「はわわわわ、どうしよう、五感を共有してたのをすっかり忘れてたよぅ。とりあえず切ったけど……あっそうだ! チャット札!」
『恥ずかしい所見せちゃってごめんねー。>< 後、中川少佐のお嫁さんになりました』
『kwsk』
『あ、ニーク様! 何故ここに?』
『何って、全然連絡寄こさないから。さっきは強い祈りを感じたから力を貸したけど、大分ピンチに陥っていたようじゃないか。神社は建ったようだけど。状況を三行で』
『えと、お嫁さんになった事は言ったから……メイド族譲渡して、新潟に出撃して、御剣さんが竜人になりました』
『何その超展開。kwsk』
私は状況を話した。中川少佐への想いをつづっていると、ROMが増えた。誰だろ?
『その……御剣だが……』
『あ、御剣さん!』
『その……すまぬ! 中川少佐には、責任を取るよう良く良く言い聞かせておくから……』
『え……? あ、ありがとう……?』
『それと、札の材料だが、また送ってくれ。私一人に辛い思いはさせないと、武神信仰者が増えていてな。札を作って配るのに忙しくて。武神サリューク様はベータとの戦いの勝利を約束して下さった。ならば、私は姿が異形へと変わり果てようと構わないのに』
『おー! 御剣! 俺がニートとオタクの神、ニークだ。よろしくな』
『ニーク様におかれましてはご機嫌麗しゅう。ベータの撃退に感謝を』
『おう。義務だけで生きてるような奴みたいだからな、ベータは。そもそもあれは生体ロボットだし。俺の力は効くぜ―』
『生体ロボット!? ニーク様はベータが何か御存じなのですか!?』
『一応神だし。それ以上の事は良く知らんが』
『そ、そうですか……。それで、春風。香月博士が神社のご神体にする札を送ってほしいそうだ。とりあえず特殊能力をくれる全部の神の力を借りると言っていた』
『それだ。他の神に話をしたら、ぜひ協力させてほしいと言ってくれたんだが、春風、さっきの戦いで癒しの札と植物の札と獣の札、使わなかったろ。仲間外れにされたって怒ってたぞ。自然の復活と、純夏の回復に使ってやれ。獣の札は安産な』
あ、安産って、ニーク様……恥ずかしいよぉ。
『純夏!? 純夏がここにいるのか!?』
『ああ、お前は白銀武か。純夏はベータに拷問された揚句脳味噌だけにされていたんだ。00ユニットにする為のメイド族の頭脳はもう春風が渡したそうだから、もう出来てるかな? 00ユニットにする際、脳味噌は死んでしまうんだが。ああ、ベータの浄化槽は使うなよ。情報がベータに筒抜けになるから、使うなら癒しの札を使え』
私はそれを聞いて、頭が真っ白になった。酷い、酷いよ。そんな怖い生き物と、私は戦ったの? 今更震えが来る。
『……それは本当ですか? 武が血相を変えて出て行きましたが……その、純夏を救う事は……』
『脳味噌から健常体に戻すってのはさすがに無理だな。純夏の魂を捕まえて記憶を持たせたままこっちに転生させる事は出来るけど……。まあ、一瞬春風とシンクロした時、神々の憂いを感じたから、そのままでも死者は暖かく迎え入れられていると思うけどな。大分悲惨な事になってるのに、幽霊騒ぎが無いだろ?』
死者蘇生とも言われていて、ニーク様の信仰が爆発的にあがった理由でもある。
誰だって、大好きな人には生きかえってほしい。例え、赤ちゃんからのスタートだとしても。もちろん、神様はめったに転生は使わない。地位とかも関係ない。純夏さんのような、本当に幸せを掴んでほしい場合だけだ。
『それは本当ですか!』
『父さんも……転生させられる?』
『おいおい、転生は信仰度を100ポイントも使うんだ。そんなに大勢は出来ないぞ。まだ魂が成仏出来ていない事が条件だしな』
『私は……』
『神社を建てるんだろう? 参拝してみたらどうだ。助けになる神が、きっと現れる。狭霧大佐は自分の事でいっぱいいっぱいだろうからな。決心がついたなら、特別サービスで彩峰父と純夏と武だけ転生させてもいいぞ。妬みを一身に受ける覚悟あるならな。武にも聞いてみてくれ』
『……神様は、なんでもお見通しなんだね』
『そうでもないが。そうだ、大事な事を忘れてた。流通業が壊滅するからと思って隠したまんま忘れてた機能があるんだ。以前冷暖房機能で家電製品メーカーが偉い事になったからなー。メール機能と言ってな。アイテムを送り合う事も出来るんだ。アリスにだけメール機能を教えとくから。お前もとりあえず内緒にしておけ。これでスーパーオイルの事は気にしなくていいぞ』
『本当ですか!? ニーク様、ありがとう!』
『はっはっは。任せとけ。お前はとにかく毎日チャットなり掲示板なりで連絡しろ。アリスとご両親が心配してたぞ』
『はい!』
私は、早速チャットに入った。
『アリス、いるー?』
『ずっといるよ! 学校休んで、殆ど寝ないで交代で張りついてたよ! 春風の馬鹿! エロゲの世界ってどういう事? 私、異世界に飛ばされたとしか聞いてないよ!』
『直美! お前、大丈夫なのか』
『アリス、お父さん、ごめんなさい……あ、あのね』
話そうとした時、私の頭の中でスイッチが切り替わるのを感じて、私はそれをそのまま書きこんでしまった。
『あ、設計図組み終わった』
『えーーーーーーーーーーー!?』
『なんだとーーーーーーーーー!?』
『妊娠したってどういう事よ! 嘘でしょ春風よりは先に結婚できると思って……待って。あんた、ちゃんと愛し合ってるの? エロゲの世界なんでしょ?』
『う、うん。一応。戦場でね、とってもかっこいい人が私の事を……きゃv』
『戦場ってどういう事だ! 春風みたいな可憐な女の子が、お父さんは許さんぞ! ニーク様の力を最大限引き出して、なんとか戦争をやめさせられんのか?』
「先ほどから、宙に向かって指を叩いて何をしておられる?」
「あ、中川様……父と親友とチャットをしているのです。見えるようにやりますね」
私は中川様の中の人を見て戸惑った。どこからどう見ても新人類。私はこの人と交わったんだと思うと、今でも信じられない。3Pって事に、なるのかなぁ……?
