~アインツベルンに訪れる風~
ここは日本の冬木市と呼ばれる街の郊外にある余人を寄せ付けぬ魔の巣食う森にあるアインツベルンの城。
その内装は正に絢爛豪華、これぞ高貴なるもの――貴族の住まうに相応しい城といったものだった。
だが、その玄関から繋がるホールはその美しかった頃の名残すら感じさせぬものになっていた。
そこには黒き巨人「バーサーカー」と赤い弓兵「アーチャー」の二人の激しい戦いの跡が残るのみであり、極端な言葉を使えば既に「廃墟」となっていた。
そんな廃墟の中で優雅さと美しさを失わずに立っているこの城の主たる少女――イリヤスフィール・フォン・アインツベルンはひどく不機嫌そうな表情を浮かべて自身の使い魔であるバーサーカーを睨みつけた。
「――ああもう、頭にくる!こんな奴に6回もやられるなんて……!手を抜いたんじゃないでしょうね、バーサーカー!」
「…………」
イリヤの不満そうな声にバーサーカーは反応せず沈黙を守っていた。
だが、それはバーサーカーがバーサーカーであり理性を剥奪された故に言葉を発せぬのではなく、彼の中にわずかに残る戦士としての本能が眼前の敵を無視して会話に応じるを良しとはしなかったからである。
イリヤも当然それに気付いており、主の言葉を蔑ろにする従者を嗜めることなくバーサーカーの視線の先に自分も目をやる。
そこには赤い男――アーチャーの姿が在った。
その赤い色の正体は、それが元より身に纏っていた外套の赤なのか、それの内から吹き出した血の赤なのか分からぬほどであった。
「……ふむ。これほど痛めつけられていながらまだ現界出来ているあたり、確かに『手加減』してもらえたのかもしれんな?」
明らかに満身創痍、人の形をギリギリのところで保っているというのにアーチャーの顔には笑みが浮かんでいた。
その笑みは脳が限界を越えた痛みを快感に変えたことによる狂人の笑みではなく、自分の力が通じなかった悔しさからくる捨て鉢の笑みでもなく、死の間際にて己の無力さを痛感した自嘲じみた笑みですらなく、自身の恐怖をごまかそうとする強がりの笑みでさえなかった。
その男が浮かべる笑みが表すのは「勝者の余裕」だった。
しかしながらその笑みを浮かべるべきは、今現在の状況を鑑みるにバーサーカーであり彼のマスターであるイリヤの筈だ。
まだまだ余力を残すバーサーカーが敗者で、死にかけのアーチャーが勝者であろうはずがない。
そう、確かに現状を「聖杯を賭けて殺し合う聖杯戦争」と捉えるならば、どう見ても満身創痍のアーチャーが敗者で、何度か殺されたとはいえ未だそびえ立つバーサーカーが勝者である。
だが、この状況を別の角度から見ればアーチャーは勝者足りえるのである。
アーチャーのマスターである凛は彼にバーサーカーの足止めを命じた。
そして今現在バーサーカーはアーチャーによって完全に足止めを喰らい、凛たちがイリヤらから逃げきってバーサーカーに対抗する作戦を練るには十分な「時間稼ぎ」が為されていた。
だからこそアーチャーはこうして勝者の余裕を浮かべて笑っているのだろう。
イリヤにはその笑みが自分を嘲ているように見えて非常に不愉快に思えた。
彼女が不愉快に感じる事柄はまだある。
アーチャーの立ち姿だ。
彼は先にも述べたとおり、両の腕は拳を握ることも曲げることすらできず身に纏っていた外套は千々に破れおびただしい量の血が総身を濡らしていた。
にも拘わらず、アーチャーは立っていた。
だが、その立ち姿は最早使い物にならないその脚を強化の魔術によって無理矢理機能させているのではなく、多くの英雄がそうであったように死を前にしても尚堂々とした力強さを感じさせる立ち姿でもない。
――――ただ立っているのだ。
ほとんどの人間がそうしているように、気を張ることもなくただただ立っているだけなのだ。
その風体は正に死に体、しかし浮かべる笑みは勝利者のソレ、されどその立ち姿は勝者でも敗者でもない極めて、そして余りにも不自然な「普通」の立ち方。
そこに加えて数多の英霊の中でも対抗できるような存在が皆無と言っていい第五次聖杯戦争中最強のサーヴァント・バーサーカー――その真名ヘラクレス――を素性の知れない一介の英霊・アーチャーは6回も殺したのだ。
そんなことは許せない、許さないとイリヤは不愉快さと憤りでその身を再び揺らした。
だが、そんな自身の内面を全く表には出さずにイリヤは優雅な身のこなしを見せ、凛とした声で一言バーサーカーに告げた。
「バーサーカー、とどめを刺しなさい」
アーチャーはイリヤの言葉を聞いてその顔から笑みを消し、いよいよ覚悟を決め――――ることなどしなかった。
なぜ彼はそうしなかったのか、そこには彼が英霊になる前後の経験が影響している。
彼は生前、己が願いと理想――誰も悲しませたくない、そして死に瀕した命全てを救う――の達成を目指し続けたが、やがてどうしても助けられない命、救えない魂があると悟ってしまった。
アーチャーはその中で十いる人間の内の九を助けるために一を犠牲にする「小数を切り捨てて多数を救う」といった、理想を守るために願いに反する行いを続けた故にその矛盾から彼自身大きく歪んでしまった。
それは彼の皮膚を黒く染め、その髪から色を失ってしまうほどの歪みだった。
