アルビオンの夜空に急に現れた、輝く新星。 眷属たる【炎の精】を何百と引き連れた、悪魔然とした羽の生えた漆黒のミノタウロスであるソレは、フォーマルハウトの影からの悪意の顕現。 炎神クトゥグアが化身、【生ける漆黒の炎】。 そしてそれに対峙するように立ち上がった、円錐状の頭部を持つ捻れた穢らわしい三本足の巨人。大きさは100メイル近くはあるのではなかろうか。 アルビオンに巣食う這い寄る混沌の、その象徴として名高いその異形の巨人は、細長い頭を振り乱して、月に吼える。 身の毛もよだつ咆哮が、異形の巨人の口から響く。【月に吼ゆるもの】とも言われる、這い寄る混沌の化身が、仇敵たる炎神に憎悪の叫びを叩きつける。 いや、あるいはそこに込められていたる感情は、憎悪だけではないかも知れない。 憎悪でなければ、憐れみと軽蔑であろうか。 ニャルラトホテプにしてみれば、クトゥグアとその眷属は、ンガイの森を焼き尽くした不倶戴天の敵であるが……、それ故に、理性もない狂戦士のような不完全で未熟な態で召喚された【生ける漆黒の炎】には、憐憫と嘲笑を抱いているのではなかろうか。 かと言って、侮って良い相手ではない。 小細工なしにその恒星級の火力をぶつけてくる相手を侮って良いはずがない。 相手は簡単に惑星を蒸発させられるくらいの力量を持っているのだ。 折角の遊び場を蹂躙されては面白くない、と、そのように這い寄る混沌は考えたのではなかろうか。 “これから面白くなるというのに”などと。 しかも因縁の炎神クトゥグア本体ならともかく、その下賎な化身程度に蹂躙されるのは、我慢ならないだろう。 ――もっとも、邪神にそんな人間らしい思考回路などあるはずもないのだが。 【生ける漆黒の炎】が、周囲に展開した【炎の精】をけしかける。【月に吼ゆるもの】が、円錐状の頭部を振り乱して双月に届かんばかりの咆哮を上げる。「オオ$%&#◆オオオオオ*¥_オオオ◇◆&@オオオッ!!」「おアアアアアアあああああぁぁぁAAAAAaaaaAAアアアアアアアアアアアッ!!」 大陸を熔かすような光り輝く命持つ高熱プラズマ球【炎の精】が次々と、【月に吼ゆるもの】に炸裂する。 【月に吼ゆるもの】は苦鳴を上げて、捻れたその身をさらに捻り上げる。 闇色の皮膚が爛れて泡立つ。 腕が根元から燃え落ちる。 黒く蠕動する巨体が熔け落ちる。 しかし、それは致命傷にならない。なりえない。 その程度の損傷は、瞬時に復元される。神を殺すには到底足りない。 燃え落ちた腕がズルリと生え、皮膚が生え変わり、闇色の巨体を覆う炎が魔力の波動と共に吹き飛ばされる。 大陸すら燃やして灰にする神の炎は、【月に吼ゆるもの】にいささかの痛痒すら齎さなかったのだ。 空中の【生ける漆黒の炎】が、星辰の彼方から【炎の精】(だんがん)を召喚(ほきゅう)する。 浮遊大陸に根を張る闇色の巨獣【月に吼ゆるもの】が、宙に浮かぶ炎神を叩き落とそうと、その悍ましく不気味に伸び縮みする触腕を空へと伸ばす。 炎弾が飛び交い、魔術障壁がソレを防いでは砕け、一進一退の攻防が繰り広げられる。 そしてそこに突如、宇宙からの横槍が入る。隕石だ。 それはシャンリットの遊星爆弾の第一陣であり、内部に立体魔方陣を備えた呪的強化質量爆弾だ。 直撃すれば、内部構造によって発生する呪いによってチンケな魔術障壁なら熔かして貫通し、圧倒的な運動エネルギーで対象を破壊するシロモノだ。直撃後は呪的汚染を振りまくというおまけ付きで。並の相手なら一溜まりもない。 ――並の敵が相手なら。 これが単純に擬神機関によって魔術障壁を張り巡らせたアルビオン大陸のみならば、ガツンと障壁を削り(……擬神機関の障壁強度的に大陸本体に直撃させるのは難しいと計算されていた)進行方向をずらすくらいの効果は見込めただろう。 だが生憎、敵は、宇宙空間で活動するのがデフォルトの外なる邪神たちである。「「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッ!!!」」 邪魔すんな、とばかりに二柱の神が咆哮する。 たかだか大きめのデブリに過ぎない遊星爆弾など、ペチッと弾いて終わりである。 一瞬で、何の影響も与えることも出来ずに、シャンリットからの遊星爆弾(プレゼント)は消滅した。 少し時間は遡り、炎神と混沌が接触したころ。 地底の蜘蛛の谷の奥底、シャンリットの聖地下都市の戦闘指揮所にて。 矮人(ゴブリンメイジ)たちは、神代の大戦闘を、爛々と好奇心に目を輝かせながら記録していた。このような宇宙的イベント(・・・・)は、そうそうあるものではないからだ。「カオティック“N”、変容します」「混沌の化身【赤の女王】消失。化身【月に吼ゆるもの】顕現」「“混沌”はクトゥグアの化身――【生ける漆黒の炎】と接触」 アルビオン大陸に巣食う混沌の化身の反応は、その強力さ故に、はるかに離れたシャンリットの土地でも容易に感知することができる。 それで捉えた【這い寄る混沌】の化身の反応が、それまでの傾国美女【赤の女王】から、かの神性の象徴たる【月に吼ゆるもの】へと変化したことも、当然ながら把握できている。 怨敵たる【クトゥグア】の化身相手では、【這い寄る混沌】本体が出るしかないということだろう。「遊星爆弾、第一陣着弾します。――――なんてタイミングが悪い……」「――着弾確認。遊星爆弾消滅。――――ですよね~……」「“炎神”と“混沌”、戦闘を続行します」 クァチル=ウタウスの円熟した高位神官であったオールド・オスマンですら、【生ける漆黒の炎】相手には足止め程度しか出来なかった。超兵器とも言える遊星爆弾も、全くの痛痒を与えられなかった。外つ神に、隕石程度じゃ役者不足だということだ。 邪神には邪神をぶつけるしか無い。例えば今のアルビオンなら、“混沌”の本体が出張らなくても、大邪神イゴーロナクの神官たる護国卿クロムウェルが自爆招来して神降ろしすれば対抗できるかも知れないが、それが上手く【生ける漆黒の炎】と潰し合ってくれるかは不明である。 下手すれば畏るべき、そして調伏すべき邪神の化身が増えるというだけの結果に終わるかも知れない。アルビオン大陸を影から差配する“混沌”は、そんな賭けに出ることはなかった。並べ終わったドミノ牌の横でブレイクダンスを踊るような真似はゴメンだ、ということだ。「炎神【生ける漆黒の炎】、眷属【炎の精】を連続召喚。混沌【月に吼ゆるもの】へと発射します」「“混沌”、障壁を展開――完全減衰できず。【炎の精】二十体が着弾、爆発、熔解。……あれは、【炎の精】自身を呼び水(いけにえ)にして瞬間的にフォーマルハウト星の炎を呼び込んでいるの?」「“混沌”再生します、ダメージ無しです。同時に擬神機関(アザトース・エンジン)の出力増大と、アルビオン防護フィールド内の神気の一時的減少を確認。