「○△! (ちょっと、貴方!)」
「な、なんだ?」
俺は買い込んだガンダムの模型を落とさないようにしっかりと抱えて言った。
俺を呼びとめた相手は可愛らしい幼女だった。しかし、幼女は幼女でも得体のしれない幼女だ。服は古代人のような服を着ているし、外国語らしいのに意味が分かる。何より少女は体が透けていた。
「△△。××……○。□(ふう、ようやく私を見える人に会えたわ。男の人ってのが不満だけど……ま、いいわ。貴方の器、貰うわよ。代わりに私の器をあげる)」
少女が俺の体に触れる。
俺に幼女が触れると、視界が反転した。
目の前に、ふふんと笑った俺の姿。
俺が自分の手を見つめると、その手は紅葉のような小さな手だった。当然、半透明である。
「な、なんだ!?」
俺が叫ぶと、背中が引っ張られる感覚がして、ぐんぐん地上が遠くなる。
空間に開いた黒い穴が俺を吸い込む。
俺が笑顔で手を振っているのが、最後に見た光景だった。
この野郎!
黒い穴から出た先は、なんというか……廃墟だった。
昔は栄えていたのだろう広い町に、貧しそうな人々がちらほらと歩いている程度だ。
って落ち着いて観察してる場合じゃねぇぇぇぇぇ!
落ちていく俺は一際大きな建物に激突、天井を透過し、床も透過し、地下の床に叩きつけられた。
「い……っ」
あまりの痛みに声も出ない。しかし、死んでないだけでも僥倖だ。
「なんなんだよ、一体」
俺は周囲を見回す。そこは何と言うか、アニメやゲームで見た祭壇に似た場所だった。
中央には、一際輝く宝玉が掲げられている。
何故か心を惹かれてその宝玉に触れると、その宝石に吸い込まれた。
「な、なんだ?」
しかし、同時に何故か心が休まる。俺は酷く疲れている事に気がついた。
宝玉から自在に外に出られる事を確認した俺は、宝玉の中で丸まる。
これは夢だ。きっと夢なんだ。目覚めたらいつもと同じ朝が来る。
俺は眠りについた。
翌朝、俺は呼びかけられる声に目を覚ました。
『神よ……怠け者……いえ、隋落……いえ、停滞……いえ、穏やかなる生活を望む神よ。水の神の代わりとなってこの地に降り立った神よ』
まただ。あの少女と同じ、明らかに外国語なのに意味のわかる声。
「お前は、誰なんだ?」
『私は巫女エリザにございます、神よ』
「俺は神なんかじゃない」
『神は恐らく神となったばかりで戸惑っておられるのでしょう』
俺は宝玉から出た。祭壇に祈りを捧げるエリザがいた。
美女だったか、正直俺は三次元には興味が無い。人と話をするのも嫌なんだが、ここは情報収集の為にエリザと会話を続けるべきだ。
エリザは、俺の姿は見えないようだった。
『神よ、お願いがあります。どうか、この近隣の者からやる気を奪う事をおやめ下さい』
「俺は何もしていない」
『しているのです。この町は滅びました。人々が働く事をやめたから。三次元に興味が無いと言いだして、結婚するのをやめたから。夏は家内を涼しく、冬は暖かくするお恵みも下さった事は知っています。しかし、人々は働かなくては生きてはいけないのです。そして、貴方様の力の及ぶ範囲は徐々に広がっています』
「俺は知らない。俺は変な幼女にここに連れてこられたんだ。戻る方法を知らないか?」
エリザはそれを聞いてため息を吐いた。
『水の神よ……準備期間は与えて下さったとはいえ、あんまりななさりようです……。このような神を後釜に据えるなど……』
「何なんだ、俺にわかるように説明してくれ」
『貴方は神となったのです』
なんで。思い出されるのは幼女の言葉。器の交換。
アレが神になるって事か!?
「人間に戻る方法は!?」
エリザは黙って首を振る。
「ここは一体どこなんだ」
『水の神システィア様の神殿跡です。申し訳ありませんが、神ご自身がどうにもできないなら、封印を……』
「○△」
そこで、エリザの後ろにいた粗末な服を着た男が、拝むようにエリザに何か言った。
その男の言葉は、エリザのようには意味が分かる事が無かった。
『わかりました。夏の昼だけ封印をさせて頂きます』
そして巫女は俺にお札を張り、俺の意識はそこで途絶えた。
それから俺が起きていられるのは夜だけになった。これも忌々しい巫女の所為だ。
正直退屈で仕方ない。
収穫があった日に一度、変わった植物を献上された事があったが、それくらいだ。
しかし、捧げられれば体の無いこの身でも食べ物を食べる事が出来るとは思わなかった。
シチューが食べたい。白いご飯が食べたい。魚が食べたい。
本来俺は怠け者の性質だが、嫁達の元に戻る為なら努力も惜しまん。
俺が神だと言うなら、何か出来るはずだ。神様っぽい事が。
俺は夜、思いつく限りの事を試してみる事にした。
まず、空を飛べるかどうか試してみた。
無理だった。
攻撃呪文っぽい事が出来るかどうか試してみた。
無理だった。
むー、俺は神として何が出来るんだ。
巫女に言われた事を紙に書いていく。
1. 働きたくないでござる。絶対に働きたくないでござる!
