帰りにもやはり、強力な魔物が現れた。
護衛団が戦うが、戦況が悪い。
『下がっておれ!』
マーティンが斧を振るうと、そこから炎が弾け出た。何重にも別れた角のような物を持つ巨大な牛に似た生き物の角を、叩き折る。しかし直後、弾き飛ばされた。
教授がマークの方を見、マークが頷いた。
ここで死んでは元も子もない。いずれはばれただろう。多分。
「ハンター、起動」
そしてマークが銃を構える。
連続で撃たれた銃弾に、僅かなタイムラグの後、魔物はどうと倒れた。
『そそそ、その武器はなんだ!? 今どこから出した!? その武器を見せてくれ!』
マーティンが勢い込んで叫ぶ。
やれやれ、やはりこうなったかとマークは苦笑いをした。
『企業秘密ですよ』
『もう一度攻撃してみてくれ!』
『弾数に限りがあるので』
『弾数?』
『こういう銃弾を打ち出す武器なのです』
『なるほど! だがどうやって魔物を倒す速度で打ち出す!?』
『そこは部外秘です』
マーティンはいきなりそこで土下座した。
『頼む! その武器を貸してくれ!』
『そんな事をされては困ります! うーん……弾を抜いた状態でなら……。壊さないでくださいよ?』
『おおお、ありがとうマーク』
銃を調べるマーティン。
その間に怪我人の治療をしていたサレスが、死んだトカゲの護符の首輪を回収していた隊商の長と喧嘩を始めた。
『怪我人を置いて行くなんてあんまりです!』
『仕方が無いんだ、怪我人を置いておくだけの馬車のスペースが無いし、乗ってきたトカゲは死んでしまったんだから』
『私が運びましょう』
マークが、ハンターに怪我人を「収納する」。
長とサレスは呆気にとられた。
『い、今のは……』
『隋落の神の加護を受けし者は物の持ち運びが簡単に出来るようになるのですよ』
『ど、どれくらいの物が持ち運びできるのですか!?』
マークは、勢い込んで言う商人に気押されながら答えた。
『ま、まあ精々この馬車一台分……』
『隋落の神に帰依します! さあ、今すぐ神殿に向かいましょう!』
それを宥めている間に、マーティンはチャットの札を使っていた。
『新しい武器を発見したぞ! 隋落の神の神官が持っていた』
『新しい武器だと!?』
『また奇抜で使えない形の剣とかじゃないのか?』
『私はドワーフじゃないですが面白そうな話題ですね』
『鉄の球を凄い速さで打ち出して攻撃する武器だ! こんな武器見た事無い』
『オレ見たい』
『わしも』
『私も』
チャットの札はドワーフが一番多く入手していた。
それゆえ、その情報はまたたく間にドワーフに広がった。
そして、水の神殿に大量の鍛冶の神を信仰する一族が流入する事になったのだった。
「というわけでして……」
「迂闊でしたね、マークさん。まあ、人出が増えたので良しとしましょう。ドワーフさん達は使えそうですし」
橋本が苦笑いする。
ドワーフ達はまたたく間に鍛冶場を建設し、銃を作らんと切磋琢磨している。
また、鈴木と加藤は二人、エルフか何かになる事を期待して仕事と並行して修行の一種である瞑想を始めるのだった。
また、サイロもドワーフに作ってもらえる事になった。
ドワーフの方も、謝礼のライターを貰って大喜びである。
こうして、急速に隋落の神の信仰度と知名度は上がって行った。
「そろそろ漫画家や小説家を召喚しようかな……。それに加藤、そろそろ帰るか? 修業は向こうでも出来るし」
ニークの提案に、メンバーは揃って首を振る。
「農業の人手を増やしてくれ!」
これは鈴木の言葉。
「魔物もいますし、軍人が欲しいですね」
橋本とマーク。
「医者が必要なんじゃなかろうか」
尾身と田中。
「そうね。技術者は必要でしょ。特に製紙技術者は」
晴美と教授。
結局、晴美と教授が帰り、漫画家一人、医師一人、獣医一人、技術者を一人呼ぶ事になった。
召喚をすると、快く応じてくれる。しかし、準備期間と時間の流れの差もあり7年ほど待つ事になった。
そして、冬。退屈な季節。チャット、掲示板文化が花開く。
種族で時間ごとに分けられるようになり、多彩な情報がやり取りされるようになった。
冬が終わると、鈴木は隋落の神の信者達と畑に、橋本は片っ端から文明器具の設計図のプリントアウトをしてドワーフ達に見せた。ただし、作るのはこの神殿内でだけと念押しして。狂喜したのはドワーフ達である。
そして神殿の大改築が始まった。
二年後、ようやく牛豚鶏を放す準備が出来る。
ニークは牛豚鶏に片っ端からキスをした。そして溢れる祝福を受けた動物達。