擬神機関からの神気を喰って再生のエネルギーにしているようですねぇ」 オペレーターにして研究者たるゴブリンたちが、私見を交えつつ淡々としかし嬉々として戦闘の推移を記録する。 その間、彼らは関係ない雑談をしつつもコンソールを手動と神経接続の両方で動かしていく。 彼ら彼女らは、脳神経回路にまで密接に絡み合った<黒糸>を介して作業機械に接続し、数十から数百もの並行作業を行うことが出来るのだ。「オールド・オスマンと共に回収した【インテリジェンスメイス・169号】から提供された【生ける漆黒の炎】のデータの解析は進んでいるか?」「モチロン。アレのお陰で、【クトゥグアの退散・生ける漆黒の炎バージョン】も、納期の48時間後までには開発・調整できそうよ。【169号】もいいタイミングで帰還してくれたわ」「その褒美に【169号】はウード様自らアップグレード中だそうだな。その後は相変わらずオスマンに貸し出されるようだがね。ああ、そうそうオールド・オスマンは、その功績によって今、酒池肉林の接待中だそうだ。こんな滅多に無い貴重なイベント中だというのに勿体無い」「はは、全くだ。肉欲が満たされるより、知識欲が満たされるほうがよっぽど“美味しい”というのに。オスマンの相手をする性技特化型(娼婦型)たちは災難だな、こんな一大イベントが進行中な時に」 違いない、とゴブリンたちが小さな体特有の甲高い声で笑いあう。 クトゥグアの化身は、彼らの狙い通りにアルビオン大陸の進行遅延として機能している。蜘蛛の都シャンリットが準備万端整えるだけの時間を稼ぎ出してくれることだろう。 故に戦場から遠く離れたこの地(蜘蛛の本拠地)で、彼らが余裕綽々で落ち着いているのは当然だ。「お、戦場に動きがあります。【炎の精】が整列していきます。――これは【炎の精】を生贄と増幅器に見立てた立体魔法陣?」「空間歪曲反応、熱反応も同時に。……これは、フォーマルハウトの核と直接接続しようとしているのか?」「さしずめ超高熱プラズマキャノン“恒星砲・北落師門(フォーマルハウト)”とでも言うところか? ……いや、違う、歪曲反応の出口は“混沌”じゃなくて“炎神”を向いている。なるほど、『餌』にするつもりか、擬神機関のバックアップを受けた“混沌”に対抗して、“炎神”も恒星の熱量を引っ張って糧にするつもりだな。【生ける漆黒の炎】は理性のない状態との話だが、本能だけでこれだけのことをやってのけるのか、流石は神の一柱だ」 淡々と分析するが、その間にも、【炎の精】たちが形作る一見、原子模型か恒星系図にも見える立体魔法陣は、輝きを増していく。 それに伴い、徐々に指揮所に居るゴブリンたちの顔色が青くなっていく。 ハルケギニア星くらい楽に蒸発させられる熱量が顕現しようとしていた。「おいおいおいおい…………。『恒星砲・北落師門』、エネルギー増大中。標的はやはり“炎神”の模様。……『北落師門』発射されます――が、“炎神”が全て吸収。“炎神”の熱量増大します」「顕現熱量、計測不能。観測スケールを恒星級に変更します。――このままでは少なくとも、この惑星は蒸発するかと」「“混沌”、対抗手段として時空歪曲を発生させています。……重力異常感知、時空門をブラックホールと直結したと推定。“炎神”の熱量を全て呑み込むつもりでしょう」 ――うわぁ、さすがに勘弁してくれ。 全ゴブリンの気持ちが一致した瞬間であった。「……聖地下都市シャンリット、宇宙転移シークエンスの起動を申請します」「ウード様に上申――返答“許可”」「宇宙転移シークエンス、起動します。第一シークエンス起動、……これで最悪でもデータを格納した中枢は逃がせます」 とはいえ一瞬で起動できる転移シークエンスでは、データや標本、バロメッツ母樹など、本当に最低限の中枢を逃がすのが関の山だ。 このシャンリットにおいて、種々の標本は、バロメッツ母樹から量産できるゴブリンたちよりも圧倒的に扱いが重い。 人的資源はバロメッツと適当なエネルギーがあれば、ほんの少しで回復させられるのに比べ、唯一無二の標本や資料の類は、替えが効かない。原典(オリジン)は、命より重い。コレクター魂が炸裂しているシャンリットならではの思考回路であると言えよう。「なら問題ないな」「ええ、問題ありません。観察を続けましょう」「当然だとも。熱と魔術でノイズが酷いから、交戦終了までの間、断続的に超次元調査機を交戦空域に突入させろ」 ゴブリンたちの人生観はトチ狂っている。知的な欲望の前には、自らの命など塵芥に等しい。 正義感を振りかざした主人公(笑)なら、“兵器として造られた”とか“使い捨ての道具にされている”とかいうことに憤りを覚えて『お前たちはそれでいいのか!? 自分の望みというものがないのか!? その境遇が悲しくはないのか!? 同類たちが死んでいくのが悲しくはないのか!?』とか言うのだろうが、そんな些事よりも知的好奇心のほうが強く、さらには肉体など<黒糸>やキメラバロメッツ母樹に蓄積された『本体』の端末にすぎないと考えているゴブリンたちにとっては、『だから何? そんなことよりもっと大切な未知がこの世には沢山あるでしょう?』などと言って、そんな問いかけなど何の感慨も痛痒も齎さないだろう。 言うならば、兵隊アリに対して『女王アリのためでなく自らのために生きろ』とか言ってるようなもので、そんな本質と来歴を無視した異端の勇者っぽい説得など、全く意味のない独善的な問いかけに過ぎないのだ。ゴブリンたちは、自分の立ち位置に疑問など全く覚えていない。そんな事よりも、知りたいことの方がもっと沢山あるのだ。勿論、愛だの恋だの生き甲斐だのを研究する人文系研究者もまた、彼らの中には多く存在するが。「グレゴリオ・レプリカ搭載複座式調査機、第一陣10機、投入します」「各機のグレゴリオ・レプリカ動力機関は、虚無魔法『世界扉』を球状全面展開せよ。周囲のエネルギーを異空間へと逃がします。稼働限界15分に設定。第二陣準備完了、10分後に投入予定」「副座のティンダロス・ハイブリッドの調査士は、超次元感覚と魔術『門の観察』並列使用せよ。――これにより『世界扉』越しに、周囲情報クリアになるさね。……まだノイズだらけで、索敵半径は小さいけども」「それでは主座パイロットは、フォーメーションを組んで“混沌”と“炎神”に寄って下さい。戦いの模様を索敵半径に確実に収めるように」 恒星内部すら調査する、叡智の蜘蛛の眷属。ゴブリンたちは、虚無魔法と魔術の複合によって、その手法を確立していた。 周囲に球状に展開した時空門によって、全ての熱量を異空間へ逃し、その上で門を透過する『門の観察』を、門の裏側から行使することによって、周囲の情報を取得する反則技だ。 ……『世界扉』を全面球状展開しているバッテリー(グレゴリオ・レプリカ)がエネルギー切れ(魔力切れ)になると即座に熱に呑み込まれて消滅するので、調査機は使い捨て前提であるが。とはいえ、副座に乗っているティンダロスの混血種ならば、運が良ければ異空間にベイルアウトして、帰還できるかも知れない。ブラックボックスも大破消滅直前に強制転移させるシステムも組み込んであるが、それよりはティンダロス・ハイブリットが帰還してレポートを上げてくれる方が幾らか確率が高いだろう。「“炎神”熱量増大。呼応するように“混沌”が展開中の重力異常も大きくなります」「アルビオン擬神機関出力増大。障壁が強化されます。“混沌”も周囲への影響を極小化したいようですね」「シャンリットからも遠隔封印結界を多重展開。惑星消滅回避のために周辺地域への影響を遮断します」 モニター上で、膨れ上がった“炎神”の超高熱が、“混沌”の超重力に囚えられる。 アルビオンやハルケギニア星への影響は、幾重にも展開された魔術障壁と結界によって抑えられているようだ。 その戦場へと、全面に時空歪曲バリアを展開したシャンリットの調査機が、続々と突入する。「調査機突入を確認――情報取得再開。観察を続行します」◆◇◆ 蜘蛛の巣から逃れる為に 31.蠢く者たち◆◇◆ トリスタニアは闇の中にあった。 それは深夜ということもあったが、それだけではなく、アルビオンからの刺客によるテロ行為のためだ。人心が不安の闇に落ちているのだ。 街を守る衛士達は神経を張り詰めているが、常識では測れない行動をするアルビオン・スチュアート朝の陰湿な工作員は、この日も何処かでトリスタニアの平穏を蝕んでいた。 夜空の彼方で灼熱の新妖星が生まれたその日、王城の一室――王の寝室で、アンリエッタとウェールズが手を取り合って座っていた。 トリステインの再来した魅惑王、“深淵”のアンリエッタ。 白の国からの亡命王太子、ウェールズ・テューダー。 甘い――爛れて腐ったような、反吐の出る甘い空気が、トリスタニア王城全体に蔓延している。 アンリエッタが操る『魅了』の系統魔法が、トリステインを一つに統率しているのだ。それは王城を中心に、アトラナート商会の協力の下、彼らが持つ<黒糸>のネットワークに載せられて、トリステイン全域に届けられている。 国民すべてが彼女の『魅了』(カリスマ)に服することによって、トリステインはゲルマニアの広大な地域を併呑したにも関わらず、不気味なまでに統制が取れていた。「ウェールズ様、ラグドリアン湖の異変が解決したそうですわ。これで漸く、結婚式を挙げることができますわね」「そうだねアンリエッタ」「直にルイズ・フランソワーズも報告に来るでしょう。アルビオン情勢に介入するにも、彼女の持つ類稀なる『力』を借りねばなりませんし、また彼女に『お願い』することになるでしょうね。私の“おともだち”に」「そうだねアンリエッタ」 ラグドリアン増水異変の解決は、水源の確保や周辺地域の安堵の他に、二人の出会いの地であるその湖で祝言を挙げるためであったのだ。 ラグドリアン湖の対岸を治めるガリアの星慧王ジョゼフからの助言に従って、ルイズ・フランソワーズに依頼したが、それはどうやら成功だったようだ。 ……アンリエッタの言葉に頷くウェールズの眼は、何処か虚ろだ。アンリエッタの嬉しげな様子とは対称的だ。「楽しみですわね、ウェールズ様」「そうだねアンリエッタ」「ウェールズ様……」「そうだねアンリエッタ」「……」「そうだねアンリエッタ」「そうだねアンリエッタ」「そうだねアンリエッタ」「そうだねアンリエッタ」「そうだねアンリエッタ」「そうだねアンリエッタ」「そうだねアンリエッタ」「そうだねアンリエッタ」「そうだねアンリエッタ」「そうだねアンリエッタ」「そうだねアンリエッタ」 人外の域に達している魅了王アンリエッタの『魅了』を至近距離で受けて、正気を保てる訳もないのだ。 壊れたオルゴールのように、ウェールズは同じ言葉を繰り返す。「ああ、いつからかしら。あなたがそうとしか答えなくなったのは。……でもいいの」「そうだねアンリエッタ」「ええ。私、貴方と一緒に居られるダケで幸せだから」「そうだねアンリエッタ」「……ええそうよ、ウェールズ様」 アンリエッタがウェールズに強引に口付けして、そのまま寝台に押し倒す。 トリスタニアは未だ泥濘の微睡みの中。天空の混沌も、地底の蜘蛛も、未だ水の国を歯牙にもかけず。 ただ女王は深淵にて時機を待つ。深淵から溢れる魔水と泥濘が、空を呑み込み、ハルケギニアに覇を唱えるその日まで。「――そうだね……、アンリエッタ」◆◇◆ アルビオン首都ロンディニウムを覆う腐ったように甘ったるい空気が薄れたのを、ハヴィランド宮殿に忍び込んでいたロマリアの密偵ジュリオは感知した。 【赤の女王】が突然消失したことによって、魅了の魔術が弱まっているのだ。 とはいえ、この地に染み付いた魅了の魔術は、一週間やそこらでは浄化されることはないだろう。そして、一週間もしない内に、決着はつき、あの魅惑の【赤の女王】も、元通り宮廷の影の権力者の座に納まるはずである。「だけど、これはチャンスだねー」 ジュリオはハヴィランド宮殿をひた走る。 ひた走る。 ひた走る。だが――「……つっても、今自分が何処に居るかも分からないんだけどねー――」 何処にも辿り着けない。「ちっ、何だよ、この宮殿! 少し隠れようと道を逸れただけだってのにっ!」 ジュリオが走る場所は、すでに壮麗な王宮ではなくなっていた。 いや、おそらく地理的には、王宮内部なのだろう。 だが、まるで何か巨大な生物の体内のように、廊下を覆う壁は血管らしきものを浮かび上がらせて脈動し、足元は死体でも積み上げたかのようにぐにゃぐにゃと不安定で定まらない。「中身まるごと異界化してやがるのかよっ! どんだけだよっ!」 もはや大陸ごと焼却消毒するしか無いのではなかろうか。 こんな混沌の坩堝を欲しがるとすれば、それは蒐集狂の蜘蛛共くらいのものだろう。 正気の輩は、こんな穢れた大陸など欲しがらない。「蜘蛛(シャンリット)じゃなきゃ、アルビオンを欲しがるのは、あとはトリステインの深淵女王くらいか? どっちも狂ってやがるが……」 いや、この大陸に眠る、龍脈を用いた始祖の時代からの大規模魔法回路は、ロマリアの『箱舟計画』にも有用だ。 六千年前に世界法則を歪めた大魔法――最終虚無魔法『生命』。『箱舟計画』の要は、それを異星で再現することにある。始祖の御業を繰り返すのだ。 生命を使い、生命の為に、生命を歪め、生命を紡ぐ――惑星規模世界法則改変魔法、それが『生命』。「まあ、良い。『生命』に使われたというアルビオンの龍脈回路は、どうせシャンリットが調べるだろう。奴らからデータを買って、入植予定の惑星で、奴らの<黒糸>の人工龍脈で再現すれば良い……。