『サリューク:はっはっは。佐渡島を取ってやったぞ!』
『悠陽:とってやったぞ、ではありませぬ。あくまでも偵察だけで、本土には被害を出さない御約束のはず。あれで、多くの神官と衛士が命を落としました』
『サリューク:ぬ……』
『悠陽:それに、帝国が佐渡島を奪還した場合、佐渡島は帝国が取る御約束だったはず』
『サリューク:横から掻っ攫っただけであろう!』
『悠陽:御約束は御約束です。そなた達の宗教は保護いたしましょう。中央神殿の建設も御認めしましょう。御望みの知識も捧げましょう。移民も御引受けいたしましょう。帝国軍人に義務として武神の札を持たせましょう。しかし、佐渡島を渡す事、なりませぬ』
『サリューク:うぬぬ……』
『トワレ:まあまあサリューク、思う存分楽しめたんだから良いではないか。島一つと引き換えと思えば、破格の条件よ。ワシも貴重なデータを貰ったしな』
『マイケル:イェェェェァァアア! 我が日本も人道的支援をさせてもらう。さしあたっては自然の復活に努めようではないか! それとそちらの海軍を見たが、海軍に絶対的に必要な技術がまだ開発されてないようだな。これを最優先で提供しよう!』
『悠陽:その技術とは?』
『マイケル:全速前進する船に掲げた神聖なる日本国旗を横にはためかせる技術だ! 何、開発費はほんの二兆円で済む』
『悠陽:要りませぬ』
『マイケル:何故だ!?』
『悠陽:風の札を張れば済む話ではないですか』
『ニーク:頭いいな悠陽!』
『エルロード:それで、我らへの反逆の計画はどうする? マイケル』
『マイケル:HAHAHA。やはりお見通しだったようだな。やっぱ後千年は無理☆という結論が国連で下された』
『サリューク:それが良いであろう』
『マイケル:しかし、神の手助けでもないと滅びそうなこの世界はともかく、こちらの世界は過干渉は望まないと言う奏上は続けていく。例えそれで第三次世界大戦が起き、人類が滅びたとしてもそれは人類が選んだ道。箱庭の楽園より茨の道の自由を選びたいと言うのが国連の意志だ。というか佐野幹事長を無理やりリチャードに改名させてクーデター起こさせたから箱庭の楽園じゃないしな』
『ニーク:お前は一体何を言ってるんだ。それだと俺がつまらんだろ。神々の差別反対! リチャードの反乱の時だって死傷者は出さなかっただろ』
『フレアリー:臆面もなくはっきりそう言えるニークがたまに羨ましくなるのぅ……。強い力を持つ者の責任感とか0じゃしな』
『マイケル:それと向こうの国々も人道的見地に立ってそれぞれの国を支援したいそうだ。国連では兵器データ開示、神官会議では作物の種や家畜の提供とそれを増やす大地の神官、獣の神官の派遣が決定された。日本からは命とは認められない低級AIのロボット兵の提供が行われる。ひいてはアイテムを譲渡する為に各国に新旧ロボット族の受け入れを要請する。次世代OSとお札のトライアルの時が丁度いいだろう。それ以外にも各国の有志が各国の支援をする事になっている。それと、ひと足早く純夏と武と彩峰中将が生まれたので武と彩峰に引き渡す。獣人の札を張れば早く育つぞ』
『悠陽:そなた達に感謝を』
『ニーク:会談は纏まったようだな。春風、そこにいるな? 子供達の育て方をしっかり教えてやれよ』
『春風:はい、ニーク様』
私はチャットを切って伸びをした。ううん、トライアルかぁ。面白そうかも。楽しみだなぁ。
佐渡島には、神官達が集まって中央神殿建設と植物の育成を進めている。
純夏さんは、黒影おじさまのやり方を見てハッキングの方法は覚えたとかで、トラウマと向き合う訓練をしている。術だけではどうにも出来ない部分もあるのだ。
武さん達はトライアルで配るお札を作るのに大忙しだ。
「はぁるぅかぁぜぇ! 会談終わったんでしょう? 後50枚も作らなきゃいけないんだから、手伝ってよぉ!」
うん、現実逃避です……。一番強力なお札を数日で百枚なんて、間に合うわけないよぉ。
黒影おじさまは忙しくてトライアルを機に帰っちゃうらしいし。
新たに送られてくる神官達の案内もあるし……困っちゃったよぅ。
そしてトライアルの日。
XM3のトライアルと共に、お札のトライアルがなされた。
具体的に言えば、竜人と戦術機の模擬戦だ。
御剣さんは善戦したけど、剣を素手で受け止めた時に真剣だったら真っ二つだったろう、と言う事で撃破判定を貰ってしまった。
戦術機3体相手に善戦したんだけどなぁ。
それを見て、配布用のお札が奪い合う様に無くなって行く。
その場で各国の神官保護協定が結ばれていき、神官達が各国に向かう手続きもされる。
既に向こうでは人口過多だけど、一時的に難民を預かる事なら可という話し合いも出た。
あ、武さんはもちろん大活躍だった。
最後には負けたと言え、黒影おじさんを圧倒するなんて、タダものじゃないよ!
