その日、私は神様と御剣さん達とチャットをしていた。
『ニーク:そう言えば、HSST事件はどうなった?』
『武:なんでもご存知ですね、神様は。あれは無くなりました。代わりに、珠瀬事務次官だけじゃなくて、なんかいっぱい要人が視察に来てましたよ。特に珠瀬の植物を育てる札が大人気でした。俺達神官の視察が目的の殆どって感じでしたねー。ニーク様の転生の力についても問い詰められましたよ』
『ニーク:そうか……あの能力についてのごたごたは、もううんざりなんだがな』
『御剣:仕方ありませぬ。誰でも、愛しい者ともう一度巡りたいと思うのは当たり前ゆえ……』
『ニーク:そういえば、春風。とにかく混合視察団を送る、だそうだ。俺の一番の愛し子のマイケルも来るからよろしくな。クーデター対策に、悠陽と春風以外と一切の交渉はするなと言っておいたから、これで悠陽の権限は増大するはずだ』
『春風:ええっ 日本国首相が!? それになんで私!?』
『武:クーデターだと!? どういう事なんだ、ニーク様!』
ちなみにマイケル様はニーク様一押しで日本国首相についた人だ。父親はアメリカ系旧ロボット族で、獣人の血も混じっている。マイケル様が生まれた時、ニーク様は狂喜して名付け親となり、アメリカ合衆国大統領……は無理だったので日本国首相につけるべく神自らが教育し、その教育内容とニーク様の熱の入りように、誰もニーク様にNOを突き付けられなかったのだ。マイケル様の首相にふさわしい人間になりつつニーク様の望む振舞いを身につける為の涙ぐましい努力は伝説となっている。
『ニーク:何ってお前、大企業の社長にして技術省長官の海野の娘だろう。首相に次ぐ権力者の娘だし、そもそも日本国首相はお前の長兄じゃないのか』
『春風:でも、お母さんは、私を捨てて……。異父兄妹だっていっぱいいるし……。仲いいのアリスくらいだし……。マイケル様とは生まれてから一度も会った事……』
『ニーク:兄を様付けするな。捨てたわけじゃないさ。海野は常に子供達を見守ってた。最高傑作である子供達をな。俺が加護を与えたのも実験の一環だ。思うに、今回の転移は俺の力の暴走だと思う。神のうちで召喚を使えるのは俺だけだから。ただ、春風が選ばれたのにはそれなりの理由があると思う。俺の力を強く宿し、この世界の人々が望んだ、信仰した理想の戦術機、それに近かったから、春風、お前はあの世界に召喚されたんだと俺は思う。それに、戦術機との子供、俺は期待してるんだぞ。海野もな』
知っている。異父兄妹達はマイケルを筆頭にお母さんの目に叶う様に、一生懸命努力していたし、今もしている。幼年訓練施設は、楽しさ第一のニーク様の方針で廃止されたけど、自分から乞うて厳しい訓練を軍人さん達につけてもらってる事も知ってる。でも、私はそんなのは嫌。愛してくれるのはお父さんだけでいい。それと亨様……だから私は、神様のお願いは聞いたけど、他は普通の女の子として振舞った。そして、望み通り、お母さんの合格ラインから脱落した事も知っている。私、知ってるんだよ。他の異父兄妹には、皆、より素晴らしい子供を作る為の婚約者がいる事を……。アリスだって……アリスの婚約者は鳥人だけど、どうやって子供を作るんだろう……。鳥忍者ロボットって神様が期待しまくっているらしいけど……。とにかく、そんな異父兄妹達は、私よりずっと頭が良くて強い。私は人一倍体ががっしりしてるけど、最弱なのだ。
『春風:でも私、お母さんに合わせる顔ないよ。そんな気もないし……。私、妾だし……。子供だって、悠陽様の養子に……』
『ニーク:何?』
『春風:私、妾なの』