蜘蛛の手を借りるのは業腹だが、邪神の眷属の中では比較的理性的――理性的? んな訳あるか、奴らは狂ってる。まあ正気じゃないにしても知性的だからまだマシか」 ぶつぶつと呟くジュリオ。 そんな彼に向かって、廊下状の肉壁の一部が伸び上がる。 触手の槍だ。「悪趣味。その程度の攻撃でどうにかなると思うなよ」 銃弾のような速度で伸び上がった数十の触手の槍たちは、しかしジュリオの眼球を貫く直前で動きを止める。 止めさせられる。 虚無の眷属の異能が一つ、神の右手“ヴィンダールヴ”によって。「ハッ、幾ら教皇様から離れているとはいえ、何年俺がヴィンダールヴやってると思ってやがる。世界そのものからバックアップを受けている虚無の使い魔を舐めるなよ」 異形を支配するその権能によって、退去命令を下された肉の槍たちはするすると肉壁に吸収されて縮んでいく。「そうだ、最初からこうしていれば良かったんだ。ハヴィランド宮殿が、異形化した生命要塞だというなら、全て支配してしまえば手間が省けるってもんだ。都合良く、ヴィンダールヴと競合する能力の持ち主である【赤の女王】も出払ってることだしな」 ざ、ざ、ざ、ざざざざざざざざざ――。 ざわざわと肉壁が、ジュリオを起点に、鳥肌が立つようにして、泡立つように律動していく。 ヴィンダールヴの支配能力、それが半ば以上生命が宿ったハヴィランド宮殿を支配していく。「ぎ、ぎ、ぎぎぎぎぎっ!? ぐっ、つぁ……、きっついなぁ……。抵抗が半端じゃない……っ!」 流石に城一個分の異形を制御下に置くのは、大変を通り越して、もはや人外の所業である。 それも虚無の主人の加護も無しにとなれば、如何ほどの難行か。まあ、それでも完遂するのが、虚無の使い魔が伝説たる所以でもあるのだが。 ……虚無の使い魔自体が、既に人外の代名詞であるのは気にしてはいけない。「あー、だめだ、今はもうこれ以上は動けない……。数日かけて全体を掌握してから行動に移すか。一先ずは精神力回復のために、眠らないと、な……。と、取り敢えず、支配下に置いたハヴィランド宮殿の肉壁に、オートガードとアラームをさせて――」 まあ、標的たる姫君(ティファニア・ステュアートとシャルロット=カミーユ・ドルレアン)は、ハヴィランド宮殿から離れることはあるまいし、二三日時間をかけても問題ないだろう。 食料も、肉壁を蠕動させて厨房から運ばせるか、最悪肉壁を食べれば問題ないだろう。 ……懸念は、その時までに、物理的に『このアルビオン大陸が残っているか』ということであるが――本当にまずい状況になれば、ジュリオの主人であるヴィットーリオが『世界扉』で直接回収してくれる手筈になっている。だから精神力回復のために一眠りしても、問題ないだろう。無いはずだ。「はあ、疲れたよ。まあある意味、唯の大理石の部屋よりも、肉壁のほうが安心できるけどね……二十四時間三百六十度警戒してくれるし。……それもどうなのよって思うし、心中は複雑だけど」 ジュリオは数年に渡る鍛錬の末、寝ている間にもヴィンダールヴのルーンの効果を維持する技術に目覚めている。 しかし心情的には、さすがにヌチョヌチョした変な魔獣の体内じみた場所で休息を取りたくはない。 それが、自分の支配下にあると分かっていても、だ。精神衛生上は非常に悪い。それでも多少眠れば精神力が回復するのは、さすがは歴戦の密偵というところか。四の五の言って休息場所を選ぶような余裕は、今のジュリオには、無い。「さあ、待っていてくれよ、プリンセシーズ(Princesses)、なんてね」 姫君を助けるために、今は眠れ、ジュリオ・チェザーレ。◆◇◆ 一方、ほぼ同時刻。 ロンディニウムに潜伏しているワルドの、実体持つ『偏在』の生き残りは悩んでいた。トリステインに情報を持ち帰るためにワルド(親機)は撤退したが、ジュリオの潜入を助けたワルド(偏在子機)が一人だけ生き残っていたのだ。 アルビオン大陸の彼方に、怖気立つ新星が現れてから、このアルビオンに満ちる神々しくも禍々しい何らかの力場は、その力強さを増している。ハヴィランド宮殿を中心にして敷かれる、神力が。「……これは――、沸々と力が湧いて――」 それに伴って、彼――ワルド’’’(トリプルダッシュ)の精神力も満たされていく。 本体から三度の複製を経た『偏在』、故にジャン=ジャック・ワルドの――トリプルダッシュ(第三世代)。 まあ、第三世代とかトリプルダッシュとか言っているが、実際のところ、『偏在』たちの間には、それほどの実力差は存在しない(コピーだから当然だが)。だがコピーを重ねた末端のダッシュになるほど、本体からの変異が大きく、特化した性能を発現することがある。 ハヴィランド宮殿にほど近い場所で身体を休めていたワルド・トリプルダッシュだが、その彼に擬神機関から溢れ出した神気が流れこんでいく。 たまたま波長があったのか、あるいは――「……母が、ウェンディゴ症に発症したことが影響しているのか? アルビオンの空挺部隊には、ウェンディゴで構成された一隊があるという話だし、そういう奴ら用のエネルギーパスに合致したとか――」 ワルドの身体に受け継がれているかも知れない、北風の眷属ウェンディゴの血が、何らかの作用を及ぼしているのか。「ふん、だがまあ、これはこれで都合が良い」 ざわり、とワルド・トリプルダッシュの姿がぶれる。 彼特製の、実体持つ(・・・・)『偏在』の魔法だ。 一人が五人に分かれ――「アルビオンの拠点は破棄するということだが、破壊工作や各所へのスパイ行為は、やってやりすぎることはない。どうせ既にこの身は死んだも同然、最後に一花――」 『偏在』に使われた魔力と精神力が、辺りに溢れる擬神機関からの神気の波動によって即座に補填される。 ワルド・トリプルダッシュは、無尽蔵となった魔力に任せて『偏在』を連続行使。ワルドが五の累乗で増えていく。 ――五人が二十五人に、二十五人が百二十五人に、百二十五人が六百二十五人に、六百二十五人が三千百二十五人に、三千百二十五人が一万五千六百二十五人に、一万五千六百二十五人が七万八千百二十五人に、七万八千百二十五人が――「だが別に、アルビオン全土を制圧してしまっても構わんのだろう?」 ロンディニウムの路地裏全てに、民家の屋根に、そこ彼処にワルドの分身が溢れていく。 それだけの大人数で一斉に『偏在』を行使しても、擬神機関から補填されるエネルギーは留まることを知らない。 擬神機関は宇宙航行も可能な高出力エネルギー機関であり、しかも現在は【月に吼ゆるもの】をバックアップするために、戦闘出力に移行し、恒星級のエネルギーを生産している。たかだか人間レベルのワルドの何千万や何億にエネルギーを提供しても、その程度は誤差の範囲である。 