2. 二次元嫁万歳。
3. 冷暖房完備。
ろくな神じゃねーな……orz って、紙とペンが出せている!?
紙さえあれば、多少の暇つぶしが出来る。でかした、俺!
後はネットが出来ればなー。
そう思案する俺の前に、パソコンが現れる。
お……俺は天才かもしれん……。
俺はパソコンに齧りついた。
ネットにすぐさま繋ぐが、思いつく限りのURLを入れても何も動作しない。
その後試行錯誤して、パソコンが5台増える事となった。
それでわかったのは、俺の出したパソコン同士ならデータのやり取りが出来ると言う事。
このパソコンは俺以外には見えないと言う事。
意味ねーorz
他に、俺の最初に作ったパソコンに限り、俺の支配地を頭上から眺める事が出来る事もわかった。
俺は更にパソコン達を調べる。
更に、最初に作ったパソコンは俺しか所有者に出来ないが、他のパソコンは所有者設定画面がある事に気付いた。
名前を設定するのでなく、血を捧げる形だが。
貢物をパソコンに格納出来る事にも気付く。
さらにパソコンを調べる。
全てのプログラム。
そこを覗くと、なんと俺の出来る事が並んであった。と言っても、先に挙げたような物だけだが。
俺は召喚も出来るらしい。逆トリップは出来ないが。
召喚プログラムをクリックすると、転生、召喚の二種類が選べる事が発覚した。
現在の俺の信仰度、100。使用信仰度、転生20。召喚1000。
召喚は出来ないな。すると転生か。俺の力は信仰度に由来するのかな。
となると、何とか俺の信仰度を上げなくては。
水の神とやらが俺に神を押し付けた以上、俺にも同じ事が出来るはずだ。
そうだ、農業に詳しい者を勇者として転生させるのはどうだろう?
しかし、そこで重大な事に気付いた。最も俺の力が届くこの地には、人っ子一人いない。
精々お札をつけたり剥がしたりする為に毎日客が来るくらいだ。
それに、パソコンを量産したことで俺は疲れていた。
仕方ない、一度休むか。
俺は宝玉に入り込み、休息を取った。
翌朝、俺はパソコンを開いた。
日付を見て、驚く。百年も経過してるじゃねーか!
急いでパソコンの頭上からのマップを確認。ここの神殿にも、人が復活していた。
全般的に人々は貧しそうだが。
俺の信仰度は2000位に変化していた。
本当なら慎重に転生をまず試すのが本当だ。
しかし俺は、どうしてもシチューを食べたかった。
俺はパソコンの召喚プログラムを開く。
対象者を選んで下さいと言う画面が出たので、農業大卒業生とつけた。
マイクがパソコンから出てきて、画面に呼び掛けて下さいと言う文字が表示された。
「勇者よ……勇者よ、俺の声が聞こえるか……?」
すると、いくつかの返事が来る。
「なんだなんだ?」
「キタ―!」
「とうとう幻聴が……」
「あー、この中で古代の世界で農業を極めてみたいというものはいないか」
俺の言葉に質問が来る。
「ネットはあるんですか?」
「無い」
「魔法はあるんですか?」
「わからん」
「チート能力は貰えるの?」
俺はパソコンをちらりと見る。
「パソコンをくれてやる。パソコンのアイテムファイルに物を詰め込む事も出来る。使えるのは冬と夜だけだがな」
「言葉は通じるの?」
……恐らく通じない。言語学者をつけるか。
「言語学者をつける」
「お礼は貰えるのですか?」
「俺のパソコンが礼だ」
「帰ってくる事は出来るのか?」
俺はパソコン画面を確認した。可能なようだ。しかも時間の流れも違うから、向こうの世界で言うとほんの少しの時間らしい。もちろん、年は取るが。
「俺の信仰度を増やせば出来る。俺の名を広める事だな」
「貴方の名は?」
俺は少し考える。
「ニートとオタクの神、ニーク」
げらげらという笑い声が返り、俺は顔を赤くした。事実なんだから、仕方ないじゃないか。
「さあ、我こそはという者はいるか。選ばれるのは一人だけだぞ」
「俺が行く」
画面上に名前が現れる。俺はその名前をクリックした。
名前は鈴木茂。二人兄弟の次男。牧場の家でそこそこ裕福な家庭。
向こうの時間で一年後に召喚タイマーをセット、その事を告げる。
こまごまとした事を打ち合わせて、俺は通信を切った。
さあ、次は通訳だ。
今度はハードルをあげて、言語学者で検索。
「勇者よ、勇者よ……俺の声が聞こえるか?」
そして、俺は加藤晴美という女性の言語学者をゲットした。
全てが終わった後に俺は気づく。
漫画家や小説家を召喚すりゃ良かったじゃん!
俺は大いにへこむのだった。