そして、アーチャーが英霊となった理由、それは「英霊ならば全てを救える」と信じて世界と契約したからだった。
だが、英霊となった彼の役割は守りたかったはずの人々の殺戮を強要されるものであった。
その中で人間の醜さと愚かさを見続けた彼は、自身の願いと理想の矛盾・人を救い続けることの無意味さなどから自分に対して激しく絶望し、そして壊れた。
そんな彼は戦いの中で誇りというものを捨てた。
少しでも多くの命を確実に救うため常に必勝の策を以てことに当たっていたアーチャーにとって、誇りなどに縛られ冷徹な思考を失い商機を逃すことなど馬鹿げているとしか言いようがないのだ。
故にアーチャーは彼にとっての「勝利」をより確実なものにするため今の自分の状態を確認する。
もっともその勝利とは「すこしでも長い時間バーサーカーをこの場に留めておく」ということであり、凛たちのための時間稼ぎでしかないのだが。
(――魔力残量はほぼゼロ、投影など以ての外、強化は対象によるが恐らくできて二、三度。右腕・左腕ともに使用不能、両足はこうして立っていられるのがおかしい程の損傷か……)
アーチャーは自身の状態を確認して内心苦笑した。
どう考えてもこれ以上は動けそうにないからだ。
なのに何故自分は立っていられるのかなどと些細な疑問が浮かんだが、そんなことに気を取られているような余裕は有りはしない。
「■■■■■――――!!」
現に声とはもはや形容できそうもない爆音を口から漏らしてバーサーカーが斧剣を大きく振り上げアーチャー目掛け突進した。
それを受けてアーチャーはニヤリ、と不敵な笑みを浮かべた。
――――苦しい時こそニヤリと笑え
誰の言葉だったのか、彼の摩耗した記憶の中から思い出すこともできないが、アーチャーはその言葉の本質を知っていた。
戦いとは駆け引きである。
足運びの揺らぎ、体捌きの非常に微細なところで相手の流れを見切り、次の動きを先読みする。
また、そこから相手がどのような技の使い手か看破することも重要である。
故に高度な技の使い手かつ高度な体術を身につけた者同士の攻防はまるで詰将棋のようになる……というのは全くの余談になるので割愛させていただく。
このように「体」「技」の駆け引きが勝敗を決する鍵になるのだが、時にその二つ以上に重要になってくるのが相手の表情や目、呼吸から相手の心境を探る「心」の駆け引きである。
その大体三つある要素の中では表情が一番相手に影響を与える。
目の前の相手が戦いの最中に唐突に笑みを浮かべた時、人はどう感じるだろうか?
「気持ち悪い」という意見もあるだろうが大体は「何か裏がある」と考えるだろう。
アーチャーはそれを実践したのだ。
今の彼は発砲手詰まりと言っていい程に追い詰められている。
だが、その笑みはバーサーカーの動きを止めるには十分だったようだ。
彼は先ほどまでのバーサーカーとの戦いで宝具を次々と投影し、それを使いこなすだけでなく爆破、他にも宝具の骨子を捻じ曲げ別のモノとして使用するに留まらず、魔法に最も近い魔術と言われる禁忌中の禁忌「固有結界」すら展開して見せた。
バーサーカー、そしてイリヤはアーチャーの不敵な笑みを見て過敏なまでに警戒を強め攻撃の手を止めた。
まだ何かあるのかもしれない、と。
(フッ、実に単純な手段だというのに相変わらず効果的だな。いや、単純だからこそか)
そう思いながらアーチャーはバーサーカーの全身を見やる。
アーチャーがバーサーカーに勝てない理由も実に単純、純粋な力の差である。
バーサーカーの逞しい巨体、凶悪なまでに発達した筋肉、そこから繰り出される攻撃は「殴る」「切る」「薙ぐ」といった実に単純なものばかりだ。
だが、単純だからこそ、その攻撃は何の技術も小細工も必要とせず、純粋な力だけが必要になる。
そして、バーサーカーの筋力はその単純な攻撃を正に必殺の一撃へと昇華させるには十分過ぎた。
その単純な力の差を埋められないアーチャーがそれに対抗するためには策を巡らし、持てる技術を使い、小細工を弄する必要があった。
いま彼が笑ったのも所詮はハッタリで小細工だが、それでも稼げた時間を無駄にするまいとアーチャーは高速で思考を展開させる。
(――両腕は既に使用不能、無理矢理強化して動かせないこともないがあの斧剣を止めることは不可能。よって防御の選択肢は思考より排除、回避に専念する。回避手段は脚を利用した跳躍のみ。だが、脚を無理矢理強化しても動ける距離はせいぜい2メートル足らず、ならば避けるタイミングは斧剣が俺を掠めるかどうかくらい、か。現状で一番確実な手段がこんなものとは我ながら不甲斐ないな。せめて一太刀……などとはいかんものだな)
考えるまでもなく既に出ていた答えを噛み締め、アーチャーはバーサーカーを見据える。
十数秒だけ訪れた静寂を打ち破ったのはイリヤの声だった。
「……まんまと騙されたわ。何にもないじゃない」
アーチャーはその言葉に曖昧な態度で応える。
「――さぁ、どうかな?まだ逆転の一手があるやも知れぬし、罠があるやも知れぬぞ?」
イリヤはフフンと鼻で笑い、アーチャーの言葉を否定する。