ワルド・トリプルダッシュは増え続ける。 ――七万八千百二十五人が三十九万六百二十五人に、三十九万六百二十五人が百九十五万三千百二十五人に、百九十五万三千百二十五人が九百七十六万五千六百二十五人に、九百七十六万五千六百二十五人が四千八百八十二万八千百二十五人に、四千八百八十二万八千百二十五人が――「……この程度で良かろう。撃破されて減れば、また増やせば良いしな。魔力は次々と補給されることだし」 地を覆う約五千万のワルド。もはやギャグだ。 それが一個の生命体のように、ゾワゾワと都市を呑み込んで蠢いている。「さあ往くぞッ!! アルビオンよ、瞠目せよッ!!」 誰ともなくワルド・トリプルダッシュの『偏在』全員が鬨の声を上げる。 空気が割れんばかりに振動し、アルビオン大陸が地鳴りして揺れる。「目標、全周ッ!! 総員でアルビオンを蹂躙する!! 制圧前進ッ!!」 数の暴力。数こそが暴力。 ロンディニウムを覆っていたワルド・トリプルダッシュたちが、めいめいに『フライ』を行使して、アルビオン全土に散っていく。「全ての邪なるものを駆逐するッ!! 女王陛下に、アルビオン大陸を献上するのだ!! 清きアルビオンをヲヲヲヲッ!!」 狂笑の狂咲。 凄惨な笑みを浮かべて、ワルド・トリプルダッシュたちが空を流星のごとく駆けて散っていく。各地の邪悪なるモノ共――黄泉返った民や異界の奉仕種族――を駆逐するために。 既に彼もまた、正気ではない。このアルビオンでは、如何に熟達のメイジである彼といえども、正気を保てない。何か――例えば愛国心であったり主人への忠誠であったり――を柱にして己を支えない限り。いやそれでも最早――。「半数は空へッ! 星を受け止め、闇を堰き止めるぞッ!!」 空の彼方で、灼熱の新星と、何より深い混沌の闇がぶつかっている。 そこから巻き起こされる狂気は、いくら結界や障壁で抑えこまれているとはいえ、既に無視できない領域。 大陸を守る人柱となるために、半数の数千万のワルドが宙を駆け、さらに五の累乗で数を増やしていく。「死を恐れるな! 死を直視せよ! メメント・モリだ! 母の死に様を思い出せ、邪悪を討つのだ、邪悪から守るのだ! 我らは風、ゆえに行く手を阻むもの無しッ!!」 風と真空の障壁を積層して展開するために。 身を持って熱と狂気の魔力を受け止めるために。 アルビオンを、ハルケギニアを、ひいては敬愛する“深淵”のアンリエッタ女王を守るために。 ワルドは夜空へ飛び出した。「狂った夜に凱歌を! 砕ける大陸に鎹(かすがい)を! 嘲笑う蜘蛛に鉄槌を! 地を這う屍体に救済を! 人喰い肉樹に終焉を! 人間嘗め腐った邪神共に、思い知らせてやるッ!!」 この狂奔は、あるいはワルドのものではないのかも知れない。 夢うつつの中で覚える、圧倒的な邪悪に対する、あまりに圧倒的な憎悪。憤怒、あまりに圧倒的な怒り、理不尽に対する怒り。 それは、彼の婚約者であるルイズ・フランソワーズが(あるいは彼女の従僕であるサイトが)抱えるものと、全く同じものだった。何処かから混信したのだろうか、流れこむ神力に混ざってドリームランドからの想いが入り込んだのだろうか。ワルド・トリプルダッシュたちは咆哮する。「人間嘗めんなッ、邪神共ッ!!」◆◇◆「……ハッ!? なんか髭のクローンに俺の台詞取られた気がする……!!」「何言ってるの、サイト? 随分具体的だけど」 ここは夢の国、ルイズ・フランソワーズの居城。 その内、サイトに与えられた一室である。因みに寝起きだ。 折角の名台詞がーー、などとサイトはゴロゴロとベッドから転がり落ちる。彼の左義腕からずるぅりと伸びた蛇のエキドナが、けたけたと笑う。 サイトとルイズ、ついでにシエスタは、再びこの夢の国で時間を加速させ、長逗留することにしたのだ。クトゥグアの化身を転送した際に枯渇した精神力を回復するために。 ルイズは『世界扉』でクトゥグアを封じていたオールド・オスマンごと転送したのだが、アレだけの神学的に『重い』存在を転移させるには、それ相応の精神力が必要だった。具体的には十数年分は精神力を溜め直さなくてはいけないくらい。 という訳で、幻夢郷時間で十年以上は缶詰である。「まあ、さっさとサイトとルイズが“にゃん♪にゃん♪”すればそれで即座に解決すると思うんだけど。早く一線超えちゃいなさいよー」「あー、いや、まあ、なんつうか」「煮え切らないわねぇ」 驚くべきことに、サイトとルイズはまだ一線を超えていない。 四六時中イチャイチャはするものの、何となく最後の一歩を踏み出せずに居るのだ。「つってもよー、幻夢郷の時間も合わせたら、もう百年単位でルイズの使い魔兼騎士やってるんだぜ。いまさらそんなに関係変わんねーよ」「ハッ、ヘタレめ。枯れてるわね~。サイトとルイズが恋仲になって、そのあと私がサイトを寝取れば、ルイズの悋気で一気に精神力回復間違い無しよ!」「その後諸共にクオーツ単位になるまで『爆発』で分解されるんですねワカリマス」 いやまあ実際、超鋼の義腕と化した翼蛇のエキドナの言う通りでもある。 サイトがルイズと“にゃん♪にゃん♪”とか“レモンちゃんウフフ”とかすれば、それだけで大幅にルイズの精神力は回復するだろう。性行為は原始の本能を呼び覚まし、内に眠る無意識の大海から心的エネルギィを汲み上げる契機となるのだ。 さらに嫉妬心によって大幅に精神力が回復するというルイズの特性(攻撃特化の虚無属性に顕著な特性である)との兼ね合いもあり、その後サイトをエキドナがエデンの蛇のように誘惑すれば、更に精神力の回復効率は上がるだろう。……その後どうなるかまでは保障が持てないが。絶対嫉妬神と化したルイズに爆殺される。150%。一度爆殺分解されて、そのあと蘇生再構築されて更にもう一度爆殺される確率が50%ということだ。「して、エキドナさんや」「何かしら、マイダーリン?」「何故俺は簀巻きにされとるのかね?」 サイトは自分の左腕から生えたエキドナの蛇身によってグルグル巻きにされていた。 目が覚めたらこうなっていたのだ。むしろ最近は毎日目覚めると大抵こんな感じである。 指とか腕とか足とかイチモツとかを呑み込まれて搾られていることも多し。食べちゃいたいくらい愛されてるから仕方ないね。「それは愛ゆえによ」「そうか……、愛か……。って、ねェよッ!! 愛なら仕方ないとか、何しても許されるとか思ってんじゃねーぞッ!!」「だってサイトってば、美味しいんですもの~。という訳で、今日は圧迫祭りです、イタダキマス、拒否権は認められません」 ぎちり、とサイトを取り巻くエキドナの身体が絞まる。「か、はっ……」「まだまだ絞めるわよ~っ!」 息が漏れるたびに、じわり、じわり、と身体が絞めつけられる。 息を吐いた分だけ、絞めつけられる。 