「この音は・・・・・・どういうつもりかな?」
「申し訳ありません。機材が不調のようですわ」
白々しい口調で嘯くテレスティーナ。
其処に1人の隊員が駆け寄る。
「――令状も届きました。これで子どもたちを引き渡していただけますね?」
「・・・・・・本物のようだね」
眼前に突きつけられた令状を確認し、カエル顔の医者は溜め息を吐く。
「子どもたちは最上階だよ」
「ご協力に感謝します」
◆◆
『こちら03、現在交戦中。状況はあまり芳しくはない』
『そちらに向かいたいのは山々ですが・・・・・・下からMARの部隊が上がってきています』
『――なら02はそちらの足止めをこちらは私がやります』
『・・・・・・了解』
03と同様にキャパシティダウンの影響から逃れた02とネットワークを介して会話すると、即座に03は判断を下した。
本来であれば侵入者たちを捕縛し、MARに突き出してMARの違法行為を摘発するつもりだったがそれも木山春生が捕まってしまえば叶わない。
木山春生と子どもたちがMARの手に落ちれば、理事会がバックにある以上、彼女たちにはどうにもできないのだ。
「・・・・・・なら、あなたたち全てを打倒して警備員に突き出すとしましょう」
耳に痛みが鬱陶しいが、演算を乱すには至らない。
電撃を発し、拘束から抜け出す。
「ああ? おいおい、俺の知る妹達は――って、テメェらは違うんだった。けどンなことを言ってもどうにもならねぇよ」
数多はそれを気にした風もなく言う。
03とて自分の言っていることが不可能に近いのは知っている。
「テメェらは妹達とは違うしオリジナルとも違う、だがそれだけだ。――それだけじゃ、何も変わらねえ」
ああ。知っている。
自分たちにはオリジナルのような力はないし、それに、他の妹達と自分たちが違うとも思わない。
今の発言だって本気で言っているわけではない、ただの鼓舞だ。
慇懃無礼なリーダーを真似て、虚勢を張ったに過ぎない。
「――って言っても鼓膜潰しちまったんだから聞こえるわけねーか」
「いえ。一応読唇の心得はありますので」
「そぉかよ」
何となくだが、言っていることは理解できた。
「それじゃあ殺しとくか、一応? お前らは期待外れだったみたいだしよ」
「私たちに何の期待をしていたのか理解に苦しみますね。私たちほど何の期待もできない実験動物は存在しないと思いますが」
「テメェらはもう実験動物ですらねえ」
違いありません、とだけ03は呟いて、数多へと肉薄した。
木山春生はただ、それを見ていることしかできなかった。
◆◆
病院内がそんな状況に陥っているとは知らない人物が1人、外でうずくまっていた。
「ッ――耳障りな・・・・・・」
検体番号 20000 この状況を打破できるかもしれない、一つの可能性。
だが事情は知らずとも、キャパシティダウンは能力者全てに影響を与える。
今回、彼女は無力なまま事態は変わらないはずだった。
「――どうやらこの音が演算に使う脳の分野を刺激しているみたいだね?」
20000号がいっそのこと鼓膜を破った方がいいだろうか、と思案していると影が彼女を覆う。
「使うといい。単純だが、最も簡単な方法だよ?」
「・・・・・・これはゲコ太殿。今の状況は?」
影の正体はカエル顔の医者。20000号に手渡したのはただの耳栓だ。
それを大人しく耳に付けると、キャパシティダウンの影響は当然のようになくなり、カエル顔の医者の声も聞こえなくなるが大した問題ではない。
・・・・・・確かに最も単純で簡単な対策方法だ。
常日頃から耳栓を持ち歩いている人間などそうはいないだろうから、キャパシティダウンの弱点とは言えないだろうが。
「木山春生と子どもたちが狙われてる。君以外の2人が守ってくれているけど、ついさっき正式な令状が出て大人数の捜索が入ったから、長くは保たないだろうね?」
「成る程。此処までの道が閉鎖されていたのはそのせいでしたか」
状況とは裏腹に2人は冷静そのものだ。
20000号は軍人として冷静さを失わないようにしているが、カエル顔の医者が冷静なのは恐らく――
「閉鎖されてたのなら君はどうやって此処まで?」
「300メートルほど匍匐前進で移動してきました。・・・・・・申し訳ない、私の勝手な行動のせいで迷惑を」
「構わないよ。君たちが人間らしくなるのは僕たちとしても嬉しい」
「――この責任は今此処で、必ず取ります」
――信頼しているから、なのだろう。
「それに、やはり私は感情を持て余しているようです」
ピン、と手慣れた動作で取り出したコインを弾き、そして耳障りな音を垂れ流すスピーカーを積んだ車両に向けて撃ち出す。
「――射程は50メートル程度。やはり専用の弾丸には及びませんね」
爆風で髪を揺らすその姿は、間違いなく学園都市第3位と同じ位に立つ者。
――超電磁砲。
「――思えば幻想御手を使った時からです。私の感情というものがざわめくのは。幻想御手を通じて他者の『自分だけの現実』に触れた時から、私の中で感情というものが生まれた――そんな気さえします。ミサカネットワークとは違う、他者の感情に触れた、その時に」
しかし凛と佇むその姿は他の誰でもない、検体番号 20000 でしかない。
妹達でも、オリジナルでもない。
たった1人だけの少女が其処には居た。
「それでは状況を開始しましょう」
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軍曹到着。
今回のおはなしは軍曹のいいとこ取り・・・だけじゃなくしたいなあ。
20000号のレベルについての説明(というか言い訳?)は次回にでも。