冥土帰し、そんな大層な名で呼ばれるカエル顔の医者だが、彼とて人の子、神ではない。
以前、死すらも克服する方法を見つけはしたが、それは神の御業ではなく、一つの科学の境地に過ぎない。
科学というのはオカルトとは違う。魔法陣を描いて呪文を唱えれば傷が治る、なんてことはないし、薬がなければ病を治すこともできない。
――冥土帰しの真に恐ろしい部分は、患者に必要なものは何であっても用意する気概とそれを可能にするコネクション。
しかし今回ばかりはコネクションは存在しない。
子どもたちに必要な“薬”は『能力体結晶の1stサンプル』。
相手は統括理事会でもなければ学生でもない、“木原”という一族。
「警備員 先進状況救助隊、MARのテレスティーナです。今日はRSPK症候群――俗に言う“ポルターガイスト”の調査に参りました。此方で能力の暴走が原因で昏睡状態に陥ってる患者が居ると聞きましたが?」
「確かに、その子たちはこの病院に入院してるね?」
「でしたらすぐにでも私たちの研究施設に搬送を。この件は私たちの分野ですから」
「それは出来ない。まずはちゃんとした書類を用意して、君たちが信用に値すると分かるまでは僕の患者を預けるわけにはいけないよ?」
カエル顔の医者は子どもたちを渡すつもりなど毛頭なく、テレスティーナもまた、こんな話し合いで子どもたちが手に入るとは思っていない。
(オメーのモットーはよぉく知ってるぜぇ? 患者に必要なものは何でも用意する――ガキ共の教師で、行方不明の木山春生・・・・・・あいつも此処に匿ってんだろぉなぁ?)
テレスティーナは警備員であり、木山春生は指名手配中の犯罪者で、しかも子どもたちの関連性は濃厚。
木山を確保すれば匿っていた冥土帰しも罪に問われ、その患者の子どもたちも回収できる。
それがテレスティーナの狙いであった。
――無論、いざという時は武力行使も辞さない考えであることには変わりなく、乗ってきたトラックにはキャパシティダウンと隊員たちが駆動鎧に身を包んで待機しているが。
◆◆
『こちらイエロー、東棟に侵入』
「ンなことは一々報告なんざしなくていい、木山を見つけるまで余計な口は叩くな」
テレスティーナと冥土帰しが論争をしている間に木山を確保する、それが木原の仕事。
今日の調査はほんの一時間ほど前に決まったもので木山が別の場所に移動する時間はない。
念の為、此処に来るまでの間、別の人間が病院を監視していたが木山春生らしき人物は外に出た形跡はない。
間違いなく木山春生はこの病院の何処かにいる。
(そして絶対能力進化実験を裏切った妹達もな)
木原数多の興味は木山春生などではなく、妹達にしかない。
これで木山が見つかり、万が一にもテレスティーナがレベル6に辿り着いたところで木原には興味がない。
今の木原数多には、木原が木原足る研究への歪んだ情熱はなく、ただ冷めていた。
(一方通行がおかしくなったのは妹達のせいか? それとも俺が研究者として欠陥品だったのか?)
木原の興味はその一点だけにある。
テレスティーナの実験に興味は――ない。
『こちら02、東棟にて侵入者を補足、数は4。動かせる患者は最上階に避難させた。残りは重傷患者3名と看護師が2名』
「こちら03、了解。同じく西棟で侵入者を補足、数は5。患者と看護師は下に避難させた」
数多とテレスティーナ、2人の木原に相対するのは02と03、2人の妹達。
彼女たちにあるのは興味でも執着でもなく、与えられた任務を果たすという義務感だけ。
(標的は木山春生。目的はあの子どもたち・・・・・・まったく、軍曹が居らっしゃらない時に限って)
彼女たちの任務は侵入者の撃退、可能ならば1stサンプルの奪取。
1stサンプルをテレスティーナが持っている以上、現在遂行可能なのは侵入者の撃退のみ。
(ですが今の軍曹の手を煩わせたくはありません。彼女は今、私たちの届かない域に達しようとしている)
20000号とのネットワークのリンクは既に切っている。
20000号がただの実験動物から、一人の人間に変わろうとしていると、02と03は無意識に感じていた。
――彼女たちの不幸は木原数多の顔を知らなかったこと。
名前こそ一方通行の開発者ということで知っていたが、プロテクトが強力で詳しい経歴は覗けなかった。
故に彼が量産型能力者計画に関わっていたことも、彼女たちが知る由はなかったのだ。
――それが意味するのは、妹達のスペックやデータを木原数多は完全に把握しているということ。
妹達に共通した『自分だけの現実』をも完全に把握していると、そういうこと。
遠くない未来、木原数多は一方通行を打倒する。
それを為せたのは彼の強靭な肉体と神がかったセンス、そして一方通行のデータを完全に把握していたからだ。
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二章は木原VS妹達。
数多の方が出て来るとテレスティーナが小物に見える不思議。
ちなみに子どもたちは最上階に入院してて、木山せんせーも今は子どもたちのそばにいます。
で、以下はキャラ紹介。
テレスティーナ=木原=ライフライン
顔芸の人。小物っぽい。安全第一。
アニメとは違い、オリジナルではなく妹達対策がバッチリなので数多と同じく妹達にとっては最悪の相手。
木原数多
木ィィィィ原くゥゥゥゥン。
木原マサキとは多分親戚。
このSSでは出世が甚だしい人。
この時期はまだ猟犬部隊には入ってない、猟犬部隊に入るのは今回の件が絡んでたりする。
このまま話が続いていけばもう一人の主人公にしたいなぁ。
次回は軍曹サイドの話が入ります。