夕呼さんは厳しい顔つきで言った。
「いい、確かに残るハイヴはオリジナルハイヴだけ。でも、オリジナルハイヴにはかつてないほどのベータが集まっているわ。武神札を持っているから、ニークの力も通じない。そこに、00ユニットを届けるのよ。生半可な事じゃできないわ」
私達は頷いた。
「世界各国の戦術機が露払いをしてくれるわ。そして、そこに貴方達が侵入してもらう」
私はこくりと頷いた。侵入するのは私とアリス。そして、私の子供達に乗ったA-01の人達と亨様を含む近衛の人達。彩峰中将と武さんと純夏さん。
そう、私の子供の多くは戦術機タイプ……中に人が入って、人と共に戦う事を喜びとしたタイプの新ロボット族だった。新たな種族の誕生だ。
それに、武さんはかっこいい新ロボット族へと変じていた。
純夏さんは人間に大分近い形のロボット族だ。
純夏さんズと人間の武さん、霞さんは凄乃皇に搭乗。
そして、私達は出発した。
オリジナルハイヴを取り囲むニーク様の神社。その結界のさなか、オリジナルハイヴの外まであふれたベータ達。それは正しく肉の壁だった。
そこを、凄乃皇の攻撃で道を作って行く。
A-01の皆も、戦術機と神様の力を存分に使いながら切り進んでいく。
動けないベータに隠れて動けるベータが攻撃してくるのも問題だ。
しかし、そこは歴戦の彩峰中将。皆をうまく指揮して、進んでいった。
純夏さんが見つけ出した最短行路を、私達は進んでいく。
戦術機でなく、私の子供達が選ばれたのは理由がある。
威力が高いが故の消耗品である癒しの札を、私は惜しみなく消費する。
そう、弾薬をアイテムボックスに入れる事が出来て、癒しの札で傷が癒えるロボット族は、この任務にうってつけだったのだ。
まだ幼い子供達を無理やり成長させて戦場に立たせるのは心が痛む。
しかし、子供達の中には、搭乗者を愛している子も多い。
あるいは愛ゆえに、あるいはこの義務感ゆえに、あるいは闘争心ゆえに、あるいは好奇心ゆえに。
子供達の方から、ぜひ参加させてほしいと言ってきてくれた。
私はそれを聞き、涙を流していた。
悠陽は強いと思う。あんなに可愛がっていたのに、笑って子供達を送りだしたのだから。
この世界の人達はすべからく強い。そして、今や私もその住人なのだ。頑張らなくちゃ!
「あっ駄目!」
ベータの攻撃が娘のアイリーを貫く。アイリーの急所は外れているが、搭乗者席をかすっている。私は癒しの札を出そうとしたが、既に無くなっていた。武さんは作戦で別行動をしている。ここで高度な治療は出来ない。可哀想だけど……。
「ごめんなさい、アイリー。癒しの札がもうないわ」
「ならば、私が作ります。母上、ニーク様……お許し下さい。三塚、役立たずになって貴方に嫌われても、私は貴方に生きていて欲しい」
「いけないわ、アイリー!」
「癒しの神よ、どうか……」
アイリーは癒しの札を作る。すると、アイリーは半人半機械のアンドロイドとなった。
そうか、メイド族や戦術機の血も混ざってるから、完全な人間には戻れないんだ……!
アイリーのアイテムボックスから、残っていた弾薬が零れおちる。
そしてアイリーのノートパソコンは消滅した。
「ああああ、アイリー? その姿は……」
亨様が動揺する。
「アイリー、そなたなのか? やはりアイリーは最高の女だな。私の為に信仰を捨てるとは、馬鹿な事を……」
「乗れなくなった私は、嫌いになりましたか? 三塚」
三塚が無言でアイリーにキスをして、アイリーは顔を真っ赤にした。
親としては感無量だ。でもでも、アイリーは体は大人でも、まだ実年齢が幼すぎるんじゃなかろうか。
私はアイリーが三塚を治療したのを見届けて、三塚をアイテムボックスに入れることで避難させた。
アイリーにもそうしようとしたけど、アイリーは首を振る。
「母上、このような姿となっても私は父上と母上の子。私も戦います」
「直美……お前達は、本当に人間だったのだな……」
「なにか今、聞き捨てならない事をいいませんでした、亨様!?」
「いや、だってあまりにも姿が違いすぎて……そうか……そうか……」
もう、亨様ったら。
そして、私達は負傷者を回収し、徐々に数を減らしながら奥へと進んでいた。
S-11は腐るほど持ってきているから、工作は楽だった。
ある程度進むたびに珠瀬さんに蔦で壁を作ってもらう。
これで、前を見ているだけですむ。
最奥に行くと、武さんがオリジナルハイヴと会話していた。
内容は武さんがチャット札に書いてくれているので、伝わっている。
外では全世界がこの会話を固唾をのんで見守っている事だろう。
ちなみに混乱を防ぐ為、チャット場で話す権限は、武さんにのみ与えられている。
『武:シリコンからなる生命体……!?』
『武:純夏じゃ駄目なのか!?』
『ハイヴ:否定。ロボット族のような種族の存在はありえない』
『武:でもいるじゃねーか!』
『ハイヴ:ありえない』
『武:ありえないじゃねーだろ! 現実を認めろ! 炭素生物だってあれだろ、いたけどお前が知的生命体だと認めなかっただけだろ! 問い合わせて見ろよ、お前のご主人様にデータを送って!』
『ハイヴ:ならばそれに値する証拠を見せてみよ』
『武:おお、見せてやらあ! メカ純! 頼む!』
『メカ純:ハ、ハイヴは私がいれば止まるんでしょ? 止まって、止まってよ』
『ハイヴ:私には何も見えない』
『武:おいいいいい!』
