俺、鈴木茂は喜びのあまり震えていた。
神様からの勇者召喚キタ―! 俺は何か人と違う事が出来ると思っていた。
夢ではない証拠に、俺の目の前には神から貰ったノートパソコンがある。
俺は喜び勇んで兄貴に報告しに行く。
「兄貴―! 聞いてくれ! 俺、神様に召喚された! 一年後! 見ろよ! 証拠のノートパソコン!」
兄貴は駄目だこいつ早く何とかしないと……という顔で俺を見る。
「何も持っていないじゃないか。お前、今年大学卒業したんだろう。いい加減、大人になれ」
「え……?」
俺はびっくりして兄貴を見た。
まじまじとパソコンを見る。
それは確かにそこにある。
俺はすごすごと部屋に戻った。
そうか、兄貴には見えないのか……。
とにかくパソコンを開いてみる。何か証拠になりそうなものはないものか。
パソコンを開くと、貴方の血を認証画面に捧げて下さいとある。
驚いたが、これは神のパソコン。そう言う事もあるだろう。
俺は震えながら針で指をつき、そして指で画面をつついた。
パソコンが光を放ち、名前を付けて下さいと出る。
「クロ……クロだ」
普段の姿を決めて下さいと出る。
急に普段の姿と言われても。茂は猫の姿を思い浮かべた。ずっと飼いたくて、でも駄目だった。黒い可愛い猫。
設定が完了しました。起動時にはクロ、起動と唱えて下さい。消費MPは一時間につき10です。
そして、パソコンは思い浮かべた通りの可愛い黒ネコとなって前足を舐める。
「クロ、起動」
俺は黒を抱き上げ、恐る恐る言った。
再度パソコンが現れ、パソコンの画面の右上にMP315/325と表示されていた。
「すげぇ……すげぇ!」
早速全てのプログラムを見ると、以下の物が作動しているのが分かった。
「働きたくないでござる。絶対に働きたくないでござる!」無言で切る。
「二次元嫁万歳」ザクッときたがこれはどうせ変わらないから放置。
「冷暖房完備」これも放置。
「燃費削減」これも放置。
「ネット機能(消費MP20)」繋いでみると、掲示板とチャット機能の二種類があるようだった。
掲示板に、「加藤晴美です、よろしくお願いします。鈴木さんは、向こうに何を持って行かれますか? ……って農作物に決まってますよね。私より荷物が多くなりそうだから、アイテムゲージが足りなくなりそうだったら手伝いますよ」と書かれていた。ほほう、荷物を入れるのにアイテムゲージがいるのか。早速返事を書く。
「鈴木茂です。よろしくお願いします。助かります」
それだけ掲示板に書いて(書き込みはMP5消費だった)、プログラムの確認に戻る。
「アイテムボックス」これがアイテムをしまうものだな。アイテム画面を開いて、試しに鉛筆を入れてみる。アイテムゲージが僅かに減って、鉛筆が消えた。マウスパッドで画面の鉛筆をクリックすると鉛筆が出てくる。
「メモ帳」これは特に問題ないな。
「プリンタ(紙をアイテムボックスに入れて下さい)」
機能はこんなものか。いくつかプログラムやデータを入れられるかどうか試してみよう。
試した結果は可だった。ネットにもつなげる。
そうだ、気候はどうなんだろう。掲示板で神様に問いかける。
なるほど、冬は雪が結構降るんだな。牛小屋とかを作る所からスタートなのかな。
考え考え、俺は再度兄貴の部屋に駆けた。
「兄貴! アイテムボックスにアイテムを入れる所を見てくれ! 俺は本当に神様から選ばれ……あっ」
俺はこけて、ノートパソコンを兄貴にぶつけてしまった。兄貴の姿が消える。
「あ、兄貴―!?」
俺は急いで兄貴をパソコンから出す。兄貴はガタガタ震えていた。
「いきなり暗闇が……」
「だから言ったろ! 俺、神様に選ばれたんだって!」
「お前、もうちょっと詳しく話してみろ」
俺は喜び勇んで兄貴にその話をした。怒られた。
「そんな怪しい話に乗るな馬鹿!」
「うるせ―な、俺は行くぜ! 絶対行くぜ!」
俺が主張すると、兄貴はため息をついた。
「父さんと母さんに相談してみよう」
父さんと母さんに相談しました。怒られました。
「そんな怪しい話に乗る奴がいるか!」
「茂、貴方って子は……」
「とにかく、松下さんに相談してみよう」
松下さんとは、良く相談に乗ってくれる農協の人だ。
俺は困った事になったとため息をついたのだった。
一ヶ月後、俺と晴美さんはとあるカフェで待ち合わせをしていた。怖い人達と一緒に。
「はぁ、なんでこんな事になったのかしら」