「ハッタリね。本当にそんな隠し玉があるなら、今の状況で自分の手の内をバラすようなことは言わないわ」
そう断言されながらもアーチャーは相も変わらず彼らしい不敵な笑みを浮かべながら言葉を告げる。
「ならば、試してみるか……?」
小悪魔的な少女らしい、それでいて妖艶な笑みを浮かべてイリヤはバーサーカーに指示を送る。
「試すまでもないわ。そのままやっちゃえ!バーサーカー!!」
「■■■■■■――――!!!」
再び黒い巨人が吠え、動き出す。
その咆哮はアインツベルンの城はおろか大地、空気までも震わせる。
そして仮にアーチャーにどのような攻撃手段があろうとそれごと纏めて薙ぎ払わんとする勢いでバーサーカーが斧剣を高く掲げ構える。
アーチャーはそれに対し、自身の保有するスキル「心眼(真)」を用いてバーサーカーの斧剣を躱す最良のタイミングを見極めんとする。
二人の距離はわずか10メートル足らず、人外の力を持つサーヴァントである彼らにとってこの程度の距離は一瞬で届く。
そしてバーサーカーが、その身を前に押し出した正にその時である。
アインツベルンの城の薄暗いホールを照らし出す強烈な閃光と耳を劈く爆音が轟いた。
その輝きに惑わされることなくバーサーカーは低い唸り声のような音を出し、閃光と爆音の正体を確かめんとその咆哮へと視線を向ける。
そこにいたのはバイクに跨った東洋人風の男で、光の正体はバイクのヘッドライトであり、音の正体は同じくバイクのエンジン音であった。
「まさか……、もうここまで来たの!?」
想定外の出来事にイリヤが驚愕の表情を見せる。
彼女の視線はバイクに乗った男に釘付けになっていた。
そのバイクに跨った男の顔を見たとき、アーチャーは生前の幼き日の記憶を不意に思い出した。
~赤の弓兵と緑の異形~
あの日、世界の全てを赤に染めようとするかのように街を覆い、煌々と燃えさかる炎の海の中で少年は自分の無力さを噛み締めていた。
そこかしこから助けを求める声が聞こえるが、彼にはどうすることもできなかった。
そして、何時しか少年は周りを火の手に囲まれて自分の死を確信した。
何しろ目に映る景色は瓦礫と真っ赤な炎だけ、正に地獄絵図といった風景だった。
誰かが助けてくれる、そんなことはあり得ないと彼は子供心にそう理解した。
だが、彼には救いの手が差し伸べられた。
その時に少年に向けられた笑顔と言葉が火災によって家も家族も、そして自分すらも失ってしまった彼の最初の記憶となり、彼の道標となった。
そして、少年は自分に救いの手を差し伸べてくれた命の恩人のもとで育てられ、少年は彼の後継者になることを心に誓った。
あの日得た彼の真実と命の恩人の笑顔を道標にして、少年は目の前で苦しむ人がいればそれを助け出し、その身体の動くうちは決して投げ出さないことを誓った。
――――俺は死ぬべき命を救われた
――――だったらこの命は俺と同じような目にあってる他の誰かのために使おう
――――その誰かを窮地から救い出せたときにあの人のように笑えたらそれはどんなにいいことだろう
それがアーチャーの追い続けた理想だ。
そして、今彼はあの日見た笑顔と同じものを見ていた。
「スマンな・・・・、シロウ。遅くなった」
「――私は……そのような名ではない…」
バイクに跨った男――本郷はアーチャーの憮然とした態度と答えを聞きながら右手を左に向かって斜め上に伸ばし、腰の横で左手の拳を固く握る構えをとった。
彼の周囲を風が吹き荒れ、ベルト中央の風車――タイフーンが風を吸い込み激しく回転し彼の体内で超エネルギーを生み出すダイナモを起動させる。
「ライダー・・・・」
本郷の声が力強く大きく響く。
瞬間、風車から強く眩く輝く虹色の光が放たれる。
その光の向こうで本郷の右腕が円を描くように左へと動かす。
本郷の姿は人を離れ、人外の異形へと変わっていく。
「・・・・変身」
刹那、バイクのライトを越える明るさの虹色の光がベルトから爆ぜた。
光が収まった後、そこには一人の戦士が立っていた。
だが、その身体にはいたるところに傷があり、血に染まっていた。
しかし、そこに在るのは月光を背に受けてそびえ立つ猛々しい勇姿、何者も近付けさせぬ偉大な風を身に纏う異形の戦闘者。緑の仮面に真紅のマフラー、黒い身体に緑の外殻、銀に輝く腕と脚、光と風を放つベルトの風車。
大自然がつかわした正義の戦士「仮面ライダー」がそこにいた。
「敵は強大だな、シロウ・・・・」
バーサーカーを一度見やり、全身の傷の痛みを感じさせない力強い足取りで仮面ライダーはアーチャーへと歩み寄る。
「だが……、強大な敵だろうと敢然と立ち向かう。・・・・それが正義の味方だからな」
仮面ライダーはそう言いながらアーチャーの前に跪き、その肩を抱いた。
その時、唐突に少女の笑い声が響いた。
「あはははっ!なに、その格好は?貴方を警戒してあれだけ準備した私がまるで馬鹿みたいじゃない!!」
イリヤは笑いの中に憤怒を感じさせる声でそう叫んだ。
実際、彼女は仮面ライダーの脅威度を高く設定していた。
サーヴァントでもマスターでもなく、魔術師ですらないその男は戦いに際しては人外の力を発揮する異形の姿へと変わり、サーヴァントと互角に渡り合うのだ。
そして、仮面ライダーにバーサーカーは一度倒されている。
