八月一日
「――で、またあなたたちですが」
「はっ、申し訳ありません!」
「病院で大きな声を出さないっ!」
もうお決まりの光景となった、婦長に叱られる3人の少女の姿。
「何度も言ってるでしょう? 病院にこういうオモチャは持ってこないようにって」
「いえ、それはオモチャなどではなく――」
「黙らっしゃい! とにかくこれは没収します」
「あ・・・・・・」
また今日もいつものように、銃器を婦長に没収される少女たちの姿がそこにはあった。
「これは由々しき事態である。今日、此処に来てもう十二丁目の拳銃を婦長に奪取されてしまった」
「軍曹、銃の他にも地雷や携帯対物ミサイルなど、ただでさえ数の少ない武器が没収されています、と03は被害を報告します」
「ふむ・・・・・・」
彼女たちに与えられた病室で真剣な表情で会議が行われていた。
ちなみに19998号こと02は別件(軍曹の寝込みを襲おうとした)で婦長に叱られている。
「匿ってもらっている以上、あまり文句は言えないが、仕掛けたトラップの類も除去されるのは看過できない。敵の襲撃に備えは必要だというのに」
「敵の襲撃の前に、僕の患者たちがトラップにかかってるんだけどね?」
「っ、これはゲコ太殿! 敬礼!」
病室に入ってきたゲコ太ことカエル顔の医者が呆れたように言う。
軍曹たちは彼に恐縮しながらも一糸乱れぬ敬礼をしてみせた。
「特に下の階の“彼”なんて、一日一回のペースで引っかかっているんだよ?」
「む、地雷の減りが凄まじいのはその人のせいでもありましたか」
時折外から聞こえる、不幸だー! という叫びを思い出して納得。
ギャグだもの、地雷程度で人は死にません。
「というか君たちのせいだよね?」
「これは必要なことなのであります」
20000号の態度に少し呆れて嘆息するカエル顔の医者。
些か彼女たちは常識に欠ける。
「それはそれとして、今日は君に少し話があってね?」
「はっ、何でありましょうかっ?」
◆◆
20000号はカエル顔の医者と共に別室へ。
「――」
「・・・・・・何をしてるんだい?」
「盗聴器の類がないか確認を――大丈夫、問題ありません」
無表情で言う20000号だが、本人は至って真剣である。
「それで、話とは?」
「君たちの先生を、木山君に頼もうと思ってね?」
・・・・・・。
(先生? つまり教官。木山春生が私たちの教官? 身体能力は私たちの方が上で、従軍経験のない彼女が教官・・・・・・もしや隠されたデータがあった? いやしかし彼女の身のこなしは素人のそれ・・・・・・まさかそれもフェイクっ!?)
「あー、何やら考え込んでいるところすまないけど、君の想像しているものとは違うと思うよ?」
無表情な20000号の瞳に鋭い光が宿り始めたところで、カエル顔の医者は声を掛けた。
「ミサカネットワークから切り離された君たちに必要なのは、最低限の常識なんだね?」
「はっ・・・・・・?」
「君たちがテスタメントで学習したのはほとんど戦いの知識だけだね? 以前までならネットワークで知識を共有できたいたけど、今は違う。これからのためにも必要なことだね?」
「いや、しかし我々は・・・・・・」
「必 要 な こ と だ ね ?」
「はっ・・・・・・はっ! 了解であります!」
有無を言わせぬ謎の迫力に気圧され、20000号は見事な敬礼でそれを了解したのだった。
◆◆
「我々の教官となった木山春生殿に敬礼!」
(結局、押し切られてしまった・・・・・・)
木山春生は目の前で敬礼する3人を見て思う。
彼女はカエル顔の医者に教師役を頼まれた時は断るつもりだった。
もしもこれが全て終わってからだったなら間違いなく引き受けただろう。
だが、今はまだ何も解決してはいない。
子どもたちの治療は順調だが、目覚めるには今しばらく掛かるし、実験失敗の原因の究明も、自らの罪を償ってもいない。
そんな自分が再び教鞭を執るなど・・・・・・と彼女は考えていたのだが、匿ってもらっている身であることと、カエル顔の医者の謎の迫力が合わさり、結局引き受けてしまったのだ。
(だが・・・・・・思い出すな、あの頃を。引き受けてしまった以上、やれることをやろう)
「――私が今日から君達の担任になった木山春生だ、よろしく」
「はっ、よろしくお願いいたします!」
「よろしくお願いいたします!」
「よろしくお願いいたします!」
・・・・・・何か違う。
そんな疑念が頭を過ぎるが、木山春生は昔を思い出して次の行動に移る。
「では自己紹介を――」
と、言ってから気付いた。
(・・・・・・私は彼女たちを何と呼べばいいんだ? というか彼女たちは何と自己紹介するんだ・・・・・・?)
「はっ! では僭越ながら私から――――検体番号 20000。ミサカ軍曹であります!」
「・・・・・・終わりか?」
「はっ!」
・・・・・・やっぱり違う。
「検体番号 19999。ミサカ一等兵であります!」
「検体番号 19998。ミサカ一等兵であります!」
・・・・・・全然違う。
「はー・・・・・・」
・・・・・・先が思いやられる。
「まずは自己紹介の仕方から、か。まったく手の掛かる・・・・・・」
そう言って頭を抱える木山春生の瞳はどこか優しげだった――。
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頑張って書いた日常パートがこれだよ!
木山せんせーかわいい。
以下、説明というなの言い訳。
この時点でもう、幻想御手を用いたネットワークはほぼ木山春生の手を離れています。
幻想御手の改良により、脳波はミサカたちので一定しており、ミサカネットワークとの混線を避けるために木山春生を通して電波を飛ばしている感じ。
偽ミサカネットワークとはいえ、木山春生が接続したら頭があぼーんなので、ゲコ太が一方さんに作ったような装置を身につけてもらっています。
一方さんのとは違って演算補助等はできないし、幻想御手制作者の木山春生がいればこの時点でも作れるかなーということで、ネットワークの問題は解決しました。