最後、黒影おじさんが奥の手の分身の術を使って無かったら、ううん。模擬刀じゃなかったら、負けてたね! おじさん、力弱いもん。狙いは正確だから命中判定は高い数値が出るけど、実際はそこまで切り裂けない。
亨様も出ていて、私が応援していると、ベータが突如として現れた。
その場がパニックになる。
幸い数はいなくて、御剣さん達は目配せし合った。
武さんが戦術機で撹乱し、おじさまが手裏剣をベータに投げつける。
あんまり効いていないと見て、おじさんがため息をついて剣に切り替えた。
「着火!」
榊さんが札を投げつけると、札が爆発する。
「お願い、蔦よ!」
珠瀬さんが蔦でベータを拘束していく。
「行くよ……」
彩峰さんが風で兵士級ベータを切り裂く。
「冥夜さん程の事は出来ないけど……兵士級くらいなら……!」
鎧衣さんがその爪でベータを切り裂く。
御剣さんが大活躍したのは言うまでもない。
整備員がとっさに戦術機の模擬刀に炎攻撃の属性をつけた。
私とアリスも、働きたくないでござる。絶対に働きたくないでござる!の札を投げつけていく。
やだ、急に動いたらお腹が痛い!
「春風!?」
「やだもぅ……痛いし―。だるいしー。働きたくないでござる。絶対働きたくないでござる!」
「いかん! 春風!」
御剣さんが叫ぶ。
私の体が光り、御剣さん達以外が虚脱した顔になった。ベータももちろん動かない。
御剣さんが、亨様が急いで武さん達を回復していく。
その間、私はいきんだ。
「春風、どうしたの……あっまさか!」
「生まれる――――――!」
そして、いくつもの球体が紫と青の球体が零れおちていく。
あ…亨様と、いっぱいしたから……v
ころころと転がった球体に、亨様は目を丸くする。
転がった球体は、いっせいにビービーと泣きだした。
「ば、爆弾!? なんの警報音だ!?」
「なにって、私達の愛の結晶じゃないですか」
「うわぁぁぁ……私、泣けてきちゃった……。やっぱり出産って感動的だよう。スーパーオイル、たくさん用意してて良かったね、春風」
おじさまは私達の周囲のベータを一所懸命に掃討してくれた。
そして嬉々とした竜神の助言を受けた御剣さんの指示の元、組織的なベータ探査が行われる。
私とアリスは、その間に子供達にスーパーオイルや砂鉄を飲ませてあげて、服を着せるのだった。
「では、私は戻る。子供達をしっかり育てるのだぞ」
「はい、黒影おじさま。ですから、そこのカバンに入れた私の子を返して下さい」
「海野がどうしても一人欲しいと言うのだ。一人だけ……」
「皆私の可愛い子供です。一人だけも何もありません。返して下さい。……大人になったら、一人向かわせますから」
「いいか、春風。育成データは必ず送るのだぞ」
「わかっています。おじさま」
そしてトライアルの後、三人の子供が送られてくる。
私はそれを早速武さんと純夏さんと彩峰さんに渡した。
「で、このビービー言う球体はなんなんだ?」
「何って、赤ちゃんです。純夏さん達の転生体」
「機械で出来たボールにしか見えない……手足はないのか?」
「新人類だって、生まれてすぐには立ったり歩いたり出来ないでしょう? ロボット族も同じです。これから鉄を食べて、オイルを飲んで、センサーや体を精製していくんです。今は、転がる事しか出来ません」
「そんな……純夏はまた真っ暗やみの中に閉じ込められたって言うのか!?」
武さんは絶望の表情で言う。
「だから、人間の赤ちゃんと同じ程度の不便さですって。獣人の札も張ってるし、すぐ育ちますよ」
「あ、ああ……」
「父さんが……ロボット……」
彩峰さんが呆然と赤ちゃんを見つめる。
「慧さん! 一児の母親になったって本当か!? 父親は……よ、良かった……相手はロボット族って事は事故か……。慧さん、一人で異種族の赤ん坊を育てるなんて無理だ。け、結婚しよう」
「……」
「彩峰! あいつは誰だ!? 結婚って……!」
「狭霧大尉……さすがだな。あれを一目で赤子と見抜くとは」
武さんが驚き、御剣さんが頷く。
そうして皆が去って行ったあと、私は旧ロボット族に変身して亨様に寄り添った。
「亨様……名前、考えないといけませんねv」
「え……これ、全部、か? というか、もしかして見分けなくちゃならんのか……?」
亨様は、乾いた笑い声を洩らすのだった。