私はチャット札を出して作動させた。中川様は寄ってきて、チャット札を覗く。
「……妊娠?」
「はい、たった今設計図が組み終わりました。私、春風直美は、貴方の子を産みます。あ、子供に良くないから、もうすぐ元の大きさに戻って外で野宿しますね。雨、降らないといいなぁ。ドックでずっと立ってるのは辛いし……」
「ちょ……ちょっと待ってほしい。私は君とそういう行為をした覚えはない」
「そんな! したじゃないですか、あの戦場で、その、設計図を……」
「待て……。あれはそういう意味なのか?」
「そういう意味ってどういう事ですか!? 設計図って子供作る以外に何かあるんですか!?」
中川様は沈黙した後、汗をだらだら流し始めた。
「私、私、からかわれてるんですか!?」
「いや、それは、その……。そうか、設計図が暗号化されていて様々な機体の断片だったのは遺伝子と同じ役目をしていたから……か?」
「当たり前じゃないですか!」
『春風―、どうしたの?』
『中川様が、私と子作りした覚えはないって……私の頭には確かに赤ちゃんの設計図があるのに!』
『嘘―――――! やっぱり春風、騙されたんだよー!』
『だだだ、誰だその不心得者は! そんな奴のデータなんて消去してしまえ! 設計図の段階なら命も何もない!』
『お父さん……! でも、でも……!』
「いや、しばし待たれよ! 私も武士、知らぬ事とはいえ婦女子を妊娠させて放り投げるような事はしない! ただそう、少し時間をくれ。相談せねばならないゆえ」
中川様は後ずさりしながら、座敷牢を出て行った。
『アーリースぅーーーーー! 中川様が逃げたよぅーーー!』
『はぁるぅかぁぜぇー! 可哀想だよー! 凄く可哀想だよー! 大丈夫、春風がどんな道を選ぼうとも、あたしだけは味方だよ!』
『直美! 直美! ああ、今駆けよって抱きしめてやる事が出来んとは! 大丈夫なのか? 設計図は削除するんだぞ、いいな!』
私はそれを聞き、首を振った。新しく生まれようとする命を削除してしまうなんて、私にはできない。
チャットを切り、私は丸まった。
赤ちゃん。私の赤ちゃん。
丸まっていると、なりません、なりませんという声が聞こえて来て、座敷牢の扉が開いた。
御剣さんにそっくりな新人類がそこにいた。お付きの人がついている事から、偉い人なのだろう。
「そなたが冥夜を竜人へと変えた娘ですか。……本当に、戦術機なのですね」
「竜人に変えたのは武神サリューク様です。それに私は戦術機じゃなくて、新ロボット族の春風直美です」
「悠陽です。冥夜はサリューク様の布教に努めているようですが、武神とは、貴方の信仰する神々とはどのような神なのか教えてはくれないでしょうか」
そこで私は気付いた。悠陽さんは御剣さんの親戚か何かで、心配なんだ。
私は授業で習った武神の逸話や御剣さんの様子を中心に、神様の話を語って聞かせた。
「怠けさせて町を滅ぼさせるとは……ニーク様は強大な神であらせられるのですね。ベータをも退けたとか」
「あんなの、奇跡です。二度と起こせないと思います。ニーク様がお力を自在に振るうには、ここには信者が少なすぎます。ここは軍人がほとんどだし、軍人とニーク様って反りが合わないし……」
「この世界の誰とも、引籠りと趣味の神は合う事はないでしょう。そんな余裕はこの国にはない……。しかし、ニーク様のお力は必要です。信者を増やすべく、何か手を打ちましょう」
「ありがとうございます。あの、それと、ここから出してくれませんか? 赤ちゃんを育てるのに、小さいままだと赤ちゃんに障害が出るかもしれないので、元の大きさに戻りたいんです」
「赤ちゃん?」
「はい、私の頭の中には中川少佐と私の赤ちゃんの設計図が……」
「設計図? 戦術機を作るのですか?」
「何って、お腹の中で赤ちゃんを育てるんです」
「……どうやって子供を作るのですか?」
「何って、設計図を、こ、交換……して……」
悠陽さんは、しばらく考えた後、口を開いた。
「……と言う事は、武御雷の子供ですか」
「武御雷?」
「あの機体の名です」
「武御雷様……」
私はその言葉を口の中で転がした。
「わかりました。武御雷の子と言えば私の子も同じ。帝国が責任を持って面倒を見ましょう。と言っても、私にどこまでの事が出来るかわかりませんが……」
「あ、ありがとうございます」
悠陽さんはクスリと笑った。
「実は、ここへは恨み事を言いに来ようと思ったのです。冥夜の姿を見た時はそれほど驚きました。しかし、神の事……信じてみようかと思います」
「武神サリューク様は信じてオッケーですよ! 他の神々も、皆いい方達なんだから!」
「ふふ……子供の事、楽しみにしていよう」
私はそれに頷いた。
赤ちゃんの為に、春風直美、野宿頑張ります! まあ獣人の札を張ってれば安産でしょ!