「これだけの駆動鎧・・・・・・厄介ですね」
02は続々と階段を上がって来る駆動鎧の集団を見て呟く。
駆動鎧自体との相性は能力的には悪くない、が数が多すぎる。
全て相手にしていたら、すぐに“電池切れ”になってしまう。
(最初に侵入させた部隊は捨て駒で、トラップの排除が目的だったようですね。尤も、あの刺青の男は別でしょうが)
最上階までのトラップのほとんどは先の侵入者たちが面白いように引っかかってくれたせいで残り少ない。
(テレスティーナ・木原が違法行為を行ってるのは明らか。ならばこれを乗り切れば、全て終わる)
逆に子どもたちがテレスティーナの手に渡れば、今日の事実は統括理事会が揉み消してしまうだろう。
今一度自身の任務を確認し、02は覚悟を決める。
「そうだ、この任務が終わったら軍曹と結婚――はできませんので、報酬の一つでも強請ってみましょう」
◆◆
20000号は敵の数の少ない非常階段を利用し、一気に最上階まで駆け上がっていく。
02が1人で戦っているのだろう銃撃音も聞こえたが、彼女はそれを無視し階段を駆ける。
(最優先事項は子どもたちの安全。既に最上階に侵入されている以上、優先すべきは最上階の敵の排除)
自身に言い訳するように心中で呟く。――1人でも足止めは不可能ではない、02ならできる、そう言い聞かせて此処まで来た。
「このっ――!」
駆け上がってくる20000号に気づき銃口を向ける駆動鎧が3。
あまりに遅く、あまりに稚拙。
バチバチッと音を立て放たれた電撃が階段から駆動鎧を叩き落とす。
その放たれた電撃もオリジナルに比べればあまりにも稚拙な欠陥電気。
だがそれでも、この場を切り開く確かな力となる。
「――ふッ!」
足場との磁力の反発を利用し、駆動鎧たちを飛び越えるとまた同じように電撃で階下へと落としていく。
そうして最上階まで辿り着くと、一度立ち止まり手を階段につける。
「とりあえずはこれで――」
地上から砂鉄を束ねて持ち上げ、階段を切断。
どれだけの負債になるのか考えたくはないが、追って来られるよりはマシだ。
「一安心ですね」
落ちていく階段を一瞬だけ見つめ、また走り出す。
非常口を開ければ、子どもたちが眠る病室まで一直線の通路。
他のルートから駆動鎧はまだ上がって来ていない。
02が上手くやってくれているようだ。
「私も私の仕事を・・・・・・!」
再び電気を身体から発し、
「果たすッ!」
病室の扉を吹き飛ばした。そして――
「――武装を解除し、投降しろ」
「漸く本命登場か、検体番号――10000でいいのか? それとも20000か?」
病室には頭から血を流し、肩で息をする03。
03を守るように立つ木山春生。
木原数多に銃を向ける20000号。
笑みを浮かべ、20000号を見る木原数多。
眠り続ける子どもたち。
「木原、数多・・・・・・」
「俺のことを知ってんのか? ――まあいい、お互い、もう計画とは無関係だしな」
突きつけられた銃口に物怖じすることなく、木原数多は笑う。
何故木原数多が、という疑問が20000号の頭を過ぎる。
「ああ、俺は別に身内の誼で此処まで来たわけじゃねえ」
「ッ――」
把握されている、自分たち妹達の思考パターンを。
「多少、テメェらの心情に変化があったところで何も変わらない。お前らはお前らのままだ。整頓された脳構造ってのはこっちとしても解りやすいもんなんだよ」
――レベル5に至ったところで、それは借り物の力。『自分だけの現実』ではない。
その力を振るう、20000号自身はまだ変わって――いない。
それでもいいと思った。任務を果たせるなら。
だが、これでは不可能だ。
「キャパシティダウンをぶっ壊したテメェの電撃――ありゃあ超電磁砲だな? ってことはレベル5相当・・・・・・幻想御手を使った時に触れた他者の『自分だけの現実』、その利用か。普通の妹達には思いつかねーだろうな。だがテメェ自身は何も変わってねえ」