だから息を吸えない、息を吸うだけの隙間が肺に生まれない。 苦しい。苦しい。苦しい。 青息吐息で喘ぐ。 しかし苦しいが、それだけでもない。 愛撫、されている。 絞めつける蛇の腹の鱗が、ぞわぞわと細波立って、サイトの皮膚を刺激する。 ざわざわ、ざわざわ。さわさわ、さわさわ。 朦朧とする。 意識が明滅する。 その空隙に、快感が蛇のように滑りこむ。 拘束が緩む。「はぁ、がっ、はぁっ、はあっ――ぅわっ!?」 ――ねえ、もっと気持ちイイこと、しましょう? 無くなった酸素と一緒に空気を思いっ切り吸い込み、それと同時に蛇の声が耳朶を打つ。空気と一緒に誘惑が脳に入り込む。 次の瞬間浮遊感。サイトはまるで独楽でも回すように宙へと投げ放たれる。 そして戯画のように広がったエキドナに脚から呑み込まれる。エキドナが生えている左腕と頭部のみを残して、サイトの身体は蛇身にズルリと包み込まれた。「ちょっ、またテメェは俺を――」「ううふぁい、おふぃおふぃれす(五月蠅い、お仕置きです)」 エキドナにほぼ全身を呑み込まれてクラインの壷のような状態になったサイトは、声を上げて、ある意味日常茶飯事となってしまった仕打ちに抗議する。 しかし、エキドナはそれを却下。 もごもごと体内を蠕動させる。「――ふおぉぉぉぉぉっ!?」「ええふぉふぁ、ふぉふぉふぁええふぉんふぁ(ええのか、ここがええのんか)」「ひっ、ゃっ、もう――」 エキドナは咥えたモノを、全身を窄めるようにして刺激する。 蛇とは思えないほどの熱を持った肉襞が器用に動き、サイトの肌にピリピリと電気で痺れるような甘い感触を与える。サイトの装備品は既にエキドナに消化吸収されてしまっている。エキドナの肉襞が、足の指の股から、逞しくも割れた腹筋の溝や、発達した背筋に覆われた肩甲骨の出っ張り、滑らかな鎖骨、股間のRPGの砲筒の外も勿論中の奥までも蹂躙する。 さらに外側から与えられる刺激だけではない、エキドナが接続している左の肩口からも、淡い幻痛と偽信号が与えられる。サイトの左腕からは、まるで乙女の柔肌を、蜜壷を、たわわな乳房を愛撫するかのような、偽信号が送られてくる。勿論それだけではない、肉と神経を介したそこからは、精神そのものが、それに秘められた恋慕と愛情と食欲と執着も伝わる。 断続的にサイトの可愛らしい悲鳴と、エキドナのくぐもった荒い吐息が反響する。 エキドナは『もういっそこのまま消化しちゃおうかな』と考えてしまう。サイトの喘ぎで高まってきているのだ。 徐々に溶かされるサイトの皮膚と、汗その他が混じり合った味は、あまりにも甘美で、あまりにも冒涜的で、あまりにも美味で――もはや我慢がならない。ああ、ああ、ああ、早く早く早く。 明らかに『丸呑み性癖(Vorarephilia、ボラレフィリア)』に目覚めている。――多分サイトの方も。……全く以て業が深い。 エキドナは『幻夢郷だし、頭と腕が残ってれば平気だよね?』と考えて、若干期待に目を潤ませ頬を上気させるサイトの肉体を貪ろうと――「はいストップ」「――?!」 ――した時に、ルイズが乱入してきた。轟音と共に部屋の壁が吹き飛ぶ。 サイトの部屋の壁を蹴りでぶち抜いてきたルイズは、いつもの有翼半魚の姿ではなく、ハルケギニア現実世界のちんまい身体である。まあ、いわゆる省エネモードということである。 そんで腕の先だけを、竜のような鱗に覆われた鋭い爪付きに変化させて、エキドナの超鋼の鱗に覆われた身体を、腹から顎の先まで一直線に切り上げる。「がっ……?! な゛に゛す゛ん゛の゛よ゛る゛い゛す゛ッ!?」「五月蠅いわねエキドナ。他人(ひと)の使い魔を消化しようとしてんじゃないわよ。呼んでも来ないから何してんのかと思えば――」「っていうか俺も一緒にスパッと紙一重で切り開かれてるんですけどっ……ぐふっ?!」 エキドナが開きにされた腹の中身を晒しながら、二つに断たれた顎で器用に喋る。 ルイズは部分変化させて超鋼の爪を生やした腕を振って、肉片や血やその他体液やなんかを振り払うと、一撫でしてもとの白魚のような手に戻す。 サイトはエキドナと一緒にかっ捌かれたから溢れた内臓を抱えて蹲っている。……何処か恍惚として見えるのは気のせいだろうか? ボラレフィリア(被食嗜好)でディスモルフォフィリア(異形嗜好)の上にマゾヒスト(被虐嗜好)とか、業が深すぎるだろ、あるいはエキドナの調教の成果か。酸欠の時も感じていたようだし、アスフィクシオフィリア(窒息嗜好)にも目覚めつつあるのではなかろうか。不憫な。「――あー、サイト、ごめん、距離を誤ったわ。エキドナ、サイトの内臓(なかみ)押し込めて治癒かけてやりなさい。私もやるから」「アイアイサー」 サイトの義腕から生体組織めいた触手が伸び、内臓を拾い上げて腹巻きのように傷口を塞いでいく。 血が流れすぎたのか、サイトは意識を失っている。「さっさとして、サイトの顔色が真っ白くなってるから。で、何度も何度も何度も言ってるけど、サイトに手ぇ出すんじゃないわよ、劣化蛇」「ならさっさと自分のモノにしなさいよ、ア本体(あほんたい)。イデアレベルでの魂の交歓が出来るからって、肉の交わりを疎かにするのはアンバランスよ。精神の交わりは陰、肉体の交わりは陽、どっちが欠けてもいけないわ」「……考えとくわ」「ふん、何恥ずかしがってるんだか。変な所で奥手なんだから、目玉取り替えっこしたりは平気でする癖に……」 サイトの傷口が塞がっていく。ルイズとエキドナが治癒を掛ける。 エキドナの方の破損もとっくに修復されている。 貧血で青い顔をしていたサイトの頬に赤みが戻り、意識も戻る。暫くきょろきょろと周囲を見回していたが、諦めたかのように溜息をつくと、弱々しく抗議の声を挙げた。「……待遇の改善を要求したいです、ご主人様……」「却下。それより自衛能力を付けたほうが早いわよ?」「例えば?」 少し思案げにしたが、その直後にルイズがニヤリと笑う。 悪いことを考えついた顔だ。「身体の中に暗器を仕込むとか。平賀才人は改造人間であるッ、みたいな感じで」「遠慮させて下さいお願いしますこれ以上は死んでしまいます……」「あ、そう、楽しそうなのに……。最近ソレ系の勉強もしたから試したかったんだけど。……まあいいわ。それより、ちょっと手伝ってほしいことがあるから、ついてきて頂戴」 そう言って、ルイズは壁に開けた大穴から出ていく。 もともと何か用事があって呼びに来たのだ。 ――ルイズは使い魔のラインを通じて何度も呼びかけたらしいのだが、その時サイトは取り込み中で忘我状態だったので応答出来なかったのだ。「ほらサイト、早くイカないと」「わ、分かってるよ! ルイズ、待ってくれー! 直ぐに着替えを創るからー!」 それにしても、用事とは何だろう? サイトは【夢創(ドリーム・クリエイション)】の魔術でタオルと服をクリスタライズしながら思考する。 