「ライダーキック」という只の飛び蹴りにしか見えないのに莫大な威力を秘めた攻撃によってだ。
バーサーカーは自身の宝具に効果によって一定の威力以下の攻撃を無効化できるが、仮面ライダーはキック1発でバーサーカーを倒してしまったのだから警戒するのは当然と言えよう。
それに、仮面ライダーには不明な点が多すぎた。
故にイリヤは仮面ライダーとの初戦では素早く退いて、彼の能力を調べることにした。
そして、自分の城に衛宮士郎を取り込むに当たってセイバーらと仮面ライダーを引き離すべく、冬木の森に仮面ライダー用の魔術防壁を仕掛けたりしていた。
だが、当の仮面ライダーは先の戦いで受けた傷が癒えず、その姿は満身創痍でありアーチャーより幾分かマシな程度だった。
今の仮面ライダーなどバーサーカーにとって鎧袖一触であろう。
イリヤは自分が仮面ライダーを過大評価していたと自嘲の笑い声をあげたのだった。
しばらくして、笑うのに満足したのか飽きたのか空しくなったのか、イリヤは笑い声を止めて、仮面ライダーを指さしバーサーカーに命令した。
「バーサーカー、こんなボロボロの二人なんかさっさとやっつけちゃいなさい!!」
「■■■■―――――!!!」
バーサーカーが咆哮をあげてイリヤの命令に応える。
仮面ライダーはその姿を見て脳裏に自分と心を同じにする仲間たちを、そして地獄への道連れにしてしまった8人の男たちを思い浮かべていた。
(アイツらならどう戦うのだろうか……)
思い浮かべる彼らの戦い方はそれこそ8人8様だったが、全員に共通して言えることがある。
――――彼らは決して背中を見せない
そしてそれは、本郷も同様である。
バーサーカーの咆哮が止み、その巨腕に握られた斧剣が仮面ライダーとアーチャー目掛け振り下ろされる。
仮面ライダーはアーチャーを抱え、飛蝗の改造人間として与えられた跳躍力を活かし、その暴力の振るわれた場所から大きく跳び退いた。
アーチャーと彼の身体から滴る紅い血の軌跡を残しながら。
バーサーカーが次の一撃を与えんとその血の痕跡を追う。
だが、その先にいたのは座り込むアーチャーただ一人。
バーサーカーとイリヤは仮面ライダーが何処に行ったのかと別の血の跡を探す。
しかし、二人の目が捉えることのできた血痕は全てアーチャーの傍で途切れていた。
ふと、バーサーカーがあることに気付いた。
アーチャーの頭より高い位置から彼のすぐ傍に血の雫が滴り落ちてきたことに。
その血の雫と「狂化」を受けてもなお消えぬ戦士としての直感からバーサーカーが天井を仰ぎ見る。
それにつられるようにイリヤも視線を天井へと向ける。
二人の視線の先には薄暗い天井とそこで赤く輝く二つの光点があった。
瞬間、光点のあった個所が爆発した。
イリヤは赤い光の余りの速さに目でついていくことはかなわなかったが、それの向かう先はわかっていた。
「ライダァアアキィーーーック!!」
イリヤの考えどおり、仮面ライダーはバーサーカーへと自身の持つ必殺の技を放っていた。
その蹴撃は見事にバーサーカーの身体の中心に向かっていたが、バーサーカーは仮面ライダーの速さに対応して左腕で防御を固めていた。
だが、その威力は天井を蹴ったことにより以前バーサーカーに繰り出した時よりも向上していた。
故に、ライダーキックはバーサーカーの防御ごと彼を貫く――――
――――かに見えた。
「なにっ!?」
仮面ライダーが驚愕の声をあげながら跳び退いた。
前よりも威力の上がっているライダーキックを受けたバーサーカーの左腕は全くの無傷であった。
「アハハハハ!!残念ね、バーサーカーは一度受けた攻撃は二度と効かないわ」
「ムゥ・・・・」
イリヤが得意げな声でバーサーカーが無傷だった理由を明かした。
仮面ライダーの脳裏にあの日の夜の記憶が蘇る。
あの時、彼のライダーキックを受けながらもバーサーカーは平然と立ち上がった。
しかも、ライダーキックのダメージを全く感じさせない無傷の身体でだ。
そしてその時イリヤはこう言っていた。
『まさか、バーサーカーを殺すだなんて……。でも、1度殺したくらいじゃバーサーカーは負けないわ』
余り考えたくない言葉が仮面ライダーの脳裏をよぎる。
奴は不死身ではないか、と。
だが、その言葉は他ならぬイリヤによって否定された。
「もう一ついいことを教えてあげるわ。私のバーサーカーは十二回倒さないと死なない」
バーサーカーの宝具「十二の試練」は神の祝福、あるいは呪いによってヘラクレスに与えられた不死性を表す。
自身の肉体を屈強な鎧と化し、ランクB以下の攻撃を全て無効化する。加えて、死亡しても自動で蘇生がかかり、そのストックは十一回だ。
よってバーサーカーは「十二の試練」の名の通り、十二回殺さなければ消滅しない。
さらに、一度受けたダメージを学習してそれを克服するための耐性を肉体に付加する効果がある。
この宝具が、ライダーキックが無効化し、また以前にバーサーカーを無傷で再び立ち上がらせたのである。
イリヤはその事実を仮面ライダーに絶望を与えるために教えた。
だが、仮面ライダーには絶望ではなく希望が見え始めていた。
(不死身でないのなら倒す術はある・・・・!!)
