ガリアからの侵略。それと時期を合わせた東方都市国家からの宣戦布告。 ガリア軍の侵攻の矛先が向けられたクルーズ領は、奇襲同然に押し寄せた軍勢に対して寡兵で良く立ち回っていた。 アトラナート商会の資本投下によって都市の防壁などのインフラが強化されていたお陰でもある。 泥炭地が多いため、本来は道路や大きな建物の建設には向かない土地なのだが、ゴブリンメイジたちが率先して基礎工事を念入りに地下深くまで行うことで立派な街道や堅牢な城壁を築き上げることが出来たのだ。 まあ、そのアトラナート商会の行った開発のお陰でガリアに狙われたという面も多々あるのだが。 クルーズ領はシャンリット領に次いでアトラナート商会との結びつきが深い領地である。その結びつきは領主の娘がシャンリット伯爵家の次期後継者ロベール・ド・シャンリットと婚約したことで決定的なものとなった。 クルーズ領では泥炭の大規模な採掘をアトラナート商会の技術指導の下で行っている。トリステインや隣国のガリアに精製した泥炭を燃料として供給しており、近年ではこれがクルーズ領のかなり大きな収入源となっている。 また泥炭地でもよく育つように調整された新種の作物も蜘蛛の商会から色々と提供されており、他の領からの輸入に頼っていたクルーズ領の食糧事情も近年改善している。 泥炭の採掘所が出来たお陰で、職にあぶれて他の領に出稼ぎに出る者も減りクルーズ領は俄に活気づきつつあったのだが……。 そんな折角発展している所にガリアからの侵攻である。 クルーズ伯爵の怒りは、まあ、察して欲しい。 とは言え感情だけで軍隊を返り討ちに出来れば世話はない。……あながちそれも不可能と言えないのが、魔法のあるハルケギニアの恐ろしいところだが。 実際、一時期は怒りに燃える伯爵の攻撃で一部押し返していたらしいのだが、それでも急襲してきたガリアを押し返すには兵数諸々の面で全く足りなかった。 クルーズ伯もそれ位は見越しており、王家を始め、近隣の領地や血縁関係のある貴族に援軍の要請を行っていた。 その中でも一番初めに援軍に辿り着いたのは、なんと、クルーズ領からはトリステインの逆側にあるシャンリットの諸侯軍だった。 侵攻の知らせから二日も経たない内の神速の援軍であった。◆ 蜘蛛の糸の繋がる先は 外伝5.ガリアとトリステインを分かつ虹 ◆ クルーズ領に向かうシャンリット諸侯軍を運ぶのは、アトラナート商会から徴発した新型のフネである。 実際は徴発というよりは、寄付に近いものだが。もとから諸侯軍にプレゼントするために建造されていたものを、今回の戦争を口実に徴発という形で受け取ったのである。寄付にすると癒着が云々とウルサイ所があるのだ。高等法院とか。 ヒラメかエイを思わせるような平らな形をした全長300メイルはあるフネは、荷物や人員の大規模運搬に特化したものである。内部には軍活動に必要な様々な施設が組み込んである。 その大きな全翼型のフネの周りには、コバンザメを思わせる形の数隻の護衛艇が着き、周囲を警戒している。並行して飛ぶ大きな幻獣の姿も見える。 その一群の船団の航行速度は従来のフネのものを大きく凌駕している。その速度を出すために風石をふんだんに用いているし、高空を飛ぶ際の気圧差を解消するために予圧したり温度調整したりするのにも贅沢に風の精霊石を用いている。 ちなみに通常航行時は自重を支えるのには風石の力は使わずに、翼や船体自体で発生する揚力を用いている。離着陸、空中静止時には従来のフネと同じように風石の浮遊力を利用しているが。「ああー、やっぱりアトラナートのフネは速くて良いなあ!」「ロベール、はしゃいでいる場合じゃないのよ! 戦争よ、戦争っ」 巨大なフネの貴賓室内ではロベールとメイリーンのシャンリット家の姉弟が、これから戦争に赴くとは思えないリラックスした様子で会話をしている。 