これは信者達に尊ばれ、大切に世話をされた。
更に二年後、鶏が食べられる程増える。
また、この頃から地球産の作物が一般も分け与えられるようになった。
そして文明化も大幅に進んでいた。元水の神殿は、小さな地球になったのだった。
『はぁぁ……まるで別世界のようですね。家畜をこんな風に飼う事が出来るなんて』
サレスがため息をつく。
サレスが見る先には、現地のダチョウのような動物を乗りこなす尾身さんがいた。
新たな家畜である。
マークは苦笑しながら頷いた。
『さすがは異世界の神といった所でしょう?』
『え?』
『なんでもありません。さあ、ニークさんにシチューを捧げましょう。大切な儀式です』
祭壇に信者達が集まり、緊張した面持ちで鈴木が鶏肉のシチューを差し出す。
サレスには顔を輝かせる神、ニークが見えた。
ニークにシチューが捧げられると、ニークは至福の表情でシチューを味わった。
「うーまーいーぞー!」
五年たってもまだこちらの言葉を覚えられないニークである。
ニークの咆哮と共に、水の神がかつて管理していた泉から黒い物が噴出した。
それは水路を辿り、神殿中に張り巡らされる。
それと共に、信者はパニックになった。
『な、なんだこれは!』
「これは……これは、まさか! 石油!? ニークさん!」
「な、なんだ?」
「一緒に日本に帰る方法をぜひ考えましょう! その為に信仰度が必要なら、私はその為に鬼にもなります」
「も、戻れるものなら戻りたいけど……」
急に眼の色が変わった橋本に戸惑うニーク。
「うおおおおおっついに変身出来た!」
鈴木の叫んだ方向を見ると、マークと鈴木が新たな種族・ロボットへと変わっていた。
「うおおおおお、これが俺の一族! 初めて神になって良かったと思った!」
ニークが興奮して叫ぶ。
「馬鹿な……石油、石油が飲みたい。鉄が食べたい」
マークが訴える。
信者達はざわめきにざわめき、ドワーフ達は目を剥いた。
マークが石油を飲むと、震えた。そして、背中のロケットが着火する!
祭壇の上部を飛び回るマーク。
すぐに、その後すぐに鉄を食べると銃が撃てるようになる事も証明された。
繁栄の極地だった。しかし、光りある所に闇がある。
家畜達の噂が広まり、それを狙った魔物の信徒が押し寄せてきたのだ。
それはシチューの事件があってちょうど5日後の事だった。
「あ、あれはなんだ?」
鈴木が農作業をしていると、魔物を引き連れた山賊が現れた。
「大人しくしろぉっ へへへ……久しぶりの肉だぁっ 女だぁっ!」
ニークの治める地では犯罪も魔物の行動も極端に鈍い。
それゆえ、神殿は抗うすべを持たなかった。
またたく間に神殿の人々は拘束された。
橋本とマークは戦おうをするマーティン達を止め、隠れる。
「女だぁ! 女を呼べぇ!」
村の女達がひっ立てられる。女達は挙って祈りを捧げた。
盗賊は女達を一瞥して、吐き捨てた。
「三次元の女には興味ねぇ。二次元の女を連れて来い!」
そこで、村人達の挙動が止まる。数人のまだ正気だった盗賊が恐る恐る問いかけた。
「な……何言ってるんだ、お頭?」
魔物が、ごろんと寝転がり始めた。ごろごろ。ごろごろ。ひたすら転がる。
盗賊のお頭が渡された美女の絵にほおずりする。
「あー、なんか凄く家に帰りたくなってきた。帰らねぇ?」
「やる気ねー」
ようやく隋落の神の力に思い当たり、参謀風の男が驚愕する。
「ま……まさか、隋落の神の力これほどとは……! 精神汚染の力は魔神レベル……!?くっここにいると駄目人間になる!撤退! 撤退!」
そして、残った魔物と盗賊をマークと橋本率いるドワーフの銃撃部隊が掃討し始めた。
盗賊達はその段になって慌てて反撃するが、間に合わない。
こうして、盗賊達は一網打尽になった。
この事をきっかけに、神殿で兵士が養成される事になる。
また、この事の噂が広まり、ますます信仰度は上がるのだった。
その頃。日本では、晴美と教授が持ち帰った異世界の動植物やお札の解析が急がれていた。
幸いな事に、お札は日本でも使えた。
冷暖房の魔法陣。究極のエコに家電製品会社は恐れ慄いた。
そして、報告会議の途中にシチューの事件があり、晴美はロボット族となったのである。
鋼鉄の体、強い力、キューティの能力、軍人達はその有用性に恐れおのの……く前にガンダムだ! ひゃっほー! と快哉を上げた。
晴美は早速解析に回された。
教授もお札を作ることで大忙しである。
そして、日本ではニーク教が立ち上がりつつあった……。