仮面ライダーは再び構えた。
「――俺は仲間たちに『技の1号』という二つ名で呼ばれている」
「技の1号……?」
仮面ライダーの唐突な発言にイリヤは首をかしげた。
なぜこのタイミングで自分の二つ名などを教えてくるのか、と。
仮面ライダーは一瞬だけ視線をイリヤに送って言葉を続けた。
「イリヤスフィール、さっきの礼代わりに何故俺が『技の1号』と呼ばれるのか・・・・、その理由を教えよう――!!」
その言葉を発した直後、仮面ライダーはバーサーカー目掛けて駆け出した。
バーサーカーはそれを迎撃するも、仮面ライダーは跳躍で攻撃を回避しそのままバーサーカーの巨体を跳び越えその背後に回る。
「トオ!!」
無防備な背後から攻撃を喰らわせようとした仮面ライダーだったが、拳を少し引いたと同時にバーサーカーの強烈な左の裏拳が彼を襲った。
すんでのところで直撃は避けられたが、バーサーカーの暴風の如き拳の力の余波を受けて彼は思わずよろめいていた。
(相変わらず、躱した上でこの威力か・・・・)
バーサーカーとの初戦の時と同じ戦慄を感じつつも、落ち着いて体勢を整える仮面ライダー。
しかし、バーサーカーは一瞬で仮面ライダーとの間合いを詰めて、容赦のない斬撃を繰り出す。
辛くも初撃を躱す仮面ライダーだが、反撃の暇も与えぬ怒涛の連撃を前に一度場を仕切り直すべく彼はほんの一瞬の隙をついてバーサーカーとの距離を大きく開けた。
(見た目通りの脅威的な力、そして見た目に反する身軽さとスピードか・・・・)
相手の実力に舌を巻きながらも仮面ライダーは再度バーサーカーに立ち向かう。
一気に間合いを詰めてバーサーカーが斧剣を左から右に振りぬいた直後に生まれたわずかな隙をついて、右の拳を叩きこむ。
「トオッ!!トオ!トオ!!」
二撃、三撃と攻撃を続ける仮面ライダーだったが、その攻撃はバーサーカーには毛ほども効いている様子はない。
「トオオオ!!」
さっきのパンチやチョップよりも力を込めた膝蹴りを繰り出したが、やはりバーサーカーはダメージを受けていない。
逆に隙を晒してしまった仮面ライダーはバーサーカーの凶悪な力の籠った左拳での殴打をその全身に受けてしまった。
「グ・・・アアアアアア!!」
自身が弾丸になったような速さで仮面ライダーは壁へと叩きつけられた。
鋭い痛みが仮面ライダーの全身を苛む。
「グ・・・・」
しかし、仮面ライダーは立ち上がる。
その時、仮面ライダーの叩きつけられた壁の近くにもたれかかっていたアーチャーが、身を起こしながら不意に仮面ライダーに声をかけてきた。
「……見てはおれんな。後は私が引き受けよう。仮面ライダー、貴様は凛たちと合流しろ」
「ナニ・・・・?」
アーチャーが言い放ったのは、仮面ライダーにとって予想外の言葉だった。
驚く仮面ライダーに構わずアーチャーは言葉を続ける。
「この場を離脱しろと言っている。この先、凛を手助けできるのがあの未熟な若造と魔力のないセイバーだけでは余りにも心もとない」
「何を言うんだ。そんなボロボロの身体ではバーサーカーを相手には出来るはずがない。お前が離脱しろ」
仮面ライダーの意見にアーチャーはいつもの笑みを浮かべて応える。
「貴様が奴と戦っている間に回復させてもらったよ。ボロボロなのは寧ろ貴様の方だろう?」
「いや、あのわずかな時間で回復できるのならお前が離脱した方がいいはずだ。」
二人は互いの主張を変えるつもりなど毛頭なく、当然ながら話は平行線を辿るだけだった。
そして、二人ともそのことをわかっているのでお互い何も言えず、場には沈黙が流れた。
「まだお話は終わらないの?お二人さん」
二人の間に訪れた沈黙を破ったのは第三者のイリヤの声だった。
「話し終わるまでは殺さないであげるわ。終わったら言ってね」
「■■■■■■■■――――――――――!!!」
イリヤの声が氷のように冷たく響いた。
バーサーカーの声が炎のように空気を歪ませた。
「さて……、敵は見逃してはくれないようだな。行け、仮面ライダー」
アーチャーがそう言いながら仮面ライダーの一歩前に出る。
「アーチャー、お前が先に行け。俺は後から行く」
アーチャーを押し退け今度は仮面ライダーが前に出る。
「今の貴様では、ただ死ぬだけだぞ?」
確かに仮面ライダーは強かった。
だが、魔術も魔力も行使できない彼がバーサーカーと長時間戦闘を出来る筈がない。
そして、高速移動の手段がない自分はすぐに追いつかれて殺される。
そう確信しているアーチャーは、高速で移動できるバイクを持つ仮面ライダーの方が生き残れる確立が高いと判断した。
そして何より、彼の変えることのできなかった根幹たる理想――死に瀕した全ての命を救う――がこの場で自分以外の者が犠牲になることを認めようとしなかった。
その想いがアーチャーの身体を突き動かしていた。
仮面ライダーはそんなアーチャーの忠告に対して穏やかな声で応えた。
「死なないさ・・・・」
力強い口調で本郷猛――仮面ライダー1号が告げる。
「戦いが終わらない限り、仮面ライダーは死なない」
その言葉とその背中に、アーチャーはかつて自分が目指したモノの姿を垣間見た。
そう、そこに在るのはアーチャーが生前目指し続けたモノ――「正義の味方」――の姿だった。
しばらくして――と言っても極わずかな時間だが、ふと我に返ったアーチャーは苦笑した。
何を考えているのだ、そんな者などいるはずがない、と。
だが、同時にこうも考えていた。
自分がそう感じ取ったのは一瞬の気の迷いだったのかもしれないが、それでも「この男にならそれができるのかもしれない」と思ったことは紛れもない事実だ、と。
そして、こうも考える。
魔力が使えずバーサーカーに有効打を与えることのできない仮面ライダーと最早死に体の自分、そのどちらかが凛たちと合流したとしても結局は足手まといにしかならないのではないか、と。
ならば、この場で出来る限りの抵抗をして凛たちを逃がす時間を少しでも稼ぐのもまた一興ではないか、と。
しかし、今の彼はさっき言ったように完全な死に体、バーサーカーと戦うことはできない。
今のアーチャーに出来ること、それは仮面ライダーの身体に強化の魔術を用いて、彼が少しでもまともにバーサーカーと渡り合うことの出来るようにしてやることだ。
「フム、よくも吼えた。ならば、成し遂げて見せろ。手伝いくらいはしてやる」
アーチャーが言葉と共に仮面ライダーに強化の魔術を掛ける。
そして、先ほど自分が仮面ライダーから感じ取ったモノは本物だったのか、それとも本当に一瞬の気の迷いだったのか、確かめるために、試すように問うた。
「――――できるか」
アーチャーの問いに仮面ライダーが答える。
「――――おぉ、アーチャー」
その答えを聞いてアーチャーは確信する。
(――――あぁ、この人は本物の……)
しかし、アーチャーはそんなことを考えている素振りを一切見せることなく一言だけ告げて霊体化した。
「――――『技の1号』などと嘯いたのだ。ここで倒れるようなことなどないな?」
「――――大丈夫だ」
アーチャーの彼らしい皮肉めいた激励を受けて、仮面ライダーはバーサーカーへの反撃の狼煙を上げる。
(バーサーカー・・・・。まずはお前の力、利用させてもらう!!)
