻さんより食べるって、どういうことなのかしら」光子と合流して、当麻たちは昼食を摂り終えたところだった。エリスとインデックスは当麻と光子から離れ、料理に近い場所に席取っている。エリスがこちらに遠慮をしたのもあったし、インデックスが料理に心奪われたのもあった。ようやく二人っきりになれて、光子は食事をしながらチクチクと当麻に恨みつらみを吐き出していたのだが、お腹が一杯になって怒りも収まったのか、ようやく態度が柔和になってきたところだった。……のだが。「あれ、舞夏か」インデックスの席に近づくメイドが一人。当麻のクラスメイト、土御門元春の妹の舞夏だった。光子はいつもなら瞬間的にさっと嫉妬の炎を燃え上がらせるものだが、余りにも今日は回数が多いので少々反応は鈍かった。はあっとこれ見よがしにため息をつく。嫉妬の火種が深いところまで浸透しているので、完全な沈火はいつもより大変そうだった。「当麻さん。次は誰ですの?」「い、いや。クラスメイトの妹だよ。兄貴が寮の隣部屋に住んでてよく飯を作りに来てくれてるらしい」「そうですの。それはそれは、当麻さんとも仲がよろしいんでしょうね」「そんなことないって。第一、舞夏に手を出したら土御門のヤツに殺される」「そのわりには下の名前でお呼びになって」「それは兄貴と区別するからで」「じゃあお兄さんのほうはどうして苗字なんですの?」「男同士で下の名前で呼ぶのはないだろ」当麻が必死に光子をなだめているのを横目に、インデックスは舞夏に問いかけた。「それで、あなたは何をしにきたの? バイキングだし、沢山食べて怒られるのは納得行かないんだよ」「怒ってはいないぞ。料理の責任者だから、食べてもらえて勿論嬉しいからな」「じゃあ何?」「まだ食べるのか聞こうと思ったんだ。それなら用意しなきゃいけないからな」「んー、もう八分目だし、あとはデザートかな。エリスももういい?」「私はもうとっくにおなか一杯になってるんだけど……」初めてみたインデックスのすさまじい旺盛さに引きながらエリスは半笑いになった。清貧を旨とする修道女として、この食べっぷりはどうなんだろう。というか同じ学校で同じ釜から食事を食べる身になったらどれだけ大変なのだろう。「にしてもちっこいのによく食べるんだな」「む、そっちだって小さいくせに」「名前はなんていうんだ?」「インデックス。……名前を聞くんだったらそっちから言うのが筋だと思うけど」「これは失礼した。私は土御門舞夏である」「つち……みかど?」「どうかしたのかー?」「もしかして、まいか。にゃーにゃー言う変な日本語のお兄さんがいたりしない?」「兄貴はいるけど、もしかして知ってるのか?」「なんでもない」まさかそんなわけはない。土御門元春は陰陽師の大家で、事情があって『必要悪の教会』に入った男だ。妹が超能力者の街にいるなど、冗談が過ぎる。……あやうくおかしな日本語を教え込まされかけて、身に付く前に神裂に訂正してもらった身としては、土御門元春には恨みのあるインデックスなのだった。なんにせよ、知り合いのほうの土御門と目の前の舞夏は似ていないし、人の良さも違う。「デザートってあれだけしかないけど、出てくるの?」「うん。昼食にはまだ随分早い時間だったからな、デザートの配膳は今からだ」「よう舞夏」インデックスが詳しくデザートの話を聞きだそうとしたところで、当麻が横から割って入った。舞夏が気安い感じで、おやっという顔をした。「あれ、上条当麻じゃないか」「エリスとインデックスに何か用か?」「大した用事はないぞ。というか知り合いなのか?」「ん、まあな。そういや土御門のやつは来てるのか?」「チケットは渡したし、昼ごはんを食べに来るかもなー」「とうま。まいかとどういう関係?」またか。またなのか。いい加減にして欲しいとため息をつきながらインデックスは当麻を睨む。光子のほうを見ると、向こうもこちらを見て頷いた。女二人の意図はよく一致している。エリスもなんとなく当麻という人間が分かってきたのか、苦笑いの中に咎めるような雰囲気が混じった。「上条君。彼女さんを大事にしてあげたほうがいいよ」「え? なんだよ急に」「女の人の知り合いが多いって、それだけでも不安になると思うけどな」「……って言われても、なあ」ちらと当麻が光子のほうを見ると、あからさまに視線を逸らされた。光子はこれからまた一度仕事に戻る。