「さ、さあ……」
話が広がりに広がり、ついに政府まで届いてしまったのだ。
「異世界というのは誰でも憧れると言う事ですよ」
橋本さんというがっしりしたスーツの人が笑って言う。
外国人のマークさんと言う人が頷く。
「それに、異世界には何があるかわかりませんからね。貴方方にもメリットのある話だ」
「持っていける者には限度があるのよ? 教授も連れて行けって五月蠅いし……」
「そうそう、牛や豚、色んな種や農作物の用具、当面の食べ物……持っていく物は大量にあるんだ」
「シチューの材料分の食材さえあればいいのでしょう? こちらで様々な準備をさせて頂きます」
俺と晴美さんは、顔を見合わせ、ため息をついた。
その代り、国で牛や豚などをバックアップしてもらえる事になった。
一時的に国に調査員として雇われる事になり、給料も出る。
それはいいのだが、何故か俺と晴美さんまで護身術とか機械の操作とか色々な事を勉強する事になった。行くのは古代だっていうのに。
特に晴美さんは、神様から現地の人の喋る言葉を送ってもらってその解析をしながらだから忙しい。
俺も、アニメのデータを神様に送ってやるのに忙しかったけど。
最後の3か月は俺も向こうの言葉を学ぶ事になった。
そして11ヶ月後、俺と晴美さんは政府の人達に見守られる中、旅立った。
その時間が来ると、俺と晴美さんの体が輝く。
「おお、良く来た! じゃあ、頼むぞ」
透けている金髪の可愛らしい少女がにこやかに笑う。
その反対側では、少年が腰を抜かしていた。
『こんにちは。私は貴方の敵ではありません。神の遣いです』
『神の遣い? 隋落の神がこの地に何をもたらすと?』
『オイシイ、モノダ』
俺は片言の言葉で答える。
『とにかく、貴方方が神様の御呼びになった人ってのは間違いなさそうだな』
少年が立ちあがり、お札を宝珠に張る。
すると、クロと晴美さんのキューティーが消えた。
『歓迎します、神の御遣いよ。この神殿をご案内します』
『ええ、お願いするわ。その前に、ちょっとだけお札を剥がしてもらえるかしら』
少年は訝しげな顔をする。
『神の御遣いともあろう者が、この程度のお札をなんとかできないと?』
晴美さんはムッとした顔をした。
『いいわ、何とかしてあげる。気配は遠くなったけれど……』
晴美さんが精神を集中すると、消えたガントレットが再度出た。
「キューティー、起動」
そして晴美さんはアイテムボックスを開き、橋本さんとマークさん、教授の井下さんと動物学者の尾身さん、植物学者の田中さんを出した。少年が驚く。
『あら、神の御遣いなんだから、これくらいしたって変じゃないでしょ?』
晴美さんはふふんと笑って答えた。晴美さん怖い。
『あ、ああ。じゃあ、案内するよ』
神殿の中は、予想以上に荒れていた。
さすがに祭壇まで来る人はいないようだが、浮浪者のような人達が、多く住み着いている。
『神様の力だとあまり食べずに済むし冬に凍死しなくて済むから、皆ここに集まってるんだ。神様は仕事するのを邪魔するから、昼は必ずああしてお札を張らなきゃいけないけど……』
『ああ、それは聞いてるわ』
『一度、この町は滅びた事もあるんだ。神様の怠けさせる力で』
晴美さんはコックリと頷いた。
俺達は会話を晴美さんに任せて黙ってつき従った。
『だから仕方なく封じているけど、神様は怒っているかな?』
『封印を破ろうと思えば破れるわよ。私と同じように。それをしないのは、怒っていないからじゃないかしら』
少年はにこりと笑うと、頷いた。
『おいら、カイトって言うんだ。御遣い様は?』
『晴美よ。ねぇ、開いている土地を探しているの。神様に畑を作るよう頼まれていて。あるかしら?』
『開いている畑はいっぱいあるよ。働く人はいつでも歓迎さ』
『それで十分よ。早速見せて頂戴』
神殿は大きな城壁に囲まれており、その更に外側には畑と草原が広がり、その更に向こうには大人程の高さの城壁があった。
見知らぬ草をいきなり牛に食べさせるわけにはいかない。やはり、牛を出すのは2,3年ここを開拓してからだろう。
「クロ、起動」
俺はクロから鍬を取り出して、働き始めた。晴美さんと教授は人々と話をする為に消え、橋本さんとマークさんは晴美さんに出してもらった機械で何やら調べ始め、尾身さんと田中さんも色々と調べる為に消えた。やれやれ、一人くらい手伝ってくれる人がいてもいいじゃないか?