サイトも魔術関連には少しは造詣があるものの、今ではパーフェクトメイド化したシエスタや、調剤方面に多大な才能を有するモンモランシーの方が、ルイズの研究の助手としては腕が上だ。 しかも、時間の流れが現実世界とは異なるこのドリームランドで、それほど急ぐようなことが、何かあるのだろうか。確かに時間は大切な資源であるが、今は休養する時期のはず。首をひねりながらも、服をクリスタライズし終えたサイトは体を拭いて着替えて、ルイズの後ろを歩く。◆◇◆ ルイズの居城の地下には、『瞑想室』とプレートが掛かった一室がある。 龍脈からエネルギーを引っ張ってきており、さらに部屋に敷いた魔法陣や、特殊な香を焚き染めることで魔力と精神力の回復効率を向上させる事が出来る部屋だ。ルイズは大抵ここに篭っていることが多い、勿論夢の国の女王としての仕事もした上でだ。 まあ、瞑想室とは言うものの、実際は精神回復をしつつ時間が勿体無いのでそこで研究をするための部屋――つまり『研究室』なのであるが。「これは……?」 部屋を覗いて、呆然と呟くサイトの眼には、不思議なものが映っていた。 部屋いっぱいに広がる巨大な蜘蛛の巣と、それを写し取ったかのような床の幾何学的な魔法陣。 そして、蜘蛛の巣の中央からぶら下がっている、繭に包まれた何か。……シルエット的に、中身はヒト、だろうか?「まあ、遠いご先祖様みたいなもんよ。虚無の大先輩。――呼び寄せるのに苦労したんだからっ」「大先輩――? …………はっ?! まさか始祖ブリミル――!?」「んな訳あるか、周りの蜘蛛の巣を見なさいよ、蜘蛛と深い関わりのある虚無遣いなんて一人だけしか居ないでしょ?」 蜘蛛の巣に囚われた虚無遣いとなれば、確かに一人しか居ない。 哀れな哀れな第一次聖戦の英雄、グレゴリオ・セレヴァレ。 生前は教会に利用され、死後に至っては身体も魂も蜘蛛の巣に囚われて利用され続けている、可哀想な男だ。「グレゴリオ・セレヴァレの因子を用いた量産聖人『グレゴリオ・レプリカ』は、あの蜘蛛(シャンリット)共の様々な場面で利用され搾取され使い捨てられているわ」「ああ、知ってる。いつだか、ウード・ド・シャンリットも、その胸の中にグレゴリオ・レプリカを埋め込んで『虚無会議』に殴り込んできたな」「そう。そして、グレゴリオ・レプリカは、何度もマイナーチェンジしている。千年の間に登場した幾人もの虚無遣いたちの因子を取り込んで……」 なるほど、とサイトは思う。 千年も同じ人間のクローンを使い回していては、遺伝子だけでなく、それに搭載される魂も劣化するはずだ。 だからそれを防ぐために、シャンリットは、虚無遣いが現れる度に、その因子をグレゴリオ・レプリカに取り込んでアップグレードし、劣化した因子を補ってきたのだろう。「……ん? “虚無遣いたちの因子? じゃあひょっとして、ルイズの因子も……?」「ええそうよ。前にシャンリットで学んでいた時に、サンプル取られちゃったから。まあ、お陰で、グレゴリオ・レプリカの欠片をこっちに引っ張ってくることが出来たんだけど」「ああ、最近この『瞑想室』(研究室)に篭ってたのはその所為か」 恐らくは、ドリームランドの巨大蜘蛛【レンの蜘蛛】あたりに、この部屋いっぱいの蜘蛛の巣を張らせて、準備したのだろう。 そして“蜘蛛の巣に囚われた虚無遣い”という概念を利用して、グレゴリオ・レプリカに取り込まれたルイズの血を呼び水にして、あの繭の中身を招来したのだろう。 蜘蛛の巣の中心で繭の中に閉じ込められた肉人形というのは、そのまま、グレゴリオ・レプリカの現状のメタファーである。雁字搦めに蜘蛛(シャンリット)に囚われた哀れな聖人、彼を覆う繭の頑強さは、そのままシャンリットの呪いの強さを反映している。「ルイズの血肉を使った肉人形(フレッシュゴーレム)を【レンの蜘蛛】に捕らえさせて、それを巣の真ん中でぐるぐる巻きにしてぶら下げさせる。 するとこれによって、『シャンリットに囚われた聖人兵器グレゴリオ(ルイズ・フランソワーズの因子入り)』と、『レンの蜘蛛に捕らえられた肉人形(ルイズ・フランソワーズの血入り)』との間で概念の相似関係による『見立て』が成立するって訳だな。 似ているものは同じもの、というわけで、今目の前で繭に包まれてる肉人形を介して、類感呪術的にシャンリットのグレゴリオ・レプリカに干渉できるって寸法か」「そういうことよ」 だが、何のために?「決まってるわ。あの蜘蛛共の横っ面を、最っ高のタイミングで張り飛ばすためよ!」「なるほど。それとついでに哀れな大先輩の聖人を、解放してあげるためか?」「その通り、私はあの可哀想な聖人を、もう休ませてあげたいのよ。それにここで解放して量産聖人のシステムをどうにかしないと、私も同じように鹵獲されて量産聖人システムに組み込まれる虞れがあるし」 恐らく、ルイズがシャンリットにちょっかいを掛けて負ければ、その身を蜘蛛共に捕らえられ、脳髄と魂を徹底的に陵辱され解剖され分析され複製されて、一介の兵器へと堕とされることであろう。――グレゴリオ・セレヴァレと同じように。「確かにな、負けたらルイズの身柄は押さえられるだろうな。でもその前に量産聖人の攻略法を確立すれば、ひょっとすれば、蜘蛛連中も脆弱性が見つかった『量産聖人』というシステムを破棄するかも、ってことか」「奴らが破棄するくらいまで、上手く永続的な脅威を与えられれば良いんだけどね……」 実際は、グレゴリオ・レプリカに脆弱性が発覚したとしても、パッチを当てられるか何かして、引き続き運用されるだろう。 あるいはルイズからの乗っ取り攻撃が成功しても、シャンリットは対策として、量産のベースとなる素体をグレゴリオ・セレヴァレから、別の虚無遣い――ジョゼフかヴィットーリオかルイズか、あるいは他の過去登場した虚無遣いたちや虚無の予備たちのクローン――に切り替えるだけだろう。 コンピュータウィルスと検出ソフトの果てしないイタチごっこのような。病原菌と免疫の戦いというか。まあ恐らく、果てしなくも碌でもない呪詛合戦になるのは確実だろう。「まあ、シャンリットは結構思い切りがイイところがあるから、多分新しいもっと安全なシステムを開発したらサクッと乗り換える気が、しないでもないわ」「確かに。しがらみのない開発狂って感じはするな。良い物はどんどん取り入れるって感じだよな、イメージ的に」 でも、今からやるのは、別にグレゴリオ・レプリカという量産聖人のシステムを完膚なきまでに叩き潰すことではない。 いやまあ、当然、最終的には量産聖人システムの破壊も視野に入れるのだが、先ず当面の目標は――「先ずは、最高のタイミングでグレゴリオ・レプリカの指揮権を奪うための、バックドア(システムに侵入するための抜け道)の作成よ」「なるほど、戦争のクライマックスで相手の戦力全てをハッキングして、造反させたり自爆させたりする訳だな」「そうよ、相手の兵力を逆手にとってやるんだから……! 