「はっここはどこ!?」
私、春風直美はぼんやりしていた所で急に我に返り、周囲を見回した。
コンピューターの頭脳を持つ私がぼんやりするなんて、ありえない。
周囲を見回すと、そこは廃墟だった。人の死体が転がっていて、私は悲鳴を上げた。
しかもその死体は、裸だった。
「きゃああああ! 何!? 何なの!?」
急いでGPSを起動する。は、反応が無い!?
無線……駄目、繋がんない。ああん、一体どうしたらいいの!?
いつの間に世界は滅んじゃったの!?
そこで、私ははっと気づき、カバンのラブリーモモを取りだした。
チャット画面を開くと、そこは通常通り人々の書き込みで溢れていて、私は落ち着く。
『神様、ニーク様!』
『なんだ?』
『いきなり廃墟に移動しちゃったんです! 信じて下さい!』
『んーちょっと待って』
なんだなんだと、人々が異変を感じて私を労る書き込みをしてくれる。
ログが流れる速さが倍増する。
私は神様の書き込みを見逃さないよう、精神を集中した。
その内、神様が書き込みをした。
『異世界に飛んじゃったみたいだなー。待ってな。連絡用の専用チャットルームと掲示板を作るから、ビデオデータ送って。ほい、URL』
『あ、ありがとうございます、神様。今データを送ります』
私は周辺のデータを送った。きついけど、死体の映像も送った。
『マブラブキターーーー(゜▽゜)ーーーーーー』
神様が、神様が喜んでおられる……っ! これは何か突破口を見つけたのかも!
『神様! マブラブってなんですか?』
『ああ、エロゲ』
『はぁ?』
『エロゲの世界に行ったんだよ、えーと』
『春風直美です。エ、エロゲ……そんな、嘘……嫌、怖い。私、犯されちゃうの!?』
『なんだ直美か。この前新たな加護をあげた子じゃないか。襲ってくる奴がいたら二次元嫁万歳の札を張れ』
神様が優しい言葉を掛けて下さる。そう、そうよね。二次元嫁万歳の札を張れば……でも、怖い。私は男みたいな体格や肥満にずっと悩んできたけれど、今はそれに感謝した。こんな男みたいな私を、まさか襲ったりしないよね……。
女らしくしようと精一杯短くしたスカートが、今は煩わしかった。
くるりと回ると、スカートがひらめく。ああ、絶対やばいよ、これ。
『そ、それで、どんな世界なんですか……?』
『戦争もの。エロい異星人が攻めてきて、それに滅ぼされかけている人類の物語』
『えろい異星人! それって怖いんですか;;』
『怖いよー』
私はしょんぼりとした。
『どうやったら帰れるんですか……? 帰れますよね』
『信仰をそっちの世界でも高めたらゲートを開く事が出来る、布教してな』
布教……単なる一女子高生の私に、そんな事が出来るんだろうか。絶対怪しい宗教勧誘だと思われるのが関の山だよ! だってニーク様って実際怪しい宗教だし! 確か世界で邪教認定されたって教科書に載ってたし! ああもう、どうしよう。
『そこで待ってれば、主人公の白銀武が来るはずだ。情報収集をきちんとするんだぞ』
『白銀、武……』
あたしは待った。
途中、新人類が一匹通りかかって何事か喚いていたが、それだけだった。
夜が来る。私は、しゃがみ込んで肩を震わせた。
こんな事になるなんて。凄く心細い。
そこへ、普段使っているのとは異なる周波数の無線が来た。
「君は誰だ? 何故こんな所にいる?」
暗号化も何もされていない、原文そのままの言葉。
それが、わかりやすくしてくれてるんだと好感を持てた。
はっと顔を上げると、グレイの体と素朴な顔の、ちょっとやせ気味の男の人……って、服を着ていない!? エロゲ―の世界! 私、襲われちゃうの!?
「いやああああ痴漢―――――! なんで裸なんですか!?」
私は思い切り平手打ちをしてしまうのだった。
「素手で攻撃された!? くっ敵対勢力なのか!」
「服着て下さい! 服!」
私はラブリーモモからジャージを取り出し、投げつけた。
「空中から物が!? 貴様、一体何をした!? ……ってこれは……ジャージ!?」
「いいから早く! 服を着て!」
私は顔を逸らしながら言う。
「いや、服を着てって……。そもそも、君はなんで服を着ているんだ?」
はっまさかこの世界では裸が標準なの!? それなんてエロゲ? そっか、エロゲの世界だっけ?
「いいから、着て! 目のやり場に困るから」
私に気圧されたその人は、ようやくジャージを着てくれた。
「さあこれで満足だろう。それで、君は誰だ。何故ここにいる?」
「私は春風直美です。気がついたらここにいて……。神様はここが異世界だって。ねぇ、貴方が白銀武って言うんですか? その人から情報を集めなさいって神様が……」
「は、はぁ……? そうか、可哀想に、ベータの襲撃で頭がおかしくなったんだな? とにかく、調べるから基地に来なさい。私は石沢少尉だ。見た事のない機体だな」
「軍人さん、なんですか……? 軍人さんが裸で闊歩って……。やだなぁ」
「……良くわからない子だな……」
基地について、私は驚いた。新人類がうじゃうじゃいる! しかも武器を持っている。
それに、何かサイズが小さい。
「そちらのドッグに入りなさい」
「ドッグ……? ここかな」
私がドッグに入ると、皆眠っているのか、ぴくりとも動かない。なんだか怖かった。
ドッグとやらに入ると、新人類が石沢少尉の中から出てきた!