そのあとはインデックスとも離れて本当に二人っきりになる予定なのだが、この調子ではそのときに機嫌を回復させられるかどうか。「女難か? 上条当麻」「ほっといてくれ」世の男性の恨みを一身に集めそうな贅沢な悩みを抱えて、当麻は不幸だとため息をついた。「ちょっとトイレ行ってくる」「うん、ごゆっくり。光子によろしくね」「……おう」昼食後に軽くぶらついた後、トイレを装って自然に席を外す予定だった当麻にインデックスがにっこりと笑みを返した。となりのエリスがクスリと笑う。インデックスにも内緒で光子に会う気だったのが、バレバレだったらしい。場所は中庭。先ほどまではオークションが行われていたらしいのだが、次は何かイベントに向けて準備中だった。。特に興味はなかったが、なにやら人が多いのと、あらかた見回ってしまった都合もあって、光子を除いた三人は並べられたパイプ椅子を確保していた。校舎に入って、周囲を見回す。待ち合わせ場所は確かこの先を曲がったところのはず。……だったのだが、光子はいない。そして初めてきた場所だということもあって、なんとなく自分が場所を間違えたのではないかという気もしてくる。どうするか。待つか、探しに歩くか。昼ごろから機嫌の悪かった光子だ。ここでさらに待たせると、謝っても簡単には許してくれないかもしれない。結局、間違ったところで待っているのが一番機嫌を損ねるだろうという判断から当麻はとりあえず足を動かすことにした。1階で待ち合わせておいて階段を上り下りするほどの方向音痴ではないが、学校というのはどこの廊下も似たような作りで、しかも曲がりくねっているからなかなか把握しづらいのだ。ぐるっと歩いても光子どころか人影も見当たらないし、待ち合わせの場所だったような気がする場所が二箇所になって、どうしたらいいものか当麻は途方にくれてしまった。……ようやく、人の影を捉える。当麻はほっとしてその子に声をかけた。「やだもう、へんな汗でてるし。なんでこんな……胸がドキドキしてんのよ」昼食後、初春と佐天の案内から離れて、美琴は着替えを済ませていた。そして自室で弦を拭き、弓に松脂を塗り、軽くヴァイオリンの音出しをする。プログラムには明記されていない、本日の最終イベント。御坂美琴によるヴァイオリン独奏がこれからあるのだった。別に、美琴の腕が学園一というわけではない。下手なほうではないと思うが、上には上がいるものだ。なんとなく、音楽の実力以外の要素のせいで、客寄せパンダに任命されたような居心地の悪さがある。それなのに白井はおろか、初春や佐天も期待してます、なんて目を輝かせて言うものだから、なんだかいつもの自分らしい調子というのが狂って、落ち着かないのだった。手にしたヴァイオリンもなんだか心もとない。一通りチューニングは済ませたが、昼下がりの日光に晒されるあんな環境で弾けば、すぐにまた音程は狂ってしまうことだろう。もしかしたら真夏の炎天下を嫌って常盤台きってのヴァイオリニストたちは辞退したのかもしれない。そんな考えが、ぐるぐる美琴の頭の中で渦巻いていた。近くのパイプ椅子に楽器を置いて、ため息をつく。この校舎の扉を開ければ、すぐステージ裏だ。もう五分もしたら、そこで待機しないといけないだろう。――これって緊張? いやいやいや、私に限って、そんなまさか。軽く息を整えてみる。だけどそれも上手く定まらなくて、気持ち悪い。「ああもう、しっかりしろ!」自分の頬をぴしゃんとやって叱咤するのに、一向に気分がいつもどおりにならない。そんな風に戸惑う美琴の傍に、不意に人が近づいてきた。それをふと見上げて、美琴はカチンコチンに硬直した。「あのう。お取り込み中すいません。実は……って、あれ、ビリビリ?」「へっ?! あ、が、う……?」信じられない。この、タイミングで、なんで、コイツが。そんな美琴の態度にまるで頓着しないで、このバカは淡々とした態度のままだった。「ちょっと知り合い探してんだけどさ、悪いけど教えて――」「――んでここにいんのよ」「へ?」「なんでこんなトコにいんのかって聞いてんのよ!」があーと美琴が吼えた。ちなみに顔は真っ赤だった。「な、なんでって。招待状もちゃんと持ってるし」「人の発表を茶化しにきたわけ? 慣れない衣装を笑いに来たわけ?!」「い、いやちげーよ、ってか普通にきれ」「ばかー!!!!!!!!!!」「うぉわ、落ち着け、落ち着け御坂」「何よ何よ何よ! 