ロベールは浮ついた様子で二重ガラスの窓から外を見て、並行して空を飛ぶ幻獣――竜のシルエットに無数の触手が生えたキメラ――に手を振っている。急に学院から呼び出されての初陣だというのに呑気なものだ。 メイリーンはたまたま里帰りしていた所を、ガリアからの侵攻の知らせを聞き、今回の行軍に緊急で参加したのだ。シャンリットの家の者としてではなく、嫁ぎ先の者の立場としてであるが。因みに彼女の夫は自領の方で軍の編成を急いでいるのだという。「シャンリットの方はお兄様が全部片付けちゃうつもりみたいだし、せめてガリアの方では武勲を立てなきゃなんないわ。これだけお膳立てしてもらったのだから」「そうだね、姉上。兄上が本気になるってことだったから、シャンリットの方は心配しなくても万全だろうし。空中触手騎士団(ルフト・フゥラー・リッター)も全部連れてきてるし、負けられないね」「ええ、そうね。……ああ、あの時のお兄様の様子を思い出すだけでゾクゾクしちゃうわっ」 「本気を出すのに邪魔だから」と語った兄、ウードの様子を思い出したのか、メイリーンが身を抱いて肩を震わせる。そこには恐れだけでなく、また別の感情も混ざってるようにも見える。憧れか、あるいは恋慕か。「姉上……。スキャンダルは止してよ? ブラコン酷かったって母上から聞いてるし」「しないわよ、そんなこと。昔にお兄様に抱いていた感情ももう整理ついてるもの。それに今はウチの旦那の方が大好きだしっ!」 際限なく惚気を始めそうな姉の雰囲気を察してか、ロベールが話の筋を対ガリア戦に戻す。 前に止めなかったときは、延々と5時間は惚気を聞かされたのだ。姉の口から語られる照れ隠しという名の行き過ぎた攻撃の数々に、ロベールは慄いて背筋を凍らせ、自分の義理の兄となった偉大な勇者に心のなかで合掌したものだった。テオドール義兄上、あなたは偉大な方でした、だからもし姉上に勢い余って殺されても化けて出ないでください、と。「姉上。クルーズ領に着いたらどうする? 先ずは着陸できる地点を探さないといけないんだけど」「あら、そんなの簡単よっ」 メイリーンが事も無げに言い放つ。「一切合切を薙ぎ払って場所を空けるわっ。ガリア軍の本陣の辺りなんかが良いんじゃないかしら?」 トリステインのリーサル・ウェポン、“虹彩”の二つ名を継いだメイリーンは不敵に笑う。囁くような含み笑いの声は、聞く者が聞けば彼女の兄のウードの笑い方にそっくりだと気づくだろう。 ロベールは頼もし過ぎる自分の姉のその含み笑いを聞きながら、やはりこの姉と結婚した義兄は偉大な男だと尊敬の念を覚えていた。そして次には無造作に焼かれていくだろうガリア軍に対して幾許かの哀れみを感じた。 だが今脅かされているのはロベールの婚約者の実家でもある。さっさと片付けてこの後は可憐で可愛らしい婚約者の少女に会いに行きたい、とロベールは考える。「そういえばロベール。なんでルフト・フゥラー・リッターはトリステイン語じゃなくてゲルマン風の名前なのかしら?」「触手騎士団なんて外聞が悪いからぱっと聞いた限りでは触手って名前をイメージさせない音にしたかったんだって。あとゲルマン風の方がカッコいいからとか兄上は言ってた」◆ クルーズ領に展開するガリア軍の陣地の上空数千メイル。 エイのような形の巨大なフネと、それに付き従うコバンザメのような護衛艇がそこに留まっている。 そこから一直線に降りてくる大きな竜らしきものの影が見える。「イヤァッハァーー!!」「速い速い速いーーっ!! ちょ、この馬鹿弟っ! 少しは加減しろーーっ!」 膜翼を畳んで急降下するのはロベールが騎乗する幻獣――クトーニアンと火竜のキメラ――、イリスだ。 