裏切りの血の池でのたうち回らせてやるんだからっ! ルイズ・フランソワーズを取るに足りない一個人と侮っていることを、後悔させてやる……!」 ルイズは、シャンリットとアルビオンという邪神勢力同士の戦いの最中に、グレゴリオ・レプリカの制御権を奪って戦場をかき回し、両陣営を疲弊させるつもりなのだ。 自分の手札を切らずに、相手のカードで同士討ちさせ自滅に持ち込むつもりなのだ。 そして消耗した両陣営を、ルイズ陣営(+トリステイン陣営)で粉砕する、というのがルイズが考える基本的な戦略である。「で、結局今からどうするんだ? これから先のハッキング作業で俺が手伝えそうなことは何もなさそうな気がするんだが」 グレゴリオ・レプリカに対するハッキングでは、ルイズのように突出した才能持ちが一人居れば十分だ。サイトのような有象無象が幾ら居た所で無意味なのだ。 サイトとしても、ルイズの戦略には全く異論はない。むしろそこにしか活路はないと思っている。物量に勝つには、やはり物量しか無いのだ。物量に劣るこちらが相手の駒を奪うというのは、かなり上策だと思えた。 さて、では何故サイトはここに呼ばれたのだろうか? しかも随分と急ぎで。「ああ、まだハッキングはしないわよ。それよりも、ここからアクセスするためのパスをもっと太くしないといけないから。 今は未だ、そこに吊るしてる繭の中の肉人形と、グレゴリオ・レプリカとの概念的な繋がりが不安定なのよ。それを補強しないといけない。 蜘蛛の巣によって『地』を模し、虚無遣いの因子という共通する『血』を与えたけれど、あとひとつ、ピースが足りない。『智』のピースが」 ルイズが言うには、『地』と『血』と『智』の三つの共通概念によって、グレゴリオ・レプリカへ介入する経路(パス)を括って安定化させなくてはいけないらしい。「『地』は蜘蛛の巣の見立て、『血』は虚無の因子、じゃあ、最後の『智』ってのは、何のことだ?」「――真実よ」「真実?」 ルイズは息を吸って、万感の思いと共に吐き出す。「そう、世界に隠された、虚無の彼方に散り散りになった真実。始祖の御業、六千年前の戦い、『四の四』、惑星規模環境改変魔法『生命』。虚無の血脈に眠る宿業」「それが、鍵になるのか? グレゴリオ・レプリカを制するための」「そう、『智』は力なり。この世界の真実を知ることで、共有智によって私とグレゴリオの間の――というよりは今目覚めている虚無遣い全員の間の――繋がりは強化され、その縁を手繰ってグレゴリオ・レプリカの内側に眠る魂を活性化出来る。私も、新たな階梯に進める……、真実の智には、虚無遣いを本当の意味で目覚めさせる力がある」 ルイズは確信した様子で語る。 何故そうまで確信出来るのか分からないが……、恐らく巫女として何らかの啓示を受けたのだろう。……ひょっとしたら、シャンリットの研究論文などの情報を元にして独自に推論したのかも知れないが。「それで、真実の『智』は良いんだけど、結局俺は何すりゃいいんだ? っていうかルイズは何をしようってんだ?」「――虚無魔法『記録(リコード)』を、ガンダールヴのルーンに掛けるわ。最古の虚無の使い魔ガンダールヴ、確か、その内側には、ルーンの妖精が宿っているのでしょう? それを踏み台に、六千年前の真実を暴く」「なるほど。でもそれって、シャンリットの連中も、その真実を得るために、何度も同じ事をしたんじゃなかったか?」 そう、虚無の真実を探るプロジェクトは、『始祖復元プロジェクト』として、シャンリットでもトライされている。未だ成果は挙がっていないが。 サイトの疑問に、ルイズは心配ないというように首を振って答える。「確かにシャンリットには出来なかった、でも私なら出来る、私たちなら出来る。虚無の正統後継者である私と、その従僕であるサイト、私たちが力を合わせれば、六千年の歴史の霧だって晴らせる」「……ははっ、そうだなそうだぜその通りだ! 何たって俺たちは――」「「無敵ッ!!」」 ニヤリと笑い合って、拳をぶつけ合う。「じゃあ始めるわよ! サイトはガンダールヴのルーンに神経を集中! 内面へ潜行、以前にルーンの妖精と出会った感覚を思い出して……そしてキーワードは『六千年前の真実』ッ!!」「オーケー! バッチコーイ! 『六千年前の真実』を我らが手に!!」「真実を我らが手に! いつシャンリットに感づかれるか分からないから急がないとならない、でも私の精神力の回復は中途……『記録』の魔法を使うチャンスは一度、これを逃せば後はない、失敗は許されないッ! 往くわよ――」 ルイズのなけなしの精神力が、虚無の魔法へと変換される。 ルイズとサイト、グレゴリオ・レプリカに見立てられた繭の中の肉人形――全てを呑み込むように、虚無の波動が炸裂する。「――『記録(リコード)』ッ!!!」 そして彼らの精神は、六千年の時を遡る――。◆◇◆『――――――……“神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守りきる。”“神の右手がヴィンダールヴ。心優しき神の笛。あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは地海空。”“神の頭脳はミョズニトニルン。知恵のかたまり神の本。あらゆる知識を溜め込みて、導きし我に助言を呈す。”“そして最後にもう一人……。記すことさえはばかれる……。”“四人の僕を従えて、我はこの地にやってきた……。” ……――――――』 始祖の業績をたどる、有名な詩だ。 しかしこの詩には、幾つかのバリエーションが存在する。 細部の語句や、文言の順番が前後する、外典とも言うべきものが存在する。次に紹介するのは、その内の一つだ。『――――――……“四種の力を部下(しもべ)に与え、我はこの地にやってきた。”“我を守りしガンダールヴ。異界より来て我を導く。勇壮可憐な魔法の妖精。”“風に長けるはヴィンダールヴ。秀でし才にて我を守る。獣と心を通わせる、心優しき風の娘。”“知識の蜜酒を授けるミョズニトニルン。優れし智慧にて助言を呈す。溜め込めし智慧は歩く本。”“そして最後に叫ぶはリーヴスラシル。一族全てを殺して守る。禁忌を背負う、生命の叫び手。” ……――――――』 何が正しいのか、誰も知らない。 六千年の真実は、未だ虚無の彼方。=================================アンリエッタとの謁見は出来なかったです。展開に説得力がもたせられているか、若干不安。次回、外伝『六千年の真実』、の予定。2012.01.29 初投稿