~力無き故に手に入れたもの、それは技~
「終わったみたいね。アーチャーは霊体化したんだ。まぁ、逃がす気はないからシロウの後にでもすぐ殺してあげるわ。バーサーカー、とりあえずアイツやっちゃって」
少女の声に巨兵が応え、歩を前に進める。
今度は向こうから駆け寄ってきたバーサーカーの台風のような激しい攻撃を高い脚力で躱しつつ、反撃のチャンスを引き込むべく斧剣が外に振られた瞬間にその身をバーサーカーの懐へと踏み込む。
案の定、バーサーカーの左拳が仮面ライダー目掛けて振るわれる。
仮面ライダーはその力をまともに喰らって再び壁に叩きつけられた――――
――――かに思えた。
仮面ライダーの飛んでいった壁は轟音と共に崩れたが、そこに仮面ライダーの姿はなかった。
次の瞬間、全く別の場所から何かがぶつかったような轟音が響き、その個所が爆ぜる。
それも一度や二度ではない、何度もだ。
轟音と轟音が鳴り響く中、突然バーサーカーが防御の姿勢をとろうとした。
だが、防御が完成する前に仮面ライダーの必殺技がバーサーカーの肉体に凄まじい衝撃を伴って命中した。
「ライダァアアアア稲妻スクリュゥウウキィイイイーーーック!!!」
――――ライダー稲妻キック
空中で壁などを何度も蹴って威力を高めて放つライダーキックの上位版である。
――――ライダースクリューキック
身体をドリルのように回転させてキックを繰り出す強力な必殺技である。
この二つの技を合わせた上にバーサーカーの狂化によってより強化された類まれなる膂力をあえて受けたことによりさらに勢いを増し、脅威的な威力を見せた仮面ライダーの必殺キックは「十二の試練」を突き抜けて見事バーサーカーに致命傷を与えた。
そして今度は、バーサーカーが技の勢いそのままに壁へと叩きつけられた。
「グフゥッ!!!」
仮面ライダーがクラッシャーの隙間から吐血し、膝をついた。
(・・・・こちらも無事では済まなかったか)
バーサーカーの巨体を吹き飛ばすだけの威力を秘めた攻撃は、それを繰り出した仮面ライダーにも大きなダメージを与えていた。
それに対し、全くの無傷で悠然と立ち上がるバーサーカー。
イリヤの少女らしい笑い声がホールに響く。
「アハハハハ!すごかったわよ、今のキック!でも、バーサーカーを殺したのはたったの1回だけよ。なのに、貴方はもうボロボロじゃない?もう諦めなさい、仮面ライダー」
イリヤが述べたのは疑いようもなく間違いようもなく事実だった。
立ち上がった仮面ライダーの足元はふらつきしっかりと立てるようになるまで少し時間がかかった。
この決定的な隙をイリヤは勝者の余裕を見せつけんとばかりに見逃した。
「ふふん、ようやくまともに立てたみたいね。じゃあ、死になさい!!」
「■■■■■―――――!!!」
イリヤの声を聞き、仮面ライダーの命の灯を消し去らんとバーサーカーが猛進した。
空気を引き裂いてバーサーカーの斧剣が仮面ライダーに迫る。
それを、仮面ライダーは先刻までのように脚力を活かした回避ではなく、風に揺れる若草のように緩やかな動きでまさに紙一重で避けた。
だが、バーサーカーの鋭い斬撃のあおりを受けて彼の戦闘服の表面が傷ついていく。
しかし、それと同時にベルトのタイフーンが回転して仮面ライダーに力を与える。
すかさず振るわれた二の太刀も同じようにして仮面ライダーは躱した。
(グッ・・・・!まだだ、まだ仕掛けるべきじゃない・・・・!!)
尚も振るわれ続ける斬撃を仮面ライダーは体表の傷を少しずつ多くしながらもギリギリのタイミングで避け続ける。
「あぁ、もうっ!!いつまで遊んでるのよ、バーサーカー!!次の一撃で殺しなさい!!」
バーサーカーが遊んでいるはずなどないが、埒の明かない状況に焦れたイリヤの怒声と命令がとぶ。
「■■■■■―――――!!!」
バーサーカーが先ほどまでよりも強く、そして速い斬撃を繰り出した。
強い風を受けても平然と揺れている柳の枝をも吹き飛ばさんとする竜巻の如き一撃だった。
(今だっ!!)