『ニーク:お前、虐待されてるのか? 中川少佐とやらは、俺の愛し子、日本が誇る最高傑作が一人を虐待しているのか?』
『御剣:ニーク様、私が悪いのです! 普通の娘だと思い、ならば相手が名門だと言う事もあり、妾でも良かろうと……』
『ニーク:春風の母は話した通りだし、父も計算しつくされたメイド族と技術省職員との子……実験体だぞ』
『御剣:えーと……それは……その……偉いのですか?』
『武:実験体って偉いのか?』
『ニーク:偉いに決まってるだろう!』
『御剣:それは失礼した。許すが良い』
『武:待て待て、でも新人類の武家の子なら、新人類の跡継ぎが必要なんじゃねぇか!?』
『ニーク:む……それもそうか。神官と人間の子は神官だし、意図して力を濁らせるのは可哀想だしな。悠陽の子と言うのも良く言えば最高の待遇を、と言う事なのかな……』
武の取りなしに、神様は納得する。早いよ、神様。
『ニーク:虐待されたら言えよ。俺が守ってやるから』
『春風:ニーク様の守ってやるって、害敵皆怠け死にさせる事じゃない……要らないよ。それに、私に人脈とか期待されても困るもん。私、やっぱり妾でいいよ。権力のドロドロなんて、関わりたくないもん。子供達と亨様と、平和に暮らせればそれでいいよ』
『ニーク:息子達が懲役されないとでも思ってるのか。違うから、獣人の札を最大限に使ってるんだろう?』
『春風:それはこっちの世界の人が皆、そうだよ』
『ニーク:春風……』
『武:で、クーデターってどういう事ですか』
『ニーク:もうすぐそれが起こるんだよ。原因は、一概には言えないが、大義名分は悠陽の権力が低いことへの不満だな。このチャットに明日の7時に要人が入る事になってるから、御剣と悠陽、夕呼先生は入っとけよ』
『御剣:私は……』
『ニーク:御剣はこの世界の武神の唯一の神官、愛し子だろ。この前の事でわかっただろうけど、お前って何気に春風に……もっといや俺に対抗できる唯一の存在なんだから、それなりに振るまえよ』
『御剣:……承知した。武達もいた方が良いのですか?』
『ニーク:武達に関しては、追って沙汰する。明日の主な話題は佐渡島の偵察任務だから、竜人とドワーフと春風とそっちの政府代表がいればいい。後、余計な奴は会話に加わるなよ。サリュークとトワレが入るって言ってるから、チャットとはいえ神聖な話し合いだ。破れば祟りが起きると思え』
『御剣:承知した』
大変な事になっちゃった……。
翌日、私の横には中川様や五摂家の皆さんが集まっていた。
悠陽様も帝国の要人に囲まれておられる事だろう。緊張する。
『サリューク:早速だが、妾は佐渡島に中央神殿を建てたい。冥夜も賛成してくれような』
武人様、アクティブだぁ。
『御剣:は。神殿を建てるのは賛成しますが、新しい国を作ると言うのは……』
『サリューク:日本とすれば日本人しか参拝に来れぬであろ。それに神殿は治外法権でなければならぬ』
『悠陽:国を治めるのは、どなたになるのでしょうか』
『サリューク:神官が持ち回りでする事になる。最初は冥夜に任せようぞ』
『悠陽:佐渡島を制覇する事……可能なのですか?』
『ニーク:それだけなら楽にできる。頭脳級のベータ……反応炉を破壊すればいいだけだから。だが、それだと周囲にベータが溢れかえるだろうな。横浜基地のある日本も危険に晒される』
『夕呼:楽にできるですって!』
『サリューク:そこはそれ、ニークと妾に勝てる者などいないであろ』
まあ、ニーク様が力を使っちゃえば隙だらけになるもんね。
『ニーク:信者に大分被害が出るぞ』
『サリューク:それは仕方のない事じゃ』
『ニーク:うちは人口が少ないんだ。悠陽、お前はどうしたい?』
『悠陽:神々よ……どうぞ、日本を、地球をお救い下さい……』
