『はあ、魔王退治、ですか……』
『退治しても、また新しい魔王が生まれるだけです。私達は、魔王のやる気を奪いたいのです』
神官会議に出席したマークは、難色を示した。
『しかし、確かに神は強力なロボット族を生み出す事が出来ますが、他の種族に比べて圧倒的少数しか生み出せないのですよ? 最近、地球……いえ、他の地への布教も始めましたし、信徒には商人やオタクが多い。そもそも武人が堕落の神を信仰するはずが無いでしょう?』
『サポートは、します』
それに、と司会をしていたエルフは心の中で呟いた。
最近、力を急速に増して来ている堕落の神の神殿の力を削ぎたい。
新たな技術。新たな作物。新たな。新たな。新たな。
各地の商人達は、堕落の神の神殿に釘付けだ。技術の中心地が、堕落の神の神殿になりつつある。
『しかし……』
そこで、獣人が押し殺した声で言った。明らかに怒っている。
『我が国の第二王子は、二次元嫁を嫁にすると言ってはばからないとか』
『う……』
竜人が呆れた声で言う。
『宰相他重臣が、急に働きたくないでござる! 絶対に働きたくないでござる! と言い始めたとか』
エルフが、にっこりと笑った。
『邪教認定しますよ?』
『魔力探知の術や、武神の札を使えば防げるという事も判明しているではありませんか』
『それでも、隋落の神の力はあまりにも危険です。良からぬ目的の信徒も増えていると言うではありませんか』
『仕方ありません、わかりました……』
マークは肩を落とした。
翌月。十名ほどのロボット族を守る形で、竜人が集まった。
少数精鋭で突破する心算である。
『いいか、ドワーフ族の作った働きたくないでござる! 絶対に働きたくないでござる!と二次元嫁万歳の加護のついた首輪を奴にはめる。それだけで奴は二次元の世界に入り浸り二度と人を害そうなどと考えないだろう! そうなったら俺達の勝ちだ!』
竜人が演説する。その後ろで、マークは隋落の神と小声で会話していた。
「ニークさんが来てくれて心強いですよ」
「任せておけ」
そうして、彼らは魔王の住まう地へと進んだ。
マークの進言により、少数で分散して魔王の地へと侵入する形を取る。
『こちらハンター1。侵入成功しました』
『こちらハンター2。敵はやる気無いです、ニーク様に栄光あれ』
作戦用特別URLのチャットで連絡を取り合いながら、全部で十個の小隊は進んでいく。
ニークの加護のお陰で敵の守護はずさんで、やすやすと最深部まで入る事が出来た。しかし、それは魔王の罠だった。
『良く来たな、隋落の神の信徒よ』
『魔王……何と醜悪な』
まるでゾンビのような魔王の姿に、マークは眉を潜めた。
『なんとでもいえ。隋落の神よ、そなたの力とわしの力、どちらが強いか一度試してみたいと思っていたのだ』
小隊のメンバーが、それぞれ武器を構える。
『食らえ! 我が精神汚染の力!』
「ぐわぁぁぁぁぁ」
マークはたまらず声を上げた。小隊のメンバーも次々と跪く。
訪れる強い破壊衝動。それに飲み込まれそうだった。
誰かを殺したい。壊したい。犯したい。
まて! 俺はそれを望んでいない!
「精神汚染なら負けるかぁ!」
ニークの叫び。
マークは絶句した。なんだか急にエログロ小説を書きたくなってきた。
実際にはやりたくないが小説を書くだけなら万事おっけー。
ロボット族たちは早速ワープロ機能で小説を書き、プリントアウトし始めた。
竜人と魔王はそれを読んで満足している。
しばらくして、魔王は我に返った。
『はっ! まさか衝動の方向をずらすとは、なんという技なのだ!』
「今、俺には野望が出来た! これを邪魔する奴は何人たりとも許さない! コミケ開催! コミケ開催! コミケ開催! そして俺は壁サークルになるんだ! この熱く燃えたぎる衝動を! 漫画に変えて!」
『ええい、わけのわからぬ事を!』
魔王は必死でニークの精神汚染を防御し、ニークに破壊衝動を送った。
対してニークは、二次元嫁万歳を全力で作動させ防御はしなかった。
リアルへの破壊衝動を些かも減らさぬまま一気に創作意欲へと塗り替えた。
これが、勝負を決めた。
『ばっ……馬鹿な! 馬鹿な、馬鹿な馬鹿なぁぁぁぁぁ!』
『夢と妄想の世界にようこそ、魔神よ。いい友になれそうじゃないか。はははははは!』
破壊衝動のままに高笑いするニーク。
そして、堕落の神と魔神主催のコミケの開催がここに決定づけられるのだった。
『うう、何故我がこんな事を……。我はこんな事してない……してないぞ……っ』
ベタ塗りをしつつ魔王が落涙する。
「原稿汚すなよー」
ニークが注意した。
堕落の神の神殿の発展は順調に進んでいる。
しかし、問題もある。予想外の形で魔王を堕落させたニークは、神速の速さで邪神認定されてしまった。
しかし、ニークの著書「魔王性戦記(R18)」は売れに売れ、王子を筆頭に隠れ信者を急速に増やしている。
小隊にいた竜人はめでたく性癖を大幅に変えられてしまい、追放を食らって堕落の神の神殿で働いていた。
その頃日本では、晴美の解析が終了し、晴美の複製を作る事に成功していた。
知恵を持ったロボットの誕生である。
また、晴美以外のロボット族も少数ながら誕生し始め、日本人は少しずつ新たな進化を受け入れつつあった。
ニーク神を祭る社から、ちょろちょろと石油が湧き出て、日本人は狂喜した。
ニーク神は知らない。信仰が異世界でも高まればその世界に行けるようになる事を。
信仰度一億ポイントでゲートを開く事が出来る事を。
ニーク神の働きたくないでござる! 絶対に働きたくないでござる!は、勤労意欲には大いに効くが、オタク的な趣味で働いている場合には全く効かない、むしろ意欲を上げる事になる事を……。
ニーク神が日本に渡るまで異世界時間で後100年。
世界がニーク神の力に恐れ慄き日本を逆鎖国するまで後200年。
日本人の半数がロボット族になるまで後300年。
世界に再発見され、ロボット溢れる「ぼくのかんがえたかっこいいみらいとし」に世界が驚愕するまで後400年。
日本人の進化図の最後が正式にガンダムになるまで後500年……。