一瞬砂埃が巻き起こり、バーサーカーの周りを覆う。
その砂埃の中から、バーサーカーのものではない声が響く。
「・・・・お前が斧剣を大きく振り抜くこの瞬間を待っていた」
砂埃が晴れ、バーサーカーと仮面ライダーの二人の姿が顕わになる。
何と仮面ライダーは、バーサーカーの斧剣の上に乗っていた。
その両脚は大きく折り曲げられ、そこに込められた力が爆ぜる瞬間を待ち望んでいるようだった。
バーサーカーが仮面ライダーを振り落とそうとその右腕を動かすよりも早く、仮面ライダーが跳んだ。
「トオ!ライダァーーーパァンチ!!」
弾丸よりも速く鋭く強く、仮面ライダーの脚力とパンチ力の乗った必殺技がバーサーカーの顔面で一番防御の弱い個所――目を貫く。
――――ライダーパンチ
ライダーキックと並ぶ仮面ライダーの必殺技の一つである。
必殺技の名に恥じぬ威力でバーサーカーの脳髄と頭蓋、頭部そのものを仮面ライダーは打ち砕いた。
「ガッ・・・・ハッ・・・・!!」
仮面ライダーの苦悶の声が響く。
彼は地面とそんなに離れていないところから下に向かって全力で跳んだため、受け身も取れず大理石の床に顔面から激突し、派手に転がった。
(――まだだ!ここでもう一撃叩き込む!!)
度重なるダメージを気にも留めずに、仮面ライダーはボロボロの身体に無理矢理言うことを聞かせてすばやく身を起こし、バーサーカーへと向き直る。
敵や周りの状況を把握する感覚器官の中枢を破壊されたバーサーカーの巨体は、無防備に立っていた。
しかし、「十二の試練」の効果によってバーサーカーの頭部は凄まじいまでの勢いで修復を始める。
「いくぞ!!ライダージャンプ、トオッッ!!」
満身創痍とは思えぬ動きで、仮面ライダーが跳ぶ。
それと同時にバーサーカーの頭部が再生された。
だが、バーサーカーが仮面ライダーの姿を視界にとらえる前に彼の頭部を仮面ライダーの両足が挟み込んだ。
「おおおおお!!」
仮面ライダーが鮮血を撒き散らしながら、裂帛の気合を込めた叫びをあげる。
その声に応えるように彼の両足の人工筋組織が限界を越えて悲鳴をあげながらも、爆発的な力を発揮する。
刹那、バーサーカーの巨体が宙に浮いた。
「ライダァアアヘッドクラッシャァアアアーーー!!!」
仮面ライダーが全身の力を最大限に使って、バーサーカーを持ち上げて空中で回転をする。
そして、両足に挟み込んだままのバーサーカーの頭を地面目掛けて振り下ろした。
脳天から地面に突き刺さったバーサーカーからは、骨が折れる音や肉の潰れる音が聞こえ、それを掻き消すように大理石の床が割れる音が大きく響く。
――――ライダーヘッドクラッシャー
相手の頭部を挟み込んで空中回転して投げ飛ばす大技である。
その余波で、アインツベルンの城も大きく揺れた。
「キャアッ!?」
「グゥ・・・・ハッ・・・・」
イリヤの悲鳴に仮面ライダーの呻きが重なる。
ライダーヘッドクラッシャーは本来相手を空中で投げ飛ばす技であるが、バーサーカーを挟み込んだまま地面へと叩きつけた仮面ライダーは彼自身も同様にその全身を地面に打ち付けた。
だが、血を流し苦しみながらも仮面ライダーは立ち上がる。
それと同時に復活したバーサーカーも立ち上がった。
「おおおおお!!」
「■■■■■―――――!!!」
両者は雄叫びをあげながらぶつかり合う。
バーサーカーの斧剣が振り下ろされる前に、仮面ライダーがバーサーカーの懐に飛び込んでパンチのラッシュを浴びせる。
「トオ!トオ!!」
やはり仮面ライダーの拳がバーサーカーにダメージを与えることはない。
だが、彼のパンチを受けてバーサーカーの巨体が揺らいだ。
「嘘っ!?」
不動の巨兵が揺れ動いたことに、イリヤが驚愕の声を上げる。
仮面ライダーがバーサーカーの斬撃の余波でダメージを追いながらも蓄えたエネルギーが、そしてアーチャーが施した強化の魔術が彼の筋力を高め、バーサーカーの巨体を揺るがせるだけのパワーを与えているのだ。
「ライダーパァンチ!!」
続けて放った仮面ライダーの渾身の一撃が、バーサーカーを一際大きくよろめかせ、数歩後退させる。
「■■■■■―――――!!!」
直ぐに体勢を立て直したバーサーカーが先の攻撃の礼代わりと言わんばかりに強烈な斬撃を放つ。
それを大きく後ろに跳躍することで仮面ライダーは回避した。
だが、その威力たるや凄まじく、大理石の床を砕いて大小様々な瓦礫片を当たり一面に弾き飛ばした。
仮面ライダーはそれに対して身を守ることはせず、自ら瓦礫群のなかに跳び込み、バーサーカーの握りこぶしほどの大きさの破片をバーサーカーの顔面目掛けて蹴り飛ばした。
「電光ライダーキック!!」
――――電光ライダーキック
特訓によって編み出した通常のライダーキックの2倍の威力を誇る必殺技である。
その威力を内包した瓦礫片は、さながら隕石のようにバーサーカーへと飛来した。
バーサーカーはその瓦礫片で一瞬視界を遮られるものの、それを左手で振り払う。
再び開けたバーサーカーの視界が最初に捉えたのは、こちらに猛然と迫り来る仮面ライダーの姿であった。
仮面ライダーは一際大きな破片を踏み台に加速していたのだ。