うっそ信じらんない!
新人類って寄生虫みたいな真似も出来たの!?
「石沢少尉……?」
話しかけてみるが、石沢少尉はちっとも動かない。私は怖くなった。
「石沢少尉……石沢少尉! 石沢少尉!?」
私は石沢少尉を揺さぶる。
何か新人類が喚いているけど、そんなの聞いてられない!
「貴様、何をしている!」
突如、無線で話しかけられ私は顔をあげた。
「助けて! 石沢少尉が、動かないんです! 死んじゃったの!? 新人類が中から出てきたら急に……!」
「お前は何を言っているんだ! 石沢少尉ならそこにいるだろう。早くその機体から出ろ!」
「機体ってなんですか?」
そして、私は恐ろしい想像に行きあたった。異星人との戦い。
「まさか、貴方達が異星人なの!? それで、地球人の体を乗っ取っていたの!?」
「お前は何を言っているんだ!」
「白銀武を探さないと……早くこんな怖い所から逃げ出さないと!」
「白銀武……? 確か営巣に入れられた不審者がそんな名前を……」
「そんな!」
その後、私が無線でしか受け答えしない事と、機体達が「生きていない事」を双方が理解するのに、もうしばしの時間が掛かったのだった。
「私は香月夕呼よ、春風さん……といったかしら?」
私は戸惑いながら答えた。
「そうです。音声解析システムを調整しましたから、直接喋って頂いても聞き取れます」
新人類は二世代も前の生き物だ。基本的に私達とは相いれないと学校で習った。
私は戸惑いながら夕呼さんに答える。
「あっそ。単刀直入に聞くわ。貴方、何者? 人が入っているわけじゃないわよね。誰に作られたの?」
「失礼な事、言わないでください。ちゃんとお母さんのお腹から生まれてきました」
「お母さんのお腹から? 信じられないわね。で、目的は?」
「私は家に帰りたい……その為にはこちらの世界で信仰度を溜めないといけないと聞きました。だから、私の目的は、ニーク様の布教です」
「ニーク様?」
「ニートとオタクの神様です」
「ニートやオタクって何よ?」
「引籠りと趣味に傾倒する人、って言えばいいのかな。教義は他人に迷惑をかけず楽しく生きる事です」
夕呼さんは胡散臭そうな顔をした。
「楽しく生きる? あたし達には縁のない言葉だわ。で? 貴方戦えるの?」
「私は単なる女子高生ですよ!? 戦士じゃあるまいし、戦えるわけがないじゃないですか」
半分嘘だ。本当は戦える。私はその為に神様から新たな加護を得た。でも、宇宙人となんて戦えるわけがない。
「女子高生ねぇ……貴方はどんな所から来たの?」
「何って、普通ですよ。日本って言って、空をサラリーマンが飛び交ってて、学校があって、神社の泉では石油が噴き出てて、旧ロボット人族や新人類の町や混合都市があって……帰りたい。私、帰りたい。もうすぐ修学旅行で奈良の新ロボット鹿族と合体するのを楽しみにしてたのに……」
「ちょっと待って。旧ロボット族や新人類って何? 合体って何よ?」
「旧ロボット族は第一世代前の人類ですよ。決まっているじゃないですか。新人類は第二世代前の人類。貴方達の事です。あ、新人類って教養無いんですっけ。えと、進化って知ってます? 進化図見ます?」
「……ええ、ぜひ見せてほしいわ」
私が送ったデータを見ると、夕呼さんはめまいを感じたらしく頭を押さえた。
「旧ロボット族から新ロボット族への変化はわかりたくないけどわかるわ。巨大化しただけだから。でも、新人類からどうやって旧ロボット族に進化するのよ!? ミッシングリンクは!?」
「ニーク様のご加護です。お札要りますか?」
「何よお札って!?」
「あ、この大きさじゃ新人類用のお札は作りにくいか」
ここには知り合いもいない。正体が知られても構わないか。
「ラブリーモモ、作動! ステッキモードオン! 変身、ラブリィプリティ超キューティー! ニーク様親衛隊、魔女っ子LP2000参上!」
私は魔女っ子に変身する。変身の際にバラの花がドックの中を飛び交い、夕呼さんは呆然とした。
うう、ニーク様の馬鹿。スクール水着を基調とした魔女っ子衣装なんて、恥ずかしいよ。いい加減なれたけど。
「ラブリィプリティ超キューティー! 旧ロボット族になーれ!」
私が呪文を唱えると、体がぐんぐん縮んでいく。
夕呼さんは、ぱくぱくと口を動かした。
「……貴方、今何をやったの?」
「ニーク様のご加護です」
「あ……貴方には色々協力してもらうわ。来なさい」
「は、はい」
あーあ、私、どうなっちゃうんだろ。不安だなぁ。
そうだ、白銀武を探さないと。