100メイル近い巨体はロベールの用いる魔法で、自由落下以上の加速度を与えられている。 何年もシャンリットの空を共に飛んできたこの主従のコンビネーションは熟練の域に達している。ロベールの魔法とイリスの身体能力は互いに噛み合って、高速高機動を実現しているのだ。 ……それに付き合わされるメイリーンは堪った物ではないが。「イーリースー! 雲を払えぇぇ! 姉上は詠唱を!」「分かってるわよっ! 言われなくてもっ!」 ロベールの意図を汲んだイリスが雄叫びと共に背中の触肢を蠢かせる。触肢の先に炎が灯り、周辺にドラゴンブレスをバラ撒く。 さらに上空のフネに艦載されていた触手竜騎士(イリスを小型にしたキメラドラゴンに乗った竜騎士。小型とは言え15メイルはある)たちも次々とエイ型のフネから滑空し、周囲の雲に向かってブレスを吐く。 元々それほど多くなかった雲は、イリスや他の触手竜たちの放った火球によって気温が上昇した影響で、溶けるように消えてゆく。 しばらくそうして雲を散らすうちにイリスの加速も緩やかになり、上空200メイルほどの所で静止する。他の竜騎士たちは上空で旋回している。 雲が急に晴れ、高空から侵入する影に気づいたのか、ガリアの陣地が慌しくなる。 だがもう遅い。 既にメイリーンの詠唱は終わっている。「『集光(ソーラーレイ)』!!」 魔法を発動する最後のキーワードがメイリーンの口から呟かれる。 戦場に居るガリア軍は知らないことだが、膜翼を広げ触手を蠢かせる幻獣は、虹の女神の名を冠している。 その背後に、多重連環状の虹が広がった。 一面に広がる虹の連なり。虹彩、アイリス、光輪。 美しいその光景に、ある者は見蕩れ、ある者はかつて戦場で聞いた“虹彩”の二つ名を持つメイジの逸話を思い出して逃げ出そうとする。 虹の輪を背負い、半透明の膜翼を広げる巨大な竜は、その見た目の美しさとは裏腹に見るものに死を告げる死神なのだ。 虹が揺らいだ次の瞬間、戦場に光が突き立った。◆ 焦熱地獄。まさにその言葉が相応しい。 ガリア軍の本陣はメイリーンの『集光』の魔法によって集められた太陽光によって炙られ、灼熱に襲われている。 生きたまま身体が沸騰し、焼け爛れていく人馬。 燃え上がり始める糧食やテント。 阿鼻叫喚。苦鳴、悲鳴。 メイリーンは一点集中の破壊力よりも、広範囲に対する殲滅を優先した威力調整を行っているようだ。 彼女がその気になれば、範囲を絞ることで瞬時に地面を蒸発させるような高温にすることも出来る。 そうしないのは、ガリア兵の取り零しが出ないようにするためだ。また、高収束させるよりも収束率が低い方があまり集中力を必要としないため、じっくり弱火で攻める方が、長い時間魔法を運用できるという事情もある。 水メイジが高温に対抗して温度を下げる魔法を使おうとしているようだが、熱せられた空気が肺を焼いてしまって上手く詠唱できない。 火メイジでは高温には対抗できない。熱に耐性はあるだろうから幾分か他の人間よりは保つだろうが、それだけだ。 土メイジは障壁を作ったり地中に潜って耐えているが、あとどれだけ保つだろうか。収束された太陽光線以外にも、ドラゴンブレスが手当たり次第に降り注いできているのだ。 風メイジは、ひょっとすれば上空の空気を掻き乱すことで、この『集光』の魔法の発動を止めることが出来るかも知れない。しかし、200メイルも上空まで影響するような魔法はそうそう存在しないし、それを詠唱し切る時間も残っていないだろう。 土メイジが表面が鏡面の二重壁を作り、その二重壁の間を風メイジが真空にすれば、熱を防げたかも知れない。しかし、咄嗟にそこまで出来るものはこの戦場には居なかった。 地面が干涸らび、罅割れていく。草木は燃え上がり、焼け爛れた死体は徐々に焦げて嫌な匂いを発し始める。 