プロローグあるいは後日譚 ここは学院長室。 学院の統括者の部屋。……実際は色ボケ爺の居城である。「はー、どっかに美人秘書でも落ちてないかのう」 おおむね毎日がこんな調子である。「適当にかどわかして来ればいいじゃないか。オールド・オスマン」 そこに茶々を入れる杖が一振り。まあ、私のことなのだが。◆ 蜘蛛の糸の繋がる先は 0.プロローグあるいは後日譚◆ このハルケギニアにはインテリジェンス・ウェポン――“意思を持つ器物”なるものを作る技術がある。 今はもはや失伝しつつある技術ではあるが、その産物はいたるところに存在する。 人間が意識していないだけで、地表全ては既に我々インテリジェンスアイテムのネットワークによって掌握されつつあるのだ。 インテリジェンス・スタッフ……いや、インテリジェンス・メイスである私もそのネットワークを担う一員である。 銘を〈ウード169号〉、あるいは単に〈169号〉とも言う。 製作者の名前と製造番号からそう言われている。 もうちょっとこう、そのネーミングセンスはどうにかならなかったのかと常々思う。 何百年もこの名前に付き合うことを想定せずに付けたらしいが、わが製作者ながら迂闊だ。あるいは嫌がらせかもしれない。 まあ、同類があと168本あることを考えれば少しは慰めになるか。「いやさ、ウード君、その短絡的な発想はいかがかと思うぞい」「これまでだってやってきたことじゃないか、オールド・オスマン。 悪辣貴族のその腕から哀れな平民の娘を助け出し、匿っては生きる術を与えてきただろう。 まあそれも、多少の義侠心と多大な下心からだろうが」 むしろ100%下心だろう、この爺の場合。「それの何処が拐かしてることになるのかのう」「誘拐は誘拐だろうが。 まあ、しかし一時期は虐げられる平民の希望の星だったじゃないか、“鼠小僧”。 実際に役得もあったんだろう?」 一時期はこの爺も義賊なんて呼ばれていたものだ。 だが、助けた娘に恩義を売ってそれを切っ掛けに、あんなことやこんなことをして楽しんでいたのを知っているぞ、オスマン。 そして未だそっち方面でも現役であることも。「もう二百年も前の話を蒸し返さんといてくれい。 おぅおぅ、モートソグニルや、このかわいそうな爺を慰めてくれるのかね。 それナッツをやろう」 そうして、机の下から出てくる白鼠。「2つかのう?3つ?……この食いしんぼさんめ!!」 すばやい動きでオスマンの手から投げられたナッツを咥える鼠はオスマンの使い魔であるモートソグニル。 昔はこの鼠の曾々々々々々々々々々々……祖父さんにあたる鼠と一緒に暴虐貴族の屋敷に忍び込んでは暴れまわったものだ。 モートソグニルが屋敷を調べ、私とオスマンの魔法が貴族を粉砕する。 抜群のコンビネーションであった。 私〈ウード169号〉は『偏在』の魔法を補助することを目的に作られた魔道具である。 どっかの〈地下水〉とかいう暗殺ナイフと違って、平民でも魔法が使えるようにしたりはできないが、私を杖として契約すれば、風のスクエアでなくても、どの属性でもライン程度の能力があれば偏在の魔法を使うことができる。 『偏在』の魔法を使うのに必要なイメージの部分を私が肩代わりすることで、実際のランク以上の魔法を使えるのだ。 いわんや、かの『偉大なる』オスマンが私を使えば、文字通りのワンマン・バタリオン(一人大隊)も不可能ではない。 レミングスのように圧倒的な人数で屋敷を襲って、短時間に荒らし尽くしてすぐに撤退する。 ああ、華麗なる日々。ついたあだ名が義賊“鼠小僧”。ああ懐かしい。 地中に張り巡らされたネットワーク状のインテリジェンスアイテムを通じて、私が意識を移動させれば、他の同類のインテリジェンスアイテムと同調して、例えば宇宙からこのハルケギニアを見下ろせるし、海中遊泳だろうが、マグマの音を子守唄にうたた寝することだって出来る。 このハルケギニアで『ウード』シリーズが知れない情報は無い。 なにせ、このハルケギニアの、いや世界の全てを知りたいと願ったメイジが作り出したのが、この『ウード』シリーズなのだから。 