八月二十二日
あの事件から数日が過ぎ、後は子どもたちの完全な快復と木山春生の保釈(現在、カエル顔の医者による手回しが行われている)を待つばかりである。
――数日。
その数日の間に、彼女たちの、妹達の世界は大きく変わった。
無能力者による、超能力者の打倒。
最弱による、最強の打倒。
それにより実験は凍結、妹達の多くは一旦分けて病院や研究施設に収容され、さらにそこから世界中の機関に散らばり治療と調整を受けることになった。
当然、彼女たち3人の拠点である病院にも数人、回されている。
しかし彼女たちにとってそれよりも重要なのは同じくこの病院に入院している、一方通行を打倒した無能力者、上条当麻の存在である。
ちなみにオリジナルをファック云々のやり取りは既に終えた。
――で、今はその延長。
「それで、昨日の今日でいきなり私が此処に連れて来られた理由は何なのよ?」
「いや、その何と言いますか・・・・・・」
ベッドに背を預ける上条当麻が腕を組む御坂美琴の視線に耐えかねて、視線をズラす。
その視線の先には御坂美琴と同じ顔をした少女が2人。
しかし1人はハッキリとした差違がある。
まずは服装。妹達に支給された常盤台の制服ではなく、黒いインナーに迷彩柄のジャケット。同柄のズボンに軍足。
次に髪。機能性を重視した服装とは裏腹に腰の辺りまで伸びた髪(体の調整の関係で二週間ほどでさらに伸びた)。それを結ぶでもなく、ただ流していた。
「えーと・・・・・・」
何と言ったら良いものか、と思案する上条当麻に助け船が出される。
「彼女の肉体は10000号のもので精神は20000号のものであり、彼女と19997号、19998号、19999号を加えた4人は番外個体(ミサカワースト)と呼称される個体です、とミサカはミサカの知り得る範囲で説明します」
番外個体、或いは除外個体とも言えるだろう。
その紹介を気にした様子もなく、20000号は一歩前に出て、見事な敬礼と共に名乗る。
「――あまり名乗る意味はありませんが・・・・・・ミサカ20000号であります。はじめまして、オリジナル。・・・・・・とはいえ番外である私の他に正式な20000号が存在しているでしょうが」
初めての対面。
この章でやるなよ、とか言われそうな場面である。
20000号の態度に少し気圧される上条当麻と御坂美琴。
「今回あなたをお呼び立てしたのは私であり、この場にあなたと彼女――御坂妹にも立ち会ってもらいたく此処に同席してもらいました」
「・・・・・・そう」
他の妹達ともまた違った堅苦しい喋り方だなぁ、などと思いつつも御坂は頷く。
「私が問いたいのは二つ。実験中止の――いえ、一方通行敗北の真偽と上位個体の居場所です」
「・・・・・・? 実験が中止になったってのは俺も御坂妹から聞いたし、それにお前らはミサカネットワークってので繋がってんだろ? なら――」
一方通行をぶっ飛ばした瞬間を知ってるんじゃないか、と上条は続けようとしたがそれよりも早く20000号が首を振り、御坂妹が補足する。
「彼女たち番外個体はネットワークに接続していません、とミサカは補足します」
その代わりのネットワークに19997号以外の3人は接続しているのだが、20000号はその事実は伏せる。
「上条当麻。あなたの右腕については聞きました。今の質問は一応の確認です。それと・・・・・・ありがとう、ございます」
そう言って頭を下げる。
20000号は上条当麻がどういう人物なのかよくは知らない。
一方通行との戦闘の際、多くの妹達を動かしたという声も姿も知らない。
しかし、実験中止という形で妹達の実験動物としての価値を奪った彼に伝えるべき言葉は知っていた。
「ん・・・・・・」
照れくさそうに上条は頭をかく。
「で、もう一つは?」
照れくささを隠す意味も込めて、上条は頭を上げた20000号を促す。
「いえ。次はそちらがどうぞ」
「?」
「次はそちらのターンです。何なりとお訊きください」
変なところに拘るなぁ、と思いつつも上条は何を訊こうかと考える。
「――では僭越ながらここは私から。軍曹のスリーサイズを――――ぐぇふ!」
言い切る前に声の主に蹴りが入った。
声の主が何処に居たのかと言うと、ベッドの下。
御坂美琴や御坂妹、20000号と同じ声がベッドの下から聞こえた。
「お気になさらず」
別に彼女に聞かれて困る話でもないと、ベッドの下の彼女を放置して20000号は話を進める。
「え、いや、今のは・・・・・・」
「お気になさらず。それよりも私のスリーサイズが気になるのなら、上から――」
「ってコラぁぁぁ!?」
「・・・・・・痛いです、オリジナル」
話を逸らす為に淡々とサイズを読み上げようとする20000号の頭に衝撃が走った。衝撃というかツッコミが入った。
御坂が上条ではなく別の相手に手を上げるというのは大変珍しい光景だったりする。
「何を言おうとしてんのよっ、あんたは!」
「何か問題が?」
「大有りよっ!」
この辺りが木山春生の生徒らしいところ、なのかもしれないがそれを御坂が知る由はない。
