白刃が斬り裂く、磁力狙撃砲が撃ち抜く、超電磁砲が駆動鎧を薙ぐ。
既に彼女たちにとって駆動鎧はただの獲物に過ぎない。
木原数多に20000号の動きが読めずとも、19998号と19999号には手に取るように分かる。
それも道理だ、彼女たちは最早3人きりの姉妹なのだから。
「こ、の・・・・・・モルモット共がぁぁあ!」
数多に読めないものがテレスティーナに読めるはずもなく、彼女もただ部隊が蹂躙される様を見ているしかなかった。
「――はッ!」
無粋なコールサインも必要ない、そんなモノは必要ない。
誤射などするはずもなく、弾丸は敵に吸い込まれていく。
爆発。爆音。爆熱。爆風。
此処が室内だと忘れてしまいそうな目まぐるしい環境の変化。
だがそれでも木山春生と子どもたちに被害は出ていない。
――そんな中、木原数多は考える。
(・・・・・・どうしたもんかね、こりゃあ)
もう木原数多の20000号たちに対する興味はない。
当然だ、彼の興味の対象は実験動物としての彼女たちであり、人間とそう変わらない今の彼女たちに興味が湧くはずもない。
彼としては家に帰って眠りたいところだが、彼の頭脳はそんなことをしたらテレサに背後から撃ち抜かれる、という結果を弾き出している。
(――なら、テレサを潰すか)
そして彼の頭脳がそう決断するのは当然のことと言えた。
テレスティーナ=木原=ライフラインは考える。
(クソッ、クソッ、クソッ!)
否、それは思考というにはあまりに乱雑なノイズ。
彼女にとって今の状況は想像の範囲外だ。
相手がオリジナルならば部下たちが歯が立たないのもまだ理解できる。
だがしかし相手は本来、そのオリジナルの数%の力しか持たない劣化コピー。
それが3匹集まったところで何故こうまで押されている?
(・・・・・・クソッ!)
知らず知らずの内にテレスティーナの手が体晶の1stサンプルを握りしめる。
これを使ってレベル6を生み出す権利を得た、被験者となる能力者も見つけた、だというのにこれでは――。
「――くっくっくっ、分かったよ。もういい」
彼女の頭脳が弾き出した結論。
「テメェらモルモットは全員まとめて、建物ごと吹っ飛ばしてやんよ・・・・・・!」
それはあまりにも軽率なものだった。
しかしそれが、木原を木原たらしめているもの、なのかもしれない。
◆◆
数分の攻防の果て、テレスティーナと数多を残し、侵入した部隊は全滅した。
彼らが残ったのはストーリー上の関係などではなく、単にテレスティーナは1stサンプルの確保のため、数多は手を出してただで済む相手ではないと理解していたからに過ぎない。
「――こいつはテメェらのオリジナルの能力を解析して作った。オリジナルの超電磁砲より強力になぁ!」
先に動いたのはテレスティーナ、槍を構え、苛立ちを隠そうともせずに宣言する。数多は依然、動こうとはしない。
それは20000号たちにとっては好都合。
「・・・・・・あなたはそれで私たちを倒せると本当に思っているのですか、と03は虚を突かれたように尋ねます」
「思っているからああも堂々としているのでは? と02は笑いを堪えながら言います」
あからさまな挑発。
普段のテレスティーナならば一蹴していただろう挑発。しかし相手が人間以下のクローンであることも重なり、テレスティーナの怒りは頂点に達した。
「その喋り方が気に入らねぇんだよぉぉお!」
その怒声と共に20000号たちとその後ろの子どもたちに向けられた槍が駆動し、展開していく。
「――対ショック!」
「sir,Yes,sir!」
「sir,Yes,sir!」
テレスティーナのレールガンにエネルギーが充填されていくのを見ながら20000号は指示を飛ばす。
その指示を得て、2人はすぐに後ろに下がり、木山春生を伏せさせる。
そうして、テレスティーナと20000号は相対した。
「あまり発射まで時間がないようなので一つだけ」
「あぁん?」
余裕を崩さないその態度にテレスティーナが唸る。
それを尻目に20000号はどこに隠していたのか、“弾丸”を袖から取り出す。
「超電磁砲はオリジナルの代名詞ではありますが、決して最強の切り札などではない、と私は思っています」
ピン、とコインと同じように弾丸を親指で弾く。
「――ですから、たとえあなたの一撃を防いだところでオリジナルを超えたことにはならないのが不満ですね」
「――ふざけてんじゃねえッ!」
同時に弾丸は放たれ、中空で拮抗。
――だがそれも一瞬。
次の瞬間には20000号の弾丸がテレスティーナのレールガンを吹き飛ばし、彼女の体へと直撃した。
「それにただの学生であるオリジナルが専用の弾丸を持っているはずもありませんし、たとえあなたやオリジナルに勝ったとしても超えたことにはならないんですよね」
それだけ言って、20000号はオリジナルよりも長い髪を少し鬱陶しそうに後ろに回す。
・・・・・・テレスティーナは駆動鎧の存在と1stサンプルの存在を憂いた20000号の加減もあり、病室の壁に激突し、壁を穿つだけに留まった。
「――っ」
テレスティーナの無事を見届けると、20000号は膝を突く。
やはり能力の乱用による“電池切れ”はオリジナルはおろか、02や03よりも遥かに早い。
分不相応な力を求めた代償なのだろう。
オリジナルが血の滲む努力の果てに到達した場所に軽々しく踏み込んだ罰。
(――これから追い越すまでです。・・・・・・これからがあれば、ですが)
乱れた息のまま顔を上げ、木原数多の姿を探す。
――――居た。
テレスティーナに歩み寄る人影、木原数多以外の何者でもない。
(立たなければ)
その思いとは裏腹に体は動かない。
(立たなければ)
無駄な努力を繰り返す20000号の前に、02と03が立つ。
・・・・・・こんな時にまで彼女たちが何と言おうとしているのか分かる、姉妹の繋がりが憎らしい。
(・・・・・・後は任せる他ありませんね。まったく、格好がつかない・・・・・・)
それでも、崩れ落ちそうになる体を支えることだけはやめなかった。
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病室はアニメ版の最終決戦の施設を思い浮かべてください。
呆気なくテレスティーナ撃破。木原くンがいるとどうしてもかませ感が拭いきれない。
次回で終了の予定です。
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修正しました。