魔法の効果範囲以外の陣地は、効果範囲ギリギリの周縁部から逃げ出してきた兵達でごった返し、混乱しているようだ。 死体達が炭化し炎を上げ始めた所で、降り注いでいた日差しが和らいだ。だが、攻撃は終わった訳ではない。単に焦点が移動しただけなのだ。 ガリア軍の陣地を縦横に光の筋が走る。その度に人の群れは光から逃れようと移動し、灼熱の光に当てられた者は皮膚を炙られたせいで踊るように暴れては、力尽きて倒れていく。「ロベール」「何さ、姉上」「こんなに大規模に『集光』を運用したのなんか初めてなんだけどさっ」「そうだろうね」「なんかこう、見たことあるような気がするんだよね、この光景って。何だろう?」 メイリーンの額には汗が浮いている。だが、相当な集中が必要なはずなのにロベールに軽口を叩く辺り、まだ結構余裕なのかも知れない。 ロベールの方は特にすることもなく、イリスに『レビテーション』を掛けて自重を軽減しつつ、火球を撒く大まかな方向を指示しているだけだ。まあ『レビテーション』とは言え、イリスの巨体の重量のその一部だけでも支えるのはラインメイジのロベールには大変なのだが。「うーん、僕はあれを思い出したね。レンズで集めた光で蟻の行列を焼き殺した感じ」「あ、それそれっ。そんな感じっ」 疑問が晴れたのか、スッキリした顔で殺戮を続行するメイリーン。 火メイジ用の火の秘薬(黒色火薬)置き場に焦点が当たったのか、派手な爆発が起きる。 一頻りガリア軍の陣地一帯を焼き払った辺りで、精神力を粗方使い果たしたのか、メイリーンはぐったりとしてしまった。辛うじて意識は保っているようだが、少なくとも後一日は使い物にはならないだろう。「ロベール、あと宜しく頼むわ……っ」「了解、姉上。よし、じゃあイリス、降下だ。フネが着陸できる場所を作らないといけないからな」 地響きを立ててイリスがその二本の足で着陸する。地核の熱に耐えるクトーニアンを素体に使ったキメラであるイリスは、この戦場に残っている程度の灼熱の残滓ではダメージなど負わないのだ。 イリスは燃え上がる陣地や死体をその長い触肢を振り乱して薙ぎ払って吹き飛ばす。 火の付いた残骸は、周辺の陣地に飛んで行き、延焼してガリア軍の被害を増やす。「うーん、まあこんなもんかな。じゃあ、上空に居るフネ――〈レイ・バレーヌ〉に合図を。イリス、雄叫びを」『RUOOOOOOOOOOOOOOOOooooooooo!!!!』 一帯に響き渡る身の毛もよだつような吠声。 虹を背負った化物の話は、ガリア軍に瞬く間に広まっていく。トリステインの“虹彩”のメイジの話も相まって士気もどんどん低下していく。 そこに、上空から虹の怪物よりも大きな影が降りてくるのが見えた。 イリスの吠声を合図に、シャンリット家の船団が降下を始めたのだ。 〈レイ・バレーヌ〉――鯨エイと呼ばれたエイ型の巨大なフネは降下を始める。周囲のコバンザメ型の護衛艇から放たれる魔法は近寄ってくる竜騎士達を撃ち落とし、地上にも魔法攻撃が加えられている。 重い地響きと土煙を立てて、さっきまでガリア軍が陣地を張っていた場所に〈レイ・バレーヌ〉は着陸する。邪魔な残骸はイリスの触腕が払っている。 〈レイ・バレーヌ〉と同型機のシリーズは、もともとはシャンリットの流通改善のために作られていたフネである。フネを動かす人員を極端に減らして、その分荷物などを積み込めるようになっている。 人員削減と巨大な艦の管制をタイムラグ無しに行うために、〈レイ・バレーヌ〉シリーズは船体全体を一つのインテリジェンスアイテムと化してあるのだ。制御の殆どを自力で行ない、精霊石の供給さえあれば、自己修復すら可能である生きた艦なのである。 今回、軍に納められた巨大エイ型空中船は、着陸すればその時点から司令部としての役割を果たすことも出来るようになっている。