そこに、続々と私達が到着した。
私達も攻撃されて、アイリーは力を使いはたしていて。また一人搭乗者の為に信仰を捨てる。
『ハイヴ:質量保存の法則の無視。理解不能。理解不能。そもそも全てが理解不能。上位存在に指示を仰ぐ』
『武:おお、仰げ仰げ。それで、侵略をやめろ!』
『ハイヴ:上位存在の指示が返ってくるまで推定一年。それまでは通常通りの活動を行う』
『武:ふざけんな! くそ、結局ここで倒さないといけないって事か……! 純夏、行けるか? 今癒しの札に全力で力を送ってる……!』
「武、今助ける。行くぞ、ミーア」
ミーアに乗った御剣さんが刀を振るった。
全員、戦闘状態に入る。
『武ちゃん! 母星の座標、見つけたよ!』
『純夏……純夏! すげぇよ! こっちまで伝わってくるほど辛い思いをしてるのに……よし、さっさと奴を倒して帰ろう!』
『うん、武ちゃん!』
そして、光が頭脳級ベータを覆う。
そして私達は、メカ純のアイテムボックスに入り、脱出したのだった。
そして二年後。そこには、大地の神に力を借りて復興を続けるとともに、オルタネイティブ5と6計画に全力を注ぐ人類の姿があった。
オルタネィティブ6の計画はもちろんベータを作った知的生命体との接触計画だ。
オルタネィティブ5の計画も進んでいるのは何の事はない、要らないならもらうと神様が言いだしたからだ。
激減した人口はいくらでも補充できる事となったし人材は欲しいが、乗っ取られるほどの数となると話は別だ。
そして唐突に、その日は訪れた。
UFOの襲来が。
いつでも迎撃出来る準備をして、緊張して帝国人は出迎える。
現れたのは、スーツ姿にキツネ目の……完璧なる人間だった。
「いやー、我が社の資源集積装置がご迷惑をかけたようですみません」
第一声もまた、完璧なる日本語だった。
その人物は、横浜基地へと案内される。
「あ、食事は要りません。これは作り物の体なのでね」
軽く笑ってコーヒーを下げさせ、夕呼さんと向かい合った。
しかし、視線は魔法で小さくなった私に向けられたままだ。
「それで、それなりの代償は支払ってもらえるのでしょうね」
夕呼さんの言葉を無視して、その人物は口を開く。
「装置が送ってきたデータによると、貴方方は質量を操れるとか。見せて頂けませんか?」
「質量を操る? ……大きさを変えるって事ですか? は、はい。わかりました」
私は外へ出て大きくなって見せる。
「ははは。凄い凄い。札の効用についてもぜひ教えてほしいですな」
「ちょっと! 中川、ただで情報を流しちゃ駄目よ!」
すると、その人物は冷たい目で夕呼さんを見つめた後、一瞬で笑顔となった。
「これはこれはすいません。なにせ、私は科学者なものでしてね。すぐこういった事に夢中になってしまうのですよ。それでですね。和平協定ですが、『中川さん』達となら結びたいと思います」
「……! 私達は知的生命体と認めないって事ね」
「そもそも、あの装置に知的生命体の攻撃を避けさせたのは、それに反撃されるのを防ぐために他なりません。貴方方位の武力なら、どうとでもなる。そういう事です。それとも、貴方達特有の取引材料が……」
「私はもう、この世界の人間です。そしてこの世界の人達はもう神々の信徒です」
「そうですか、では、条件を提示しましょう。亜人を何人か我が星に御招待したい。永遠にね」
「馬鹿にしないで頂戴。こっちにだって00ユニットと私の頭脳があるわ。亜人だって売り渡したりしない。さあ、交渉を始めましょう」
夕呼さんが私を庇うように立って言い放つ。
「ふん。先ほどの提案を飲むほど馬鹿ではないようですね。宜しいでしょう。まず……」
交渉が始まって、私は沈黙する。やっぱり、交渉事は苦手だ。
その後、すぐにアメリカ大使たちが到着し、強引に会談の予約をする。
どうやら、忙しくなりそうだった。
そのさなか、私は亨様に呼び出された。
「あの、何ですか? 亨様……」
「そなたに聞きたい。私が好きなのか、武御雷が好きなのか」
それは難しい問題だ。ちょっと考えた後、私は答えた。
「武御雷は好きです。ですが、その中身は亨様でなくては。この答えじゃ駄目ですか?」
「ならば……私の為に、信仰を捨ててくれ。私は、そなたとの子供が欲しい。真実、そなたと私の子が」
「え……」
「きっかけは、アイリーだった。それ以来、ようやくそなた達を同じ人として見れるようになった。そなたを、正妻としよう。結婚式をあげよう。そして、アイリーのような可愛い娘を作ろう」
「亨様……。わかりました。私は貴方の妻……ごめんなさい、ニーク様……」
私は、札を作る。獣人の札を。
すると、私の体が縮まった。それでも亨様は、私より頭一つ小さい。
「あ……あれ? そなたも美人だが、アイリーはこんな体格のいい宝塚に出れそうな女性じゃなくて、もっとたおやかで触れれば折れそうな……」
「ああ、アイリーは武御雷似なのよ」
「そ、そんな!?」
「亨様、私からも質問を。好きなのは私? それとも、武御雷?」
私は、獣人の札を亨様に張る。亨様の中で、性欲がわき上がるはずだ。
「ははは……それは、難しい問題だな。答えは……」
そして私達はキスをした。
00ユニットを通し、全ての並行世界の純夏がニーク神に帰依、またベータの本星の位置が知れ渡る事になった事を知るのは、一ヶ月後の事だった。
これにより、ニーク神の力は莫大に高まるのである。