「ライダァアアーーーチョォオオップ!!」
――――ライダーチョップ
敵に目掛けて強力な手刀を喰らわせる仮面ライダーの必殺技の一つである。
咄嗟にそれを左手で受けるバーサーカーであったが、その左腕は胴体と離れ離れに相成った。
「■■■■――――!!!?」
その痛みにバーサーカーは苦悶の叫びをあげる。
左腕のあった箇所から溢れ出る血が、その痛みを如実に物語っていた。
「う…嘘よ!!バーサーカーがあんなボロボロの奴に!!」
ほんの僅かな怯えを含んだ声色で、イリヤが目の前の現実を否定しようと叫んだ。
ふらつきながらも立ち上がった仮面ライダーはイリヤの方へゆっくりと振り向いた。
「俺がこれまで・・・・」
振り向きざまに仮面ライダーが静かな声で言葉を発する。
「何体の改造人間――人外を葬ってきたと思う」
「…………!!」
声無き声をあげて、イリヤの全身がカタカタと震える。
身体の至る所を走る凍りつくような悪寒が、彼女に今自分が感じているモノが何なのかを教える。
それは紛れもない恐怖だった。
そう、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは仮面ライダーに恐怖しているのだ。
その事実にイリヤはプライドを大きく傷つけられた。
そして、イリヤはプライドを傷つけられた怒りで恐怖を克服しようとした。
震える身体を落ち着かせるように自分の肩を強く抱きしめ、イリヤはバーサーカーに必要以上に――恐怖を振り払うように大きな声で命令した。
「バーサーカー、仮面ライダーを確実に殺しなさい!!!」
叫びと共にイリヤの身体の至る所から光が迸る。
その光の正体は並みのマスターとは比較にならないほど巨大な魔術刻印だった。
魔術に関してあまり知識のない仮面ライダーだったが、その光が齎す結果はおおよその推測がついていた。
「■■■■■■■―――――――――!!!!」
バーサーカーから感じる力、威圧感、その他全てが先ほどまでの彼を上回っているのを仮面ライダーは感じていた。
だが、仮面ライダーは退かない。
仮面ライダーがベルトの左脇にあるスイッチを入れる。
「ライダーパワー!!!」
瞬間、仮面ライダーの発している力がバーサーカーと同じく大きく膨れ上がった。
イリヤもそれを感じ取ったが、魔術刻印を使ったバーサーカーの前にそんなものは無力だとバーサーカーを止めることなくそのまま突撃させた。
――――ライダーパワー
仮面ライダーのパワーを一時的に高めるが連続で使用することはできない、謂わば切り札である。
それによって得た爆発的な力を伴って仮面ライダーはバーサーカーを迎え撃つ。
「■■■■■―――――!!!」
「おおおおおおお!!!」
躊躇いはなく油断もなく容赦もないバーサーカーの渾身の一撃が仮面ライダーの頭上に振り下ろされる。
仮面ライダーはその迫りくる暴力を――――
――――真正面から受け止めた。
そして、その胸元を掴んだ。
「ギリシャ神話の英雄ヘラクレス。お前はこの時代にいるべきではない・・・・!神話の世界に俺が帰してやろう!!」
そのまま仮面ライダーはバーサーカーの巨体を高々と持ち上げる。
その身体はとうに限界を迎えていた。
人工筋肉が悲鳴をあげる。
人工骨格が軋みをあげる。
だが、仮面ライダーはその両の脚を地面にめり込ませながらも上半身に力を送り、両の腕を回転させ、バーサーカーを投げ飛ばした。
「ライダ――――きりもみシュ―――――ト!!」
刹那、冬木市郊外の森に巨大な竜巻が出現した。
「きゃあああああああ!?」
それはアインツベルンの城の床の破片や壁の瓦礫、天井すらも巻き込んでバーサーカーの巨体を空中へと回転させながら打ち上げる。
――――ライダーきりもみシュート
敵を頭上に逆さの体勢で持ち上げながらジャンプし、そのまま相手の体を高速回転させて敵の体の周囲に真空状態を作り出し投げ飛ばすライダーキックよりも強力な必殺技である。
と、本来なら空中で相手を投げ飛ばすのだが、そのジャンプにかかる力をも腕に回した仮面ライダーの放ったその技の威力は凄まじいの一言に尽き、超強力な竜巻を発生させた。
たくさんの瓦礫や破片を後ろにつれてバーサーカーの巨体が高速回転しながら上昇し、やがて落ちてきた。
真空状態を作り出すほどの高速回転をさしものバーサーカーの膂力をもってしても止めることはできず、その身体は無防備に地面へと叩きつけられた。
瞬間、凄まじい衝突音とそれに伴う衝撃波がアインツベルンの城を今までの中で一番大きく揺るがした。
それに続いて、未だきりもみ回転の収まらぬバーサーカーの身体が巨大なドリルのように床を大きく削り抉る音と、バーサーカーの血と骨と肉と皮とが潰れ砕け千切れ弾け飛ぶ音が響く。
全ての音が止んだ後、辺り一面を静寂と砂埃と血の匂いが包み込んでいた。
~あとがき~
やりたかったネタはやり終えた。
さて、バーサーカーはこのまま倒すべきかそれともセイバーたちに倒させるべきか、それが問題だ。
そして結末はFate ルートかUBWルートか、はてまた HFルートか。
どれを選んでもまとめきる自信がない……ッッ!!
まだ描きかけのSSがあるのに息を抜きすぎたッッ!!