『サリューク:うむ、任せよ。そして妾を称えるのじゃ』
『ニーク:うーん……。宇宙に移民する技術と惑星座標と引き換えなら、いいか……。宇宙開発の技術はまだそんなに発達してないし、こっちの世界にもその居住惑星があるかもしれないしな。後、俺はオルタ5もどんどん進めるべきだと思うぞ。保険はあって悪い事じゃない』
『サリューク:うむ、いっそ地球を寄こすがいいぞ。信者がちと増えすぎているでな。移民先が必要なのだ』
『悠陽:地球は私達の故郷です。しかし、共にベータを打ち払い、共生する事は出来ましょう』
『春風:あ、あの、それって取らぬ狸の皮算用じゃないですか? まずベータと戦ってみる事が重要だと思います』
『サリューク:うむ、御剣、わが軍を率い、ベータを減らして参れ』
『御剣:は?』
『マイケル:安心するがいい、ミズ・御剣。この私もついて言ってやろう。何故なら! 私は! 日本国首相だからだ!!』
『ニーク:きゃーマイケール! 行け行けー! 春風と、調査用に黒影もつけてやる』
『夕呼:待って! こっちも00ユニットと霞を向かわせてもらうわ。調査が必要なのはこちらも同じよ』
ニーク様がお喜びになる。黒影はアリスの父だ。
『トワレ:楽しく話している所、悪いのう。ワシも反応炉を調べさせたいんじゃが良いじゃろうか?』
『ニーク:来たか、トワレ。まあ、調査だけなら問題ないだろ。じゃあ、話は大体纏まったな。お前達、明日からその方向で煮詰めろ。決行は12月5日な』
そしてチャットから要人が離脱していく。
あまりにも無茶で、あまりにもあっさりした話し合いに皆さん、呆然としていた。
「なんて事だ、冥夜様が……」
「あの、あくまでも偵察程度ですし、武神主催の戦で指揮官が死ぬなんてありえないと思います。でも、佐渡島では帝国も協力した方が良いかもしれませんね……。神官達の力だけで佐渡島を奪取されたら、本当に独立国になっちゃうと思います。でも、逆に、もしも帝国の力を見せつける事が出来たら……」
「厄介な事になったものだ……」
『皆の者、これを見ているのでしょう? どうか……冥夜を頼みます……』
「悠陽様……!」
それにしても、大変な事になったものだ。ちょっとニーク様、何が守ってやるよ。私、妊娠中なんですけどー!
その後の細かい話しの詰めには参加させてもらったけど、何が何だか分からなかった。
12月1日、続々とアイテムボックスに竜人やドワーフや旧ロボット族が送られてきた。
彼らはパソコン機能のアイテムボックスでテントを出して設営していく。
ピリピリした風の国連と帝国の人達が出迎え、私はそれを見守った。
「直美君、いや、大変な事になったねぇ」
「春風ぇぇぇ!」
「黒影おじさま! アリス!」
「私が来たからにはもう安心だからね! 誰!? 春風を騙した奴は誰!?」
そこに武御雷に乗った亨様が現れた。
「あ……v 春風、あの綺麗な人は誰……? いけないわ、私には風影様が……v」
「えと、私の旦那様の亨様です……」
「うっそーーー! こんな美形なの!? そりゃ騙されちゃうわー」
「君は一体どんな人物なのだね?」
黒影さんとアリスが亨様に寄って行く。
「初めまして、直美さんの……その……遺憾ながら夫の……中川亨と申します。中川家と言う武家の跡取です」
「武家! ニーク様が好きそうな響きだな。となると家柄はそこそこいいのか」
「お武家さま……素敵v」
「ちょっと待ちなさいよ、アリス! 私の夫なんだからね!」
私はアリスを牽制する。
その後、クスリと笑った。
凄く懐かしいよ。
微笑む私の後ろでは、御剣さんが竜人と打ち合わせをして確実に戦の準備をしていた……。