空飛ぶ移動要塞とでも言えるかも知れない。 このフネには戦争に必要な施設は全て積んであるのだ。肝心のエネルギーは、全世界に分布する〈黒糸〉から供給されるので心配することもない。 着陸したフネからワラワラと軍人が吐き出され、整列していく。熱波は冷めやらないが、〈レイ・バレーヌ〉本体から寒風が吹き出て周囲を快適な温度に調整する。 整列を終えたシャンリット軍が、工具や杖を片手に陣地の造成に取り掛かる。母船から離れれば、そこはまだ灼熱の地獄なのだ。しばらくは周囲の拠点化で時間をつぶす必要がある。 〈レイ・バレーヌ〉号の上空にはイリスが留まり、全周囲に睨みを効かせている。 この時点で『集光』の攻撃によってガリア軍の拠点は壊乱状態に陥っており、ガリア軍は撤退を余儀なくされていた。 シャンリット軍の兵たちこそ追って来ていないが、巨大船の護衛艇と、連れて来られた空中触手騎士団(ルフト・フゥラー・リッター)は好き勝手に戦場の空を駆けて砲撃を加えているため、甚大な被害が出ている。 戦の流れは完全にトリステイン側に傾いた。ガリア軍を国境まで追い返すのも、もはや時間の問題だろう。 実際、その流れは止まることがなく、数回の激突の後、一ヶ月もしないうちにトリステインはガリア軍を追い払った。◆ 条約の締結や賠償金の交渉など、後始末にはかなり時間が取られるだろうが、まあ、いつの時代も戦争とはそんなものだ。 対ガリア戦争での活躍によって、メイリーンとロベールにはシュバリエ(騎士爵位)が与えられることになった。 そしてガリア方面でのシャンリット軍の活躍と、シャンリット防衛戦-東方都市国家平定における不気味な噂から、誰もが「シャンリットを敵に回すとどうなるか」というのを思い知ったこととなる。 ガリア戦役における常軌を逸した速度の動員、兵の練度、強力な新種の幻獣は、諸侯を震え上がらせるに充分であった。彼らがその気になれば、どんな都市でも電撃的に落とせるだろうと多くの貴族が考えた。 それでも辺境出身の貴族は、王軍よりも速く助けに来てくれることを当てにして宮廷でシャンリット派閥に近づいた。逆に王都周辺の貴族は反逆を恐れて、中央諸侯で固まり、シャンリット派に対立するように動いた。 シャンリット防衛戦は、派手だったガリア戦役に比べて、逆に何の情報もなくて不気味だった。寄り集まった東方都市の軍勢が数時間で綺麗サッパリ居なくなったというのだ。 とはいえ、軍勢を撃退した証拠の生首を瓶詰めにして、ウードが王都へ持参したということらしいので、シャンリット防衛戦に参加した敵兵は神隠しにあった訳ではなく、ほぼ全て死んでいると見ていいだろうが。 何が起こったのか分からないが、何かが起こったのは確かだ。市井では数々の不気味な噂が囁かれている。 ガリア戦役とシャンリット防衛戦にて、外患は一先ず打ち払うことが出来た。 しかし、国内は辺境派と中央派に割れつつ有り、至る所に蠕動する蜘蛛の影が見え隠れする。 それに応じてか、シャンリット脅威論やアトラナート商会陰謀論、矮人の排斥運動の萌芽が主に中央で見られるようだ。そこにはシャンリットへの恐怖や、異人への不安、伝統への固執、既得権益の確保など様々な者の様々思惑があるのだろう。 今後のトリステインの行方を占うに当たって、鍵となって来るのは、やはり今回の戦争で陞爵した東のシャンリット侯爵領だろう。 そして、その長男ウードと、彼が率いるアトラナート商会。白百合に架かる蜘蛛の巣は朝露と共に儚く消える定めにあるのか、果たして――。================================後で描写を追記するかもです。2010.08.30 初投稿2010.08.31 追記、修正しました2010.10.30 修正