「・・・・・・随分お喋りなことですね。状況を把握しているのですか?」
「テメェの銃弾なんざ、この距離でも十分だっつーの」
コツコツコツ、と数多は自身に向けられた銃口へと自ら近付く。
その距離はもう1メートルもない。
「だけど何だか萎えちまった。お前らみたいな奴が一方通行にケチをつけたなんて、お笑い草だ」
――結局、俺が木原足り得なかっただけかよ、と吐き捨てるように言って、数多は20000号の眼を見つめる。
「・・・・・・獲物を前に舌なめずり。三流のすることですね」
「自分が獲物ってのは理解してんだな」
理解はしている。
自分は今、圧倒的な強者と相対していると。
だがただの獲物のままで終わる気はない。
「――一つ、言っておきます」
少しでも噛みついて、あわよくば退かせる。
「私を殺せば、あなたも終わりです」
「・・・・・・あ?」
「私たちは妹達とは違う。それはあなたが言ったことです。“私が死んだ後の2人がどういった行動に出るのか”あなたに想像できますか? ――私には出来ない」
ハッタリだ。自分にはありありと想像できる。
自分が死んだところで何も2人は変わらない。
「――はっ」
それを聞いて数多は愉しそうに顔を歪めた。
「なら、お前はどうなんだ? 俺があいつを殺せば、お前はどうなるんだ?」
「――ッ」
満身創痍の03を一瞥し、意地悪く笑う。
「教えてやるよ。“お前は何も変わらない”俺があいつを殺してる隙にどうしようか考える、それがお前らだ。そういう風に出来てんだよ、お前ら妹達は」
「・・・・・・そうですね。それが合理的だ」
力無く、銃を下ろす。
俯き、呟く。
「――そんな自分は嫌だから、そんなことはさせない」
数多と20000号、2人の間で電気がバチッと鳴り、その光が一瞬の眼くらましになる。
「言ったはずですよ。獲物の前で舌なめずり、三流のすることだと」
その隙に数多の脇を抜け、03と木山春生の前に立つ。
「軍曹・・・・・・」
「これだけタメてから出てきておいてあっさりとやられるのは、少し恥ずかしいですから」
「――それは、同感ですね」
その言葉に03は笑い、自分の力で立ち上がる。
――数多の誤算はやはり20000号の存在。
曖昧だった彼女の感情を、布束砥信との会話でハッキリと自覚したこと。
もう自分でも抑えられない程の感情を彼女が抱えていたこと、それが数多の誤算。
「・・・・・・はっ、やっぱり違ぇ」
未だ笑みを崩さずに数多が振り返ると、3人の間に人が飛んで来る。
「ぐ・・・・・・ッ!」
03と同じようにボロボロの姿の――02。
「5分弱、か。1人であの数相手にそれだけ保ったなら、及第点は上げられそうです」
「・・・・・・? これは、軍曹、殿。いつ、お帰りに?」
苦しげに顔を歪め、02が尋ねる。
「任務中だ。余計なことは考えなくていい」
「それも、そうですね。――しかし相変わらず軍曹は厳しい。これでやっと及第点ですか」
苦笑いしているような表情で何とか立ち上がる。
「お前は私の信頼に応えてくれた。十分だ」
「――数は残り20程度。紫の駆動鎧がリーダーです」
どこか嬉しそうに報告。
半分とまではいかないまでも、その数は随分と減っている。
「何だ、かくれんぼは終わりか――?」
独特の駆動音を立て、槍を持つ紫の駆動鎧を先頭に、駆動鎧の部隊が病室へと入って来た。
――漸く、役者は揃った。
「何チンたらやってたんだ数多ァ! 死んでねぇじゃねーか! ったく、おい、とっととこいつらを片付けろ」
その号令に駆動鎧を纏った者たちがゆっくりと歩き出す。
「いくらケガを負っても、此処では死ねない。――私とゲコ太殿が死なせてやらない、いいな?」
「sir,Yes,sir!」
「sir,Yes,sir!」
あとがき
展開が早い・・・。が目をつぶっていただきたい。
後二、三話でこの章は終わりです。