「――」
一方通行は倒れていた。
瓦礫の中に“無傷”で。
(なンだ? 何をやりやがった?)
一方通行は理解できない。
何故、自分が倒れているのか。
傷がない、ということは反射の鎧が破られたわけではない。
では何故倒れている?
「・・・・・・あァ?」
立ち上がった一方通行が見たものは血溜まり。
赤く染まったヒトガタ。
(・・・・・・違ェ。これは“アレ”の傷じゃねェ)
辛うじて人の形を留めている20000号を見下ろし、一方通行は思考する。
最後の一撃が反射して、それに直撃したならば人の形を留めてはいない。
アレはこの程度で済む威力ではなかった。
「ぁ・・・・・・っ・・・・・・」
「オイ、最後のアレはなンだ?」
虚ろな目で喉を震わした20000号に一方通行は尋ねる。
(・・・・・・ああ、綺麗ですね)
20000号の目には既に一方通行は映っていない。
ただ星空が見えるだけだ。
「・・・・・・ッ!?」
安らかな表情を浮かべる20000号の折れた左腕を躊躇なく一方通行は踏みつける。
「オォイ、聞こえてますかァ?」
「ッ・・・・・・っは、聞こえ、て、います、よ。ディック」
何とか目を動かし、一方通行の言わんとしていることを読み取る。
まったく、耳が聴こえないことがここまで不便だとは思わなかった。
これではロクに星空も眺められない、と心中で毒吐くが実際の空は黒雲に覆われ、月も星も見えはしない。
「私にも、何が起こったのか分かりません。あなたのその表情を見るに、悪足掻きが実を結んだということでしょうか・・・・・・?」
「はッ、これのどこが実を結んだって言うンだ?」
「そうですね。そうかもしれません・・・・・・あは」
「笑ってンのかァ? それは」
一方通行には血まみれの少女が口を半開きにしているようにしか見えない。
「とりあえず後のことはお任せします。所謂煮るなり焼くなりというやつです」
「そォかよ」
あの力について知らないならば、一方通行とて20000号に用はない。
これまでの妹達や馬鹿達と同様、挑んできたなら殺すだけ。
「――その必要はありません、とシスター02は被験者を止めます」
「――その必要はありません、とシスター03は被験者を止めます」
そんな一方通行を、2人のステレオの声が止めた。
「オイオイ、こいつは実験とは関係なくケンカを売ってきたンだ。テメェらの出番はねェよ」
「ならもう止めてください。これが実験でない以上、あなたが彼女を殺害する理由はないはずです、とシスター02は再度お願いします」
「――だからよォ、これはテメェらの出る幕じゃねェっつってンだろォが」
鬱陶しげに2人を見て、面倒くさそうに一方通行は右腕を振るった。
「――!?」
「――!?」
その動作だけで2人の身体は宙を舞う。
「・・・・・・その2人こそ関係ありません。ディック、お願いします、彼女たちは――――ッ!」
「うるせェよ」
今度は左足。
身体と繋がっているのかどうかすらも分からない激痛が20000号を襲う。
「まァテメェらみたいな雑魚を実験以外で相手にすンのも面倒だから、見逃してやるよ。とっとと消えな」
(あ・・・・・・よかっ、た・・・・・・)
激痛に苛まれながらもそれを知り、再び穏やかな気持ちが20000号に芽生えた。
「しか、し・・・・・・実験以外で妹達を失うのはあなたにとってもデメリットしかありません、とシスター03は・・・・・・?」
不自然に19998号が言葉を途切れさせる。
(ネットワークに強制接続・・・・・・? これは・・・・・・!?)
「あン?」
「最後の力を振り絞り、彼女をネットワークに接続しました。ネットワークを介した能力の応用です」
えへんと胸を張ろうとするが、その力も残ってはいない。
「・・・・・・・・・・・・20000号を九八一二次実験の個体と認定したそうです、とシスター03は報告します」
「ほォ。なら掃除はテメェらがやってくれンだな」
「・・・・・・はい、とシスター03は肯定します」
そォかよ、と一方通行は笑い、足で20000号の頭を――――
「・・・・・・さようなら」
――――踏み潰した。
九九一二次実験終了。
◆◆
「私が新たに教官として着任したミサカ19997号であります! とミサカは胸を張って宣言します」
あれから。
実験の後片付けを行って戻った2人を待っていたのは新たな教官。
彼女たちの役割は何も変わらない。
ただ強くなり、殺されていくことだけ。
「返事はどうした! とミサカは怒鳴り散らします」
「・・・・・・02、訓練の後に話がありますとシスター03は教官を無視しつつ提案します」
「02、了解。と教官を無視しつつシスター02は快諾します」
変わらない、はずだった。
◆◆
「幸い軍曹と私がネットワークに接続したお陰で記憶の共有が出来ました。後は容れ物さえ確保できれば問題ありません」
「それは明確な反逆行為であり、軍規違反でもありますが?」
「罰はいくらでも受けましょう」
「なら問題はありませんね」
以前よりも大分ヌルい訓練を早々に切り上げ、19999号と19998号は研究所の一室で密会していた。
勿論、監視カメラの類にはダミーを流してある。
「“痴女”の方は私が適任でしょう。03は“容れ物”の確保を」
「元よりそのつもりです。そちらの作戦が成功次第、すぐに実行に移ります――――本当に良いのですね?」
「愚問ですよ、シスター03。罰は後でいくらでも受けます。受けられるものならば」
そうですね、と03は頷き、銃器の点検を始めた。
(一方通行の能力、上位個体、絶対能力進化、妹達。分からないことばかりですが、大した興味は今はもうありません。今はただ、軍曹を取り戻すだけです)
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やはり死亡フラグは折れなかった20000号。
しかし発生する生存フラグ。
次回、幻想御手編クライマックスです。