ガクガクと御坂に首を上下に揺らされながら20000号は上条に問う。
「この質問はタブーのようなので、違うものでお願いします」
「あ、ああ・・・・・・何だろう、上条さんは調子が狂います」
御坂とも御坂妹とも違うキャラに少々たじたじな上条。ちなみにベッド下の何かはスルーすることにした。
「もういいわ! 私から質問してあげる!」
「・・・・・・好きにしてくれ」
◆◆
上条当麻の入院する個室の上の上、屋上に子どもたちと19998号――シスター03の姿があった。
日の光を眩しそうに手で遮りながら、19998号は子どもたちを見る。
車椅子に乗った患者服の子どもたちと、ロケットを首にかけた少女、金髪ツインテールの少女。
「――クローンのお姉さん」
見ているだけのつもりが、金髪ツインテールの少女に話しかけられる。
「生きている時間で言えば、あなたたちの方が何十倍も長いです。ですからお姉さん、という表現は間違っています」
クローンという言葉には何も言わず、お姉さんの部分の訂正を求める。
「じゃあ何て呼べばいいのさ、クローンのお姉さん」
「好きなように。ミサカでも検体番号でもフェラ豚でも好きなものをどうぞ」
「・・・・・・」
最後のでドン引きだった。何か変なことを言っただろうか、と19998号は思う。
「・・・・・・ミサカのお姉さんは」
姉は変わらないのか、と思いながら金髪ツインテールの少女の言葉に耳を傾ける。
「これからどうするの?」
「任務を続けます」
とりあえずは木山春生が戻ってくるまで子どもたちの護衛と、その後の上位個体の確保までが任務だ。
その後のことはまだ分からない。
また新しい任務が始まるのかもしれないし、そうではないかもしれない。
「それだけ?」
「いえ――」
19998号の言葉に少女は意外そうに目を細める。
「まず、オリジナルを超えます。次に、一方通行を倒します。後は――分かりません」
簡潔な言葉に簡潔な目的。
思わず少女は笑った。
「だったらその次に、私たちを倒さないとね」
「――?」
「私は絆理お姉ちゃんたちとレベル5になる。その次にレベル5を超える。だから」
次は私たちを倒さなきゃ。
何が楽しいのか笑う少女を見て、どうやったら倒せるか考える。
木原数多やテレスティーナに比べたら容易く倒せそうな少女を見て、今はまだ倒せそうにないと気付く。
「それはお互い、卒業してからにしましょう。今あなたを倒したら、先生に怒られます」
「あはは――そうだね」
当然のように言う19998号に少女は笑い。
19998号もうっすらと笑った。
「ですがあなたの闘い方には興味があります。それを学ぶくらいなら問題ないでしょう」
「・・・・・・叔父さんに負けたの、根に持ってるんだね」
すぐに無表情に戻った19998号を見て、少女の笑みが苦笑へと変わる。
それから、ボロボロになった2人が戻ってきた木山春生――先生に怒られるのはまた別の話。
「それでは、私は病室に戻ります」
そろそろオリジナルの友人が来る頃でしょうし、あまり場をかき乱したくありません、と言って19998号は踵を返す。
それに少女も同伴しようとして、止められた。
「友人は大事にするものと教わりました。だからダメです」
またしても予想外な19998号の言葉に足を止め、少し照れくさそうにそうだね、と呟いた。
「それにそろそろ02を回収しなくては」
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第1話は一発ネタのつもりだったのでパラレル扱い。似たようなやり取りがあったと思ってください。
しかしギャグにできない・・・
ふもっふという名の幕間だと思ってください。
後書き方少し変えてみるテスト。
19997号の伏線と19999号のパワーアップフラグの回。
ちなみに彼女たち番外個体の意味は原作のミサカワーストとは異なり、サードシーズンとも無関係です。
ただ研究者たちが便宜上の呼び名として付けただけで、字面がピッタリだったので使用しました。
次回から打ち止め編。
で、以下キャラ紹介。
ロケットをかけた少女こと春上衿衣についてはwikiで事足りるでしょうが、金髪ツインテールは不十分だと思うので一応。
木原那由他
金髪ツインテール+赤ランドセルの先進教育局、特殊学校法人RFOの小学生ジャッジメント。さらに体の70%は人工物という色々な属性持ち。
自らを体晶の実験体として差し出すドM(違
その他実験の関係上、枝先絆理や布束、さらには滝壺とも面識ありのフラグっ子。
能力は体晶を用いずに能力を暴走させ、AIM拡散力場を見たり触ったりできる。が、このSSでは恐らくマトモに使われることはない。
木原数多の姪にあたる・・・・・・はず。
また木原真拳の継承者だったりもする。
夢は欠陥品と蔑まれる置き去りの子たちとレベル5になること(那由他の能力は絆理たちの実験の産物のため)。
御坂美琴や白井黒子、常盤台の寮監、削板軍覇との面識もあり。
偽典・超電磁砲のキャラクターで、このSSでは偽典も正史扱いです。