見てわかんないわけ? コッチはいま取り込み中!」「いやこっちも困って、ってだから落ち着け! その綺麗な格好見たらお前の事情は大体分かるから!」「えっ?」きれ、い?絶賛爆発中だった怒りを全て萎れさせてしまうくらいの破壊力が、その一言にはあった。振り上げていたパイプ椅子を、美琴はそっと下ろす。「落ち着いたか? 落ち着いたな? お前あれだろ。今から何かやるんじゃないのか?」「……うん」「そのヴァイオリンか?」「……そう。私より上手い人がいるってのに、何で私が」「まあ、お前レベル5だろ? この学校の顔じゃないか」「それとヴァイオリンは関係ない! こんな歩きにくい格好までさせられちゃってさ」スカートの端を摘む。サマードレスだから暑くはないのだが、汗が気になる服だった。髪飾りも、いつもよりもずっと大仰で、視界にチラチラ入って鬱陶しいことこの上ない。「そうは言うけど、よく似合ってるぞ」「馬子にも衣装って分かってるからそれ以上言わないで」「そんなこと言ってないだろ。ってか、褒められるのがイヤか?」「え?」「普段のお前と違って、やっぱり女の子らしい格好すると映えるもんだな。……まあなんだ。別に自分で駄目だと思う必要なんてねーよ。自信持っていけ」「ア、アンタに言われたって嬉しくないんだから」「ところで下に短パン履いてるのか?」「このドレスでんなわけあるかあっ!」顔が火照って、胸がさっきとは違うドキドキで満たされて、全然コントロールが聞かない。指摘されてスカートの下がいつもよりスースーするのが気になってきて、落ち着かない。そんな美琴を見て当麻は、さすがに履いてないか、と心の中で呟いた。とはいえ見えるわけでもなし、さして興味はなかった。なにせ、自分が一番可愛いと思う女の子は美琴じゃなくて光子なのだし。もうちょっと後になったら、相対してるだけの美琴とは違って、光子の体に触れ、唇を啄ばむ気なのだし。「ところで話戻していいか? 実は知り合いとの待ち合わせ場所がどこだったか迷っててさ」「あ」誘ってなかったのに、当麻が来てくれた事に色々と感じ入っていた美琴が、そこでようやく、とても大切なことに気がついた。ここに当麻がいるということは、この学園の誰かが当麻に招待状を送ったということだ。白井に当麻のことは知られていない。だからどういう思惑にせよ、白井が当麻に送った筈はない。だから、当麻に会いたいと思った女の子が、きっとこの学園に、いる。そしてコイツは、その子に、会いに来たんだ。「……アンタ、誰に誘われてここに来たの?」「へ? 急になんだよ」「なんでもない。ごめん、変なこと聞いた」それ以上、問い詰められない。だって何でそんなことを尋ねるのかと問われても、何も言い返せないから。質問を無視された形の当麻と、質問を投げつけておいて横に捨てた形の美琴の間に、沈黙が流れる。それを破ったのは男の声だった。「おーいカミやーん。本番前の女の子をナンパするなんて、ほんと困ったヤツだにゃー」「げ、土御門」「また会ったなー。上条当麻。御坂も元気してるかー?」「……何、アンタ土御門と知り合いなの?」咎めるような美琴の声に、当麻は戸惑った。当麻が呼びかけた兄、土御門元春と親しくしていて怒られる理由が分からない。……そうか、御坂は兄貴を知らないのか。「御坂。コイツ、土御門舞夏の兄貴だ。俺のクラスメイト」「あ、どうも」「どうも妹がお世話になってますにゃー」「なあ舞夏、ちょっと聞きたいんだけど」なあんだ、と美琴はほっと息をついた。舞夏が自分の兄とクラスメイトに招待状を送ったのなら、別にいい。見てても当麻と舞夏の間におかしな空気はない。……って、何を安心してるのよ私は! どういうことよ。「あれ、やっぱあそこで合ってるのか」「待ち合わせなら早く行ってやれよー」「おう、そうするわ。御坂。それじゃ悪いけど俺行くから」「あ……うん」「演奏、頑張れよ」「言われなくてもいつもどおりやるわよ、バカ」「ん。もう大丈夫そうだな」最後に微笑んで踵を返したその当麻の表情に、美琴は胸が高鳴るのを感じた。バカみたいに突っかかって喧嘩をしていた以前には、一度も見せてくれなかった、こちらを気遣う優しい顔。いつの間にか、心の中のパニックが嘘のように引いていた。熱を散々放出してクリアになってきた頭の中と、そして胸の中にだけ、ぽっと灯った静かな高揚。一番、自分がノッているときの状態だった。