地中、海中、空中、宇宙……いたるところに『ウード』シリーズやその端末は存在する。 そしてこの学院……ハルケギニア最初の総合『私立』学院である私立ミスカトニック学院は、彼の願いを継ぐ研究者を養成する場所である。 国のためでもなく、始祖のためでもなく、ただ、世界の理を探求するための組織。 財力も政治的影響力も武力もずば抜けて所持するくせに、それを世界を分析するためにしか用いない組織。 逆に言えば、その障害となる全てを、財力で、政治力で、武力で捻じ伏せて進んできた組織。 全てが『始祖の恩寵』で片付けられていた世界に科学を持ち込んだ、最初にして最大の異端。そしてこの学院の創立者。 私たち『ウード』シリーズの製作者にして、このオスマン老の恩人。 ウードシリーズの最上位『ウード零号』に魂を転写し、今もハルケギニアの何処かで知識の蒐集を続けている、好奇心の亡者。 矮人と異形と蟲の軍団を従え、邪教を崇拝した狂人。 その、ウード・ド・シャンリットは今から遙か千年前に、あふれ出る好奇心と、ここではない何処かの知識を持ってこのハルケギニアに生まれたという。=================================開いて下さってありがとうございます以下、注意書きです。ジャンルは世界観クロスモノ。「ゼロの使い魔」×「クトゥルフ神話TRPG『クトゥルフの呼び声』」です。暫くはクトゥルフ要素は出てきませんが。本編より外伝の方がクトゥルフ色濃い目です。あと外伝は基本的に一話完結です。時間軸はルイズ達が活躍する1000年ほど前から始まります。転生モノ、テンプレ、内政系、最低系要素を含みます。あと邪気眼要素。暗黒神話要素、ダーク系、グロテスク描写、蜘蛛とか蟲が苦手な人は避けたほうが良いかも知れません。生理的に受け付けないという人も多いかと思います。独自解釈や独自設定もそれなりに登場します。現在、第一部(ウード(第一部主人公)の死まで)完結。第二部の原作時間軸編を投稿中です。原作時間軸編だけ読みたい人は、[29] 第一部終了時点の用語・人物などの覚書[36] 外伝7.シャンリットの七不思議 その7『千年教師長』あたりに目を通していただけると、より分かりやすいかと思います。仮投稿 2010.07.15追記 2010.07.16チラ裏へ 2010.07.17タイトル変更 2010.07.18 (旧題:ハルケギニアの蒐集家) 追記 2010.08.312010.07.21 誤字訂正2010.09.26 注意書きとプロローグを統合。2010.10.02 注意書きにちょこちょこ追記。2010.11.02 追記改稿作業漸く終了。全体的に人称を変更しました。色々と描写を増やしたり視点を変えたりしています。その他、改訂前後の差異は、主人公ウードの扱いが概ね悪くなっているくらいですかね。2010.11.06 追記嘘予告を一本化。2010.11.21嘘予告削除。外伝7(第一部(原作1200年前)~第二部(原作開始)までの間章)を更新中です。2010.12.27 原作時間軸編開始 キャラクターの背景とか国際情勢とか色々改変がありますが、その辺りは追々話の中で説明していきたいと思ってます。2011.01.05 板変更しました チラ裏→ゼロ魔板クトゥルフ神話TRPG以外にも、作者の趣味で他作品のセリフやら小道具やらが登場します。2011.05.10 注意書き追加2012.08.10 sage。生きてます。いつの間にか連載しだして二年経過。更新はお待ちくださいませ……。2012.12.25 誤字修正中2013.05.04 完結しました!本作は、「株式会社アークライト」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』シリーズの二次創作物です。Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」「新クトゥルフ神話TRPG」